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ユピテルの一撃 ⭐︎

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「あ、ありがとう。。。でも、全然ダメだ」

「ダメなわけじゃないぞ。
 動きの型は、むしろ、よい。
 わしが教えたことの大事な部分が正しく身体に吸収されている。
 すごいことじゃ。一度でここまで型を身につけたものは、他にはおらん。
 わし史上、最高の天才と言っていい。
 フォッフォ!もっと教えたくなってしまうわい」

「でも、まだまだ、弱い。きっとイビルガスには、敵わない」

「イビルガス?あの怠惰な型を盗み見した相手か?
 そうじゃろうな。
 型で優っても、力で勝つことはできない。
 ヴィオラ、そのイビルガスとかいう奴に勝ちたいのか?」

「勝つ必要があるの。自由になるためには、戦わなくてはいけない日がくるかもしれない」

「そうか。力を求めるか。 
 わしは、お前を同じ求道者として認める。
 わしの弟子になるなら、奥義を教えてやろう」
 
 パバリ王の弟子に?!
 あたしにその資格があるだろうか…

「奥義?未熟なあたしにどうして?」

「未熟!結構結構!できるかできないかじゃない。やりたいかどうかだ。
 奥義を求めるか?」

「自分の力に向き合って、全てを知りたい!」

「よいじゃろう。
 知るがいい」

 ゴクリ。パバリ王の奥義を!?

「師匠…お願い、奥義を教えて」

「1日に使える全ての力をただ一つの拳に込めること。これが奥義じゃ」

「え?どういうこと?」

「たった1人、倒すべき相手を見極めること。そして、その相手に、全てを込めた一撃を必ず命中すること。
 それだけじゃ」

「でもどうやって?」

「岩を砕く練習をしろ」

「岩を?!」

「意識を集中して、感情を無にすること。心を拳と一つにして、岩を貫く」

「レンガを砕いたことならある。心が澄み切って、拳と一つになる感覚が好き」

「よし。
 奥義は、その先にあるのじゃ。
その一撃に、1日に使える全ての力を込める。爆発的な一撃じゃ。
 いや、文字通り、爆発を起こす。
 かつてこの技を極めたものは、この一撃で地を裂き、山を削った。
 例え話じゃなくて、本当に地面に割れ目を作ったんじゃ」

 おとぎ話じゃなくて、本当の話?!
 そんなことできるの?岩を砕くのだって信じられない。まさか地面を割るなんて!

「そんな…」

「お前と同じ赤い目巨人の覚醒者じゃ。お前は、まだ覚醒していないがな」

「赤い目巨人…あたしも?!」

「そうじゃ。だがまだ自分の中の巨人との繋がりが薄いようじゃ。
 赤い目の巨人ユピテルの血が目覚めていないんじゃ」

 赤い目巨人?!
 たしかゲムルスもあたしのことを巨人の子って言ってたな。どういうことなんだろう…
 
「まぁ、すぐにはできん。
 だが、伝えたぞ。まだ受け取れていないようじゃが。
 奥義、ユピテルの一撃を。
 使いこなせるかどうかは、ヴィオラ次第じゃ。
 恐ろしいほどの力じゃ。
 使い方に悩むことにもなるじゃろう。
 1万年前、わしの弟子に赤い目巨人の覚醒者スピカがいた。彼女は、このユピテルの一撃で全巨人の頂点に君臨した。
 精進せよ」

 一万年前のパバリ王の弟子?!
 パバリ王って、一体何年生きているんだ?創世記からとか言っていたけど…冗談じゃないの?

「ありがとう。
 まだできないけど修めてみせる。あたしは、まだ知らないことが多すぎる」

「赤い目巨人ユピテルの伝説は世界各地に残っている。
 ユピテルのエピソードを知ることも覚醒するきっかけになるようじゃ」

「ありがとう。あたし、島をでて世界を旅したいの。その楽しみが増えたわ
 あたしは、必ず使いこなしてみせる。赤い目の巨人ユピテルの力も、奥義も。
 あたしは、あたしを知りたい」

「そうじゃ!その勢いじゃ」

 気のせいかあたしの身体が一瞬赤く光った気がした。
 ドクン、ドクンと心臓が大きく鼓動する。

 目から涙が溢れてきた。
 パバリ王から無償の愛を感じる。なんでパバリ王は、あたしに大切なことを惜しみなく教えてくれるんだろう。

 そんなことはアレイオスに来てから今まで一度もなかった。
 何物にも代え難い宝物のような時間。

 あたしは、なんて恵まれているんだろう。
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