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ペカリ恐るべし
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「ピッケルやカリンの見送りに行かなくてよかったの?」
カリファと総督府の白いバルコニーのテーブルセットで紅茶を飲んでいる。
晴天の下、アレイオスの海がキラキラと光る。
「ちょっと意地を張りすぎたかもね。でも、いいの」
プルーンが入れてくれた紅茶は、香りが高くあっさりして美味しい。
「そう。アシュリがいいなら、いい。
ここ数日騒がしかったのが嘘みたいに、静かになったわね。アシュリの弟子たち、嵐のようだった。
そして、魔法の研究は大発展したわね」
レゴレだけを考えても、人類の歴史を変える大発見だ。
これまで何ヶ月もかかっていた建築をゾゾ長老がレゴレ一回で一瞬で作って見せた時、確かに歴史が変わった。
アレイオスの建築スピードも100倍、いやもっと加速するだろう。それは食料や他の問題も劇的に解決できることにつながる。
「人騒がせな人たちよ。
この数日で新しい魔法が増えすぎて、頭が追いついていかないわ。
ゾゾ長老は、また古代博物館に籠って調べごとをしているの?」
「そう。私は、メルロと交代でゾゾ長老のお世話よ。ゾゾ長老の元気さには敵わない。まるで無邪気な子供みたい」
「カリファもそうなるのかもよ?」
「え?私?無理無理!
私なんて、随分と中途半端なものよ。魔法はゾゾ長老に敵わず、頭脳や知識はエタンの足元にも及ばない」
「あら、それは謙遜しすぎじゃない?ふふふ」
穏やかな午後だ。ピッケルたちは昼に旅立ってしまった。
「ふぁーあ!気持ちがいい午後ね。平和そのもの」
カリファが伸びをしながらあくびをする。
穏やかな明るい海辺の町。カモメがのんびりとクークーと泣きながら飛ぶ姿がのどかでいい。
海上のドラゴン、リブレイオスは、日に日に遠くに小さくなって、離れていく。
そのせいか上空に群れていた飛竜の姿も見なくなっていた。
漁師たちも漁船を出せるようになって、市場も活況を取り戻しているようだ。
カリンが置き土産にくれた透けたピンク色をした飛竜の鱗のカケラを太陽光に当ててみる。
キラキラと虹色に光を反射してとても綺麗だ。魔力もかなりの量含まれている。炎犬の骨とは比較にならない。
カリファが羨ましそうに、私の手から飛竜の鱗のカケラを取り上げる。
「いいなぁ!持つべきものは、出来た弟子ね。綺麗。飛竜は怖いけど」
「いいでしょ。硬すぎて削ることもできないけどね」
「そうなんだ。たいしたものだわ。
はい、どうぞ」
悔しそうに、カリファが飛竜の鱗のカケラを私に手渡す。
バタバタとソニレテ団長が走る。何か大事が起こりそうな不穏な気配がする。
ドンッ!バリンッ!
驚いたプルーンとぶつかって、お盆を落とす。
「ソ、ソニレテ団長、申し訳ございません!」
「いや、こちらこそ、慌てすまない。怪我はないか?」
ソニレテ団長が、プルーンに手を差し出して、起き上がらせる。
床にはバラバラになった食器が散らばっている。
「すぐに片付けます。痛いっ」
尖った破片を片付けようとしたプルーンが、指先を傷つけてしまう。足早にプルーンが箒とちりとりを取りに行く。
そして、ソニレテ団長が慌てた声で、平和な時間を切り裂いていく。
「エタンは?ゾゾ長老はどこに?
王都にゴリアテ国の蛮勇王ガラガラが攻め入ったらしい!」
なんてこと!攻め入った?もう落城したってこと?
いくらザーシル王が凡庸でも早すぎない?そんなにあっさり王都に入られてしまうなんて。
「どういうこと?もう王都の正規軍は負けてしまったの?」
ソニレテ団長の顔が青ざめている。
「それが。。。
王都でペカリが暴走して、兵士も住民達も一晩でゾンビになってしまったらしい。
それを助ける大義名分で蛮勇王ガラガラが1万の兵を連れて、王都に!」
なんてこと。世も末だ。
王都にはまだ数万人残っていたはず。今や王都はペカリ・ゾンビに占拠されているというのか。
エタンが執務室から出てきた。
「それは確かな情報ですか?ソニレテ団長?」
「残念ながら!命からがら王都から馬で逃げてきた私の偵察隊からの報告です!」
「なんてことでしょう。カリファ、地下の古代博物館からゾゾ長老を呼んできてください。
偵察隊の方も、一息つかせてから呼びましょう。
ペカリについて分かっていることを整理する必要があります。
アレイオスにペカリ・ゾンビが入らないように!」
すぐに緊急の円卓会議が開かれた。
エタン、ゾゾ長老、ポンチョ、カリファ、メルロ、ソニレテ団長、偵察隊長オプ、そして私。
ゾゾ長老がオプからの報告を聞いてうなだれる。
「やれやれ、落ち着いて古代博物館の謎解きもできないわい。
しかし、ガナシェ伯め、愚かなことを。
ペカリは危険だから、厳重保管か廃棄してしまえと言っておいたのに。
息子の蘇生を試みるために持ち出すなんて、罰当たりなことをするからじゃ」
オプが鎮痛な顔をしている。
「昨夜から王都は数万のペカリ・ゾンビがひしめく地獄絵図です。
ペカリ・ゾンビ達は、動きは遅いですが、生命力が強くて、剣で切っても死にません。
なにより繁殖力が凄まじい。
ファイガスが弱点ですが、数が多すぎてファイが足りません。
おそらく今夜には、ゴリアテ国の兵士たちも次々とゾンビの餌食に。。。」
メルロが恐怖で青ざめている。
「おぞましい。命を冒涜しているわ」
カリファが険しい顔でメルロの肩をギュッと抱きしめる。
「ガナシェ伯も無事ではないだろう。王都に残った兵士も魔法使いたちも。。。
史上最悪の魔法事故だよ。何万人が犠牲に?何のための慰霊碑だったのか」
王都カラメルからアレイオスまでは距離がある。
馬で半日、人の足で休まず歩いて1日。
ペカリに寄生されたゾンビは、日中はエネルギーを溜めるために眠ってしまう。
夜になると日中溜めたエネルギーを使って動き出す。
放っておけばペカリ・ゾンビがアレイオスにたどり着くのも時間の問題だ。
「どんな策があるじゃろうか。エタン?」
エタンの目がギラリと光る。
「日中動けなくなるとはいえ、太陽の下で死にはしないのが厄介です。
先手必勝、速攻しかありません。
今夜、レゴレを使って王都周辺に隔離壁を造成する作戦にしましょう。
私はアレイオスに残って、ここの守備を固めます」
「よし!
ポンチョ、留守番を頼んだ。
ソニレテ団長!
時は一刻を争う!全ての馬と馬車を出せ!
片道分でもかまわん!
王都までもてばいい!
ポムルスもポシェタでありたったけもっていくぞ!
100人の騎士と100人の魔法使いが力を合わせるのじゃ!
移動しながら魔法使い全員にレゴレを教える。全員で協力してアレイオスを守るのじゃ!
隔離壁の半分はわしが作る!残り半分を手分けてして作れ!
今夜が勝負じゃ!」
こうして対ペカリ・ゾンビの作戦が始まった。アレイオスが建設されてから苦難続きだ。
レゴレの意義はとても大きい。ピッケルには感謝しなければならないな。
カリファと総督府の白いバルコニーのテーブルセットで紅茶を飲んでいる。
晴天の下、アレイオスの海がキラキラと光る。
「ちょっと意地を張りすぎたかもね。でも、いいの」
プルーンが入れてくれた紅茶は、香りが高くあっさりして美味しい。
「そう。アシュリがいいなら、いい。
ここ数日騒がしかったのが嘘みたいに、静かになったわね。アシュリの弟子たち、嵐のようだった。
そして、魔法の研究は大発展したわね」
レゴレだけを考えても、人類の歴史を変える大発見だ。
これまで何ヶ月もかかっていた建築をゾゾ長老がレゴレ一回で一瞬で作って見せた時、確かに歴史が変わった。
アレイオスの建築スピードも100倍、いやもっと加速するだろう。それは食料や他の問題も劇的に解決できることにつながる。
「人騒がせな人たちよ。
この数日で新しい魔法が増えすぎて、頭が追いついていかないわ。
ゾゾ長老は、また古代博物館に籠って調べごとをしているの?」
「そう。私は、メルロと交代でゾゾ長老のお世話よ。ゾゾ長老の元気さには敵わない。まるで無邪気な子供みたい」
「カリファもそうなるのかもよ?」
「え?私?無理無理!
私なんて、随分と中途半端なものよ。魔法はゾゾ長老に敵わず、頭脳や知識はエタンの足元にも及ばない」
「あら、それは謙遜しすぎじゃない?ふふふ」
穏やかな午後だ。ピッケルたちは昼に旅立ってしまった。
「ふぁーあ!気持ちがいい午後ね。平和そのもの」
カリファが伸びをしながらあくびをする。
穏やかな明るい海辺の町。カモメがのんびりとクークーと泣きながら飛ぶ姿がのどかでいい。
海上のドラゴン、リブレイオスは、日に日に遠くに小さくなって、離れていく。
そのせいか上空に群れていた飛竜の姿も見なくなっていた。
漁師たちも漁船を出せるようになって、市場も活況を取り戻しているようだ。
カリンが置き土産にくれた透けたピンク色をした飛竜の鱗のカケラを太陽光に当ててみる。
キラキラと虹色に光を反射してとても綺麗だ。魔力もかなりの量含まれている。炎犬の骨とは比較にならない。
カリファが羨ましそうに、私の手から飛竜の鱗のカケラを取り上げる。
「いいなぁ!持つべきものは、出来た弟子ね。綺麗。飛竜は怖いけど」
「いいでしょ。硬すぎて削ることもできないけどね」
「そうなんだ。たいしたものだわ。
はい、どうぞ」
悔しそうに、カリファが飛竜の鱗のカケラを私に手渡す。
バタバタとソニレテ団長が走る。何か大事が起こりそうな不穏な気配がする。
ドンッ!バリンッ!
驚いたプルーンとぶつかって、お盆を落とす。
「ソ、ソニレテ団長、申し訳ございません!」
「いや、こちらこそ、慌てすまない。怪我はないか?」
ソニレテ団長が、プルーンに手を差し出して、起き上がらせる。
床にはバラバラになった食器が散らばっている。
「すぐに片付けます。痛いっ」
尖った破片を片付けようとしたプルーンが、指先を傷つけてしまう。足早にプルーンが箒とちりとりを取りに行く。
そして、ソニレテ団長が慌てた声で、平和な時間を切り裂いていく。
「エタンは?ゾゾ長老はどこに?
王都にゴリアテ国の蛮勇王ガラガラが攻め入ったらしい!」
なんてこと!攻め入った?もう落城したってこと?
いくらザーシル王が凡庸でも早すぎない?そんなにあっさり王都に入られてしまうなんて。
「どういうこと?もう王都の正規軍は負けてしまったの?」
ソニレテ団長の顔が青ざめている。
「それが。。。
王都でペカリが暴走して、兵士も住民達も一晩でゾンビになってしまったらしい。
それを助ける大義名分で蛮勇王ガラガラが1万の兵を連れて、王都に!」
なんてこと。世も末だ。
王都にはまだ数万人残っていたはず。今や王都はペカリ・ゾンビに占拠されているというのか。
エタンが執務室から出てきた。
「それは確かな情報ですか?ソニレテ団長?」
「残念ながら!命からがら王都から馬で逃げてきた私の偵察隊からの報告です!」
「なんてことでしょう。カリファ、地下の古代博物館からゾゾ長老を呼んできてください。
偵察隊の方も、一息つかせてから呼びましょう。
ペカリについて分かっていることを整理する必要があります。
アレイオスにペカリ・ゾンビが入らないように!」
すぐに緊急の円卓会議が開かれた。
エタン、ゾゾ長老、ポンチョ、カリファ、メルロ、ソニレテ団長、偵察隊長オプ、そして私。
ゾゾ長老がオプからの報告を聞いてうなだれる。
「やれやれ、落ち着いて古代博物館の謎解きもできないわい。
しかし、ガナシェ伯め、愚かなことを。
ペカリは危険だから、厳重保管か廃棄してしまえと言っておいたのに。
息子の蘇生を試みるために持ち出すなんて、罰当たりなことをするからじゃ」
オプが鎮痛な顔をしている。
「昨夜から王都は数万のペカリ・ゾンビがひしめく地獄絵図です。
ペカリ・ゾンビ達は、動きは遅いですが、生命力が強くて、剣で切っても死にません。
なにより繁殖力が凄まじい。
ファイガスが弱点ですが、数が多すぎてファイが足りません。
おそらく今夜には、ゴリアテ国の兵士たちも次々とゾンビの餌食に。。。」
メルロが恐怖で青ざめている。
「おぞましい。命を冒涜しているわ」
カリファが険しい顔でメルロの肩をギュッと抱きしめる。
「ガナシェ伯も無事ではないだろう。王都に残った兵士も魔法使いたちも。。。
史上最悪の魔法事故だよ。何万人が犠牲に?何のための慰霊碑だったのか」
王都カラメルからアレイオスまでは距離がある。
馬で半日、人の足で休まず歩いて1日。
ペカリに寄生されたゾンビは、日中はエネルギーを溜めるために眠ってしまう。
夜になると日中溜めたエネルギーを使って動き出す。
放っておけばペカリ・ゾンビがアレイオスにたどり着くのも時間の問題だ。
「どんな策があるじゃろうか。エタン?」
エタンの目がギラリと光る。
「日中動けなくなるとはいえ、太陽の下で死にはしないのが厄介です。
先手必勝、速攻しかありません。
今夜、レゴレを使って王都周辺に隔離壁を造成する作戦にしましょう。
私はアレイオスに残って、ここの守備を固めます」
「よし!
ポンチョ、留守番を頼んだ。
ソニレテ団長!
時は一刻を争う!全ての馬と馬車を出せ!
片道分でもかまわん!
王都までもてばいい!
ポムルスもポシェタでありたったけもっていくぞ!
100人の騎士と100人の魔法使いが力を合わせるのじゃ!
移動しながら魔法使い全員にレゴレを教える。全員で協力してアレイオスを守るのじゃ!
隔離壁の半分はわしが作る!残り半分を手分けてして作れ!
今夜が勝負じゃ!」
こうして対ペカリ・ゾンビの作戦が始まった。アレイオスが建設されてから苦難続きだ。
レゴレの意義はとても大きい。ピッケルには感謝しなければならないな。
応援ありがとうございます!
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