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カリンの選択
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あぁ。あたしって、どうなりたいんだろう。
助けてよ、ピッケル。
君が去ってから
声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ
どうして君と踊れないの
涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ
アシュリが教えてくれた古い歌。もう少し救いがあってもいいだろうに。
ふぅ。
パバリ王との楽しい夕食会が終わって、もう眠る時間だ。
あたしの迷いが手に取るように分かるのだろう。
周りに自分の悩みを全部見透かされているように感じるのは、いい気分じゃない。
はぁ。
夕食後、パバリ王に稽古をつけてもらったのを思い出す。
うぅ。
魔法でも、拳闘でも手も足もでなかった。
その上、パバリ王は剣術も極めているらしい。
技術も戦略も、力でさえも敵わない。
「本気で戦ったら、死んでたな」
あーあ。あたしって、なんて弱いんだろう。
全くもってあたしらしくない。そんなことは、分かってる。
弱音を吐いて、迷って、自信をなくしている自分が嫌だ。心まで弱くなっていくのが耐えられない。
あぁ。
なんて中途半端なんだろう。
自分の力を恐れて、好奇心で魔法使いになってさ。
知識より力が欲しくなったら、人を捨てて、巨人の力を求めさえする。
ブレブレだ。あたしが弱いのは、心だ。心が一番弱い。
静まり返った湖が三日月と星を鏡のように映して綺麗だ。
細く欠けた月を見上げる。
ツンツン
足に何かが触れた。
ん?
気がつくと青い肌の子供がいる。人類なら10歳くらいかな。
気がつかなかった。いつのまに?
「にしし」
ひっ!一つ目だ。サイクロプスの子供?
「僕のこと怖い?」
「びっくりしただけ。こ、怖くないよ」
本当は、ちょっと怖いけど。
「ねぇ、あそぼ」
なんか妖の世界に連れて行かれてしまいそうだ。
「あなた、森の大きなサイクロプスの子供?」
「んー。あれは最強。
小さいのは、弱っちいんだ。僕は、キュクロ。よろしくね」
「あたし、カリン。
あたしも弱くて、困ってたんだ」
「一緒だね!弱いもの同士、仲良くしよう!」
「あははは。でも、あたし強くなりたいんだ」
「赤い目だから、強くなれるよ。いいな。
ねぇ、カリン。僕と勝負しよう?
僕がカリンに勝ったら、その赤い目をちょうだい」
「え?キュクロに赤い目なんか、あげられないよ。だいたい、どうやって?」
赤い目をあげる?何を言っているんだろう。でも赤い目なんて、あたしには、猫に小判なのかもしれない。
「そっか。僕より弱いんだね」
なんか、カチンとくるな。
「それはないな。あたし、さすがにキュクロみたいな弱っちい子供になんかに負けないよ」
そうだ。負けてたまるか。
「じゃあ、勝負しよう。相撲にしよう。僕が負けたら、カリンに強さをあげる」
「じゃ。キュクロから強さをもらうわ!相撲は得意よ」
「契約成立ね。赤い目がなくなったら、カリンの迷いもなくなるかな?」
え?契約?背筋が、ぞくりとした。
なんか、罠にはめられた気がする。
青い炎の球が空中で離散して、地面に向かって刺さるように飛んでいく。
ボッ
ボッ
ボッ
あたしとキュクロの周りに青い炎の円ができる。
これは魔法!
「な、なに?」
「炎から出たら外に出たら負けね。どちらかが気を失ったり、身体の一部が外に出たら、炎が消えるよ。ルールは、それだけ。それ!」
ビリビリッ
キュクロが黒い電撃のような魔法で攻撃してきた!
魔法あり?!
なんか相撲とはちょっと違う!
「レゴレ!」
土の壁で雷撃を防ぐ。
「ふーん。つまんないことするな。それが魔法だと思ってるの?」
レゴレの壁を這うように回り込んで、雷撃が壁を超えてくる。
まるで意思や思考があるみたいに。
ビリビリビリビリッ
「ひゃぁぁぁ!!」
雷撃が身体を駆け巡る。
「カリン、弱い。いや、違うな。これは、もはや無力だね。戦う土俵にいない。
もう、さっさと赤い目をよこしなよ。カリンには、もったいない。
どうせ、森を出たら魔獣かエルフか獣人に瞬殺されるだけ。
たぶん、マツモトに住み着く最弱の小さなドブネズミ1匹にも殺される。
しかも、魔力が小さいから餌にもならない」
くっ
人類が来ていい場所じゃない。
きっとキュクロが言ってることは本当なんだ。死の森より危険な場所に、あたしは来てしまったんだ。
ブンッ
拳を振っても、かすりもしない。キュクロがゆったりと余裕のある動作であたしの攻撃をかわしていく。
拳も魔法も通用しない。
諦めない!
今だ!この拳に全力をこめる!
ペチ
キュクロのほっぺたを直撃したのに、ダメージを与えた感触がまったくない。
「なーんだ。つまんないの。それ、本気?」
岩も砕くパンチなのに?!
「うわぁぁ!!!」
キュクロを殴りまくる。
ペチペチペチペチ
なんで?なんで?なんで?
あたしの拳は、避ける価値もないんだ。
「ただただ非力。とっても残念。
じゃあおしまいね」
キュクロが全身から黒いオーラをメラメラと出した。
身体が痺れて動かない。
やばい。
やられる。虫ケラのように。
嫌だ。
あたしは、自分を知りたい。本当に弱いままで、何もできずに死ぬだけの命なのか?
誰かに怖がられるより、世界を怖がる自分でいるほうが嫌だ。
巨人になるんじゃない。魔法か、拳士かなんて、どうでもいい。あたしは、あたしになる。
本当のあたしに!
「さっきの1000倍の雷撃!さぁ、いってらっしゃい!」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
うぁぁぁぁあ!!
「なんだよ。
僕が弱いものいじめしてるみたいじゃないか。
あれ?青い炎が消えないな。もう一回焦がしてみよ」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
「いやぁぁぁぁ!」
「おかしいな。もう一回!」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
あれ?
ドクンッと大きく身体が脈打つ。
身体の感覚がない。あたし、死んだ?
あたしは、真っ黒な裸だ。
草舟の靴や腕輪も、ポッコロ人形も、装備がボロボロに焼け崩れた。
キュクロ!あたしの宝物を!
バチン!
一瞬でキュクロに詰め寄って、張り手を喰らわせた。
キュクロが張り手の勢いでよろめく。
それから、張り手された頬を手で押さえながら体勢を戻した。
「カリン、やっと巨人の力を目覚めさせる気になったのかな?
赤い目はまだだけど。
面白くなってきた。そろそろ子供のふりも飽きてきた。
じゃあ、次は黄色!」
キュクロの身体がメキメキ音を立てて大きくなる。
黄色い筋肉質の大男。
あたしの背では半分にもならない。
全裸で身体がスースーする。
ドクン、ドクンと身体が大きく脈打血続けている。
身体から力がどんどん溢れ出してくる!
これが巨人の力!?
キュクロと両手を合わせて、力で押し合う。
グググッ
上から下に強力な力。あたしの足が土にめり込んでいく。
いやむしろ踏ん張りが効く。
うぉぉお!!!
キュクロを背負い投げた。
ヒラリと身を翻して、着地するキュクロ。
「悪くないね。よおし、殴り合おう!」
集中する世界で、時間の流れがゆっくりになる。
キュクロの拳が見える。
見切って、交わしてローキック!
ゴキンッ
体勢がよろめいて、頭が落ちてきたところのアゴを狙う。
渾身の拳を打ち上げる。
タイミングは、完璧!
全ての力を一点に集中!
ゆっくりの世界で自分だけ早く動く。
ゴンッ
キュクロのアゴにクリーンヒットした瞬間に時間の速さが元に戻る。
拳を振り抜く!
「いっけぇぇぇ!!!」
キュクロの身体がありえないほと回転しながら吹っ飛んでいく。
ザザッ
キュクロが炎の線で踏みとどまる。
身体は正面なのに、首が捻れて後ろを向いている。
グキグキ
キュロスが両手で後ろに捻じ曲がった顔を強引に元の位置に戻した。
「いいのが入ったな。
やっと楽しくなってきたよ!
次は、赤!」
ムクムクと巨大な木のような大きさだ。
「どう?どう?これならどう?
ついでに赤い目も目覚めさせてあげる!
カリン!もっと遊ぼう!」
「あははは!」
キュクロがキョトンとしている。
「な、なんで笑ってるの?」
「キュクロの負けよ。おっきくなりすぎて、円から出てる」
「あ。あははは」
キュクロがポリポリと後頭部をかく。
「でも、楽しかった。あたしの勝ちね」
炎の円が消えていく。
暗くなったと思ったら、一気に辺りがパァっと明るくなった。魔法の照明だ。
「ガハハハ!よしよし!よく勝った!」
パバリ王と三姉妹がそこいた。パバリ王は、当たり前のように光の魔法も使える。
あぁ、やっぱり。そういうことか。
ソルダムが嬉しそうにはしゃいでいる。
「ほーらやっぱり、カリンが勝ったじゃない!」
ピオーネが真っ黒なあたしにキュールをかけてくれた。身体が綺麗になっていく。そして、身体がすっぽり収まるローブを着せてくれた。
それから、ギュッと抱きつく。
「みんな、カリンが勝つって信じてたわよ」
パバリ王が得意満面だ。
「わしの作戦通りじゃ!」
ナツメが穏やかに笑う。
「カリン、おめでとう。一歩踏み出せたわね」
みんな、ズルい!こんな茶番を!
「もう!あたしを騙してキュクロをけしかけるなんて!趣味が悪いわ!」
「ごめん、ごめん。でも、うまくいったわね」
「じゃあ!罪滅ぼしに、魔法を教えてよ」
ナツメが驚く。
「え?魔法?拳士として行くんじゃないの?」
「両方!」
「え?」
「魔法も拳も両方!あたしは、魔法拳士になる!」
パバリ王が目を細めて頷く。
「よしよし!それでいいのじゃ!思う存分生きよ!」
「うん!」
わわわわ!
真っ青で一番大きな姿になったキュクロがあたしをつまみ上げる。
キュクロが巨大な一つ目であたしを見つめる。笑っている、のかな。
「キュクロ、ありがとう!たしかに、強さをもらったわ。また遊ぼう!」
助けてよ、ピッケル。
君が去ってから
声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ
どうして君と踊れないの
涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ
アシュリが教えてくれた古い歌。もう少し救いがあってもいいだろうに。
ふぅ。
パバリ王との楽しい夕食会が終わって、もう眠る時間だ。
あたしの迷いが手に取るように分かるのだろう。
周りに自分の悩みを全部見透かされているように感じるのは、いい気分じゃない。
はぁ。
夕食後、パバリ王に稽古をつけてもらったのを思い出す。
うぅ。
魔法でも、拳闘でも手も足もでなかった。
その上、パバリ王は剣術も極めているらしい。
技術も戦略も、力でさえも敵わない。
「本気で戦ったら、死んでたな」
あーあ。あたしって、なんて弱いんだろう。
全くもってあたしらしくない。そんなことは、分かってる。
弱音を吐いて、迷って、自信をなくしている自分が嫌だ。心まで弱くなっていくのが耐えられない。
あぁ。
なんて中途半端なんだろう。
自分の力を恐れて、好奇心で魔法使いになってさ。
知識より力が欲しくなったら、人を捨てて、巨人の力を求めさえする。
ブレブレだ。あたしが弱いのは、心だ。心が一番弱い。
静まり返った湖が三日月と星を鏡のように映して綺麗だ。
細く欠けた月を見上げる。
ツンツン
足に何かが触れた。
ん?
気がつくと青い肌の子供がいる。人類なら10歳くらいかな。
気がつかなかった。いつのまに?
「にしし」
ひっ!一つ目だ。サイクロプスの子供?
「僕のこと怖い?」
「びっくりしただけ。こ、怖くないよ」
本当は、ちょっと怖いけど。
「ねぇ、あそぼ」
なんか妖の世界に連れて行かれてしまいそうだ。
「あなた、森の大きなサイクロプスの子供?」
「んー。あれは最強。
小さいのは、弱っちいんだ。僕は、キュクロ。よろしくね」
「あたし、カリン。
あたしも弱くて、困ってたんだ」
「一緒だね!弱いもの同士、仲良くしよう!」
「あははは。でも、あたし強くなりたいんだ」
「赤い目だから、強くなれるよ。いいな。
ねぇ、カリン。僕と勝負しよう?
僕がカリンに勝ったら、その赤い目をちょうだい」
「え?キュクロに赤い目なんか、あげられないよ。だいたい、どうやって?」
赤い目をあげる?何を言っているんだろう。でも赤い目なんて、あたしには、猫に小判なのかもしれない。
「そっか。僕より弱いんだね」
なんか、カチンとくるな。
「それはないな。あたし、さすがにキュクロみたいな弱っちい子供になんかに負けないよ」
そうだ。負けてたまるか。
「じゃあ、勝負しよう。相撲にしよう。僕が負けたら、カリンに強さをあげる」
「じゃ。キュクロから強さをもらうわ!相撲は得意よ」
「契約成立ね。赤い目がなくなったら、カリンの迷いもなくなるかな?」
え?契約?背筋が、ぞくりとした。
なんか、罠にはめられた気がする。
青い炎の球が空中で離散して、地面に向かって刺さるように飛んでいく。
ボッ
ボッ
ボッ
あたしとキュクロの周りに青い炎の円ができる。
これは魔法!
「な、なに?」
「炎から出たら外に出たら負けね。どちらかが気を失ったり、身体の一部が外に出たら、炎が消えるよ。ルールは、それだけ。それ!」
ビリビリッ
キュクロが黒い電撃のような魔法で攻撃してきた!
魔法あり?!
なんか相撲とはちょっと違う!
「レゴレ!」
土の壁で雷撃を防ぐ。
「ふーん。つまんないことするな。それが魔法だと思ってるの?」
レゴレの壁を這うように回り込んで、雷撃が壁を超えてくる。
まるで意思や思考があるみたいに。
ビリビリビリビリッ
「ひゃぁぁぁ!!」
雷撃が身体を駆け巡る。
「カリン、弱い。いや、違うな。これは、もはや無力だね。戦う土俵にいない。
もう、さっさと赤い目をよこしなよ。カリンには、もったいない。
どうせ、森を出たら魔獣かエルフか獣人に瞬殺されるだけ。
たぶん、マツモトに住み着く最弱の小さなドブネズミ1匹にも殺される。
しかも、魔力が小さいから餌にもならない」
くっ
人類が来ていい場所じゃない。
きっとキュクロが言ってることは本当なんだ。死の森より危険な場所に、あたしは来てしまったんだ。
ブンッ
拳を振っても、かすりもしない。キュクロがゆったりと余裕のある動作であたしの攻撃をかわしていく。
拳も魔法も通用しない。
諦めない!
今だ!この拳に全力をこめる!
ペチ
キュクロのほっぺたを直撃したのに、ダメージを与えた感触がまったくない。
「なーんだ。つまんないの。それ、本気?」
岩も砕くパンチなのに?!
「うわぁぁ!!!」
キュクロを殴りまくる。
ペチペチペチペチ
なんで?なんで?なんで?
あたしの拳は、避ける価値もないんだ。
「ただただ非力。とっても残念。
じゃあおしまいね」
キュクロが全身から黒いオーラをメラメラと出した。
身体が痺れて動かない。
やばい。
やられる。虫ケラのように。
嫌だ。
あたしは、自分を知りたい。本当に弱いままで、何もできずに死ぬだけの命なのか?
誰かに怖がられるより、世界を怖がる自分でいるほうが嫌だ。
巨人になるんじゃない。魔法か、拳士かなんて、どうでもいい。あたしは、あたしになる。
本当のあたしに!
「さっきの1000倍の雷撃!さぁ、いってらっしゃい!」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
うぁぁぁぁあ!!
「なんだよ。
僕が弱いものいじめしてるみたいじゃないか。
あれ?青い炎が消えないな。もう一回焦がしてみよ」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
「いやぁぁぁぁ!」
「おかしいな。もう一回!」
ビリビリビリビリビリビリッ!!!
あれ?
ドクンッと大きく身体が脈打つ。
身体の感覚がない。あたし、死んだ?
あたしは、真っ黒な裸だ。
草舟の靴や腕輪も、ポッコロ人形も、装備がボロボロに焼け崩れた。
キュクロ!あたしの宝物を!
バチン!
一瞬でキュクロに詰め寄って、張り手を喰らわせた。
キュクロが張り手の勢いでよろめく。
それから、張り手された頬を手で押さえながら体勢を戻した。
「カリン、やっと巨人の力を目覚めさせる気になったのかな?
赤い目はまだだけど。
面白くなってきた。そろそろ子供のふりも飽きてきた。
じゃあ、次は黄色!」
キュクロの身体がメキメキ音を立てて大きくなる。
黄色い筋肉質の大男。
あたしの背では半分にもならない。
全裸で身体がスースーする。
ドクン、ドクンと身体が大きく脈打血続けている。
身体から力がどんどん溢れ出してくる!
これが巨人の力!?
キュクロと両手を合わせて、力で押し合う。
グググッ
上から下に強力な力。あたしの足が土にめり込んでいく。
いやむしろ踏ん張りが効く。
うぉぉお!!!
キュクロを背負い投げた。
ヒラリと身を翻して、着地するキュクロ。
「悪くないね。よおし、殴り合おう!」
集中する世界で、時間の流れがゆっくりになる。
キュクロの拳が見える。
見切って、交わしてローキック!
ゴキンッ
体勢がよろめいて、頭が落ちてきたところのアゴを狙う。
渾身の拳を打ち上げる。
タイミングは、完璧!
全ての力を一点に集中!
ゆっくりの世界で自分だけ早く動く。
ゴンッ
キュクロのアゴにクリーンヒットした瞬間に時間の速さが元に戻る。
拳を振り抜く!
「いっけぇぇぇ!!!」
キュクロの身体がありえないほと回転しながら吹っ飛んでいく。
ザザッ
キュクロが炎の線で踏みとどまる。
身体は正面なのに、首が捻れて後ろを向いている。
グキグキ
キュロスが両手で後ろに捻じ曲がった顔を強引に元の位置に戻した。
「いいのが入ったな。
やっと楽しくなってきたよ!
次は、赤!」
ムクムクと巨大な木のような大きさだ。
「どう?どう?これならどう?
ついでに赤い目も目覚めさせてあげる!
カリン!もっと遊ぼう!」
「あははは!」
キュクロがキョトンとしている。
「な、なんで笑ってるの?」
「キュクロの負けよ。おっきくなりすぎて、円から出てる」
「あ。あははは」
キュクロがポリポリと後頭部をかく。
「でも、楽しかった。あたしの勝ちね」
炎の円が消えていく。
暗くなったと思ったら、一気に辺りがパァっと明るくなった。魔法の照明だ。
「ガハハハ!よしよし!よく勝った!」
パバリ王と三姉妹がそこいた。パバリ王は、当たり前のように光の魔法も使える。
あぁ、やっぱり。そういうことか。
ソルダムが嬉しそうにはしゃいでいる。
「ほーらやっぱり、カリンが勝ったじゃない!」
ピオーネが真っ黒なあたしにキュールをかけてくれた。身体が綺麗になっていく。そして、身体がすっぽり収まるローブを着せてくれた。
それから、ギュッと抱きつく。
「みんな、カリンが勝つって信じてたわよ」
パバリ王が得意満面だ。
「わしの作戦通りじゃ!」
ナツメが穏やかに笑う。
「カリン、おめでとう。一歩踏み出せたわね」
みんな、ズルい!こんな茶番を!
「もう!あたしを騙してキュクロをけしかけるなんて!趣味が悪いわ!」
「ごめん、ごめん。でも、うまくいったわね」
「じゃあ!罪滅ぼしに、魔法を教えてよ」
ナツメが驚く。
「え?魔法?拳士として行くんじゃないの?」
「両方!」
「え?」
「魔法も拳も両方!あたしは、魔法拳士になる!」
パバリ王が目を細めて頷く。
「よしよし!それでいいのじゃ!思う存分生きよ!」
「うん!」
わわわわ!
真っ青で一番大きな姿になったキュクロがあたしをつまみ上げる。
キュクロが巨大な一つ目であたしを見つめる。笑っている、のかな。
「キュクロ、ありがとう!たしかに、強さをもらったわ。また遊ぼう!」
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