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1章

秘薬

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 ゴルバドが俺の剣に流れる殺意に気付いたようだ。冷静な表情で語り、さらに魔法を唱える。

「首を取ったと思ったがな。角で受けたにしても、傷一つないないとはな。それに何だ、殺意が増したぞ。不気味だ。甘く見ると、危険か。さっさと蹴散らすにかぎる」

 その瞬間、ゴルバドの腕が4本に増え、体が巨大化した。生物魔法の肉体強化を極めて、腕を増やす達人がいるとパバリ師匠が言っていた。
 ゴルバドが全ての剣を鞘から抜いた。見るからに強大な力を持つ4本の腕で4本の長剣を構えた。無駄のない動きで振り回し、圧倒的なパワーを見せつける。
 これがゴルバドの剣技の真骨頂なのだろう。全く隙がなくなった。
 紙一重で避けて、短剣で受けるのがやっとだ。
 4本の剣の一撃一撃が急所を狙う。永遠に思える数十の斬撃を受け流した時、やっとゴルバドが改めて間合いを取った。

「チビ、名前を聞こう。俺と斬り合って、こんなに長く立っていた男はいない。しかも、短剣で。
 お前を命のやり取りをする相手と認めよう。
 もう祭りなんてどうでもいい。ただ、お前を倒したくなったぞ!」

 俺は、ゴルバドをまっすぐに見て、短く言った。

「マツモト村のコフィ」

「マツモト村....なるほどな。この剣術、重力魔法と剣の完成者パバリ殿の弟子といったところか。相手にとって不足なし!」

 俺は、静かな闘志を胸に、短剣を振るい、ゴルバドの攻撃に立ち向かった。
 瞬時に取るべき立ち回りが見える。複雑な軌道を描きながら縦横無尽に動き回り、ゴルバドの攻撃を全てかわした。

「どうした逃げるだけか、コフィ!」

 激しい頭痛が襲う。角の力を使うのはこれくらいにしたほうがいいのかもしれない。
 だが、俺は、戦い続けなければならない。メキメキと音を立てて角が太く伸びていく。
 大丈夫だ。力がほしい。力を解放したい!

 そう思って力を込めた瞬間、俺の体から爆発的なエネルギーが放出された。この力は、自分でも予想していなかった。

「地獄に落としてやる」

 そして、そのまま俺は、ゴルバドの圧倒的な力に立ち向かうため、全力で攻撃を開始した。
 ゴルバドが驚いた顔をしていた。

「なんだどうした!?」

 ゴルバドの顔に余裕はもうない。そして彼は、自分の体を守るために4本の剣を振り回し始めた。ゴルバドの剣がだんだん刃こぼれしていく。
 しかし、俺の速度は、それを圧倒し、彼の守りを一瞬で突破した。
 ゴルバドの驚きの声が闘技場に響き渡った。

「この...!!」

 それと同時に、ゴルバドの体が大きく後ろに飛ばされ、闘技場の端に叩きつけられた。観客からは驚きと歓声が交錯した。

 立ち上がりながら、ゴルバドが怪しい薬を飲んだ。

「まさかザイドにもらった秘薬に頼ることになるとはな。それでもいい。俺は、お前を倒す」

 ゴルバドの身体が爆発的に大きくなった。もう完全にモンスターだ。
 目は赤く濁り、握りしめた剣が握力でぐにゃりと曲がっている。そして、巨体のくせに恐ろしく早い。
 俺は、一気に防戦一方になっていった。でも、このスピードにも慣れて来た。だんだんと互角以上に押し戻していく。 
 ゴルバドの4本の剣が怪力に耐えられずにボロボロになった。
 次の一太刀で、決める。

 ゴルバドが使えなくなった4本の剣を捨てた、それから、秘薬をもう一つ飲み干した。もう、目は正気を失って、狂戦士のようだ。

 問題ない。あとは首を一閃で切るだけだ。もう勝負はついている。

 ゴルバドが凶々しいオーラを放ちながら俺へ向かって歩いてくる。
 ところが、よろめいて膝をつくと、身体が崩れ始めた。それからあっという間に骨も残さずドロドロに溶けてしまった。

 俺は、ゴルバドの変貌を見て、唖然とした。彼の体だった液体から悪臭を放つ煙が立ち上っていた。観客席からも驚きと混乱の声が上がった。

 どうして…薬で自滅したってことなのか。俺のせいか?俺が殺したのか?いや違う。
 でも、あのまま戦えば、確実に俺は、ゴルバドを殺した。恐れもなく、冷淡に。初めて鶏を絞めた時ほどの感慨もない。心や血まで悪魔になっているんだろうか。
 俺は、自分の手を見て驚く。爪が尖って伸びている。まるで悪魔のように。
 いい感じだ。俺は、ゴルバドとは違う。力をコントロールできている。
 もっと力を試してみたい。
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