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第67話 都市ごとか……!?
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「あらかじめ言っておきますよ、ジップ。我々の目的は、いつだって地上奪還です。個々人によって程度の差こそあれ、それ以外にはあり得ません」
固有魔法持ちのジップであっても、それは夢物語のように聞こえてくる目的だが、しかしミュラは真剣に言ってくる。
「そのために、わたしはあなたを手放したくない。だから追放なんてもってのほかです。でもわたしは、あなたの能力に見合うだけの見返りを与えることは、どうやら出来そうにない」
「いや、そんなことは……」
「気遣いは必要ありません。そもそも戦闘や探索においては、我々が束になっても、あなたの邪魔にしかならないでしょう」
確かに、これから上層に向かうにあたり、ミュラ達が付いてきたいと言われても困るのが正直な気持ちではあった。オレ一人だったらいくらでも替えが効くが、ミュラ達はたった一人しかいないのだから。
これは、レニやレベッカとパーティを組むときの逡巡と同じだが、あのときは、都市周辺であれば守れると思ったからパーティを組んだのだ。これが上層ともなれば守り切れる自信はない。
つまり、都市の最高レベル冒険者であったとしても、オレとパーティを組んだら足手まといにしかならないということだった。
それを重々承知しているミュラが話を続ける。
「ですが後方支援でしたら、我々にも多少は手助けできるかもしれません。ジップ、あなたは補給について気にしてましたよね? ダンジョン内で、いったいどうやって食料等を確保するつもりだったのですか?」
そう問われたので、オレは正直に話すことにした。
つまり補給を確保することは出来ないから、栄養失調で動けなくなったら、自爆して体を交換することを。
その話をしたら全員が顔を青くする。そしてカリンがため息交じりに言ってきた。
「あ、相変わらず無茶苦茶なことを考えるね、君は……」
「オレも、出来ればそんなことしたくないんだが……」
「でも、そんな無茶は長続きしないよ。ダンジョンは、どれほど広いか分からないんだよ?」
「しかし他に方法が思い浮かばなくてな」
何しろオレの本性は臆病で怠け者の凡人だ。今だって、苦しい思いや痛い思いはしたくない。
しかしオレ以上に怠惰な幼馴染みと、オレを信頼しきっている同級生の命運が掛かっているのだ。もはや、そんなことは言っていられない。
まさに決死の覚悟をしているオレに、ミュラが言ってきた。
「方法がないのは、あなたが常に一人で事をなそうとしているからですよ」
痛いところを突かれて、オレは思わず閉口する。その隙にミュラが話を続けた。
「補給がないのであれば、少なくとも、フリストル市はあなたの生産拠点となれるでしょう」
その意見に、しかしオレは首を横に振る。
「それはオレも考えたが、しかしどうやって残機三万人もの食料を確保するんだ? それに補給路はどうする?」
「第一の質問は、あなたの残機も補給を必要とするか否かに掛かってきますが、必要なのですか?」
「あ……そうか」
そんなことを問われて、オレはハタと気づく。
大量の補給が必要だと考えていたときは、あくまでも、本体がフリストル市に残っている場合だ。身体生成が出来るのが本体だけだから、残機が本体から離れるほどに、残機には補給が必要となる。
しかし本体自らがダンジョン進出する場合、話は違ってくる。なぜならダンジョン内で身体生成が可能だからだ。
であれば残機に補給をさせる必要はなく、本体だけが補給すればいい。まぁ……倫理的には非常にまずいと思うが、そもそも残機を生み出していること自体が倫理観を問われるわけだし、今さらだよな。
だからオレはミュラに言った。
「確かに、残機に補給は必要ないな……」
「であれば補給は、本体一人分で十分ということですか?」
「ああ……そうなる」
「ならフリストル市での生産はまったく問題ないでしょう」
「そうかもだけど、しかし補給路はどうする?」
例え補給は一人分だとしても、その一人分ですら、上層へと運ぶのは至難の業なのだ。なぜなら、フリストル市のどの冒険者であろうとも、中層にすら進出したことはないのだから。
もちろんそんなことは分かっているミュラは、厳かに言ってきた。
「補給路の確保についてはあなたの協力が必要になりますが、いずれにしても、戦力の集中投下が要となります」
ミュラのプランはこうだった。
まずはオレが先行探索して、上層に至る道を発見していく。これについては三万人という物量をフル稼働させることで可能だろうし、オレも同じことを考えていた。
だがここからが、ミュラ独自のプランだった。
上層への道が見つかったなら、そこにフリストル市の冒険者を集中投下させるという。さらにその冒険者の護衛としてオレの残機も、1パーティにつき数人を付ける。
その程度の割り振りなら、多くても護衛は千人程度の残機で済む。母数が万人の数だから誤差の範囲だ。つまり先行探索にも支障がない。
これまでは都市防衛の観点から、冒険者の運用は広範かつ散発的に行われていた。その結果、都市周辺の魔獣は少なくなり防御は強固になったが、反転攻勢が出来ない状況に陥っていた。
しかし、上層への経路が分かっているのなら話は別だ。
上層経路に戦力を集中投下することで、オレ以外の冒険者であっても経路確保は出来るかもしれない。さらに残機を護衛に付けることで安全性も高まるし、残機と共に戦う冒険者達も成長する。
オレには、残機無限というチートがあるものの、戦力は人間と同じなのだ。ということは逆を言えば、他の冒険者だって、オレと同等の戦力になる可能性は十分にある。オレより戦闘センスに優れた冒険者はいるだろうし。
そうやって経路確保をしつつ戦闘をこなしていけば、やがて、残機無しでも経路確保し続けることが出来るかもしれない。
そんな構想を打ち立てるミュラがさらに言った。
「上層へ至る道中に、もしも適切な空洞があれば、そこに中継基地を建てます。そうすればより強固な体制を作れます。さらに、もし都市を造れるのに適した大空洞があるのなら、都市ごと移転することもあり得ます」
「都市ごとか……!?」
その壮大な計画に、オレは目を見開いた。
固有魔法持ちのジップであっても、それは夢物語のように聞こえてくる目的だが、しかしミュラは真剣に言ってくる。
「そのために、わたしはあなたを手放したくない。だから追放なんてもってのほかです。でもわたしは、あなたの能力に見合うだけの見返りを与えることは、どうやら出来そうにない」
「いや、そんなことは……」
「気遣いは必要ありません。そもそも戦闘や探索においては、我々が束になっても、あなたの邪魔にしかならないでしょう」
確かに、これから上層に向かうにあたり、ミュラ達が付いてきたいと言われても困るのが正直な気持ちではあった。オレ一人だったらいくらでも替えが効くが、ミュラ達はたった一人しかいないのだから。
これは、レニやレベッカとパーティを組むときの逡巡と同じだが、あのときは、都市周辺であれば守れると思ったからパーティを組んだのだ。これが上層ともなれば守り切れる自信はない。
つまり、都市の最高レベル冒険者であったとしても、オレとパーティを組んだら足手まといにしかならないということだった。
それを重々承知しているミュラが話を続ける。
「ですが後方支援でしたら、我々にも多少は手助けできるかもしれません。ジップ、あなたは補給について気にしてましたよね? ダンジョン内で、いったいどうやって食料等を確保するつもりだったのですか?」
そう問われたので、オレは正直に話すことにした。
つまり補給を確保することは出来ないから、栄養失調で動けなくなったら、自爆して体を交換することを。
その話をしたら全員が顔を青くする。そしてカリンがため息交じりに言ってきた。
「あ、相変わらず無茶苦茶なことを考えるね、君は……」
「オレも、出来ればそんなことしたくないんだが……」
「でも、そんな無茶は長続きしないよ。ダンジョンは、どれほど広いか分からないんだよ?」
「しかし他に方法が思い浮かばなくてな」
何しろオレの本性は臆病で怠け者の凡人だ。今だって、苦しい思いや痛い思いはしたくない。
しかしオレ以上に怠惰な幼馴染みと、オレを信頼しきっている同級生の命運が掛かっているのだ。もはや、そんなことは言っていられない。
まさに決死の覚悟をしているオレに、ミュラが言ってきた。
「方法がないのは、あなたが常に一人で事をなそうとしているからですよ」
痛いところを突かれて、オレは思わず閉口する。その隙にミュラが話を続けた。
「補給がないのであれば、少なくとも、フリストル市はあなたの生産拠点となれるでしょう」
その意見に、しかしオレは首を横に振る。
「それはオレも考えたが、しかしどうやって残機三万人もの食料を確保するんだ? それに補給路はどうする?」
「第一の質問は、あなたの残機も補給を必要とするか否かに掛かってきますが、必要なのですか?」
「あ……そうか」
そんなことを問われて、オレはハタと気づく。
大量の補給が必要だと考えていたときは、あくまでも、本体がフリストル市に残っている場合だ。身体生成が出来るのが本体だけだから、残機が本体から離れるほどに、残機には補給が必要となる。
しかし本体自らがダンジョン進出する場合、話は違ってくる。なぜならダンジョン内で身体生成が可能だからだ。
であれば残機に補給をさせる必要はなく、本体だけが補給すればいい。まぁ……倫理的には非常にまずいと思うが、そもそも残機を生み出していること自体が倫理観を問われるわけだし、今さらだよな。
だからオレはミュラに言った。
「確かに、残機に補給は必要ないな……」
「であれば補給は、本体一人分で十分ということですか?」
「ああ……そうなる」
「ならフリストル市での生産はまったく問題ないでしょう」
「そうかもだけど、しかし補給路はどうする?」
例え補給は一人分だとしても、その一人分ですら、上層へと運ぶのは至難の業なのだ。なぜなら、フリストル市のどの冒険者であろうとも、中層にすら進出したことはないのだから。
もちろんそんなことは分かっているミュラは、厳かに言ってきた。
「補給路の確保についてはあなたの協力が必要になりますが、いずれにしても、戦力の集中投下が要となります」
ミュラのプランはこうだった。
まずはオレが先行探索して、上層に至る道を発見していく。これについては三万人という物量をフル稼働させることで可能だろうし、オレも同じことを考えていた。
だがここからが、ミュラ独自のプランだった。
上層への道が見つかったなら、そこにフリストル市の冒険者を集中投下させるという。さらにその冒険者の護衛としてオレの残機も、1パーティにつき数人を付ける。
その程度の割り振りなら、多くても護衛は千人程度の残機で済む。母数が万人の数だから誤差の範囲だ。つまり先行探索にも支障がない。
これまでは都市防衛の観点から、冒険者の運用は広範かつ散発的に行われていた。その結果、都市周辺の魔獣は少なくなり防御は強固になったが、反転攻勢が出来ない状況に陥っていた。
しかし、上層への経路が分かっているのなら話は別だ。
上層経路に戦力を集中投下することで、オレ以外の冒険者であっても経路確保は出来るかもしれない。さらに残機を護衛に付けることで安全性も高まるし、残機と共に戦う冒険者達も成長する。
オレには、残機無限というチートがあるものの、戦力は人間と同じなのだ。ということは逆を言えば、他の冒険者だって、オレと同等の戦力になる可能性は十分にある。オレより戦闘センスに優れた冒険者はいるだろうし。
そうやって経路確保をしつつ戦闘をこなしていけば、やがて、残機無しでも経路確保し続けることが出来るかもしれない。
そんな構想を打ち立てるミュラがさらに言った。
「上層へ至る道中に、もしも適切な空洞があれば、そこに中継基地を建てます。そうすればより強固な体制を作れます。さらに、もし都市を造れるのに適した大空洞があるのなら、都市ごと移転することもあり得ます」
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その壮大な計画に、オレは目を見開いた。
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