もふ猫と刃角のおねぇちゃんと旅する異世界見聞録

ドラコニアの館へ侵入⭐︎

　月明かりの下、ドラコニアの屋敷の周囲は火事による煙が漂い、混乱の真っただ中にあった。
　ピピン、ピーちゃん、バウワウは息を潜めて、身を隠していた。

　ピーちゃんが緊張した顔で振り向き、素早く周囲を見回す。

 「ピピン、ヴィオラ、バウワウ、いいか？
　無闇な戦闘は避けたい。
　これから警備兵に偽装して、潜入するぞ」

　ピピンが眉をひそめ、足を痛そうに引きずる。

「転んで左足を挫いちゃった…ごめん、ドジを踏んでしまって…」

　足を見ると赤く腫れて熱を持っている。捻挫かもしれない。

「そんな足じゃ無理よ。おんぶしてあげるから、あたしに掴まって」

　ピピンをしっかりと抱きしめるようにして持ち上げて、おんぶする。
　いつのまにか重たくなったな。昔はあんなに小さかったのに。

「ごめんね、おねぇちゃん」

「あんなスピードでここまで来たのよ。怪我くらいするわ」

　バウワウがピピンを慰めるように尻尾を振る。

「ワン！ワン！」

　ふぅーっと大きく息を吐き出して、深呼吸する。

 「行こう」

　警備兵の服を着たピーちゃんがあたしに指示する。

「ちょうどいい。ヴィオラ、ピピンをおんぶじゃなくて肩車するんだ。」

　ピーちゃんがピピンの左足の様子をみる。

「腫れているな。どれ、治してやろう」

「え？治せるの？」

「もちろんだ。泥を落として衣服を綺麗にして、身体を清潔にすることもできるぞ。
　ふむ、ついでにヴィオラも」

「そんなことできるの？そう汗が気になってたの。
　ピーちゃん、それって魔法？」

「そうだ。いくぞ。キュア！」

　草木の清々しい香りが立ち込めて、緑の光が僕らの身体を包む。すーっと疲れや痛みが引いていく。
　身体を石鹸で洗った後のように身体がサッパリしている。

「すごい！もう足が痛くないよ。プトレマイオス！ありがとう」

「ピーちゃん！あたしの肌がスベスベになってる！これ毎日して欲しい！」

「落ち着け。上からこの警備兵の服を着ろ。足は治したが、肩車はそのまま行け。
　警備兵に偽装して突破するぞ」

　プトレマイオスが差し出した警備兵の服装をヴィオラに方がしてもらってる上から被る。
　動きがかなりぎこちないけど…

「ドラコニアの屋敷の地図と地下水路の地図がある。
　地下の水路から侵入する」

　大丈夫か？かなり怪しく見えそうだけど？

　ピーちゃんが手を振りかざし、口元に微かな笑みを浮かべながら、魔法の光が一瞬だけ周囲を照らす。

「この魔法は、見た目を曖昧にする効果があるんだ。余を信じてついてこい」

　その光に包まれる。これで、警備兵に見えるようになったの？？

　ピーちゃんが満足げな笑みを浮かべた。

「大丈夫、完璧だ。外から見ればただの警備兵だ」

　小柄ではあるものの、確かにピーちゃんが猫ではなく、警備兵に見える。

　しっかりとピピンを肩車して、ベルトをきつく締め直す。

　ピピンが少し微笑む。

「これで本当にバレないのかな？」

　ピーちゃんが真剣な顔になる。

「よし、夜の混乱を利用して、警備兵の輪に溶け込もう。行動は慎重に。
　話は余がする。余計なことは言うな。疑いの目が、確信に変わると、魔法の効果がなくなる」

　あたしたちは、屋敷の外周を警備兵のように歩き始めた。
　火事の煙は視界を遮り、警備兵たちは、混乱しながらなんとか秩序を保っている。

　ピピンを肩車したまま、服の隙間から鋭い目で周囲を見渡す。

「火事の煙がすごいわね。視界が悪いけど、これが逆に有利かも。」

　「警備兵として振る舞えば、違和感なく進めるはずだ。
　プトレマイオスについて、水路の入り口に向かう」

　バウワウが前を歩きながら鼻をひくひくさせる。

「クンクン…ワン！」

　ピーちゃんが鋭く周囲を観察する。

「バウワウについていこう。水路の入り口は外周の奥まった場所にある。
　警備兵として振る舞いながら、目立たないように進もう」

　バウワウが前を歩いて案内し、ピピンを背負いながら慎重に進む。

　屋敷の隅にある水路の入り口が近づいてきた。
　すると、突然、一人の警備兵があたしたちに声をかけてきた。

　警備兵が疑念のこもった声でピーちゃんを呼び止める。

「おい、お前たち！何をしている？持ち場はどこだ？」

　自分の鼓動が高まるのがわかる。
　心臓がバクバクだ。嫌な汗が止まらない。バレたら、大騒ぎになる…

　ピーちゃんがすばやく対応し、丁寧に対応する。

「火事の対応で忙しいんだ。今から屋敷の非難出口を確認しなければならない」

　バウワウが訓練された軍用犬のように足元で静かに待機する。
　息を潜めて警備兵の様子を伺う。
　警備兵がプトレマイオスをじろりと見て眉をひそめるが、ピーちゃんの態度に動揺した様子はない。
　やがて警備兵が納得したようにうなずく。

　警備兵が少し和らいだ声になったり

 「承知した。しかし、火事の煙で視界が悪いから気をつけてくれ。いろんな部署から増員されて誰が誰だか、分からんな」

　ピーちゃんが警備兵をうまくやり過ごす。

「危なかったわね。ピーちゃん、名演技だったわ」

　あたしたちは、なんとか水路の入り口に滑り込む。内部は暗く、湿気が漂っている。
　ピーちゃんが手持ちのライトになる魔道具を灯し、慎重に通路を進む。

　ピピンが不安そうに周囲を見回す。

「この通路、かなり古いね。罠や障害物があるかもしれない」

　ピーちゃんが慎重を足を進める。

「バウワウ、障害物や罠がないかチェックしてくれ」

 「ワン！」

　地下水路を進む中で、時折警備兵の声や音が聞こえる。
　その度に息を潜め、音が遠ざかるのを待つ。

　ピーちゃんが低い声で、手で聞き耳を立てる。

「音が近づいてくる。静かにしろ」

　やがて地下水路の終点に到達した。
　ピーちゃんが慎重に頭を上げ、館内部への出口を探る。

　ピーちゃんがささやくように、真剣な口調になる。

「このあたりか？」

　ピーちゃんが慎重に出口を確認する。

「よし。ここにハシゴのついた小さな通気口がある。
　館の地下に通じているはずだ。よし、ヴィオラ、肩車はもういいぞ。ピピン、歩けるか？」

　警備兵の服も脱ぎ捨てた。

「うん。もう大丈夫、歩けるよ。でも、肩車してもらって、足が痺れちゃった、ハシゴを登るのきついかも。あはは」

「仕方ないわね。あたしが押し上げてあげる」

　ピピンのお尻を下から持ち上げるように押す。

「大丈夫？ピピン。もう少しよ」

「ありがとう。おねぇちゃん」

　通気口の隙間から館内を見渡し、状況を把握する。

　先に館内に入っていたピーちゃんが催促する。

「時間がない、さあ、早く行こう」

　バウワウが興奮して吠える。

「ワン！ワン！」

　ピーちゃんがバウワウをにらむ。
　ピピンがバウワウを抱き抱えて、優しく囁く。

「しーっ！」

　館内部はひっそりと静まり返っているが、何かの気配が感じられる。

　耳を澄ませながら、小声になる。

「…何かいるかもしれない。慎重に。」

　あたしたちは、息を殺しながら館の廊下を進んでいく。明かりがちらほらと見える中、緊張感が一層高まっていく。