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半裸と全裸

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 休日の夜のアレイオスは、通りに人も多く賑やかだ。通りにはファイポの明かりが灯り、石畳を照らす。
 空から降りてくる光は、ちょうどジョイス市場のまんなか、屋台の飲み屋がひしめくあたりに着地しそうだ。

 なんでまた一番ガヤガヤしているところに!

「ピッケル!もっと早く走れないの?」

「なんでそんなに早く走れるんだよ!」

「草舟のブーツ、ピッケルだってはいてるでしょ?へこたれないで!ほら!」

 通りの人を避けながら石畳を全力で走って、息切れしながらなんとか落下地点にたどり着く。格闘家の娘でもあるカリンの身体能力は、すごい。体力や持久力も。

 案の定、市場は大騒ぎになっていた。大声を張り上げて、ドシドとメンガがテーブルとイスをどけている。

「おい、お前ら椅子とテーブルをどけろ!」

「おい、じじい死ぬぞ、どけ!飲んでないで上を見ろ!なんか光が落ちてくるぞ!」

 ドシドとメンガが乱暴だけど一生懸命に飲食している人たちを避難させている。

「あたしたちも手伝おう!」

 僕とカリンも一緒に飲食している客や野次馬たちを避難させた。
 光は、思ったよりゆっくりとふわふわ降りてきている。

 なんとか落下地点の半径10メートルくらいは片付けられた。

「おい、なんか柔らかいものはねぇのか?お前ら服を脱げ、真ん中に集めろ!いいから脱げ!女はいい!乳見せるな!男どもは脱げ!臭い服は、いらねぇ!」

 メンガが強引に周りの人の服を剥ぎ取って、着地地点に集めていく。めちゃくちゃだ。
 だけど、親切さを感じる。だから、ほとんどの人が従っていく。
 反抗する酔っ払いがメンガに歯向かう。

「やめろ!」

「うるせぇ!お前の服は臭すぎる!ちゃんと毎日洗濯しろよ!」

 メンガが酔っ払いをぶん殴る。そして、隣にいた男性の服を脱がす。

 500人くらいが円になって光を見守っている。男達は、服を剥ぎ取られて、だいたい半裸だ。僕も。

「なんだこれは、女の子?女神様かなんかか?」

 ドシドが目を丸くして驚いている。

「危険だから、絶対触らないように!」

 これ以上出ないくらい大きな声を出した。
 そうだ。空から降りてくる光。俺が元の世界で死んだのも、不用意に近づいたからだ。

 二階建ての屋根くらいの高さで、下降をやめた光がふわふわと浮いている。
 光の中には華奢な裸の女の子が見える。魔力を感じないから精霊じゃない。女神様でもないみたいだ。女神様の裸体はもっと、なんというか。。。豊満だった。脳裏に焼きついた女神様の裸を思い出す。あぁ。

「・・・」

 あれ?何か言っている?!

「おい、お前ら静かにしろ!なんか言ってるぞ!」

 メンガのよく響く声が広場を静かにさせた。

「・・・ル」

 え?

「・・・ピッケル」

 ぼ、僕!?

「ちょっと、ピッケル、呼ばれてるわよ?知り合い?」

「ぜんぜん何が何だか分からないよ!」

 気がつくと後ろにドシドが立っている。

「お前がピッケルか。つべこべ言ってないで、行け!おら!」

 ドシドが僕の背中を無理やり押す。

 わわっ!いてて!
 なにもかも荒っぽすぎる!

 静かに群衆が見守る中、落下地点まで歩いていく。
 見上げると、光る女の子がゆっくりと降りてくる。

「ピッケル、無理しないで!危なそうなら触れないで!」

 カリンが悲鳴に似た声をあげる。

 そうだ。触れたら死ぬかもしれない。公園で触れた光とよく似ている。

 でも、恐怖心だけじゃなくて、安心も感じる温かい光だ。この感じ、精霊から感じるものに似ている。

 肩の上にミニゴーレムがよじ登って、行け行け!と合図を送ってくる。

「わかった。でも、多分大丈夫。。。」

 ごくりと唾を飲み込む。

 目の前に来た光る女の子を受け止める。
 身体の内側から温かい黄色い光を発する女の子。
 見たことがないくらい綺麗な子。

 光の量が少なくなってだんだん重さが感じられるようになってくる。
 ほとんど光が消えてしまった。

 ずっしりとしっかり人間大の重たさ。
 どうやら触れても大丈夫みたいだ。
 人肌の体温を感じる。高熱というわけでもなさそうだ。

 一糸纏わぬ女の子が長い紫色の髪の毛を垂らしている。
 そして、目を瞑ったままにっこり笑って、「やっと会えた。。。」と呟いて、すぐに眠ってしまった。

 え?どういうこと?どうしたらいいの?

 「馬鹿やろう!ボサっとしてないで早く服を着せてやれ!若い女の子に恥をかかせるんじゃねぇ!ピッケル!このろくでなしが!」

 メンガのよく通る声が聞こえて、ハッとする。

 集められた服からできるだけ綺麗そうな服を女の子に着せようと、服を探す。

「あたしに任せて、その服はだめ。こっちの服にしよう」

 カリンだけじゃなく、群衆の中から女の子が何人か駆けつけて、服を着せるのを手伝ってくれた。

 荒くれ者が集まる労働者の街アレイオスだけど、乱暴さの中に人の優しさを感じる。

 精霊ではない。そうかと言って、普通の人間のはずもない。

 一体なんなんだろう。どうして僕の名前を?

「ピッケル、大丈夫?
 心配したよ。前の世界で死んだ時も、空から落ちてきた光に触れたからって言ってたから」

「そうだよね。大丈夫でよかったよ。
 でも、この子、なんなんだろう。僕、この子を知らないんだ」

「知らないんだ。まず、ゾゾ長老に見せよう」

「そうだね。僕が背負うよ」

 すやすやと眠る女の子を背負って、総督府までの坂を登る。
 華奢な子でよかった。坂道をおんぶして登るのはなかなか力を使う。
 なんだか分からないけど、きっと何か希望につながる何かに、この子がつながっている気がした。

「本当に知らない子なの?ピッケル?」

 カリンがクドクド聞いてくる。

「知らないって言ってるだろ?」

「ふーん。あたし、ピッケルにおんぶしてもらったことないんだけど。なんかズルい!」

「なんだよ、意識のない子にズルいとか言うなよ」

「そりゃ、そうだけどさ。やけに可愛い子じゃない?」

 カリンが隣でプンスカしている。なんなんだろう。
 訳が分からないことばかりだ。
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