66 / 115
ピッケルと冒険者ギルド
しおりを挟む
「街だ!大きいな」
昼近くになって、やっとリノスに着いた。
ナミが意外そうだ。
「あら?そんなに発展したの?昔は辺境の村だったのにね。
私が作ったオアシスのおかげかしら?」
嘘だろ。
砂漠の中にこんな大きな街があるんて。アレイオスより大きい。高い城壁で守られて、真ん中にはオアシスがある街。これがリノス?
砂丘から望遠鏡で見下ろして、リノスの様子を確認する。
かなり大勢の人が生活している。様々なお店がありそうだ。
こちら側に門がない、ぐるりと反対側に回る必要がある。
昨日の夜、カリンと筆談した。カリンは、巨人の力に目覚め始めたらしい。草木の精霊たちにヴィラナという生きた植物を作る魔法を教わったと、はしゃいでいた。羨ましい。
カリンがいる地域では、土と水、炎、の魔法を使える人はいないから、マツモトに行ったら重宝されるだろうということだ。
巨人の力を手に入れて、一番弱い兵士と同じくらいの力になったらしい。
朝になったら、パバリ王の紹介状をもらって、マツモトの冒険者ギルドに登録に行くと言っていた。
ルーマンによると僕のいる地域のほとんどの人は、草木、水、炎の魔法を使えない。
そもそも時空の魔法は、どこの地域でも存在が知られていないし、魂の魔法に至っては、本来なら魂の精霊しか使うことができないものだそうだ。
リノスにも冒険者ギルドは、あるだろうか。
仮に存在したとして、僕の実力で登録できるだろうか?
カリンと筆談して、お互い冒険者ギルドに登録して、冒険者になって情報収集をしようということになっている。
ラカンとガンダルとヤードルの情報を集めるんだ。ケルベウス弟も。世界を救う方法にも近づけるはず。
情報は、とても大切だ。
「ナミ、ちょっと黙っててね」
「何よ!」
「僕はただでさえ何者か証明できないんだ。卵まで怪しまれたら。
ナミが取り上げられてしまった嫌だし」
「はいはい。分かったわよ。ついでに寝るわ。おやすみなさい」
色々考えながら、リノスの正門を見つけた。鉄の兜をつけて武装した屈強な門番が2人いる。
きっと言葉は、大丈夫。加護が助けてくれるだろう。
しかし、ドキドキする。そもそもリノスに入れるんだろうか。門番がチェックするのは、何か?
門番を納得させるものを持っている可能性が低いよな。
リノスにとって未知の国からきたんだから。言語も違うし、通貨も違うだろう。せっかく作ってもらった身分証だって。。。
カリンがもらったパバリ王の紹介状が羨ましい。
パバリ王がマツモトでどう認知されているかは、わからない。でも、紹介状を書くくらいだ、きっと信用があるんだろう。
そう。僕に足りないのは、信用と情報だ。
ザッ
ふぅ。腹をくくって、行くしかないな。頼れるものは、度胸だ。それしかない。
門番の目がギラリと光る。黒いヒゲの偉丈夫からは、街を守るという強い使命感が伝わってくる。
どっしりと目の前に立ちはだかって、不審者を入れない構えだ。
なんとか悪い人間でないことを示さないと。
「お前、よそ者だな。ここは水龍のオアシスの街、リノスだ。通行証は、持っているか?」
きたきた。そうだよね。通行証いるよね。ポシェタから身分証などの束を出す。ダメもとでプリンパル国発行の身分証を見せる。
「こ、これが僕の身分証だよ」
バシッと乱暴に身分証をもぎ取られた。表も裏も念入りに調べられる。
「読めない文字だ。正式に発行されたものではありそうだがな。
これでここを通すのことは、できない。
ん?もう一つ手に持ってる札を見せろ」
身分証と一緒に出てきたゾゾ派の木札のこと?
「こ、これのこと?」
「木札。こんなもの見たことがないな。だが、この印は、間違いなく冒険者ギルドの印だ。お前、冒険者か?」
「ぼ、冒険者になりたくてきたんだ。その木札は、ゾゾ派の身分証なんだけど。。。」
「ゾゾ。。。やっぱり冒険者ギルドと関係していそうだな」
ゾゾ長老を知ってる?!
いやいや、こんな場所にゾゾ派のネットワークが伸びているはずがない。
「よし。来い。
俺がお前を冒険者ギルドに連れて行ってやる。ちょうど昼休憩の交代が来たところだ。
ナイゼル、あとは頼んだよ」
小柄な若い猫耳族の門番がやってきた。
「ガブル番長、お疲れ様でした」
「おう。
お前、名前を教えろ。俺はガブル。門番の取りまとめ役だ。ガブルでいい」
「ガブル、ありがとう。
僕は、ピッケル。でも、どうして?」
「まぁ、気まぐれかな。ピッケル、お前、あの砂漠からきただろう?」
「う、うん」
「やっぱりか。このシリア砂漠は、死の砂漠。おまけにシリア砂漠の先には何もない。
追い返してもいいが、あまりに怪しくてな」
「うっ」
「だが、どう見ても弱そうだし、悪人にも見えない」
「うう」
「冒険者ギルドに連れていけば、正体も分かるってもんよ。悪いが念のため縄で縛らせてもらうぜ。いいか?」
縄か。もう罪人みたいだな。
「わ、分かった。それでいい」
「安心しな、見えない縄にしてやるよ、
ミラーチェ」
ミラーチェ?聞いたことがない魔法だ。
ガブルの手がキラキラと光る。光の魔法なんだろうか。
光の魔法は、僕とカリンの身体には馴染まないとルーマンに言われていた。無理矢理やろうとすれば、無駄に魔力を消耗して命の危険があると。残念だ。魔法にも身体に合う合わないがあるらしい。
縄で縛られている感覚はない。
でも、何かしらの拘束を受けているんだろう。魔力が押さえつけられて、身体が少し重い。
もとより暴れるつもりも、逃げるつもりもない。
冒険者ギルドに道案内と護衛つきで辿り着けると思えば、むしろありがたい。
「よし、行くぞ。こっちだ」
ガブルは、リノスの人から人気があるみたいだ。子供からは好かれているし、街の老若男女、色んな人から話しかけられていた。
リノスの街にいるのは、猫耳の獣人かエルフ、巨体の人種、様々だ。人類の姿は見えない。
水龍と金色のネックレスをした男の石像が置かれた広場を通りがかった時、猫耳の老夫人がガブルにリンゴを渡した。
「ガブル、引越しの手伝い、ありがとな」
「おう。また困ったらなんでも言ってくれ」
エルフの子供たちがガブルを見るなり集まってくる。
「ガブル、また一緒に遊んでよ!」
「まだ、一仕事残ってるんだ。また後で鬼ごっこしてやるよ」
「わーい!ガブル、約束ね!」
街は賑わい、美味しそうな食べ物の匂いが満ちている。
肉を売る店、アクセサリーや魔道具を売る店など。
楽器を演奏して、輪になって舞を踊ったり、歌っている人たちもいる。
なんだか切ないけど、素敵な旋律だ。
「君が去ってから
声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ
どうして君と踊れないの
涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ」
「この歌。。。」
アシュリが教えてくれた歌だ。旋律もちゃんとあったんだな。
アシュリに教えてあげないと。きっと喜ぶだろう。
「なんだ、ピッケル。この歌を知ってるのか?古い歌でな。リノスでは子供が踊って遊んだり、結婚やお祝いの宴でみんなで踊ったりするぞ」
「こんなに悲しい歌詞なのに?」
「ガッハッハ!そうかな?」
ガブルの足が大きな扉の前で止まった。
「おい、ピッケル。ここだ。ここが冒険者ギルドだ」
石造の立派な建物だ。でも、これがレゴレでできていることがわかる。よく練られている。
扉は、鉄かな。これもレゴレ。鉄もレゴレで作れるんだな。僕にはまだできないけど。
街を見渡すと、木材がほとんど使われていない。植物性は、貴重なんだろうか。草木の魔法を使える人がほとんどいないというのは、本当らしい。
ガブルが冒険者ギルドの扉に手をかける。手がまたキラキラと光る。光の魔法か?
「デロッグ」
ギギギッと重たい扉が開く。
「ピッケル、入れ」
ガブルについて冒険者ギルドの建物に入る。
中にはあまり人がいない。
昼だからだろうか。それでも屈強そうな戦士やローブをきた魔法使い、何組もの冒険者がいる。
猫耳の受付嬢がガブルに声をかける。
「ガブル、珍しいわね。こんな時間に、こんなところに。
それに何?その弱そうな男の子。顔はかわいいけど。うふふ」
「ニーチェ、色目づかいはやめときな。こいつは身元不詳の不審者だ。どうやらシリア砂漠を越えてきたらしい」
ふ、不審者。そうだよな。
「はぁっ?シリア砂漠を?
無理でしょう!そんなの。
で、何者?通行証はどうなっているの?」
「こいつはピッケル。身分証も通行証も持っていない」
「ダメでしょう。そんな不審者をリノスに入れては。
あぁ、でも砂漠を越えてきたのが怪しすぎるわね。
それで冒険者ギルドに?
ここは、厄介者を預ける場所じゃないんだけど!」
「まぁ、そういうな。
ちょっと何者かを調べて欲しいだけだ」
「まぁ。いいわ。ピッケル、この水晶玉に手を当てて。
これには、魔力や魔法の種類、人種、身体能力、職業、前科や勲章などを確認したり、登録する光の魔法がかけてある。
装備品の能力向上を反映することはできないけど。
これであなたが何者か、分かるはずよ」
水晶玉。光の魔法。
どうやらここは光の魔法が発展しているようだ。
どう評価されるんだろう。
分からないけど、試してみるしかない。
青く光る水晶玉の中にはキラキラと金色の輝きが満ちている。
かなり高度な魔法がかけられているようだ。
「おい、ピッケル。早くしな。俺は、早く昼飯を食いに行きたいんだ」
わわわ。よし、やるしかない。
手を魔法玉に置く。
魔法玉がキラキラと光を強くする。
「種族」
・人類
「魔法」
・魔力 A
・スピード F
・属性 草木E、水F、土E、魂F、時空F
「武術」
・剣F
「基礎ステータス」
・パワー E
・知力 C
・素早さ F
・体力 E
・幸運 測定不能
「職業」
・便利屋
・農夫
「前科・勲章」
ドラゴン殺し
魔王の末裔
「スキル」
未登録
「ニーチェ、どうだ?こいつは、何者だ?強いのか?」
「んー。強くは、無いわね。
魔力量だけ、かなりあるわね。
でも、魔法のスピードがお粗末ね。
剣技もいまいちだし、戦闘には、まだ不向きね。
幸運が測定不能って、初めて見たわ。
登録テストが必要だけど、総合すると最下級のF級冒険者ってところかしら。登録テストで頑張ればE級なら可能性ありね。
職業は、便利屋か農夫。珍しいわ。
変なのは魔法の種類ね。草木、水、土、魂、時空?!
土以外は、珍しすぎる。草木とか水とかって、魔獣しか使えないわよ。
魂とか、時空は、そもそも意味不明だわ。未知の魔法」
べ、便利屋?!農夫。。。そんな職業に判明されたのか。最下級のFランク。。。炎は杖をポシェタに入れていたから表示されなかったのかも。
「おいおい。つまり、こいつは魔獣なのか?」
「違うわ。魔王の末裔とは書いてあるけど、種族は、なんとびっくり、人類よ。魔大陸では、絶滅した種族。。。
魔王コフィが人類だったって伝承は、本当だったってことなの?
それにしてもドラゴン殺しって前科なのかしら、勲章なのかしら。
それにあなた、どこからきたの?どこかで人類が生き延びているの?」
魔王のコフィの血が、少しとはいえ僕に流れているんだな。
人類は、魔大陸ではとっくに絶滅していたんだな。魔王のコフィの移住は、英断だったのかもしれない。
それにしてもドラゴン殺しのインパクトがすごい。
「え、うん。すごく遠い場所だけど」
「おいおい。まさか人類かよ。レア種族だな。研究者に高く売れそうだ。とくに魔王コフィの研究者とかにな」
ひっ!売られる?なにか実験に使われるの?
「たしかに、高く売れるでしょうね。
でも、どうして砂漠から?」
「魔獣の魔法で転移させられて、気がついたら砂漠の真っ只中に。
仲間と世界を救うための情報を集めて旅をしていたんだ。みんな世界中に散り散りになってしまった。
僕は、砂漠を4日歩いて、リノスに辿り着いたんだ」
「シリア砂漠を4日も?!
魔法があるとはいえ。。。砂漠では、水の魔法も使えないはずだぜ。
そうだニーチェ、こいつの木の札を見てやってくれ」
ゾゾ派の身分証をニーチェに見せる。
「これは!ギルドの紋章!」
「そうだろ?でも、なんでピッケルがこんなものを持ってるんだ?」
ニーチェが木札を水晶玉にかざす。
「ピッケル、これをどうしたの?
それにこの紋章に刻まれている魔法は、ゾゾ家の特別な魔法!」
ゾゾ家を知ってる?
「そう。これは曽祖母のゾゾ・ミショルからもらいました」
「ゾゾ・ミショル?ゾゾ会長の親族かしら。
あとで、血液サンプルをもらうわね。血縁を調べる別の水晶玉で詳しく調べてみるわ。
これは、ギルドマスターのプチンに判断してもらう必要があるわね」
なんか、大変なことになってきたな。
「おいおい、プチンまで出てくるのかよ。俺の昼飯食べる時間がなくなるぜ。それにガキどもと遊んでやる約束をしてるんだ」
「今からプチンに使いを出すわ。ちょっと待っていて。
ガブルは、もういいわよ。お昼ご飯食べてきたら?
ピッケルは、冒険者ギルドで預かるわ」
「おう。助かるぜ。あとは頼んだ。デミラーチェ!」
ふっと、身体が軽くなる。ガブルのかけた拘束が解けたみたいだ。
「ピッケル、じゃあな。俺は、お前が気に入ったぜ。
過酷な死の砂漠を4日歩いてきたやつを、他に知らねぇ。
ここでは砂漠を生き抜いたやつは尊敬される。
仕事とはいえ、拘束して悪かったな」
「ガブル、ありがとう。おかげで冒険者ギルドに来れた。
ここからは、自分でなんとかするよ」
「おう。落ち着いたら飯でも奢るぜ。またな」
ガブルか扉にデロッグをかけて、外に出ていく。自動で鍵かかる魔法がかけれた扉を開錠する魔法なのかな。
つまり、僕は、冒険者ギルドから勝手に出れないというわけだ。
ふぅ。
まだ信用は得られていないけど、街には入れたな。
これからどうなることやら。
昼近くになって、やっとリノスに着いた。
ナミが意外そうだ。
「あら?そんなに発展したの?昔は辺境の村だったのにね。
私が作ったオアシスのおかげかしら?」
嘘だろ。
砂漠の中にこんな大きな街があるんて。アレイオスより大きい。高い城壁で守られて、真ん中にはオアシスがある街。これがリノス?
砂丘から望遠鏡で見下ろして、リノスの様子を確認する。
かなり大勢の人が生活している。様々なお店がありそうだ。
こちら側に門がない、ぐるりと反対側に回る必要がある。
昨日の夜、カリンと筆談した。カリンは、巨人の力に目覚め始めたらしい。草木の精霊たちにヴィラナという生きた植物を作る魔法を教わったと、はしゃいでいた。羨ましい。
カリンがいる地域では、土と水、炎、の魔法を使える人はいないから、マツモトに行ったら重宝されるだろうということだ。
巨人の力を手に入れて、一番弱い兵士と同じくらいの力になったらしい。
朝になったら、パバリ王の紹介状をもらって、マツモトの冒険者ギルドに登録に行くと言っていた。
ルーマンによると僕のいる地域のほとんどの人は、草木、水、炎の魔法を使えない。
そもそも時空の魔法は、どこの地域でも存在が知られていないし、魂の魔法に至っては、本来なら魂の精霊しか使うことができないものだそうだ。
リノスにも冒険者ギルドは、あるだろうか。
仮に存在したとして、僕の実力で登録できるだろうか?
カリンと筆談して、お互い冒険者ギルドに登録して、冒険者になって情報収集をしようということになっている。
ラカンとガンダルとヤードルの情報を集めるんだ。ケルベウス弟も。世界を救う方法にも近づけるはず。
情報は、とても大切だ。
「ナミ、ちょっと黙っててね」
「何よ!」
「僕はただでさえ何者か証明できないんだ。卵まで怪しまれたら。
ナミが取り上げられてしまった嫌だし」
「はいはい。分かったわよ。ついでに寝るわ。おやすみなさい」
色々考えながら、リノスの正門を見つけた。鉄の兜をつけて武装した屈強な門番が2人いる。
きっと言葉は、大丈夫。加護が助けてくれるだろう。
しかし、ドキドキする。そもそもリノスに入れるんだろうか。門番がチェックするのは、何か?
門番を納得させるものを持っている可能性が低いよな。
リノスにとって未知の国からきたんだから。言語も違うし、通貨も違うだろう。せっかく作ってもらった身分証だって。。。
カリンがもらったパバリ王の紹介状が羨ましい。
パバリ王がマツモトでどう認知されているかは、わからない。でも、紹介状を書くくらいだ、きっと信用があるんだろう。
そう。僕に足りないのは、信用と情報だ。
ザッ
ふぅ。腹をくくって、行くしかないな。頼れるものは、度胸だ。それしかない。
門番の目がギラリと光る。黒いヒゲの偉丈夫からは、街を守るという強い使命感が伝わってくる。
どっしりと目の前に立ちはだかって、不審者を入れない構えだ。
なんとか悪い人間でないことを示さないと。
「お前、よそ者だな。ここは水龍のオアシスの街、リノスだ。通行証は、持っているか?」
きたきた。そうだよね。通行証いるよね。ポシェタから身分証などの束を出す。ダメもとでプリンパル国発行の身分証を見せる。
「こ、これが僕の身分証だよ」
バシッと乱暴に身分証をもぎ取られた。表も裏も念入りに調べられる。
「読めない文字だ。正式に発行されたものではありそうだがな。
これでここを通すのことは、できない。
ん?もう一つ手に持ってる札を見せろ」
身分証と一緒に出てきたゾゾ派の木札のこと?
「こ、これのこと?」
「木札。こんなもの見たことがないな。だが、この印は、間違いなく冒険者ギルドの印だ。お前、冒険者か?」
「ぼ、冒険者になりたくてきたんだ。その木札は、ゾゾ派の身分証なんだけど。。。」
「ゾゾ。。。やっぱり冒険者ギルドと関係していそうだな」
ゾゾ長老を知ってる?!
いやいや、こんな場所にゾゾ派のネットワークが伸びているはずがない。
「よし。来い。
俺がお前を冒険者ギルドに連れて行ってやる。ちょうど昼休憩の交代が来たところだ。
ナイゼル、あとは頼んだよ」
小柄な若い猫耳族の門番がやってきた。
「ガブル番長、お疲れ様でした」
「おう。
お前、名前を教えろ。俺はガブル。門番の取りまとめ役だ。ガブルでいい」
「ガブル、ありがとう。
僕は、ピッケル。でも、どうして?」
「まぁ、気まぐれかな。ピッケル、お前、あの砂漠からきただろう?」
「う、うん」
「やっぱりか。このシリア砂漠は、死の砂漠。おまけにシリア砂漠の先には何もない。
追い返してもいいが、あまりに怪しくてな」
「うっ」
「だが、どう見ても弱そうだし、悪人にも見えない」
「うう」
「冒険者ギルドに連れていけば、正体も分かるってもんよ。悪いが念のため縄で縛らせてもらうぜ。いいか?」
縄か。もう罪人みたいだな。
「わ、分かった。それでいい」
「安心しな、見えない縄にしてやるよ、
ミラーチェ」
ミラーチェ?聞いたことがない魔法だ。
ガブルの手がキラキラと光る。光の魔法なんだろうか。
光の魔法は、僕とカリンの身体には馴染まないとルーマンに言われていた。無理矢理やろうとすれば、無駄に魔力を消耗して命の危険があると。残念だ。魔法にも身体に合う合わないがあるらしい。
縄で縛られている感覚はない。
でも、何かしらの拘束を受けているんだろう。魔力が押さえつけられて、身体が少し重い。
もとより暴れるつもりも、逃げるつもりもない。
冒険者ギルドに道案内と護衛つきで辿り着けると思えば、むしろありがたい。
「よし、行くぞ。こっちだ」
ガブルは、リノスの人から人気があるみたいだ。子供からは好かれているし、街の老若男女、色んな人から話しかけられていた。
リノスの街にいるのは、猫耳の獣人かエルフ、巨体の人種、様々だ。人類の姿は見えない。
水龍と金色のネックレスをした男の石像が置かれた広場を通りがかった時、猫耳の老夫人がガブルにリンゴを渡した。
「ガブル、引越しの手伝い、ありがとな」
「おう。また困ったらなんでも言ってくれ」
エルフの子供たちがガブルを見るなり集まってくる。
「ガブル、また一緒に遊んでよ!」
「まだ、一仕事残ってるんだ。また後で鬼ごっこしてやるよ」
「わーい!ガブル、約束ね!」
街は賑わい、美味しそうな食べ物の匂いが満ちている。
肉を売る店、アクセサリーや魔道具を売る店など。
楽器を演奏して、輪になって舞を踊ったり、歌っている人たちもいる。
なんだか切ないけど、素敵な旋律だ。
「君が去ってから
声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ
どうして君と踊れないの
涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ」
「この歌。。。」
アシュリが教えてくれた歌だ。旋律もちゃんとあったんだな。
アシュリに教えてあげないと。きっと喜ぶだろう。
「なんだ、ピッケル。この歌を知ってるのか?古い歌でな。リノスでは子供が踊って遊んだり、結婚やお祝いの宴でみんなで踊ったりするぞ」
「こんなに悲しい歌詞なのに?」
「ガッハッハ!そうかな?」
ガブルの足が大きな扉の前で止まった。
「おい、ピッケル。ここだ。ここが冒険者ギルドだ」
石造の立派な建物だ。でも、これがレゴレでできていることがわかる。よく練られている。
扉は、鉄かな。これもレゴレ。鉄もレゴレで作れるんだな。僕にはまだできないけど。
街を見渡すと、木材がほとんど使われていない。植物性は、貴重なんだろうか。草木の魔法を使える人がほとんどいないというのは、本当らしい。
ガブルが冒険者ギルドの扉に手をかける。手がまたキラキラと光る。光の魔法か?
「デロッグ」
ギギギッと重たい扉が開く。
「ピッケル、入れ」
ガブルについて冒険者ギルドの建物に入る。
中にはあまり人がいない。
昼だからだろうか。それでも屈強そうな戦士やローブをきた魔法使い、何組もの冒険者がいる。
猫耳の受付嬢がガブルに声をかける。
「ガブル、珍しいわね。こんな時間に、こんなところに。
それに何?その弱そうな男の子。顔はかわいいけど。うふふ」
「ニーチェ、色目づかいはやめときな。こいつは身元不詳の不審者だ。どうやらシリア砂漠を越えてきたらしい」
ふ、不審者。そうだよな。
「はぁっ?シリア砂漠を?
無理でしょう!そんなの。
で、何者?通行証はどうなっているの?」
「こいつはピッケル。身分証も通行証も持っていない」
「ダメでしょう。そんな不審者をリノスに入れては。
あぁ、でも砂漠を越えてきたのが怪しすぎるわね。
それで冒険者ギルドに?
ここは、厄介者を預ける場所じゃないんだけど!」
「まぁ、そういうな。
ちょっと何者かを調べて欲しいだけだ」
「まぁ。いいわ。ピッケル、この水晶玉に手を当てて。
これには、魔力や魔法の種類、人種、身体能力、職業、前科や勲章などを確認したり、登録する光の魔法がかけてある。
装備品の能力向上を反映することはできないけど。
これであなたが何者か、分かるはずよ」
水晶玉。光の魔法。
どうやらここは光の魔法が発展しているようだ。
どう評価されるんだろう。
分からないけど、試してみるしかない。
青く光る水晶玉の中にはキラキラと金色の輝きが満ちている。
かなり高度な魔法がかけられているようだ。
「おい、ピッケル。早くしな。俺は、早く昼飯を食いに行きたいんだ」
わわわ。よし、やるしかない。
手を魔法玉に置く。
魔法玉がキラキラと光を強くする。
「種族」
・人類
「魔法」
・魔力 A
・スピード F
・属性 草木E、水F、土E、魂F、時空F
「武術」
・剣F
「基礎ステータス」
・パワー E
・知力 C
・素早さ F
・体力 E
・幸運 測定不能
「職業」
・便利屋
・農夫
「前科・勲章」
ドラゴン殺し
魔王の末裔
「スキル」
未登録
「ニーチェ、どうだ?こいつは、何者だ?強いのか?」
「んー。強くは、無いわね。
魔力量だけ、かなりあるわね。
でも、魔法のスピードがお粗末ね。
剣技もいまいちだし、戦闘には、まだ不向きね。
幸運が測定不能って、初めて見たわ。
登録テストが必要だけど、総合すると最下級のF級冒険者ってところかしら。登録テストで頑張ればE級なら可能性ありね。
職業は、便利屋か農夫。珍しいわ。
変なのは魔法の種類ね。草木、水、土、魂、時空?!
土以外は、珍しすぎる。草木とか水とかって、魔獣しか使えないわよ。
魂とか、時空は、そもそも意味不明だわ。未知の魔法」
べ、便利屋?!農夫。。。そんな職業に判明されたのか。最下級のFランク。。。炎は杖をポシェタに入れていたから表示されなかったのかも。
「おいおい。つまり、こいつは魔獣なのか?」
「違うわ。魔王の末裔とは書いてあるけど、種族は、なんとびっくり、人類よ。魔大陸では、絶滅した種族。。。
魔王コフィが人類だったって伝承は、本当だったってことなの?
それにしてもドラゴン殺しって前科なのかしら、勲章なのかしら。
それにあなた、どこからきたの?どこかで人類が生き延びているの?」
魔王のコフィの血が、少しとはいえ僕に流れているんだな。
人類は、魔大陸ではとっくに絶滅していたんだな。魔王のコフィの移住は、英断だったのかもしれない。
それにしてもドラゴン殺しのインパクトがすごい。
「え、うん。すごく遠い場所だけど」
「おいおい。まさか人類かよ。レア種族だな。研究者に高く売れそうだ。とくに魔王コフィの研究者とかにな」
ひっ!売られる?なにか実験に使われるの?
「たしかに、高く売れるでしょうね。
でも、どうして砂漠から?」
「魔獣の魔法で転移させられて、気がついたら砂漠の真っ只中に。
仲間と世界を救うための情報を集めて旅をしていたんだ。みんな世界中に散り散りになってしまった。
僕は、砂漠を4日歩いて、リノスに辿り着いたんだ」
「シリア砂漠を4日も?!
魔法があるとはいえ。。。砂漠では、水の魔法も使えないはずだぜ。
そうだニーチェ、こいつの木の札を見てやってくれ」
ゾゾ派の身分証をニーチェに見せる。
「これは!ギルドの紋章!」
「そうだろ?でも、なんでピッケルがこんなものを持ってるんだ?」
ニーチェが木札を水晶玉にかざす。
「ピッケル、これをどうしたの?
それにこの紋章に刻まれている魔法は、ゾゾ家の特別な魔法!」
ゾゾ家を知ってる?
「そう。これは曽祖母のゾゾ・ミショルからもらいました」
「ゾゾ・ミショル?ゾゾ会長の親族かしら。
あとで、血液サンプルをもらうわね。血縁を調べる別の水晶玉で詳しく調べてみるわ。
これは、ギルドマスターのプチンに判断してもらう必要があるわね」
なんか、大変なことになってきたな。
「おいおい、プチンまで出てくるのかよ。俺の昼飯食べる時間がなくなるぜ。それにガキどもと遊んでやる約束をしてるんだ」
「今からプチンに使いを出すわ。ちょっと待っていて。
ガブルは、もういいわよ。お昼ご飯食べてきたら?
ピッケルは、冒険者ギルドで預かるわ」
「おう。助かるぜ。あとは頼んだ。デミラーチェ!」
ふっと、身体が軽くなる。ガブルのかけた拘束が解けたみたいだ。
「ピッケル、じゃあな。俺は、お前が気に入ったぜ。
過酷な死の砂漠を4日歩いてきたやつを、他に知らねぇ。
ここでは砂漠を生き抜いたやつは尊敬される。
仕事とはいえ、拘束して悪かったな」
「ガブル、ありがとう。おかげで冒険者ギルドに来れた。
ここからは、自分でなんとかするよ」
「おう。落ち着いたら飯でも奢るぜ。またな」
ガブルか扉にデロッグをかけて、外に出ていく。自動で鍵かかる魔法がかけれた扉を開錠する魔法なのかな。
つまり、僕は、冒険者ギルドから勝手に出れないというわけだ。
ふぅ。
まだ信用は得られていないけど、街には入れたな。
これからどうなることやら。
1
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる