14 / 115
熊肉バーベキュー
しおりを挟む
ヤードルが後方の大熊に矢を放つと、大熊が矢を右手で振り払った。恐るべき動体視力だ。
ヤードルが次の矢を引くためにガンダルの影に隠れる。
ガンダルが斧槍を構えると、大熊が少し間合いをとった。どうやら大熊が斧槍を警戒している。
グルル
大熊がうなる。
その時、茂みから中くらいの大きさの熊が2頭飛び出して、それぞれ2人を急襲した!
爪をギラリと光らせて攻撃した中くらい熊が地面に着地して、ザザっと土煙を上げる。
熊も必死だ。生きるか、死ぬか。
ヤードルも、ガンダルもさっきの不意打ちの爪攻撃で腕に傷を負った。
動じない2人を見ると傷は深くないみたいだけど、大丈夫かな。
ポタポタと2人の血が地面に落ちてシミをつくる。
僕は怖くて、心臓がバクバクと口から飛び出そうだ。僕では、中くらいの熊でもすぐにやられてしまうだろう。冷たい汗が全身から吹き出る。
ポンチョが、ファイの魔力を引き出す。
「燃え盛る草よ!焼き尽くせ!ファイガス!」
巨大な火の弾が、大熊に命中して、熊を包み込む火柱になる。火に驚いた中くらいの熊2頭が両脇の茂みに逃げた。大熊が火に包まったまま、怒り狂ってこっちに走ってくる。
ヤードルが、ギリギリと弓弦を引き弓を構えて、燃える熊をギリギリまで引きつけた。そして、至近距離から熊の右眼を弓矢で射抜く。
最後の力を振り絞った大熊が、ガンダルに覆い被さるように飛びつく。
ガンダルが斧槍で下から上に大熊の心臓をグサリと突き刺す。すごい連携だ。ガンダルが大熊の巨体を投げ飛ばす。
「うぉら!」
矢の刺さった大熊がドサリと地面に仰向けに倒れる。炎に包まれて、やっと動かなくなった。焼け焦げる嫌な匂いがする。
その間に、ソニレテ団長が正面からきた熊の首を一撃で切り落としていた。この人、強すぎる。
茂みの中にいた、中くらいの熊たちは、ガサガサと音を立てて、遠くへ逃げていった。
「こっちの熊は、丸焦げで食えないな。おい、ポンチョ!ちょうどいい焼き加減を知らないのかよ」
「お料理してるんじゃないのよ。
それにガンダルのために、ソニレテ団長が綺麗に首を刈って血抜きをしてくれているじゃない。
それにしてもこのファイは、一級品ね。これまでで一番火力が強かったわ」
「俺の矢じりも焦げてボロボロだ」
「何よ、ガンダルもヤードルも!私のファイガスのおかげでかすり傷で倒せたんでしょ!」
ソニレテ団長が穏やかに言った。
「火柱を見て、こっちの熊にも隙ができたよ。ありがとう。ポンチョ」
「ほら見なさい!これが団長の器よ!ガンダルもヤードルもソニレテ団長を見習いなさい!」
手練れたちのやりとりを見て、僕もカリン少しずつ落ち着いてきた。
「あ、あたしに傷を治させてください!」
カリンがヤードルとガンダルの傷を治すことを申し出た。
そうだ。何か、僕も役に立たないと。
「お、いいね。カリンも魔法使いだもんな。ちゃんとキキリを使ってくれよ。ファイで黒焦げになったら大変だぜ。へっへっへ」
ガンダルが冗談を言いながら、袖をまくって、腕の傷口をカリンに見せる。思ったより傷が深い。
僕もカリンもキキリの葉を使ってキュアが使えるようになっていた。
まず、カリンが自分で育てたキュアを取り出して、ガンダルの傷を治す。
「癒しの葉よ!傷を癒せ!キュア!」
ガンダルの傷は跡形もなく治って消えた。
「お!いいね!カリンは、いい魔法使いになるぜ!」
今度は、僕がヤードルの傷を治す。ガンダルよりは、浅い傷だ。カリンみたいに上手くできるかな。ドキドキする。
「い、癒しの葉よ!傷を癒せ!キュッ、キュア!」
ダメだ。緊張して噛んでしまった。でも、ヤードルの切り傷は、みるみるうちに止血されて、薄っすらと少し傷跡を残してほとんど治った。パンセナのキキリの魔力の強さに助けられた感じだ。
ヤードルが角度を変えながら腕を3回曲げて動きを確かめてから、短く言った。
「充分だ」
ガンダルがニヤニヤしながら、ソニレテ団長が首を狩って倒れた大熊を指差して、ポンチョに何かの合図をする。
「おい!ポンチョ!あれ。あれを頼む」
めんどくさそうにポンチョが何か準備を始めた。
「おい、とか、あれ、とか、何よ!私は、あなたの女房でもなんでもないのよ!
はいはい。わかりましたよ。熊を冷やしたいんでしょ?
血生臭い肉なんて、私も嫌だしね。
これ結構レアな魔草なんだから、ありがたく思いなさいよ。
冷やしの草よ!一気に冷やせ!ブリラード!」
ポンチョが、霜降草アインを使って、氷の魔法を使った。熊に霜のようなものが降りていく。
ガンダルが嬉しそうだ。ナイフで熊の内臓を処理していく。
「そうそう。一気に冷やすのが肉を旨くする秘訣なのさ。
確かに、ソニレテ団長が首を切ってくれたから、血抜きは充分だ。
内臓は綺麗だな。でも、食べるのはやめておこう。
毛皮にも虫が少ない。ブリラードで虫も死んでるな。
脂もちょうどよく乗ってる。臭みも少ない。上々だ。
あとは、ヤードル、皮を剥いでくれ。お前は、プリンパル国で1番のナイフ使いだぜ」
ガンダルと無口なヤードルが協力して、熊を処理していく。
ヤードルがナイフで、熊の皮を剥いでいく。2人は息ピッタリで、ガンダルがヤードルに合わせて熊の向きを変えていく。熊の皮も使えるから取っておくつもりなのだろう。熊の毛皮の一部に焦げたような跡があった。
とにかくヤードルとガンダルの手際がめちゃくちゃいい。こんなに大きな熊を捌くのは、大仕事なのに。
ガンダルがちゃっかりクマの毛皮を自分の外套に縫いつけている。
こうして昼過ぎには、熊の解体は終わった。ソニレテ団長が周りの安全や風向きを念入りに確かめて、少し開けた場所で昼食にすることを決めた。
そして、ガンダルは、豪快に丸太を持ってきて、手際よく焚き火を作る。焚き火というより、キャンプファイヤーだ。もくもくと白い煙が空高く上がっていく。
岩塩やスパイスをかけて脂の乗った熊肉を焼く。野生ミ溢れる熊肉バーベキュー。
パチパチと爆ぜる焚き火を囲んで、狩った獣の肉が焼けていく香ばしい匂いを嗅ぐ。脂が焚き火に落ちて、ジュウジュウと白い煙を上げる。
「こんなにのんびりしていていいのかな。山頂にできるだけ早く着いた方がいいはずなのに」
僕がつぶやくと、ガンダルが豪快に笑った。
「お前は、先のことが見えてないな。
だいぶ話が変わってきてるぞ。
ソニレテ団長は、もう全然違うことを考えているはずだぜ。まぁ、ピッケルは、美味しく肉が焼けるのを待っていれば良いさ」
何のことかさっぱり分からない。
でも、どうやら今は、この時間を楽しむしかない。
大きな責任を負った任務で、緊張していたけど、調査団の人たちをみていると、今日も必死に日々生きるうちの1日なんだと思えた。
生きるためには、何かを乗り越えていく必要があるんだ。
ソニレテ団長がみんなを見渡して言った。
「よし、これまで得た情報や推測を踏まえて、状況を整理しよう。作戦を立て直す必要がある」
ヤードルが次の矢を引くためにガンダルの影に隠れる。
ガンダルが斧槍を構えると、大熊が少し間合いをとった。どうやら大熊が斧槍を警戒している。
グルル
大熊がうなる。
その時、茂みから中くらいの大きさの熊が2頭飛び出して、それぞれ2人を急襲した!
爪をギラリと光らせて攻撃した中くらい熊が地面に着地して、ザザっと土煙を上げる。
熊も必死だ。生きるか、死ぬか。
ヤードルも、ガンダルもさっきの不意打ちの爪攻撃で腕に傷を負った。
動じない2人を見ると傷は深くないみたいだけど、大丈夫かな。
ポタポタと2人の血が地面に落ちてシミをつくる。
僕は怖くて、心臓がバクバクと口から飛び出そうだ。僕では、中くらいの熊でもすぐにやられてしまうだろう。冷たい汗が全身から吹き出る。
ポンチョが、ファイの魔力を引き出す。
「燃え盛る草よ!焼き尽くせ!ファイガス!」
巨大な火の弾が、大熊に命中して、熊を包み込む火柱になる。火に驚いた中くらいの熊2頭が両脇の茂みに逃げた。大熊が火に包まったまま、怒り狂ってこっちに走ってくる。
ヤードルが、ギリギリと弓弦を引き弓を構えて、燃える熊をギリギリまで引きつけた。そして、至近距離から熊の右眼を弓矢で射抜く。
最後の力を振り絞った大熊が、ガンダルに覆い被さるように飛びつく。
ガンダルが斧槍で下から上に大熊の心臓をグサリと突き刺す。すごい連携だ。ガンダルが大熊の巨体を投げ飛ばす。
「うぉら!」
矢の刺さった大熊がドサリと地面に仰向けに倒れる。炎に包まれて、やっと動かなくなった。焼け焦げる嫌な匂いがする。
その間に、ソニレテ団長が正面からきた熊の首を一撃で切り落としていた。この人、強すぎる。
茂みの中にいた、中くらいの熊たちは、ガサガサと音を立てて、遠くへ逃げていった。
「こっちの熊は、丸焦げで食えないな。おい、ポンチョ!ちょうどいい焼き加減を知らないのかよ」
「お料理してるんじゃないのよ。
それにガンダルのために、ソニレテ団長が綺麗に首を刈って血抜きをしてくれているじゃない。
それにしてもこのファイは、一級品ね。これまでで一番火力が強かったわ」
「俺の矢じりも焦げてボロボロだ」
「何よ、ガンダルもヤードルも!私のファイガスのおかげでかすり傷で倒せたんでしょ!」
ソニレテ団長が穏やかに言った。
「火柱を見て、こっちの熊にも隙ができたよ。ありがとう。ポンチョ」
「ほら見なさい!これが団長の器よ!ガンダルもヤードルもソニレテ団長を見習いなさい!」
手練れたちのやりとりを見て、僕もカリン少しずつ落ち着いてきた。
「あ、あたしに傷を治させてください!」
カリンがヤードルとガンダルの傷を治すことを申し出た。
そうだ。何か、僕も役に立たないと。
「お、いいね。カリンも魔法使いだもんな。ちゃんとキキリを使ってくれよ。ファイで黒焦げになったら大変だぜ。へっへっへ」
ガンダルが冗談を言いながら、袖をまくって、腕の傷口をカリンに見せる。思ったより傷が深い。
僕もカリンもキキリの葉を使ってキュアが使えるようになっていた。
まず、カリンが自分で育てたキュアを取り出して、ガンダルの傷を治す。
「癒しの葉よ!傷を癒せ!キュア!」
ガンダルの傷は跡形もなく治って消えた。
「お!いいね!カリンは、いい魔法使いになるぜ!」
今度は、僕がヤードルの傷を治す。ガンダルよりは、浅い傷だ。カリンみたいに上手くできるかな。ドキドキする。
「い、癒しの葉よ!傷を癒せ!キュッ、キュア!」
ダメだ。緊張して噛んでしまった。でも、ヤードルの切り傷は、みるみるうちに止血されて、薄っすらと少し傷跡を残してほとんど治った。パンセナのキキリの魔力の強さに助けられた感じだ。
ヤードルが角度を変えながら腕を3回曲げて動きを確かめてから、短く言った。
「充分だ」
ガンダルがニヤニヤしながら、ソニレテ団長が首を狩って倒れた大熊を指差して、ポンチョに何かの合図をする。
「おい!ポンチョ!あれ。あれを頼む」
めんどくさそうにポンチョが何か準備を始めた。
「おい、とか、あれ、とか、何よ!私は、あなたの女房でもなんでもないのよ!
はいはい。わかりましたよ。熊を冷やしたいんでしょ?
血生臭い肉なんて、私も嫌だしね。
これ結構レアな魔草なんだから、ありがたく思いなさいよ。
冷やしの草よ!一気に冷やせ!ブリラード!」
ポンチョが、霜降草アインを使って、氷の魔法を使った。熊に霜のようなものが降りていく。
ガンダルが嬉しそうだ。ナイフで熊の内臓を処理していく。
「そうそう。一気に冷やすのが肉を旨くする秘訣なのさ。
確かに、ソニレテ団長が首を切ってくれたから、血抜きは充分だ。
内臓は綺麗だな。でも、食べるのはやめておこう。
毛皮にも虫が少ない。ブリラードで虫も死んでるな。
脂もちょうどよく乗ってる。臭みも少ない。上々だ。
あとは、ヤードル、皮を剥いでくれ。お前は、プリンパル国で1番のナイフ使いだぜ」
ガンダルと無口なヤードルが協力して、熊を処理していく。
ヤードルがナイフで、熊の皮を剥いでいく。2人は息ピッタリで、ガンダルがヤードルに合わせて熊の向きを変えていく。熊の皮も使えるから取っておくつもりなのだろう。熊の毛皮の一部に焦げたような跡があった。
とにかくヤードルとガンダルの手際がめちゃくちゃいい。こんなに大きな熊を捌くのは、大仕事なのに。
ガンダルがちゃっかりクマの毛皮を自分の外套に縫いつけている。
こうして昼過ぎには、熊の解体は終わった。ソニレテ団長が周りの安全や風向きを念入りに確かめて、少し開けた場所で昼食にすることを決めた。
そして、ガンダルは、豪快に丸太を持ってきて、手際よく焚き火を作る。焚き火というより、キャンプファイヤーだ。もくもくと白い煙が空高く上がっていく。
岩塩やスパイスをかけて脂の乗った熊肉を焼く。野生ミ溢れる熊肉バーベキュー。
パチパチと爆ぜる焚き火を囲んで、狩った獣の肉が焼けていく香ばしい匂いを嗅ぐ。脂が焚き火に落ちて、ジュウジュウと白い煙を上げる。
「こんなにのんびりしていていいのかな。山頂にできるだけ早く着いた方がいいはずなのに」
僕がつぶやくと、ガンダルが豪快に笑った。
「お前は、先のことが見えてないな。
だいぶ話が変わってきてるぞ。
ソニレテ団長は、もう全然違うことを考えているはずだぜ。まぁ、ピッケルは、美味しく肉が焼けるのを待っていれば良いさ」
何のことかさっぱり分からない。
でも、どうやら今は、この時間を楽しむしかない。
大きな責任を負った任務で、緊張していたけど、調査団の人たちをみていると、今日も必死に日々生きるうちの1日なんだと思えた。
生きるためには、何かを乗り越えていく必要があるんだ。
ソニレテ団長がみんなを見渡して言った。
「よし、これまで得た情報や推測を踏まえて、状況を整理しよう。作戦を立て直す必要がある」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
66
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる