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円卓の会議

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「こちらをどうぞ。焼きたてではないんだけど。
このパン、日持ちもするし、パン1斤を5枚に切った一枚で人夫が1日中モリモリ働ける奇跡のパンなのよ」


 メルロが持ってきてくれたパンを一口かじってみる。


「お、美味しい!これは、毎日食べても飽きない味!」


「カッカッカ!いけるじゃろう?
 草舟の素材を使って、ポムルスを大量生産する計画なのじゃ。アレイオスの名物にしようと思ってな」


 夢中でパンを食べて、最後の一口を味わった。薄いパンなのに、不思議と満足するし、幸せな気分だ。甘酸っぱくて爽やかな香りがくせになる。
 ポンチョと20代後半の女性魔法使いがやってきて、ゾゾ長老にお辞儀をしている。


「カリファ、ポンチョ、アシュリ、皆いるな。
 ソニレテは、どこじゃ?」


 おお!この人が天才魔法使いカリファ!カリンの手紙に書いてあった通り、かなり目力のある美人だ。


 何より、アシュリ。
 きりりと凛としている。実力者としてのオーラを放ち、堂々とした風格さえ漂っている。
 そこにはセンチメンタルなものが差し込む余地が一つもなかった。


 わかっていたことだ。何を今更、昔の片思いを。


 でも、目の前にある現実を受け止めるのが怖かった。
 でも、それは仕方がないことなんだ。


「ご無事で何よりです、ゾゾ長老。騎士団長ソニレテ、ここにおります」


 ソニレテ団長の後ろにはガンダルまでいる。というか、ゾゾ長老のボス感が凄すぎる。いや、実際にほぼボスなんだけど。


「よし。面子は揃ったな。
 円卓に座るんじゃ。状況を説明する。各国の動きも教えてくれ」
 
 それからドラゴンの目覚めや新種の魔獣について話し合われた。プリンパル国は大混乱だ。
 飛竜が上空に何頭も群れをなして飛んでいるのを何人もが目撃している。
 王都カラメルでは、人々が不安のあまりパニックになっているらしい。そりゃそうだ。
 対照的にアレイオスは落ち着いている。想定した事態がいよいよ発生したという雰囲気だ。
 ソニレテ団長が説明を続ける。


「混乱に乗じて、ピッケル排除派の刺客がアレイオスに入っております。
 ガンダルとヤードルが何人かと交戦、捕獲しています。
 この事態に備えて、ピッケル保護派で忠誠心が厚いものだけを私の騎士団配下に100人集めております。
 他の騎士団長4人と騎士400人は王族、貴族と関係してるので、王都に残ったまま。
 率直に申し上げて、王都は混乱を治める能力を欠いています。国王は、王族、貴族の顔色をうかがってばかり。騎士団を含めた5000人の正規軍は、統率が取れていません。
 すでに住民5万人の王都カラメルから数千人がアレイオスに避難してきております。おそらくプリンパル国全土から数万人規模になろうかと」


 エタンが腕を組む。


「そんなに大勢の避難民の食糧なんて。備蓄が足りないぞ」


 ゾゾ長老がニヤリと笑う。


「ポムルスのパンの出番じゃな。
 生産工場を急がせるのじゃ。パンセナ、よろしく頼むぞ」


「草舟を無事回収できて、本当によかったわ。
 魔法使い100人でポムルスを1日500個を生産できる予定よ。
 工場が完成すれば、ポムルスのパンを1日10000斤作れる。
 まだ工場をどう作るかは、計画中だけど。
 今年は、小麦が豊作だったから、充分冬を越せるはずよ」


「ヒッヒッヒ!さすがパンセナじゃ。
 タイトスについてはどうじゃ?」


 アシュリが地図を円卓に広げる。


「ドラゴンの進路はゴリアテ国よりもマルキド国に向いている様に見えます。まっすぐ進めばですが。
 これを見て、ゴリアテ国の蛮勇王ガラガラがどう出るか」


「それを伝えにきたのじゃろう?Sグレードの魔法使い、魔法大臣キーラよ」


「ゾゾ長老、ご推察の通りです。私のこともよくご存知のようで?」


「カッカッカ!ゾゾ派の情報網を甘く見るんじゃない。マルキド国で初めて水の魔法を成功させた男を知らぬわけあるまいよ。最近は、行方不明になっていたと聞くが?」


「実は、ゴリアテ国に潜伏して、タイトスについての情報収集と蛮勇王ガラガラの動向を把握しておりました。
 我が王パピペコ様は、有事の際は私の考えで動けと指示されました。
 私の独断でゾゾ長老を頼ってまいりました」


「ふむ。賢王パピペコは、よほどお前さんを信頼しているようじゃな。どうりで動きが早いわけじゃ。
 王都カラメルを素通りして、アレイオスのわしを訪ねてきたのには、考えがあるのだろう。
 聞かせてみよ」


「はい。それでは。
 蛮勇王ガラガラは、一気に、プリンパル国に侵攻して、王都カラメルを陥落させるつもりです。
 そうなった場合、ガラガラの次の狙いは、アレイオスになるでしょう。むしろ、本当の狙いと言ってもいいかもしれません」


 ええ?こんな時に戦争を仕掛けるなんて!


「蛮勇王ガラガラは、ただでさえ、プリンパル国への侵攻の準備を整えていたからのぅ。ガラガラの真の目的は、このアレイオスか。強欲なやつじゃ。
 しかし、これはわしらにとってもチャンスじゃ。新しい時代が始まったのじゃ」


「その通りです。
 我が王パピペコ様は、私に、マルキド国だけではなく人類の
存亡を第一に考えよと、おっしゃいました。
 人類同士で争っている時ではないのです。
 アレイオスは人類の希望でもあります。そして、精霊と話ができるピッケルも」


 お、僕も。そうだ。僕もできることがあるはずだ。
 ゾゾ長老の目がキーラに向けてギロリと光る。


「そして、キーラ、お前は、ピッケルを連れて大地の割れ目に行きたい、というわけか。
 北の魔獣の森を越えて?」


 キーラは年齢も性別も良く分からない。ただ、美形なのは間違いない。


「ゾゾ長老には、何もかもお見通しでごすね」


「カッカッカ!他にも秘密の任務を沢山抱えておるくせに。ま、今のところ味方かどうかはともかく、敵ではないんじゃろう」


「立場上全てを話せないことをお許しください。
 今は、できるだけ早く大地の割れ目で土の精霊アスチの助言を聞くべきかと」


 パンセナが驚く。


「そんな無茶な。
 魔獣の森にはまだまだ、未知の強力な魔獣が潜んでいます。
 危険すぎます!」


 ソニレテ団長が慎重に話す。


「しかし、ゴリアテ国を避けていくには、北の魔獣の森を抜けるしかない。
 誰も北の魔獣の森を抜けると思っていないなら、チャンスになりえるな。
 無事抜けることができたら、の話だが」


 ポンチョもかなり後ろ向きな表情だ。


「残念ながら、無謀な計画としか。。。
 最弱と言われる炎犬の討伐もまだ成功していません。魔獣に対抗するための力が、あと一歩まだ成熟していない。。。」


ゾゾ長老がニヤリと笑う。


「倒せるわい。ピッケルにだってな」


 全員が一斉に僕を見る。
 ゾゾ長老はなんでそんなことを?僕は勇気を振り絞る。僕は、もう3年前とは違うんだ。


「ぼ、僕は、ムレクマなら倒したよ」


 カリンが真っ先に口を開いた。


「それで炎犬を実際にもう倒したの?」


「まだだけど。。。」


「ふん!話にならないわ。ゾゾ派の魔法使いが何度か水魔法を炎犬に試しているわ。あたしだって。
 まだ、誰も成功していないのよ?」


 ゾゾ長老がひょうひょうと、あっさりと言った。


「わしは、もう何匹か倒したぞ。川の対岸からの水魔法じゃったから、骨は拾いにいけなかったが。
 ピッケルならいけるじゃろ。それに、皆もできるはずじゃ」


 ポンチョが慌てている。


「え?!ゾゾ長老!本当ですか?そういう大事なことは先に言ってください!」


「すまんすまん、言い忘れておった。そう言えば、パンセナにしか言ってなかったな。
 魔法使いを集めよ。
 炎犬を倒した水魔法を教える。
 キーラ、お前さんにも見せてやろう。
 一度見れば、できるはずじゃ」


 メルロが小走りでゾゾ長老に近寄って、ゾゾ長老に耳打ちする。


「なに?海上に正体不明のドラゴン?
 しかも、アレイオスの入り口に炎犬、上空に飛竜が?
 なんてことじゃ、もう世界は、止まらない大きな潮流に飲み込まれておる!」


 エタンが重い口を開ける。


「すでにアレイオスの総督としての任命を受けている。
 叙任式はまだだが、有事の際は形式にこだわらない決まりだ。
 総督府として、避難民、ドラゴンと魔獣に対処する。
 ソニレテ団長、ゾゾ長老、お力添えください」


 もう世界は大きく変化している。やっぱり目覚めたのはタイトスだけじゃないんだ!
 僕はもう、逃げるのは嫌だ。戦って、現状を変える。それしかない。
 ゾゾ長老ができると言うなら、炎犬も倒せるはずだ。


「僕も行きます。炎犬を倒しに!」


 ソニレテ団長が少し興奮気味に剣の柄に手をかける。


「騎士団100人、刺客の排除と避難民の保護の任にあたります」


 キーラも不敵な笑みを浮かべている。この人、相当な強さなんだろう。


「私も炎犬討伐にお力添えしましょう」


 パンセナも楽しそうだ。


「工場でパンを大量の焼くには、炎犬の骨が必要なの。
 炎犬を倒したら、必ず骨の回収を」


 ゾゾ長老が立ち上がる。
 現役復帰していると言っていい。100を超える年齢など誰も気にしていない。名実ともに人類最強の魔法使いミョシル・ゾゾ。
 ゾゾ長老が両手をバンッとテーブルに打ちつけて、目をまんまるに見開いて、全員の顔を見渡す。


「カッカッカ!
 エタンがいれば、アレイオスの行政は安泰じゃ。
 わしは、好きに動かせてもらうぞ。
 ガンダルは、こっちにおいで。
 腕に覚えのある魔法使いは、わしについてこい!実戦で見せてやる。魔獣どもに人類の底力を見せてやるわい!」
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