64 / 69
第64話 あり得ない……!
しおりを挟む
「これは……やっかいだね……」
ユーティは、全方向に注意を向けながら思わずつぶやいていた。
わたしを取り囲むジップの分身は、いくら斬ってもその数を減らせない。殺しても殺しても次々と新たな分身が生まれてくる。これほどの魔法となれば莫大な魔力を消費するはずだ。
だから戦闘直後は、こんな戦い方を長時間できるはずないと考えていた。ということは出現した分身をすべて倒せばそれで終わりだと思った。
でも分身が消える様子はまるでない。それはもはや、無限に出現するかのようだった。
(このままでは……こちらの魔力が尽きてしまう……!)
ただでさえ、魔獣召喚で大部分の魔力を消費してしまったのだ。ここで根比べをしていたら、わたしのほうが不利かもしれない。だけど突破口が見つからない。
(この手の魔法のセオリーは、本体を叩くこと……)
であるならば、わたしと戦っている分身達に本体が紛れているはずがない。だから地上にいるジップ、そのどちらかが本体ということになる。
ミュラと一緒にいるジップか、レベッカ達といるジップか……
(都市を出ようとしていたのはミュラといるほう……でも、気づかないうちに入れ替わった可能性が高いか……)
この乱戦に乗じて、本体と分身とが入れ替わって、本体はすでに姿をくらませているかもしれない。戦闘時に弱点を晒し続けるだなんてあり得ないのだから。
(あのとき……ジップの固有魔法を把握できなかったことが、ここまで尾を引くなんて……)
そんな後悔がわたしの脳裏に浮かんだ──その直後。
ジップが目前に迫っていた!
「──!」
慌てて剣を振り下ろし、その分身を両断する。だけど次から次へと分身が迫ってくる!
(くっ……油断した! けど……!)
分身から、縦横無尽に繰り出される攻撃だが、しかし魔法で生み出された刃ではわたしにダメージを入れることは出来ない。
(なら攻撃を気にせず切り伏せるのみ!)
そう判断したわたしは、もはや駆け引きも剣技もかなぐり捨てて、次々と迫り来る分身を、ただひたすらに切り伏せていく。
しかし──数が多すぎる!
「物量でわたしを押し込めるつもり!? そんなことしたって無駄だよ!」
迫り来る分身に声を掛けるも、分身は無反応のまま接近してきて──
「──!?」
背中を取られた!
羽交い締めにされたわたしは、その分身を振りほどこうとして──ジップの囁きが耳に届く。
「死ぬんじゃないぞ」
「!?」
その直後、背中に激痛が走る!
「くあっ……!」
一瞬、わたしの視界は真っ白になり平衡感覚を失う。
直後、別の分身に、正面から取り付かれた。
「な、何を──!」
さらなる激痛。
わたしは意識を失わないよう歯を食いしばる。
(なぜ、攻撃が届いた……?)
薄れゆく意識を必死に掴んで、わたしは目を開ける。
光景が逆さまに見えた。
つまり落下している?
逆さまの分身が何人も迫ってきた。
腕を取られる。
攻撃をこれ以上受けたら──負ける。
「広域雷撃!」
ほぼ無意識に魔法を発現させて、目前に迫る分身達を打ち落とす。
だがその分身の向こうには、さらなる分身が群をなしている!
(あり得ない……!)
このわたしを──
──魔人たるわたしを、こうも簡単に追い詰めるなんて!
これが固有魔法だというのなら、魔人の魔法をも超えている!
そもそもどうやって魔法無効化を──
「──っ!」
津波のように迫り来る分身達が、再びわたしに取り付いてくる!
わたしは必死に分身を引き離した直後、分身が爆発四散した!
「自爆!?」
その光景を見た直後、わたしは地面に打ち付けられる。
「くぅ……!」
激突の衝撃に呻くも、わたしは理解する。
このダメージは、自爆によるものだと。
自爆自体は魔法であったとしても、その爆発エネルギーは物理攻撃だ。取り付かれて自爆されては魔法無効化も意味がない。
「な、なんて無茶苦茶な戦法を──!」
まさか、分身の数に任せて自爆してくるなんて!
予想だにしない戦法だけど──わたしにも隙はあった。
固有魔法を持っているとはいえ、相手はどうせ人間だと思っていた。
だから、物理攻撃を当てられるなんて思いも寄らなかったのだ。
「防御結界!」
わたしは地を這いながら防御結界を展開するも、すでに分身達に取り囲まれている。
起き上がれないわたしを見下ろして、ジップが言った。
「勝敗は決した。投降しろ、ユーティ」
「……っ!」
徐々に視界が霞んでいき、ジップの姿が揺らいでいく。思ったよりダメージが大きい。
防御結界により、これ以上の自爆攻撃は受けないとしても、戦闘を長引かせればこちらの魔力が尽きる。
それに、もはやわたしが魔人であることは明白だろう。であるならば──
「──飛翔!」
「まだ抵抗する気か!?」
わたしは、渾身の力で飛翔魔法を発現する。
分身達を薙ぎ倒し、森の中を低空飛行して向かうその先に──レベッカ達の姿が見えた!
「止まれユーティ!」
レベッカ達の周囲に結界を展開するのは、ジップの本体なのか分身なのかは分からない。
だけどわたしの狙いは──ジップじゃない!
「そんな結界、紙切れ同然!」
わたしはレイピアを構えて結界に突貫し、その勢いのまま結界を打ち砕く。
「ユーティ!」
取り付こうとするジップを薙ぎ払うと同時、わたしは転移魔法を発現させる。
「えっ!?」「なっ!?」
レニとレベッカの声が聞こえてくるが、遅い!
二人の体が光った次の瞬間には、二人は掻き消えていた。
「ユーティ! あいつらに何をした!?」
迫り来る分身達の攻撃を躱して、わたしは告げる。
「あの二人を助けたいのなら、上層に来なさい」
「お前!?」
「わたしも上層で、待ってるよ」
そうして、怒りを露わに攻撃してくるジップをいなしてから、わたしは上層へと転移した。
ユーティは、全方向に注意を向けながら思わずつぶやいていた。
わたしを取り囲むジップの分身は、いくら斬ってもその数を減らせない。殺しても殺しても次々と新たな分身が生まれてくる。これほどの魔法となれば莫大な魔力を消費するはずだ。
だから戦闘直後は、こんな戦い方を長時間できるはずないと考えていた。ということは出現した分身をすべて倒せばそれで終わりだと思った。
でも分身が消える様子はまるでない。それはもはや、無限に出現するかのようだった。
(このままでは……こちらの魔力が尽きてしまう……!)
ただでさえ、魔獣召喚で大部分の魔力を消費してしまったのだ。ここで根比べをしていたら、わたしのほうが不利かもしれない。だけど突破口が見つからない。
(この手の魔法のセオリーは、本体を叩くこと……)
であるならば、わたしと戦っている分身達に本体が紛れているはずがない。だから地上にいるジップ、そのどちらかが本体ということになる。
ミュラと一緒にいるジップか、レベッカ達といるジップか……
(都市を出ようとしていたのはミュラといるほう……でも、気づかないうちに入れ替わった可能性が高いか……)
この乱戦に乗じて、本体と分身とが入れ替わって、本体はすでに姿をくらませているかもしれない。戦闘時に弱点を晒し続けるだなんてあり得ないのだから。
(あのとき……ジップの固有魔法を把握できなかったことが、ここまで尾を引くなんて……)
そんな後悔がわたしの脳裏に浮かんだ──その直後。
ジップが目前に迫っていた!
「──!」
慌てて剣を振り下ろし、その分身を両断する。だけど次から次へと分身が迫ってくる!
(くっ……油断した! けど……!)
分身から、縦横無尽に繰り出される攻撃だが、しかし魔法で生み出された刃ではわたしにダメージを入れることは出来ない。
(なら攻撃を気にせず切り伏せるのみ!)
そう判断したわたしは、もはや駆け引きも剣技もかなぐり捨てて、次々と迫り来る分身を、ただひたすらに切り伏せていく。
しかし──数が多すぎる!
「物量でわたしを押し込めるつもり!? そんなことしたって無駄だよ!」
迫り来る分身に声を掛けるも、分身は無反応のまま接近してきて──
「──!?」
背中を取られた!
羽交い締めにされたわたしは、その分身を振りほどこうとして──ジップの囁きが耳に届く。
「死ぬんじゃないぞ」
「!?」
その直後、背中に激痛が走る!
「くあっ……!」
一瞬、わたしの視界は真っ白になり平衡感覚を失う。
直後、別の分身に、正面から取り付かれた。
「な、何を──!」
さらなる激痛。
わたしは意識を失わないよう歯を食いしばる。
(なぜ、攻撃が届いた……?)
薄れゆく意識を必死に掴んで、わたしは目を開ける。
光景が逆さまに見えた。
つまり落下している?
逆さまの分身が何人も迫ってきた。
腕を取られる。
攻撃をこれ以上受けたら──負ける。
「広域雷撃!」
ほぼ無意識に魔法を発現させて、目前に迫る分身達を打ち落とす。
だがその分身の向こうには、さらなる分身が群をなしている!
(あり得ない……!)
このわたしを──
──魔人たるわたしを、こうも簡単に追い詰めるなんて!
これが固有魔法だというのなら、魔人の魔法をも超えている!
そもそもどうやって魔法無効化を──
「──っ!」
津波のように迫り来る分身達が、再びわたしに取り付いてくる!
わたしは必死に分身を引き離した直後、分身が爆発四散した!
「自爆!?」
その光景を見た直後、わたしは地面に打ち付けられる。
「くぅ……!」
激突の衝撃に呻くも、わたしは理解する。
このダメージは、自爆によるものだと。
自爆自体は魔法であったとしても、その爆発エネルギーは物理攻撃だ。取り付かれて自爆されては魔法無効化も意味がない。
「な、なんて無茶苦茶な戦法を──!」
まさか、分身の数に任せて自爆してくるなんて!
予想だにしない戦法だけど──わたしにも隙はあった。
固有魔法を持っているとはいえ、相手はどうせ人間だと思っていた。
だから、物理攻撃を当てられるなんて思いも寄らなかったのだ。
「防御結界!」
わたしは地を這いながら防御結界を展開するも、すでに分身達に取り囲まれている。
起き上がれないわたしを見下ろして、ジップが言った。
「勝敗は決した。投降しろ、ユーティ」
「……っ!」
徐々に視界が霞んでいき、ジップの姿が揺らいでいく。思ったよりダメージが大きい。
防御結界により、これ以上の自爆攻撃は受けないとしても、戦闘を長引かせればこちらの魔力が尽きる。
それに、もはやわたしが魔人であることは明白だろう。であるならば──
「──飛翔!」
「まだ抵抗する気か!?」
わたしは、渾身の力で飛翔魔法を発現する。
分身達を薙ぎ倒し、森の中を低空飛行して向かうその先に──レベッカ達の姿が見えた!
「止まれユーティ!」
レベッカ達の周囲に結界を展開するのは、ジップの本体なのか分身なのかは分からない。
だけどわたしの狙いは──ジップじゃない!
「そんな結界、紙切れ同然!」
わたしはレイピアを構えて結界に突貫し、その勢いのまま結界を打ち砕く。
「ユーティ!」
取り付こうとするジップを薙ぎ払うと同時、わたしは転移魔法を発現させる。
「えっ!?」「なっ!?」
レニとレベッカの声が聞こえてくるが、遅い!
二人の体が光った次の瞬間には、二人は掻き消えていた。
「ユーティ! あいつらに何をした!?」
迫り来る分身達の攻撃を躱して、わたしは告げる。
「あの二人を助けたいのなら、上層に来なさい」
「お前!?」
「わたしも上層で、待ってるよ」
そうして、怒りを露わに攻撃してくるジップをいなしてから、わたしは上層へと転移した。
6
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる