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空から女の子
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「すごかったわ。
やっぱりミニゴーレムは、作った砂のゴーレムに乗り移ることができるみたい。
動かないミニゴーレムを囮にしてタイミングをずらしてカニグモに攻撃し始めたの。
カニグモが右のハサミを前に突き出した時に、カニグモの左のハサミを石のミニゴーレムが上から押し潰して砂にめり込ませたわ。
ひるんだカニグモを砂のミニゴーレムが上から押し潰して、また砂に埋めたの。
それから
石のミニゴーレムがジャンプして、カニグモの両目の間をドロップキックでかち割った!
素晴らしい作戦だったわ」
「そんな動きをミニゴーレムが考えたなんて。でも、なんで焼けてるの?」
「またそれからがすごかったのよ!
瀕死のカニグモにミニゴーレムがファイポくらいの火を出してカニグモを焼いたの」
「え?すごい。僕が使える魔法を使えるのかな」
「ピッケルは、ミニゴーレム達になんて指示を出したの?」
「俺は、カニグモを倒せとしか念じてないよ?細かい指示は、1つも出してないし、魔法を使えることも、使ったこともわからなかった。
ミニゴーレムを作った俺の知識や経験を元に、自律して行動してるのかも」
ミニゴーレム達は、動く時も火の魔法を使う時にも俺の魔力を使っていない。背中に刺した炎犬の骨の魔力を使ったと言うことか。
「驚きだわ。ピッケルが経験を積めば、ミニゴーレムがもっと強く賢くなるってことかしら」
空からトンビが飛んできて、焼けたカニグモを掻っ攫っていく。
香ばしい香りと磯の香りも一緒に飛んでいってしまった。
潮の香りだけが残る。
ミニゴーレムが怒ったようにぴょんぴょん飛び跳ねて、獲物を盗られたことを抗議しているみたいだ。
感情のようなものまであるのかな。
ふと、思ったことを口に出す。
「ゴレゴレム、不思議な魔法だ。人類も神様がゴレゴレムで作ったのかな」
「え?そんなこと考えたことなかった。
でも、確かにゴレゴレムって、神様の技みたいよね。びっくりする事ばかりだわ。
やっぱりずるいな。ピッケルだけ。
そうは言っても、ミニゴーレム、今のところ倒す相手は、カニグモくらいがちょうど良さそうね。炎犬を倒すことはできないかも。
それに、ピッケルは試練があるから、ぜんぜん羨ましくはないけど。プププっ」
「ははは。今やドラゴン殺しのピッケルだもんね。まいったよ、本当に。。。」
「ピッケルって怖くないの?あのドラゴンさえ殺してしまう力が。
あたしは別に怖くないけど。ピッケルはピッケルだし」
「怖くないって言ったら嘘になるけど、知りたい!の方が大きいかな。なにか理由があるはずなんだ。僕にはどんな役割が与えれているのか」
「そっか、ピッケルには前世の記憶があるんだもんね。ねぇ、聞かせてよ。前世の世界の話」
他に誰もいない月明かりの砂場で、ひんやりと冷たい砂の上に座ったまま、カリンと色々な話をした。
カリンが僕の手の上に手を乗せてきた。ドキドキしながらカリンの手を握り返す。カリンの手もポカポカしている。
カリンの父さんがアレイオスで2人目の奥さんをもらって、子供ができたと聞いて、びっくりした。
カリンにとっても生まれたばかりの男の赤ちゃんが可愛くて仕方ないらしい。
きっかけは、カリンのお父さんがアレイオスで巨人神拳の武術道場を開業したところから始まった。今では、門下生が100人を超える人気道場とのこと。一子相伝なのに、そんなに門下生を増やしていいんだろうか。
ともあれ、それで2人目の奥さんをもらうほどの財力になったのならいいか。魔法使いになったカリンの代わりに奥義を伝える子供も必要だしな。
武道家としての素質はピカイチのカリンだけど、魔法と武道を両方極めるのは難しいとお父さんに言われて、泣く泣く伝承を諦めたらしい。お父さんもさぞ悔しかっだろう。
それから僕の身の上話、仕事の話、社会がどうなっているか、テーマパークや遊園地、ファッションやスイーツ、ご飯の話まで。
「あたし、原宿に行ってみたいな。なんかその山盛りクリームのフルーツパンケーキとか、並んででも食べたい!
ジェットコースターも絶対乗りたいし、絵本の中に入り込んだような公園にも!
飛行機で世界中を飛び回るのもいいなー!」
下手くそな説明だったけど、カリンの興味が爆発して質問責めされるうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
「いいなぁ!ピッケルは、やっぱり幸運だよ」
「え?!」
「そりゃ、試練もあるけどさ。
何にもない人生より、ずっと素晴らしいわ。
だってそうじゃない?
ピッケルの人生は刺激に満ちて、希望が必要で、人が恵まれて、今日を全力で生きてる。しかも、健康だわ」
「そうだね。でも、人やこの星を試練に巻き込んでいるのが、申し訳なくて。。。本当は、すごく辛い。
大切な人を幸せにしたいのに」
思わずカリンの手をギュッと強く握りしめる。
「試練を全部自分のせいだなんて思うなんて、そんなの変よ。
むしろ、滅亡が決まっていた人類をピッケルが助けに来てくれたんだとあたしは思ってる。
さっさと幸運を解明して、そんな理不尽なこと、ひっくり返してやりましょ!なんか、あたし、腹立ってきたわ!」
「誰に怒ってるんだよ」
「神様にもわからない幸運を与えた何かに対して怒ってるのよ。試練を与える女神様にも!あははは。なんだろね。それ」
「本当だよね。酷い話だよ!」
一緒に笑いながら、涙が止めどなく出てきた。
カリンが温かい両手で、俺の涙を拭う。
「なによ、ピッケル。また泣いてるの?泣き虫ね」
カリンの優しい声に、また涙が溢れてくる。
ありがたいな。ありがたすぎる。もったいないくらい幸せだ。
幼いころ階段から転げ落ちた時に命懸けでキュアをかけ続けてくれたパンセナ。俺の将来を真剣に考えてくれるエタン。
さっきだって、言葉はお互い少なかったけど、2人とも旅立ちを応援してくれた。パンセナは、相変わらず心配そうだったけど。
厳しいけど道を示してくれるゾゾ長老、試練に対して怒ってくれたり笑い飛ばしてくれるカリン、力を貸してくれる仲間たち。
本気で向き合って間違いを正してくれるアシュリ。
なんて俺は、恵まれているんだろう。
そうだ。試練だけじゃない。それに勝る希望がある。旅の中で何かヒントを見つけよう。必ず、この星を、俺自身を救ってみせる。自分の手で助けるんだ。
「あたし、みんなの前では隠してるけど、岩を割れるくらい怪力なの」
そうなの?格闘家のお父さんが悔しがるわけだ。
「ときどき、自分の力が怖くなることがある。精霊が言ってた、赤い目の巨人の話も」
「大丈夫。どんなカリンでも、カリンはカリンだよ」
「ねぇ、ピッケルは、元の世界で彼女いたの?」
「へ?」
唐突な質問に涙が引っ込む。
「何を間抜けな顔をしてるのよ。中身おじさんのくせに!まさかなんの経験もないの?」
「いや、ええええと」
なんて答えたらいいんだろう。嘘はつけない。正直に言うしかない。
うつむくとミニゴーレムが応援するようにバンザイしている。
「い、いなかったよ」
「うわ!え?本当に!?なんで?試練とか関係ないでしょ?」
「好きになってくれた人はいたんだけど。。。」
沈黙。
ギロリとカリンが俺を睨む。
「はぁ?!」
「ひっ!!」
「何よそれ!それで!?ピッケルを好きになったのはどんな人?なんで付き合わなかったの?全部話しなさい!」
まいった。
天を仰ぐ。
大きな月が夜空の高い場所から俺たちを照らしている。
金星のような明るさの星が月の近くに輝いている。あれ?でも、なんか金星のような星が変だ。俺の目が変なのかな。
「カリン、見て。月が綺麗。
あれ?あれは何かな」
不思議な光のある上空を指差す。
「何をあからさまに話を変えようとしてるのよ!
流れ星?隕石とも違うわ。フワフワとゆっくりすぎる。
ねぇ、あの光、こっちに近づいてきていない?」
カリンが立ち上がって、夜空の同じ光を指差す。
確かに何かゆっくり光が上空から降りてくる。
とっさにファイポの灯りを小さくして、空の光がよく見えるように調整する。
「近くに落ちそうだ!」
僕のポケットに石のゴーレムが潜り込んだ。
僕も立ち上がって、お尻についたザラザラときた砂を払い落とす。
砂浜には、動かない砂のゴーレムが転がっている。
「いけない!アレイオスの繁華街の方に落ちるわ!みんなに知らせないと!」
ポケットからドワラゴンにもらった双眼鏡を取り出す。キュアでレンズの汚れが大分マシになっている
でも、暗いし、よく見えない。
「光の中に人の形が?もしかしたら女の子?」
僕もカリンも急いで光の方に駆け出した。
やっぱりミニゴーレムは、作った砂のゴーレムに乗り移ることができるみたい。
動かないミニゴーレムを囮にしてタイミングをずらしてカニグモに攻撃し始めたの。
カニグモが右のハサミを前に突き出した時に、カニグモの左のハサミを石のミニゴーレムが上から押し潰して砂にめり込ませたわ。
ひるんだカニグモを砂のミニゴーレムが上から押し潰して、また砂に埋めたの。
それから
石のミニゴーレムがジャンプして、カニグモの両目の間をドロップキックでかち割った!
素晴らしい作戦だったわ」
「そんな動きをミニゴーレムが考えたなんて。でも、なんで焼けてるの?」
「またそれからがすごかったのよ!
瀕死のカニグモにミニゴーレムがファイポくらいの火を出してカニグモを焼いたの」
「え?すごい。僕が使える魔法を使えるのかな」
「ピッケルは、ミニゴーレム達になんて指示を出したの?」
「俺は、カニグモを倒せとしか念じてないよ?細かい指示は、1つも出してないし、魔法を使えることも、使ったこともわからなかった。
ミニゴーレムを作った俺の知識や経験を元に、自律して行動してるのかも」
ミニゴーレム達は、動く時も火の魔法を使う時にも俺の魔力を使っていない。背中に刺した炎犬の骨の魔力を使ったと言うことか。
「驚きだわ。ピッケルが経験を積めば、ミニゴーレムがもっと強く賢くなるってことかしら」
空からトンビが飛んできて、焼けたカニグモを掻っ攫っていく。
香ばしい香りと磯の香りも一緒に飛んでいってしまった。
潮の香りだけが残る。
ミニゴーレムが怒ったようにぴょんぴょん飛び跳ねて、獲物を盗られたことを抗議しているみたいだ。
感情のようなものまであるのかな。
ふと、思ったことを口に出す。
「ゴレゴレム、不思議な魔法だ。人類も神様がゴレゴレムで作ったのかな」
「え?そんなこと考えたことなかった。
でも、確かにゴレゴレムって、神様の技みたいよね。びっくりする事ばかりだわ。
やっぱりずるいな。ピッケルだけ。
そうは言っても、ミニゴーレム、今のところ倒す相手は、カニグモくらいがちょうど良さそうね。炎犬を倒すことはできないかも。
それに、ピッケルは試練があるから、ぜんぜん羨ましくはないけど。プププっ」
「ははは。今やドラゴン殺しのピッケルだもんね。まいったよ、本当に。。。」
「ピッケルって怖くないの?あのドラゴンさえ殺してしまう力が。
あたしは別に怖くないけど。ピッケルはピッケルだし」
「怖くないって言ったら嘘になるけど、知りたい!の方が大きいかな。なにか理由があるはずなんだ。僕にはどんな役割が与えれているのか」
「そっか、ピッケルには前世の記憶があるんだもんね。ねぇ、聞かせてよ。前世の世界の話」
他に誰もいない月明かりの砂場で、ひんやりと冷たい砂の上に座ったまま、カリンと色々な話をした。
カリンが僕の手の上に手を乗せてきた。ドキドキしながらカリンの手を握り返す。カリンの手もポカポカしている。
カリンの父さんがアレイオスで2人目の奥さんをもらって、子供ができたと聞いて、びっくりした。
カリンにとっても生まれたばかりの男の赤ちゃんが可愛くて仕方ないらしい。
きっかけは、カリンのお父さんがアレイオスで巨人神拳の武術道場を開業したところから始まった。今では、門下生が100人を超える人気道場とのこと。一子相伝なのに、そんなに門下生を増やしていいんだろうか。
ともあれ、それで2人目の奥さんをもらうほどの財力になったのならいいか。魔法使いになったカリンの代わりに奥義を伝える子供も必要だしな。
武道家としての素質はピカイチのカリンだけど、魔法と武道を両方極めるのは難しいとお父さんに言われて、泣く泣く伝承を諦めたらしい。お父さんもさぞ悔しかっだろう。
それから僕の身の上話、仕事の話、社会がどうなっているか、テーマパークや遊園地、ファッションやスイーツ、ご飯の話まで。
「あたし、原宿に行ってみたいな。なんかその山盛りクリームのフルーツパンケーキとか、並んででも食べたい!
ジェットコースターも絶対乗りたいし、絵本の中に入り込んだような公園にも!
飛行機で世界中を飛び回るのもいいなー!」
下手くそな説明だったけど、カリンの興味が爆発して質問責めされるうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
「いいなぁ!ピッケルは、やっぱり幸運だよ」
「え?!」
「そりゃ、試練もあるけどさ。
何にもない人生より、ずっと素晴らしいわ。
だってそうじゃない?
ピッケルの人生は刺激に満ちて、希望が必要で、人が恵まれて、今日を全力で生きてる。しかも、健康だわ」
「そうだね。でも、人やこの星を試練に巻き込んでいるのが、申し訳なくて。。。本当は、すごく辛い。
大切な人を幸せにしたいのに」
思わずカリンの手をギュッと強く握りしめる。
「試練を全部自分のせいだなんて思うなんて、そんなの変よ。
むしろ、滅亡が決まっていた人類をピッケルが助けに来てくれたんだとあたしは思ってる。
さっさと幸運を解明して、そんな理不尽なこと、ひっくり返してやりましょ!なんか、あたし、腹立ってきたわ!」
「誰に怒ってるんだよ」
「神様にもわからない幸運を与えた何かに対して怒ってるのよ。試練を与える女神様にも!あははは。なんだろね。それ」
「本当だよね。酷い話だよ!」
一緒に笑いながら、涙が止めどなく出てきた。
カリンが温かい両手で、俺の涙を拭う。
「なによ、ピッケル。また泣いてるの?泣き虫ね」
カリンの優しい声に、また涙が溢れてくる。
ありがたいな。ありがたすぎる。もったいないくらい幸せだ。
幼いころ階段から転げ落ちた時に命懸けでキュアをかけ続けてくれたパンセナ。俺の将来を真剣に考えてくれるエタン。
さっきだって、言葉はお互い少なかったけど、2人とも旅立ちを応援してくれた。パンセナは、相変わらず心配そうだったけど。
厳しいけど道を示してくれるゾゾ長老、試練に対して怒ってくれたり笑い飛ばしてくれるカリン、力を貸してくれる仲間たち。
本気で向き合って間違いを正してくれるアシュリ。
なんて俺は、恵まれているんだろう。
そうだ。試練だけじゃない。それに勝る希望がある。旅の中で何かヒントを見つけよう。必ず、この星を、俺自身を救ってみせる。自分の手で助けるんだ。
「あたし、みんなの前では隠してるけど、岩を割れるくらい怪力なの」
そうなの?格闘家のお父さんが悔しがるわけだ。
「ときどき、自分の力が怖くなることがある。精霊が言ってた、赤い目の巨人の話も」
「大丈夫。どんなカリンでも、カリンはカリンだよ」
「ねぇ、ピッケルは、元の世界で彼女いたの?」
「へ?」
唐突な質問に涙が引っ込む。
「何を間抜けな顔をしてるのよ。中身おじさんのくせに!まさかなんの経験もないの?」
「いや、ええええと」
なんて答えたらいいんだろう。嘘はつけない。正直に言うしかない。
うつむくとミニゴーレムが応援するようにバンザイしている。
「い、いなかったよ」
「うわ!え?本当に!?なんで?試練とか関係ないでしょ?」
「好きになってくれた人はいたんだけど。。。」
沈黙。
ギロリとカリンが俺を睨む。
「はぁ?!」
「ひっ!!」
「何よそれ!それで!?ピッケルを好きになったのはどんな人?なんで付き合わなかったの?全部話しなさい!」
まいった。
天を仰ぐ。
大きな月が夜空の高い場所から俺たちを照らしている。
金星のような明るさの星が月の近くに輝いている。あれ?でも、なんか金星のような星が変だ。俺の目が変なのかな。
「カリン、見て。月が綺麗。
あれ?あれは何かな」
不思議な光のある上空を指差す。
「何をあからさまに話を変えようとしてるのよ!
流れ星?隕石とも違うわ。フワフワとゆっくりすぎる。
ねぇ、あの光、こっちに近づいてきていない?」
カリンが立ち上がって、夜空の同じ光を指差す。
確かに何かゆっくり光が上空から降りてくる。
とっさにファイポの灯りを小さくして、空の光がよく見えるように調整する。
「近くに落ちそうだ!」
僕のポケットに石のゴーレムが潜り込んだ。
僕も立ち上がって、お尻についたザラザラときた砂を払い落とす。
砂浜には、動かない砂のゴーレムが転がっている。
「いけない!アレイオスの繁華街の方に落ちるわ!みんなに知らせないと!」
ポケットからドワラゴンにもらった双眼鏡を取り出す。キュアでレンズの汚れが大分マシになっている
でも、暗いし、よく見えない。
「光の中に人の形が?もしかしたら女の子?」
僕もカリンも急いで光の方に駆け出した。
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