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第68話 オレが帰る場所を死守して欲しい
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都市移転も考慮に入れているという話に、ジップが驚いて言葉を失っていると、ミュラはさも当然とばかりに言ってくる。
「そもそも、フリストル市はダンジョン内に作られているのですよ? 似たような空洞が他にあってもおかしくはありません」
「だが……上層に行くほど強敵が潜んでいるんだぞ?」
「だからこそ、経路確保によるレベルアップを期待しているわけです」
抜かりないプランにオレは感心するしかなくなる。
今の冒険者の平均レベルは20台半ばだ。これが30台、40台とアップしていくなら、都市ごと階層を登っていっても戦えるだろう。
もっともそうなれば、これまで苦労して作り上げた田畑や家屋、生活に必要な様々な大型機材は持って行けないから、都市移転なんて、普通なら数十年がかりのプロジェクトになるだろうが──
「──もし都市移転するとしても、オレの残機が役立つってわけか」
「その通りです。三万人もの人手で、かつレベル80オーバーとなれば、どれほど助かるか見当も付きません」
「そういうことか……」
都市移転はダンジョンの広さによるが、まったくない選択肢というわけではないだろう。ただそれはレニとレベッカを救出できてからの話になると思うが。
いずれにしても、ミュラが最初にいった『地上奪還』が目的であるならば、様々な活躍が期待されるオレを手放すはずもない──自分でいうのもなんではあるが。
だがオレは、念のためミュラに確認する。
「しかしそこまで大がかりな行動に出たら、ユーティ以外の魔人にだって目を付けられるかもだぞ?」
「それに関しては推測ですが、おそらくわたしたちは、魔人から隠れているつもりでも、実際は隠れられていないのかもしれません」
「どういうことだ?」
「ユーティが都市に紛れて人間として生活していたのなら、他の魔人だって同じことは出来るはずです。ということは、魔人達は人間の所在も行動も把握しているということになる」
「………………」
それを聞いて、オレの背筋が凍る。
ユーティ一人でもあれだけ強力だったのだ。もし、ユーティが魔獣召喚をしておらず万全の状態だったならば、少なくとも自爆程度で引かせることは出来なかっただろう。
そんな魔人に、所在や行動まで把握されているのだとしたら──
「──まさに、お目こぼしってわけだな」
オレのそのつぶやきに、ミュラは頷いた。
「ええ……もっともこれは推測に過ぎません。ユーティがたまたま我々を見つけただけかもしれません。ですが今の状況で希望的観測は戒めるべきでしょう。よって魔人は、我々を把握しているという前提で考えるべきです」
「そうだな……それに上層に向かったユーティが吹聴することも考えられるし」
「そうですね。ならば、この期に及んでも座したままでは死を待つのみです。ここは、是が非にでも反転攻勢を仕掛けなければなりません」
「ギルド長としてそう思うのは当然かもしれないが……この都市全員が同じ意見だとは限らないだろう?」
「説得してみせますよ」
そう言い切るミュラは無表情のままだったが、確固とした自信が窺える。
だからオレはゲオルクやケーニィにも視線を向ける。ゲオルクのほうは、
「オレは賛成だぜ。面白くなってきたじゃないか」
とのことだったし、ケーニィは、
「都市移転なんかになったら忙殺されるけどなぁ……仕方が無いか」
と肩をすくめて見せた。
そしてカリンに至っては、
「あうぅ……また心労が……心労が増えるよ……とほほ……」
と嘆いているものの、だからこそやることが前提だということは、もしかしたら本人も気づいていないのかもしれない。
そうしてミュラが、神妙な面持ちをこちらに向けた。
「色々と話しましたが……結局のところ我々に出来ることは、本体であるあなたに食料供給をすることだけです。だから、あなたの能力を考えるならば、その見返りは小さすぎるということになります」
「いや……そんなことはないさ」
オレは苦笑を浮かべながらミュラに、いや全員に向けて言った。
「オレの希望はたった一つだけだ」
おそらくは、オレが転生してからずっと潜在的に恐怖して、だからこそ渇望してきたこと。
あるいは日本にいたころから感じていた恐れなのかもしれないが。
今こそオレは、正直にそれを告白するのだった。
「レニとレベッカ──そして何よりオレが帰る場所を死守して欲しい。そのためなら、オレは協力を惜しまないさ」
「そもそも、フリストル市はダンジョン内に作られているのですよ? 似たような空洞が他にあってもおかしくはありません」
「だが……上層に行くほど強敵が潜んでいるんだぞ?」
「だからこそ、経路確保によるレベルアップを期待しているわけです」
抜かりないプランにオレは感心するしかなくなる。
今の冒険者の平均レベルは20台半ばだ。これが30台、40台とアップしていくなら、都市ごと階層を登っていっても戦えるだろう。
もっともそうなれば、これまで苦労して作り上げた田畑や家屋、生活に必要な様々な大型機材は持って行けないから、都市移転なんて、普通なら数十年がかりのプロジェクトになるだろうが──
「──もし都市移転するとしても、オレの残機が役立つってわけか」
「その通りです。三万人もの人手で、かつレベル80オーバーとなれば、どれほど助かるか見当も付きません」
「そういうことか……」
都市移転はダンジョンの広さによるが、まったくない選択肢というわけではないだろう。ただそれはレニとレベッカを救出できてからの話になると思うが。
いずれにしても、ミュラが最初にいった『地上奪還』が目的であるならば、様々な活躍が期待されるオレを手放すはずもない──自分でいうのもなんではあるが。
だがオレは、念のためミュラに確認する。
「しかしそこまで大がかりな行動に出たら、ユーティ以外の魔人にだって目を付けられるかもだぞ?」
「それに関しては推測ですが、おそらくわたしたちは、魔人から隠れているつもりでも、実際は隠れられていないのかもしれません」
「どういうことだ?」
「ユーティが都市に紛れて人間として生活していたのなら、他の魔人だって同じことは出来るはずです。ということは、魔人達は人間の所在も行動も把握しているということになる」
「………………」
それを聞いて、オレの背筋が凍る。
ユーティ一人でもあれだけ強力だったのだ。もし、ユーティが魔獣召喚をしておらず万全の状態だったならば、少なくとも自爆程度で引かせることは出来なかっただろう。
そんな魔人に、所在や行動まで把握されているのだとしたら──
「──まさに、お目こぼしってわけだな」
オレのそのつぶやきに、ミュラは頷いた。
「ええ……もっともこれは推測に過ぎません。ユーティがたまたま我々を見つけただけかもしれません。ですが今の状況で希望的観測は戒めるべきでしょう。よって魔人は、我々を把握しているという前提で考えるべきです」
「そうだな……それに上層に向かったユーティが吹聴することも考えられるし」
「そうですね。ならば、この期に及んでも座したままでは死を待つのみです。ここは、是が非にでも反転攻勢を仕掛けなければなりません」
「ギルド長としてそう思うのは当然かもしれないが……この都市全員が同じ意見だとは限らないだろう?」
「説得してみせますよ」
そう言い切るミュラは無表情のままだったが、確固とした自信が窺える。
だからオレはゲオルクやケーニィにも視線を向ける。ゲオルクのほうは、
「オレは賛成だぜ。面白くなってきたじゃないか」
とのことだったし、ケーニィは、
「都市移転なんかになったら忙殺されるけどなぁ……仕方が無いか」
と肩をすくめて見せた。
そしてカリンに至っては、
「あうぅ……また心労が……心労が増えるよ……とほほ……」
と嘆いているものの、だからこそやることが前提だということは、もしかしたら本人も気づいていないのかもしれない。
そうしてミュラが、神妙な面持ちをこちらに向けた。
「色々と話しましたが……結局のところ我々に出来ることは、本体であるあなたに食料供給をすることだけです。だから、あなたの能力を考えるならば、その見返りは小さすぎるということになります」
「いや……そんなことはないさ」
オレは苦笑を浮かべながらミュラに、いや全員に向けて言った。
「オレの希望はたった一つだけだ」
おそらくは、オレが転生してからずっと潜在的に恐怖して、だからこそ渇望してきたこと。
あるいは日本にいたころから感じていた恐れなのかもしれないが。
今こそオレは、正直にそれを告白するのだった。
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