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ラカンの夜這い

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「寒いから、暖をくれ」

 一眠りから目を覚ますと僕の部屋の入り口にシルクのシャツを寝巻きに着たラカンが立っていた。
 まだ夜明けまで大分ありそうな頃合いだ。
 剣の柄から甘く温かいムスクに似た匂いが漏れている。

「ラカン、どうしたの?」

 ラカンが部屋の中に入って、ベッドに腰掛ける。

「寒いのじゃ」

 暖房用のファイポも必要だな。確かに今夜は少し冷える。
 
「寒かったね。ごめんよ。ファイポを部屋につけてあ。。。」

 え?
 ラカンが僕の毛布の中にガサゴソと入ってくる。
 ひんやりとラカンの冷たい肌が触れる。ふわっと髪の毛のいい匂いがした。
 ドキドキする。

 「それに、不安なのだ。少し一緒にいてくれ」

 わわ!
 ラカンらしくない甘えた声ですり寄ってくる。
 こんなのカリンに見られたら、どうなることか。

「だ、だめだよ。女の子は男の子と一緒に寝たら。。。」

「我に人の女を教えてくれるのか?そういうことか?」

「いや、そういうって、どういうこと?」

 あぁ、ダメだダメだ。

「ファイポであっためてあげるから、毛布から出て、少し離れてよ」

 ラカンがむしろギュッと僕を抱きしめる。

「触れていると安心するのだ。
 我は、怖いのだ。力を失い、脆くて弱い人類の身体になって。ドラゴンの時は一度も感じることがなかった生死を1日に何度も感じる。
 どうしていいのか、なんのために生きているのかも分からない。
 ピッケルだけが頼りだ。我を慰めてくれ」

 ラカンの身体がポカポカしてきているのが分かる。

「人は、皆そうだよ。
 いつも生死の境の上で、何のために生きているのかも分からない。
 自分で決めたことをやっていくしかないんだ」

「我はドラゴンの時、人の存在も知らなかった。
 湧いては消える虫と同じように。魔獣さえ、うごめく虫と変わらなかった。
 あまりに小さくて、あまりに短命すぎて。
 だけど、人の心は、強いのだな。生死を常に感じながら生きている。
 こんなに弱いのに、目的のために命の危険を犯して、魔獣の森に入っていく」

 ラカンは何かに納得したみたいだ。

「ほら。もういいでしょ?部屋に戻りなよ」

 ラカンが僕の手を自分のはだけたおっぱいに当てて、押し付ける。

 や、柔らかい。。。

 じっとり汗ばんでいるのは、ラカンの肌なのか、僕の手の平なのか。多分、両方だ。
 ドキドキしているラカンの鼓動が手のひらから伝わってくる。
 僕の心臓もバクバクと高鳴る。

「我の身体を貪らなくていいのか?
 我は構わないぞ。せっかくの女の身体だしな。女神様が性の官能や悦楽も授けてくれている。
 身体の内側からムラムラとする気持ちもある。
 我を一度殺した責任を取れ。
 ほれ、我を愉しませてみよ」

 な!なんてことを。ゴクリと生唾を飲み込む。だめだ。そんなこと。

「何を言うんだよ。
 さ、大人しく部屋に戻りな」

 ラカンが僕の唇に自分の唇を押し当てて、チュッと僕の唾液をすする。

「何をするんだ!」

 柔らかて暖かいきめの細いラカンの胸の肌の感触。
 なんとか、無理やり手を引っ込める。

「そんなにカリンを好いておるのか?」

 なんでお前にそんなこと聞かれないといけないんだ。
 いや、流れに任せて言ってやれ。

「そうだよ。僕は、カリンが好きなんだ」

 勢いあまって、はっきり言ってしまった。でもいい。嘘なんか一つもない。

 ラカンがキッと僕をにらみつける。

 か、可愛い。

 それから、僕の鎖骨の上の皮を強くつまんでひねる。ラカンの爪で少し傷になるくらいに。

「痛い!なにするんだよ」

 つままれた所が痛くてジンジンする。やっぱり爪の跡が傷になっている。

「まぁいい。
 今夜は、これくらいにしておいてやろう。
 種を採れたしな。
 これは貸しだ。とてつもなく大きな貸しだ。
 仕方がないから、部屋で1人、人の女の身体について、理解を深めることにしよう。自分で自分を慰めることもできる」

 お、おう。
 ラカンが部屋に帰って行った。貸しか。確かにそうだ。ラカンに結局背中を押されたのか?それは大きな借りを作ったことになるな。
 この世界の女性は、なんだかすごく積極的だ。
 僕は、カリンにも、プルーンにも、アシュリにも、ラカンにも中途半端だ。
 元の世界でも中途半端だった。変わらないと。今のままでは、いけないんだ。
 このままでは、僕も周りも傷つくことになる。
 童貞の僕にも、それくらいは分かる。

「いててて」

 ラカンがつねった傷跡が鋭く痛む。

 なぜかミニゴーレムがラカンについていく。
 お前は、いいよな。

 毛布にラカンの匂いが残っている気がする。
 元ドラゴンとはいえ、あんなに可愛い女の子にツンデレで夜這いされるようなことが毎晩あったらたまらない。
 僕も興奮する身体が、なかなか落ち着かない。
 
 ふぅっ

 やっと一息できる。でも、すっかり目が覚めてしまった。
 頭を冷ますために広間で魔法書でも書こう。
 エタンとパンセナがくれた筆とインク、白紙の魔法書をポシェタから取り出す。ささやかな広間のテーブルに広げる。
 石のテーブルとイスがひんやりと冷たい。
 ファイポで灯りをつける。

 ボトラ、アクアーボ、ジェッカ、ポシェタ、シンクーハ、ゴルゴレムに、レゴレ。これからもっと魔法が増えそうだ。
 草の防御魔法はリーバリー、水の防御魔法はウォーバリー。土の防御魔法は、レゴレでなんとかなりそうだ。

 しばらく筆を走らせていると、壁に開けた小さな窓から明かりがさしてきた。
 どうやら夜が明けてきたみたいだ。
 
「ピッケル?1人?」

「ど、どうしたの?カリン?」

「なんか悪い夢を見たわ。自分が巨人になって、家を踏み潰してしまう。。。変な汗をかいて起きたの。
 ピッケルは、寝れた?」

 ラカンの残り香に気づいたりしないだろうか。
 慌てて、ポムルスをかじる。爽やかな匂いが広がる。
 ラカンにつまんで捻られた場所をシャツで隠す。

「ぼ、ぼくも自分がゴーレムに乗り移る夢を見たことがあるよ。
 さっき目が覚めてしまって。
ねぇ、一緒に魔法書を書かない?最近、新しい魔法が増えすぎて」

「いいわね。書きながら、考えを整理したいわ。あたしも書こう。こうやって2人で魔法書を開くの久しぶりね」

「そうだね。
 パスカル村のゾゾ長老の館でよくこうしていたよね。
 そういえば、ゾゾ長老の館は、飛竜に踏み潰されてちゃったんだよ?」

「ええっ?そうなの?」

 そういえばカリンとパスカル村を出る時の話をまだしてなかった。

「そうそう。
 タイトス観測所も地震で倒壊して、燃えちゃったよ。なんとか崩れる建物から出たら、飛竜くらい大きな蜘蛛が襲ってきたんだ」

「ええ?大蜘蛛?いやだな。あたし、虫なんて嫌いよ」

「虫っていうか、化け物だよ。子供でもムレクマみたいな大きさだし。
 ジェッカもファイガス効かなかったけど、アクアーボで口を狙えば倒せるかな。
 僕じゃスピードが足りないけど」

「そうね。あたしもスピードをもっと上げたいな」

 カリンと話すと落ち着く。

「キーラに教えてもらおうかな」

「あたし、キーラのこと、まだ信用できないわ。ねぇ、キーラって男かな、女かな」

「確かに、キーラって男らしい女にもみえるし、顔の綺麗な男にも見えるよね」

 トントンと足音がきこる。

「おはようございます。私は、両性具有ですよ」

 ギクリッ
 キーラが広間に入ってきた。

「失礼、若い2人を邪魔してしまいましたね」

 り、りょうせいぐゆう?何それ?
 分からないことばっかりだ。

 キーラは当惑する僕とカリンに気遣って、話題を変えてくれた。

「私でよかったら、魔法の御指南いたしますよ。
 スピードを上げるには鍛錬が必要ですが、実はコツもあります」

「そうなの?!僕、スピードを上げたくて」

「ピッケルだけスピードが速くなるのは、ずるい!キーラの監視も兼ねて、あ、あたしも同席するわ」

「はいはい。いいでしょう。
 ところでラカンを見ませんか?」

 ヤードルが急足で2階の見張り台から降りてきた。

「魔獣が来た」

 えっ?
 どういうこと?
 敵意のある気配はしないのに。

 それにラカンの姿がないのはまずい。ラカンのおかげで魔獣の危険が少なくなっているのに。


 

 
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