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最終章 伝えたい言葉

僕の主戦場

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「ノエルと話してて分からなかったんだけど、兄ちゃんに何話してたんだ?」
「……一応、『予言』の、対策を、しておいた」
 ヒナノはノエルのほうに目を向ける。ぼうっとしていたらしく、その視線に気づいたノエルは身体をビクつかせた。
「予言の対策って、つまりはレンガイさんが殺人鬼になるのを防いだってこと?」
「……防げては、ない、だろう。私の言葉は、あまり、響かない。神レンガイは、邪神プーアの声じゃないと、変わらない、と思う」
 しょんぼりとした表情をするヒナノをフォローするように、ヒュウガは言う。
「あの兄ちゃんはプーアのことが大好きだからなあ。仕方ないって。……そういえば、今プーアってどうなってるんだ?」
 その言葉に、二人はハッとする。
「……なぜ……神レンガイは、帰ってきたのに、?」
 ヒナノは思う。神レンガイは邪神プーアを救う為に外に出ていったのに、肝心の邪神プーアがいないのはどうしてだ?
 考え込むヒナノを前に、ノエルはため息をついた。
「仕方ない。私の『予言』で、できる限りのことはしてみるわ」



 そんな地球でのやり取りとほぼ同時刻、アンナプルナに頭から叩きつけられ、気を失っていた白髪の少女――プーアが目を覚ます。
「……ッ」
 プーアは立ち上がろうとしたが、傷が痛むのですぐに諦めた。プーアは深呼吸をした後、ゆっくりと辺りを見渡す。
「さっきと場所が違う……」
 少女がいる場所。そこは『神様議会』議院の入口。巨大な門の前だった。ただし、少女はそこが何処であるかは理解できなかった。

 プーアは、もはやただの非力な人間である。
 正確には数時間前までは邪神だったが、遂には記憶も抹消され、もう神としての思い出はほぼ残っていない。
 覚えていることは、『アンナプルナ』という神が壮大な陰謀を持っていて、自分はそれに巻き込まれているということ。
 そして、そのアンナプルナとがいること。
 尤も、そのそっくりの人物レンガイが本物で、アンナプルナがレンガイの変装をしているだけなのだが――
 プーアがそんなことを知る由もなかった。

「んー? あー、やっと目覚めたのね! プーアちゃん、ふふふ。死んじゃったかと思ってたよおー」
 どこからともなく現れたアンナプルナは、プーアの肩に手をそっと置く。その感覚は非常に冷たく、思わずプーアの背筋に悪寒が走った。
「……アナタが、アタシのことを殺そうとしたんじゃないの……?」
「まあねー、確かにそうなんだけどさー。その件に関しては謝りたいなあ」
 耳元で囁くアンナプルナ。彼は、最後に一言付け足した。

「助けなら来ないよー? プーアちゃんのレンガイフィアンセは、もう詰みだ。たとえゴンザくんの攻撃を潜り抜けられたとしても、もう、ね」



「動くな。動くと殺す」
 時空転移装置でプーアの家に戻ってきたレンガイを待ち受けていたのは、溢れんばかりの神達だった。恐らく、アンナプルナの手先だろう。
 レンガイは転移の際の座標を正確に定めていたおかげで、狙い通りプーアの寝室に転移することができた。しかし、神達はそれを予測していたかのように、レンガイの登場を待ち伏せしていたのだ。彼らはあまりに多すぎる人数で、部屋に全員は収まっていない。こんなに人数は必要ないんじゃないか、レンガイはそんな彼らをぼんやりと見ながら思う。
 ――コレは……チョットタイヘンだが、オレサマをツカエ。なあに、セントウノウリョクはヒクイだろうカラナ。
 短刀『神殺し』の言葉を、レンガイは一蹴する。
「いや、今回は君を使わない。考えがあるんだ」
 ――ハ? オイオイ、まさか、ヒナノアノオンナのイウコトをホンキでシンジルノカ!? オススメしないゾ。オマエは、チカラを、チをモトメるセンシなんダ。
「血を求める戦士? カッコイイね。でも、僕は……それになる必要性が感じられないな。プーアちゃんは僕にそんなこと求めてないだろうから。というか、この判断はヒナノさんの助言によるものでもあるんだけれど、君の力を使い過ぎると僕の身体がもたないよ。君頼りで道を進もうとしても、アンナプルナの元にたどり着く前に力尽きてしまう。君が何を企み、僕の『心眼』や『感情』を求めているかは知らないけれど、僕の目的はあくまで……プーアちゃんを救い出すことだ」
 レンガイは、自身の手に持つ『神殺し』にゆっくりと語った。しかし、『神殺し』の声が聴こえているのはレンガイ本人だけなので、この様子を傍から見ると、彼は虚空に向かい独り言を呟く絶対に近寄りたくない男になる。
 レンガイを囲っていた神達は、思わず後退りをしていた。そんな中で、リーダーと思わしき男が恐れを感じながらもレンガイに問う。

「お前は……幻覚が見える危ないヤツなのか? いや、それについて聞くのは止めておこう。語るだけの余裕があるのに、なぜ俺達に立ち向かって来ない?」
 何を言っているんだ、この人は。レンガイはそう感じながら、彼らを鼻で笑った。
「君たちが動くなと言ったんじゃないか。しかも、動いたら殺すってね。だから動いてないのに」
「……揚げ足を取るのが上手なようだな。だが、そのボロボロの身体で、大軍を前に何ができると言うんだ?」
「…………」
 キョトンとした表情でだんまりを決め込んだレンガイを、今度は逆に鼻で笑ってやった男は威勢よくレンガイに近づく。鼻の先がくっつく程に距離を詰めたところで、レンガイが口を開いた。
「ここって、どこか分かる?」
 彼は男の目を見つめたまま、右手の人差し指でプーアのベッドを指した。眉を顰めながら男は質問に答えた。その回答は正解だったようで、「うん」とレンガイは口を開くことなく言う。
「そう、ここはプーアちゃんの家だ。そして、君たちは何者だ」
「何者? 俺達は組織『エノキダケ』の特殊部隊。アンナプルナ様に洗脳はされていない。絶大な信頼を得ているからな」
「つまり、君たちはなんだな」
「……は?」
「話を少し前に戻そう。ここはプーアちゃんの家だ。それで、君たちは許可なく人の家に上がり込んで、寝室まで来た。君たちはか弱い女の子の家への不法侵入者なんだ。まとめると、なんだ」
 ひと呼吸置いて、彼はニコリともせずに言い放つ。
「そんなヤツらは、僕が殲滅せんめつしないとダメだろう」

「だから、それをどうすんだって聞いてんだよお!」
 筆舌に尽くしがたい程の気持ち悪さを感じた男は、レンガイを突き飛ばす。極度の疲労で疲れきっていた彼は、そのままプーアのベッドへと叩きつけられた。血を吐き、ベッドを少々汚しながら、彼は言った。





 彼は言った。

「僕はプーアちゃんの危機に24時間いつでも対応できるよう、勝手ながらプーアちゃんの家の至る所に時空転移装置を作っていたんだ」
 その刹那、叫び声と共に、数十人の神達がこの場から消え去った。突然の出来事に対応できなかったのだろう。先ほどレンガイを突き飛ばしたリーダー格の男が、慌てふためいた。彼を取り巻いていた部下たちが一斉に姿を消したのだから、それも仕方のないことではあるが――その隙を見逃さず、レンガイは助走をつけて、フルスイングで男をぶん殴る。 
「君がさっきまでの集団をまとめ上げていた人物だっていうのは、雰囲気で分かる」
 どうやら上手くヒットしたらしい。のたうち回る男に近づいたレンガイは、『神殺し』を高く振りかざす。
「さっきの発言と矛盾するけれど、やっぱり『神殺し』の力を借りよう。プーアちゃんにまとわりつく害虫は僕自身が駆除しなきゃいけない」
 ――お、オウ。マッテたゼ。いやあ、オドロイタ。サクシだナ。オマエ。イイタイことは、イロイロあるガ―― 
『神殺し』の発言を無視し、男の必死の懇願も無視し、レンガイは剣を振り下ろす。
 無慈悲な音と、無残な叫び声が上界中に木霊した。


 レンガイは、アンナプルナが用意した罠をも潜り抜けた。
 一段落ついたとしても、彼にはまだやるべき事がある。それをしっかりと心に刻み込んでいた彼は、すぐさま家を飛び出した。レンガイが宛もなく走るように見えた『神殺し』は、彼に語りかける。
 ――お、オイ。イッタイ、ドコにムカウっていうンダ。
「『神様議会』議院だよ。この僕が、プーアちゃんの居場所を逐次把握していないとでも思っていたのかい? 上界にいるならば、プーアちゃんがどこにいるかなんて一目瞭然さ」
 ――サッキのタタカイのトキからオモッテたんダケド……


――オマエって、メチャクチャキモチワルいナ……
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