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ガンダルの一撃

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 ガンダルの斧槍が水を纏ったまま、炎犬を押し潰す。


 ガキィィン!!!


 斧槍が炎犬の骨に当たる。
 それでも炎犬は、よろめいて倒れる。それからゆっくり起き上がって、もう一度、炎を吐こうとする。


 僕に剣術の経験があれば、ガンダルをもっと上手く動かせるのに!


 ガンダルが斧槍を炎犬の口に突っ込む。
 めちゃくちゃだ。だけど、炎犬のアゴが外れたみたいだ。
 そうはいっても、このままじゃ、ウォーバリーもガンダルの息も持たない!
 ガンダルが水を纏った斧槍でもう一撃振り下ろす!
 ガンダルは、諦めていないんだ!僕だって!

 水よ!斧槍に速さを与えろ!!!

 ゴキン!!!!

 さっきより鈍い音がして炎犬の胴体が2つに分かれる。


「み、水よ、離れろ!」


 魔法というか、願いをそのまま口にした。ガンダルを包んでいた水がバシャバシャと地面に落ちる。
 酸欠でガンダルがゼーゼー言いながら、ひざまづく。
 捻じ曲がった斧槍の先端が、ガンダルの一撃の強さを物語る。


「はぁ、はぁはぁ。ゲホッゲホッ!」


「ガンダル、大丈夫!?」


「グフッ。。。ガハハハッ!
 勝ったぞ!ついに炎犬をぶった斬った!!!」


 びしゃびしゃに濡れたガンダルが僕の頭に大きな手を置く。


「ピッケル。成長したな。
 お前のおかげで炎犬を倒せた。
 だけど、もう少し上手く水中で俺を動かしてくれよ。
 身体がちぎれるかと思ったぜ」


「ガンダル、ご、ごめんなさい。
 僕、実は武術をやったことなくて」


「だろうな。
 まったく基本がなってないぞ。
 よし!これからは俺が剣術を教えてやる。
 もっと俺を上手く動かせるように。
 俺たちは、いいコンビになれる。
 炎犬を狩まくろう。
 ピッケル、お前を認めるよ。3年前とは違う。これからは、命を預ける戦友だ」


 ガンダルの分厚くてゴツイ手と握手をする。めちゃくちゃ力が強い。負けずに握り返す。


「ありがとう、ガンダル。少しでも強くなりたいんだ!」


「悪くないな。手加減なしでいくから、ついこいよ」


「ガ、ガンダル、よろしく」


「よし。
 ところで、ピッケル。お前、手だけはしっかりしているな。握力もあるし、手指の皮も分厚い。手のひらもタコができてるぞ。
 これは、長年鍛えられた手だ」


「いや、これは毎日畑を耕してこうなっただけで。。。」


「なるほどな。いいぞ。足腰も鍛錬できている。お前の体に合った剣を探そう」


 ガンダルを上手く動かすには、剣術を学ぶ必要がある。
 考えたこともなかった。僕が剣を持つなんて。
 周りではカリファ、キーラ、カリンがアクアーボで炎犬を窒息死させようとしている。誰もSSグレードのゾゾ長老ほど簡単にはいかない。同じアクアーボでも、魔法を当てるスピードが遅い。なかなか水球の中に閉じ込められない。


「なかなかゾゾ長老のようにはいきませんね!」


 Sグレードのカリファでさえ苦戦している。キーラもあともう一歩で炎犬を水で包めないでいる。でも、攻撃が全くできないのとは、景色が違う!
 水の壁で守りながら、アクアーボを使って水で包む。炎犬が飛び跳ねて逃げる。また包むの繰り返し。
 カリンもだんだんコツを掴んできた。
 
 あぁ、そうか。僕のCグレードの魔法のスピードじゃ、素早く動く炎犬を包めないんだ。だから、ゾゾ長老は、僕とガンダルを組ませた。
 カリファが渾身のアクアーボを炎犬にかける。
 カリンも必死だ。
 全員で悪戦苦闘しながら、なんとか炎犬をほとんど全滅させた。全員、ヘロヘロだ。
 残るはカリンが対峙する1匹だけだ。
 気がつくと、空が白んで朝が始まろうとしている。
 ゾゾ長老が楽しそうに笑う。


「カッカッカ!まぁ、下手くそじゃが、こんなもんじゃろ。
 今日から毎日炎犬を狩れ!修行じゃ!慣れればもう少しましになるじゃろう。
 スピードを上げろ!遅すぎて、あくびが出るわい」


 最後の炎犬を倒したカリンが大喜びしている。


「やったーーーー!!あたし、やっと炎犬を倒したわ!これで炎犬なんか余裕よ!ふっふっふ!!あれ?」


 地震だ!グラグラと地面が揺れていると言うより、なんだこれは?
 ゾゾ長老が叫んでいる。


「何をしとる!早くこっちに逃げろーーー!!」


 アレイオスの入り口の門へ全員逃げる。
 地面から電車くらいの太さをした青い蛇が飛び出してきた!そして、アレイオスの城門を積木を壊すように破壊する。
 

 うわぁーーー!!


 土煙で誰が無事かもわからない。キーラが崩れた石の下敷きに!何人か巻き込まれているかもしれない。カリンは大丈夫?!
 
 青蛇がトグロを巻いて空を見上げている。なんて大きさだ。体育館のような大きさ。
 街に入られたら、終わりだ。でも防ぐこともできない。
 全員固まって動けない。死の危機が簡単に目の前にやってきた。


「なによ、あんなの。絶望しかないわ」


 カリンが土埃を払いながら不満そうにつぶやく。
 空を見上げると、上空に飛竜の群れが見える。一体どんな大きさなんだろう。空港の近くを低空飛行する航空機を見上げているみたいだ。海に向かって飛んでいく。飛んでいく先には、巨大ドラゴンがいる。
 青蛇も空を見上げている。
 それから、アレイオスにも僕たちにも見向きもせずにダヨダヨ川にスルスルと入って、海の方に泳いで行った。
 なんだったんだ?


 「ヒッヒッヒー!あの蛇は、無理じゃ。ゾゾファイガスでも効かないじゃろう。
 キーラならなんとかできたかもしれんがのう?
 炎犬では弱すぎて、手を抜いているのを隠す演技も難しかろう」
 
 ゾゾ長老がギロリとキーラを見る。
 キーラが顔色を変えずに答える。


「あまり買い被らないでください。あんなのは無理です」


 なんだろう。なんとなく不自然な感じがした。キーラが実力を隠していると、ゾゾ長老は言いたいんだろうか?
 そういえば、キーラが石の下敷きになったように見えたのは、見間違いだったのかな。
 ゾゾ長老がニヤリとしている。


「流石にあれは、無理か。カッカッカ」


 ゾゾ長老が楽しそうに笑う。
 他に笑う余裕がある者は、誰もいない。
 炎犬には勝ったが、命があるのはただの偶然だ。みんな無事でよかった。

 飛竜が飛んで行った先の海上が揺れ、ドラゴンが巨大な水しぶきを上げる。
 タイトスと同じように山が動いているような大きさだ。
 周りに飛竜が集まっているのが見える。
 魔獣がドラゴンに集まるのだろうか?
 あの青蛇もドラゴンに向かったのかもしれない。

 海から朝日が昇る。
 太陽が巨大なドラゴンをきらめかせている。
 訳がわからないことばかりだけど、この光景は、すごい。
 たとえ、ドラゴンが人類に災厄をもたらすとしても、今は、恐怖だけじゃなくて素晴らしさを感じる。


「寒気がするくらい綺麗。ピッケル、見て!」


 カリンが朝日に照らされるドラゴンを指差している。


「そうだね、あんなにキラキラ輝いて。
 みんなもアレイオスも無事でよかった。朝市やってるかな。魔法使ったらお腹空いたよ」


「あたしもお腹ペコペコだわ。朝市、やってるわよ。アレイオスの人々は、たくましいの!ピッケル、アゴラスに帰りましょ。
 それから、アレイオスを案内するわ!」


 朝日が色とりどりのアレイオスの街を照らしていく。

 僕の旅は、まだまだ始まったばかりだ。
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