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これがアレイオス

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 夜明け前の暗闇の中、ファイポの灯りもつけずにアレイオスの運河を草舟に布を被せて、身を隠して進んでいく。
 幾何学模様に計画された運河で水先案内をしていくれているのは、18になってすっかり美女に成長したカリンだ。
 水の魔法を操って、舵を取っていく。どうやっているのか、かなり高度な魔法だ。
 3年ぶりに会うカリンは、暗い色のローブのせいもあるけど、雰囲気がずいぶん大人になっている。あどけなさより、凛とした美しさが優っている。緊迫した空気の中、厳しい表情の横顔がフードの合間から見える。
 僕とカリンは、再会を喜び合う余裕もなく、アレイオスの入り口で草舟に無言で同乗して、息を殺して静かにゾゾ派の秘密のアジトに向かう。
 アレイオスにもピッケル排除派の刺客が多数潜り込んでいるらしい。
 今夜、僕がアレイオスに来るのを狙って、船を襲撃する動きがあって、囮の草舟が運河にいくつも流されている。
 陽動も含めて、かなりの人数が街中で警備をしているらしい。
 実際に、小さな戦闘も起こっているようで、物々しい雰囲気になっている。


 グサッ


 流れ矢が草舟の縁に突き刺さる。


「あぁ!ピッケル坊ちゃま、私、怖くて」


「プルーン、大丈夫。今は信じて進むしかない」


「ですが。。。」


 カリンが口に指を当てて、こちらを覗き込む。


「静かに」


 震えるプルーンの背中をさする。


 大丈夫。きっと大丈夫だ。


 草舟の準備といい、ゾゾ長老が事前に事態を想定して周到な計画を立てているんだから。
 上から被せた布の隙間から見えるアレイオスの街並みは、闇の中でも分かるくらいテーマパークのようにカラフルだ。陽が登れば、さぞ、楽しくて美しいに違いない。


 草舟を操るカリンをじっと見つめる。草舟ではなく、水の流れを操るイメージ。曲がる時は、曲がりたい方の水の流れを遅くするみたいに。


 カビ臭い暗い水路のトンネルの中を行く。関所のように見張りの魔法使いがいる門を通る。通り過ぎると水路が石の扉で閉じられる。セキュリティがすごい。
 トンネルを抜けると地下に大きなスペースが広がっていた。複数人が灯りを持って、船着場で草舟を待っている。


 カリンもファイポでたいまつを点ける。
 カリンがフードを外して、やっと安心したような顔をして、ふぅっと息をする。
 白い肌に金色の髪が広がって、花が咲いたみたいに華やかだ。


「ピッケル、着いたわ。もう大丈夫よ。ようこそ、アレイオスに!
 それにしてもピッケル、背が伸びたわね。筋肉もついて、ゴツくなったわね。見違えるくらい逞しくなったわ」


 ニカッと笑うカリンにドキドキする。


 たいまつ灯りを映して、目がキラキラ輝いている。やっと向き合って話せた。張り詰めた緊張が緩んで、ホッと生きた心地がする。
 10メートル以上はありそうな巨大な石柱がいくつもある。最近作ったというよりは、大昔からここにあるみたいに見える。
 あちこちにある真っ暗な闇に続く洞窟への入り口には、木で柵で封鎖されて、立ち入り禁止と書いてある。


「あ、ありがとう。カリンも、すごく、す、素敵になったね」


「ふん!もっと褒めてもいいのよ?ま、まぁ、いいわ。背は抜かされちゃったわね。ちょっと悔しいな」


「そう?ほとんど背も同じくらいだよ。
 カリンの船を動かす魔法、すごかった!どうやってやってるの?」


「ふっふっふ。すごいでしょ?あたしが見つけた魔法なの。ボトラって言うの。
 ボトラで船を動かすのは、まだ、あたしと数人しかできないのよ」


「す、すごいね。かっこよかった。ここがアジトなの?」


「そう。ここがアジト。ゾゾ派の地下研究所アゴラスよ」


「なんで地下なの?」


「ククル魔法院は、伝統学派が牛耳ってるの。王族や貴族に媚を売って、腐っているわ。特に、ガナシェ伯は最悪だった。あの変態エロ親父。
 ゾゾ派を目の敵にしてくるの。研究を盗んだり、ひどいことばかり。
 ガナシェ伯の陰謀で王都カラメルを追い出されて、たどり着いたのがここってわけ。
 おかげで伝統学派に秘密で色々な研究ができるようになったわ」


「秘密の研究施設。すごいな。
 それに、なにかの神殿みたいだ。こんな場所があるなんて」


「この地下の部分は元々あった古代遺跡を利用しているの」


 こ、古代の地下遺跡?壁に書いてある文字のような模様は。。。読めない。人類の知らない歴史が関係しているのかな。コウモリが何匹も天井に逆さにつかまっている。


「夜は、お化けがでるって話よ?」


「え?お、お化け?!そ、そうなんだね。精霊に関係してるのかな」


「お化けは、ただの噂よ。ビビった?」


「ち、ちょっとね。船着場にいるのは?」


「船着場にいるのは、ゾゾ派の魔法使いたち。上にはアシュリもポンチョもいるわ。地上の建物は、アレイオスの総督府になっているの」


「総督府の地下に、ゾゾ派の研究所があるんだ。。。」


 カリンが急に耳元で小声で話す。


「朝日が昇ったら、分からないように扮装して、こっそり街に行きましょ。朝市に美味しいものがたくさんあるわ。すごい人出と活気なのよ?」
 
 耳元にカリンの温かい息がかかって、くすぐったい。つい恥ずかしくて赤面してしまった。


「ありがとう。そうだね。安心したらお腹空いたよ」


 カリンが優しく微笑む。


「そうよね。みんなお腹空いているでしょう。何か食べれたらいいんだけど」
 
 草舟がゆっくりたいまつが灯る船着場に停まる。
 赤い髪の魔法使いがゾゾ長老の手を取って、船から桟橋に案内する。


「お帰りなさいませ。ゾゾ長老。皆様、お怪我もありませんか?」


「メルロ、出迎えありがとう。なんとか全員無事じゃ。
 主要なメンバーは、揃っておるかな?」


「ゾゾ長老、もちろんです。
 少し休まれますか?」


「ヒッヒッヒ!休む?何を言っておる!ワクワクして、居ても立っても居られんわ!状況を報告したい!広間に皆を集めるんじゃ!」


「かしこまりました。
 あと、マルキド国の使者の方も来られています。使者はキーラと名乗っておりますが。
 どう致しましょうか?」


「マルキド国からの使者も通せ。あのキーラか。先手を打ってきたな。流石は、賢王パピペコじゃわい。そうは言っても、動きが早すぎる気もするが」


「承知しました。
 お水と何か軽食をお持ちしましょうか?」


「そうじゃな。メルロ、砂糖漬けポムルス入りのパンを5つ持ってきておくれ。
 草舟の皆にも食べさせてやろう」


 酸っぱすぎるポムルスだけど、砂糖漬けなら美味しそうだ。それに、めちゃくちゃ元気が出る。ウヒヒヒ。
 それにしても、ゾゾ長老、元気すぎる。石造の螺旋階段を上にさくさく上がっていく。なんて足腰の強さだ。
 あっという間に地上3階くらいまでやってきた。
 そこには500人は入れそうな大理石の真新しい大広間があった。かなり豪華な造りだ。


 メルロがポムルスのパンを持ってきてくれた。10人は座れそうな大きな丸いテーブルでパンを食べることになった。


 アシュリはどこだろう。再会が楽しみなような、少し怖いような。3年間で何がどう変わってしまっているんだろう。
 良くも、悪くも。
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