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鬼殺しのダンジョン

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「た、助けてくれー!!」

 猫耳の冒険者候補が鬼殺しのダンジョンから飛び出してきた。

「もう嫌!」

 鬼殺しのダンジョンに着くと、先にダンジョンに入っていたパーティが何組かが傷だらけになって、逃げていった。

 岩山の中腹に、古代遺跡のような大きな石柱が立ち並んでいる。
 古代文字が刻まれた積み石の壁。
 全部レゴレで作られているものみたいだ。
 ターニュが逃げ帰る冒険者候補を見て、呆れている。

「最初の1階には、E級ゴブリンしかいないはず。
地下2階にD級ゴブリン、最下層の地下3階にはC級ゴブリンダーがいるの」

「ターニュ、詳しいね。来たことあるんだ」

「まぁね。
土と魂の精霊ゲムルスが気まぐれで作ったダンジョンが世界の至る所にあるの。
 無限に発生するゴブリンを倒しまくって疲れるのよ。ただでさえすぐ疲れるのに。あたし、回復使えないし。
 最下層に行ったんだけど、ゴブリンダーが意外と強くて。
 ゴブリンの右耳を切り取って集めるといいわ。
 左耳はだめよ。右耳だけ魔道具作りの素材になるの。
 ここで逃げるような臆病者なら、冒険者になんかならない方がいいわね。
 さぁ、いきましょう」

 ミニゴーレムがポケットから出てきて、何が言おうとしている。
 ポシェタから紙と筆とインクを取り出して、ミニゴーレムに渡す。

「おい、なに?早くいくわよ?まさか、ピッケルも怖気づいたの?」

「ちょっと待って、ミニゴーレムが何か伝えたいみたい」

 なんだろう。ルーマンに何か教えてもらったのかな。壁に刻まれた古代文字を確かめながら、ウンウン頷きながら、紙の上に筆を走らせる。

「なによ、これ。地図かしら。ピッケル、読めるの?」

 ミニゴーレムが必死に身振り手振りで何かを伝えようとしている。

「ピッケル、これって鬼殺しのダンジョンの地図なの?」

 ミニゴーレムがいつもの「惜しい!」の動きをする。
 ターニュが地図をじっと見つめる。

「確かにこの地図は、鬼殺しのダンジョンとは,少し違うわね。でも、似ている」

 わかった!

「ここがあの大きな入り口だよね?裏口があるってことかい?」

 ミニゴーレムが嬉しそうにピョンピョン跳ねて喜ぶ。どうやら正解らしい。

「ターニュ、こっちだ。こっちに別の入り口があるみたい」

「延べ何百人もがこのダンジョンに来たのよ?
 別の入り口なんかあったらとっくに見つかってるよ。
 まぁいい。見てみるだけ見てみようかしら」

 大きな入り口の裏あたりにやってきた。

「何もないわね。
ピッケルは、何か見つけた?」

 んー。何にもないな。
 でも、積み石の壁紙の様子が表と違う。絵柄がバラバラになっている。なんだろうパズルみたいな。
 そうだ!これはパズルなんだ。でも、どうしたら?

「なにか、絵が書いてあるみたいなんだ」

「絵かぁ。確かに。この床に描かれている絵に似ている気がするけど、どう?」

 確かに!石の床に刻まれている絵に合わせて動かしたらどうなる?
 そうしたら、ここに入り口があるはず。
 入り口になるはずの場所に手を当てる。

「どうしたらいいんだろう?」

「ピッケル、どいて。体当たりで壁を壊せないかやってみるわ」

 脳筋だな。でも、やってみる価値はあるか。

ドシンッ

ドシンッ

ダダンッ

「はぁ、はぁ。ダメだ。びくともしないわ」

 だよな。岩を砕けるカリンのパンチならいけるかもしないけど。
 でも、何か違う。

「結界があるわ。とても強力な」

 結界?!
 前にも結界があったな。

 そうだ!あの時と同じ方法でいけるかも!

 ミニゴーレム!岩を動かせ!

 ミニゴーレムがチョコチョコと歩いて、石の壁に触れる。
 それからヘタリとしゃがみ込んで動かなくなった。
 
 ゴゴゴッ
 ゴゴゴッ
 
 ドシン!ドシン!ドシン!

 スライドパズルのように石の壁紙動いて、絵を完成させていく。
 すごい!こんな仕掛けがあったんだ!

 ゴゴゴッ

 ついに入り口が現れた。いきなり登り階段。そうか、2階があるんだ!

 ミニゴーレムがまた動き始めた。両手をあげて、わーいわーいって喜んでいる。
 両手で持ち上げて、ヨシヨシすると、ミニゴーレムが嬉しそうに手をばたつかせる。

「そのミニゴーレム、可愛いな。それに、役に立つのね。わわわ」

 ミニゴーレムがダーニャの肩に飛び乗ってバンザイしている。
 ターニュがミニゴーレムをヨシヨシする。

 なんか平和だな。
 ミニゴーレムが役にたって僕も嬉しい。

「さぁ、この階段を登っていくわけだけど。ピッケルには、危険かもしれないよ。危険度が分からないの」

「そうなの?」

「まだこのダンジョンの2階には、誰も立ち入ったことがないはず。
 しかも、ピッケルのミニゴーレムでやっと入り口が現れた。
 もしかしたら、信じられないくらい強い魔獣や危険があるかもね。
 どうする?」

 そりゃいきたい。前人未到のダンジョンの入り口。最初に足を踏みれるなんて、ワクワクする。
 手付かずの財宝や古代の魔道具など、どんな珍しいものがあるだろう!
 でも。。。

「行きたいけど。。。
 新しいものは慎重に試した方がいいね。入り口をまた閉じることもできるよ。
 そうだ、この情報、売れないかな?」

「さすがね、ピッケル。いい判断よ。
 勇敢と無謀は違う。命あってこその冒険よ。
 それに、この情報を持ち帰ったら、合格間違いなしね。開け方まで言わなくても、別の入り口を見つけたってだけでも、大した情報だわ。
 入り口の開け方はまた情報に価値をつけて売ればいいしね」

 うう。やっぱりそうだよな。
 このまま後先考えずに、ダンジョンに飛び込む誘惑から、なんとか冷静にならないと。
 安全第一、それがアシュリの教えだ。

「そうしよう。ミニゴーレム、入り口を閉じて!」

 そうだ、これでいい。
 あぁ、でも、入ってみたかった!!!
 強くなって、必ずここに戻ってこよう。

ゴゴゴッ

 また石積みの壁が動いて、入り口が隠されていく。そして、また結界が復活した。
 ふぅ。無事、もう一度封印できた。
 これでいい。これでいいんだ。

「どうする?ピッケル」

「そうだね。時間もあるから、鬼殺しのダンジョンで短剣の鍛錬をしようかな」

「それがいいかもね。あたしは、疲れたから外で待って、一休みするよ。
自力でゴブリンの右耳、100個取っておいで。
 いい鍛錬になるわ。
 ただし、無理はしないこと」

 100個!

「やってみるよ。待ってて」

 よし、やってみるか!

「ピッケルなら大丈夫!いってらっしゃい。
 あたしは、ダンジョンの出口で待ち構えて、苦労せず横取りしようとしている冒険者候補に制裁を与えてくるよ」

 せ、制裁!あははは。怖っ!

「じゃあ、ちょっと腹ごしらえしてから行こうかな。あれ?」

 なんだろう?こんなの入れたっけ?

「ピッケル、どうした?」

「いや、ちょっと待って?あれ?これは?」

 ターニュが目を輝かせる。

「おお!これはコッペリーム!あたしの大好物よ!
 昔、ミラノで食べたんだ。しかも、どうして作りたて?
 魔法ってすごいな!」

 魔法なんか大っ嫌いって言ってたのに。でも、どうしてこんなものが?

 あっ!

 強引に半分ちぎり取って、もう食べてる!

「美味しい!
 特に美味しいコッペリームね!ミルプリームの甘さと濃厚さがすごい!
 きっと腕のいい職が作ったんだわ!」 

 なんだろう。この違和感。
 一体どうして?

「ごめん!ピッケル!つい本能のまま、ペロリと食べちゃった!」

 でも、確かに美味しい!

「まぁ、いいよ。美味しかったし」

「あぁ!最高だったよ。どこで買ったの?」

「分からないんだ」

「なんで隠すのよ!いいなさい!」

「いや、本当なんだよ」

「ふん。いいわ。美味しかったから許してあげる」

 まぁいい。
 よし、行こう。ポムルスのパンをかじって、腹ごしらえも完了!

 いざ、鬼殺しのダンジョン攻略に!


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