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1章

嫉妬

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「コフィ!何で、お前にはスピカがいるのに、おれ達の彼女を誘惑するんだ!どうしてお前は、いつもそうなんだ!」

 8月末の暑い午後、俺は、そんなことを怒鳴られて、一万年前の廃ビル遺跡群で、迫る炎から逃げ回っていた。暑い夏の日と言っても、氷河期が始まっていて26℃になる日も少ない。
 確かに昔からその手の言いがかりばかり受ける。たいていは、身に覚えがないことだった。
 怒号の主はグイン、マツモト村のリーダー、ゲルンさんの息子だ。3年前俺がこの村に来た時から、ずっとグインは俺のことが気に入らないらしく、難癖をつけてくる。今日は、やっとできた彼女が俺の話ばかりするのに頭にきたらしい。彼は、防火素材のパッチワークスーツを着て、手からボウボウと魔法の炎が出ていた。

「何もしてないよ、グイン。お前の彼女に話しかけた記憶もないしさ。それに、スピカは、ただの幼馴染だって何回も言ってるだろ?」

 俺がそう反論しても、グインの怒りは収まるどころか、ますます燃え上がるばかりだ。
 それから、グインが俺に向けて火炎放射を連射した。炎が鉄骨を溶かして、ビルが倒壊し、土煙を上げた。
 さすが、村一番の炎魔法の使い手だ。でも、こんなに火力が強かったかな。それに手下の2人、えーっと名前はなんだったか。

「昔から魔法も使えないくせに、モテまくりやがって!スピカは、なんでお前なんかを!身の程を知れ!」

 そう言って、グインがさらに火力を上げた。
 身の程か。俺だって、自分が何者か知りたいくらいだ。俺は、遊び場にしている崩壊寸前のビルの中に逃げ込んだ。

「今日は、頭痛がひどいってのに、困ったな。俺がむしろスピカに振られたって話を信じてくれない。ちょうどいい、ここなら地の利が...」

 最近、額がうずくように痛む。でも、今はそんなことに構っていられない。
 俺は、高層ビルの屋上に向かって走って、追いかけてくるグインとその手下2人から逃げ回る。
 手下の1人が破片を浮遊させて、もう1人が筋骨隆々の腕を膨らませ、それを投げつけてくる。

 とにかく、俺は、全力で逃げた。この遺物のアウトドア服やスニーカーは、動きやすくて、軽快に走れる。そして、グイン達を10階建ての廃屋の屋上へと誘導した。

 一足先に屋上に到着すると、俺は、立ち止まった。
 ふと森に違和感を感じる。ポケットから取り出した遺物の双眼鏡で森を見ると、森がいつもと違うことに気づいた。ここからは、村も植物の王エイゴン様の森も、雲を貫く世界樹もよく見える。

「あれ?やっぱりだ。森に一つ目の巨人がいない。おかしい、なんだろう。それに誰かに見られているようなこの気配は...気のせいか」

 俺は、双眼鏡をしまってから、グイン達をチラリを確認して、わざと隙をみせてみる。
 そこへ魔法で脚力を強化した男が人間の限界を超えた速さで俺を羽交締めにしてきた。グインが炎を拳にメラメラと宿らせ、無防備に大袈裟な動きで殴りかかる。

 よし。ここから反撃だ。
 
 グインが勝利を確信した時に油断するのは、昔からだ。
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