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ロム・ピッケルの試練

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 タイトス対策として、パスカル村と近隣の村々が廃村になって、3年が経った。
 窓の外には、春の麦畑。村の家々は、取り壊されてもうない。
 この辺りには、今ではロム家の館がタイトス観測所として残るだけ。
 この3年間、震度2から3、まれに震度5までを含み1日に5回から10回の地震が発生している。
 ロム家が観測の役目を負って、エタンと僕と召使いのプルーンで生活している。


 人類に激震を与えた3年前のあの日は、「ロム・ピッケルの試練」と名付けられた。
 そう。ロム・ピッケルは、女神様から試練を与えられた人として、ついに歴史に名を刻んだ。


 うん。嬉しくない。


 炎犬を倒し、パスカル村に生還してから、水と風の精霊アクアウ様から与えられた知識について、調査団と僕とカリン、エタンとパンセナを含めたメンバーが集まって、すぐに報告書がまとめられた。


 まとめられた内容は以下だ。


1. 地震とダヨダヨ川の水位減少は、ドラゴンが目覚める際に起こる地震の影響だと分かった。人類が住んでいる土地は、土のドラゴン、タイトスの目覚めによって魔力が増えて、徐々に魔獣の土地になる。人類は、住む土地を追われる。


2. この世界はパナードという名前で、星には12種の元素ごとに神獣ドラゴンが存在し、彼らは女神の予言に基づき隕石を退ける力を蓄積するために1万年前から眠りについていた。


3. 女神様の予言によれば、巨大な隕石が約10年後、この星に衝突する。隕石を退けるためにドラゴンたちも目覚める。


4.人類に水の魔法が授けられた。水の魔法は気体や液体として身近に存在する水を使って作ることができる。


5. ピッケルは、精霊と交渉することができる。東の大地の割れ目にいる土の元素精霊アスチがいる。人類にさらなる叡智をもたらす可能性がある。


6. 前世のあるロム・ピッケルは「女神様もお手上げな幸運」を持っている。


 この報告書が書かれて以降、僕の人生は大きく変わってしまった。


 そして、言うまでもなく、僕に試練が課せられていることが公表されてしまったこと。
 王都カラメルでは、ピッケル保護派とピッケル排除派に分かれて、議論がなされた。ソニレテ団長がピッケル保護派の旗振りをしてくれている。


 ありがとう。ソニレテ団長!


 残念ながら、王都カラメルの王族や貴族は、ピッケル排除派が多数で、ピッケル保護派が劣勢ということ。


 頑張れ、ソニレテ団長!


 この3年僕が何をしていたのかというと、パンセナとカリンから預かったキキリとファイ畑や小麦畑の世話。地味だ。来る日も来る日も、魔草畑を耕して、アスパワドをかける。
 僕の魔力のスピードだと1日5時間アスパワドを土にかけて、キュアを育てるのに必要な1000の魔力を溜めるのに1年ほどかかる。スピードが遅い分、キュアの生産を増やすためにキュアが100株採れる畑を20に増やした。
 ついでに自給自足できるように村の小麦畑うち、タイトス観測所に近い畑を引き受けて、耕作から収穫もしている。
 おかげさまで毎日クワを使って畑を耕すことになったけど。タイトス観測所の裏手は、一面僕の畑になっている。大人用の重いクワを振り続けたおかげで足腰が鍛えられた。筋トレも毎日する。身体を鍛えて、戦える自分を作る。


 パンセナが王都カラメルでキキリを使ったクリームを売り始めた。薬草のいい匂いがするクリームを作れば作るほど売れて、キキリも出荷しまくった。
 パンセナには、商売の才能もあったらしい。
 累計4500株。キキリ1株の卸値が10万イエ。僕の取り分は3分の2だ。元の世界の感覚だと1イエ1円くらいの価値だから、3000万イエはかなりの大金だ。コツコツ貯めたお金は、パンセナが預かってくれている。備えあれば憂いなしだ。
 それに自分で育てた小麦をひいて焼いたパンが美味しい。パンを焼く匂いを嗅ぐと、生きていることを実感できる。


 あとは、水魔法習得の練習くらいしかやることがない。
 1つ大きなことと言えば僕も無詠唱で魔法ができるようになった。
 詠唱が恥ずかしかったのもある。いや、それに尽きるんだけど。
 なによりアクアウ様に授かるられた水の魔法が、頭でイメージした形で水を出すものだったのが大きい。
 自分の中で水弾を出そうとか、水の壁を作ろうとかをしっかりとイメージするのが大切。
 イメージを短縮するために技の名前を唱える方が早いから水の刃や水の壁など、言葉にする。
 水の魔法は、新しい魔法で魔法書がまだない。名前も分からないからなんとなく自分でつける。古代の書物を解読できれば、真の名前が分かるはずだけど。

 水の魔法を練習している間に草木の魔法も詠唱なしでできるようになった。
 キュア畑20とファイ畑にアスパワドを毎日5時間かけて、残りの時間は魔力の耐久値がなくなるまで水の魔法を練習し続ける。
 今、僕の魔力の耐久値はどこまで伸びているんだろう。


 カリンとの文通は1週間に1度のペースで続いていた。もうずっと会っていないけど、カリンの手紙からは夢を実現する日々の楽しさが溢れていた。
 僕も頑張らないと。
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