全裸ドSな女神様もお手上げな幸運の僕が人類を救う異世界転生

山本いちじく

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場違いなムレクマ

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「ふっふっふ。ついに王都カラメルにまであたしの名前が轟いているようね!
 いや、むしろ遅いくらいだわ!
 ここからよ!ここからあたしのゴージャスでエレガントなストーリーが始まるのよ!
 王都カラメルで、貴族や王族に見染められたりして、あぁ!だめ!王子、いけません!あたしには、心に決めた人が!
 あたしを奪い合って、争わないで!
 なんて、きゃー!どうしよう!」


 カリンがなんだかよく分からない妄想の世界で盛り上がっている。
 僕は、不安と恐怖で体が震えている。場違いな場所で、何にも役に立たなそうな自分に自信がない。カリンの根拠のない自信が羨ましい。
 パンセナが香ばしく焼いたパンを待たせてくれた。無事に帰れるようにと、パンセナの思いが詰まったパンだ。
 ソニレテ団長と調査団に守られながら、僕とカリンは、秋の山道を登る。


 調査団3人は、皆それぞれ個性がすごい。
 魔法使いのポンチョは、清楚な服を着ているのに、大人の色気がすごい。ククル魔法院の研究者らしく、キョロキョロと周りを見て、つまづいたりしながら葉っぱを採取して、植生を確認しながら、独り言をブツブツ話している。魔法使いのランクはA5だというから、かなりの使い手だ。


 そういえば、僕は、今どれくらいなんだろう。


 弓使いのヤードルは、スラリとした美男子だけど目つきが鋭くて怖い。まだ一言も話さない。腰にかけたナイフがなかり使い込まれていて、サバイバルの達人の雰囲気。さっと、手を広げて僕とカリンを止めたと思ったら、茂みから毒蛇が出てきた。きっと手練れに違いない。


 斧槍を持った毛深い赤毛の大男、ガンダルは、いつもニコニコしている。さっき出てきた毒蛇の頭を素早く踏み潰してしまった。動きが早すぎて消えなかった。猪を見つけたら、肉にしようとか、食べ物の話ばかりしている。


 残りの3人は、パスカル村の無口な荷物持ちだ。筋肉がムキムキのトラクはブブンパのチャンピオン。そして、カーゴ、ダン。パスカル村でも有名な働き者の3人組。水や食料やテントなど体より大きい荷物を担いでいる。
 今回の日程は、山を登るのに1日。降るのに1日だ。もしもに備えて、その倍の準備を持っている。
 さすが、騎士団長が選んだ、少数精鋭部隊といった感じだ。
 ソニレテ団長が険しい顔で僕に言った。


「普段、パスカル村の周辺にクマが群れで現れることはあるかな」


 僕は、慎重に事実を答えた。


「いや、ありません。ムレクマという集団生活の大熊は、山の奥地に住んでいます。パスカル村は、死の森が近いので、野生の大型動物が近づいてこなくて」

「ふむ。では、やはりダヨダヨ川の水位が下がったことと関係しているのかもしれんな。
 見ろ、ピッケル。木の皮に短い毛が擦り付けられている。
 しかも、複数の木にだ。
 これはおそらくムレクマの群れの雄が縄張りを作るためにやっているんだ」


「え?早朝にパスカル村を出て、まだお昼にもなっていませんよ?山道もまだ続いていますし。
 そんなに村の近くにムレクマが?」

 場違いなムレクマ。遭遇はできるだけ避けないと。


「まずいな。どうやらムレクマの縄張りに入ったようだ。さっき熊ものだと思われる糞を見つけたが、まだ新しかった」


 ヤードルがボソッと一言、ソニレテ団長に伝える。


「来ます」


 調査団は、僕とカリン、荷物持ちの3人を囲んで、防御体制に入った。
 ガンダルが、低い声で言った。


「ちっ、大当たりだな。ムレクマに囲まれるなんて。ソニレテ団長がいるから、ギリギリなんとかなるかもしれないが」


 2頭の大きなムレクマが山道の前後からゆっくりと近づいてくる。両脇の茂みの中にもガサガサを気配がする。最低でも4頭はいるだろう。それにしても大きい。大熊は、ガンダルよりひと回り大きいくらいだ。


 なんでこんなところにムレクマが?!
 冷や汗が全身から吹き出る。

 前方の1番体格が良い大熊には、ソニレテ団長が1人で立ち向かう。後方の大熊には、ガンダル、ヤードル、ポンチョが対峙している。真ん中に僕とカリンと荷物持ちの3人だ。
 ポンチョが僕に火炎草ファイの合図をした。心配で落ちつかないパンセナがファイを2株も持たせてくれていた。小さな家が立つほどの売値になるらしい。僕とカリンは、キキリとファイに草木の魔法をかけて、鮮度を保つのが役目だった。


「立派なファイ!さすが魔草作りの名人パンセナね。鮮度もいい。
 熊ちゃんたち、ここで討伐するしかないわね。人間が弱いと分かれば、このムレクマは、パスカル村を襲うわ。
 まだ人間の肉の味を知らないうちに、人間を脅威として認めさせないと。ムレクマが小さな村を襲って大勢死んだ例がたくあるわ。それにこの大きさ。。。」


 ソニレテ団長が静かに言った。


「突撃!」
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