上 下
59 / 69

第59話 こんなときになんだよ!

しおりを挟む
身体強化コールプス・フォンフィルマーティオ!」

 ジップオレは、ユーティの激しい剣戟に攻められながらも、かろうじて魔法を発現させる。

 すると体の動きが一段と加速して、それでようやくユーティの動きを捉えることが出来た──と思った矢先。

「──!?」

 ユーティの動きがさらに早くなる!

「魔法を使うなら、もっとスピードをあげるよ!」

「冗談だろ!?」

 もはや、ユーティが操る切っ先が無数に見える!

 これでは身体強化しても追いつけない! 斬りつけられるぞ!?

防御結界ディフェンシオ・オービチェ!」

 身体強化を解除して物理結界を展開するも、一気にヒビが入る……!

 まるで、機銃掃射でもされているかのようだ! レイピアの突きに過ぎないというのに!

 ダンジョン都市最高レベル冒険者が張り巡らす結界が、ガラスのように砕け散る!

「──っ! 多重展開ムールティ・インストゥルーエ!」

 防御結界を幾重にも重ね掛けする。だがそれでもダメだ。強度自体は変わらないから、次々と打ち砕かれて結果は変わらない!

 これでは防戦一方だぞ……!?

 多重展開した結界で剣戟を防ぎ、それでも突破してくる切っ先をかろうじて避けてはいるが、避けられるのは偶然に近い! この状況では攻撃がまったく出来ないし、魔法を防御に全振りしているから攻撃魔法も使えない!

 だがここで残機を使うわけには……!

 しかしユーティが、何かしらの固有魔法を使っているのなら、こちらもそれで対抗しないと勝ち目がないぞ!?

 っていうか前人未踏と謳われたレベル64の冒険者を、こうもたやすく追い詰めるとかどんな固有魔法だよ! 剣技系の魔法なのか!?

「ぐっ……!」

 しかし推測をする暇さえ与えられない! ユーティの突きが右腕をかすめて血しぶきが飛んだ!

 もうこうなったら残機を出すしかないか!?

 ──と、そこに『声』が飛び込んでくる。

(おい本体! まずい状況になった!)

 実家に置いてきた準本体!? こんなときになんだよ!

(レニに正体がバレた!)

「はぁ!?」

 思わず驚きの声を上げるオレに、ユーティが怪訝な表情になるも、攻撃の手は緩めてくれない。

(例によって、朝っぱらからベッドに潜り込んできたと思ったら『あなた誰!?』って大騒ぎだ!)

 なんでだよ!? 本体オレ準本体お前に違いなんてないんだぞ!? それこそ遺伝子レベルで!!

(お前に分からないことがオレに分かるわけないだろ! とにかくバレて、いま実家で大騒ぎだ!)

 こっちはそれどころじゃないんだよ! なんとかしろよ!?

(なんとかと言われてもな! さらにギルドまで動き出してる!)

 だからなんでだよ!?

(お前らが戦ってるからだよ! カリンに魔力を感知されたんだ!)

 カリンの固有魔法か!?

 とてつもない索敵が可能なカリンなら、オレやユーティが使っている魔力だって当然感知するだろう。まさか早朝から稼働しているとは思わなかったが──都市防衛の要という話だったし、カリンの固有魔法は、24時間365日常時発現しているのかもしれない。

 だとしたら、カリンを叩き起こしてしまったな!?

(冗談いってる場合か!)

 冗談でも言ってなくちゃやってられ──

「──くっ!」

 一瞬の隙を突かれて、オレは足元を払われる。

 そうして体勢を崩して、地べたに転がってしまった。

 慌てて起き上がろうとするも、上体を起こしたところで剣を突きつけられる。

「わたしの勝ち、だね」

「……マジかよ」

 勝利に喜ぶ様子もなく言ってくるユーティを見て、オレは愕然とした。

 決して、奢っていたつもりはない。

 さらにこの戦闘で気を抜いていたわけでもない。

 だというのにユーティの戦闘能力は圧倒的だった。

「レベル29というのは……嘘だったのか?」

 オレがレベルを低く設定されているように、ユーティも同じなのだろうかと思ったが、彼女は首を横に振る。

「ううん、レベルは本当。ただわたしは、レベル上げに興味がなかっただけ」

 レベル上げに興味がなくても29に到達しているだなんて、そのポテンシャルは計り知れないな。

 そんなことを考えていたらユーティが話を続ける。

「これで、ダンジョン上層にわたしを連れて行く理由は分かったでしょう?」

 確かに、これほどの戦力ならば、オレとパーティを組んでも遜色ない──どころか、是が非にでも一緒に来てほしいが……

 だからオレは、素朴な疑問を口にする。

「けどお前、食料の調達はどうするつもり──」

 オレが言いかけたところで、森の向こうに気配を感じて言葉を止める。

 まさか、もうギルドの連中が到着したのか?

 気配のするほうへと視線を送ると、果たしてそこにはミュラの姿が現れる。

「都市内での戦闘行為は厳禁です。これはどういうことですか?」

 さらに樹々の合間からは、警備隊十数名も現れた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...