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第58話 禁忌の言葉
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その人影は、朝靄のせいでハッキリとは見えないが、声は間違いなくユーティのものだった。
そしてあちらはジップだと分かっているようだから、オレは観念して近づいていく。
「ど、どうしたんだユーティ? 朝っぱらからこんな場所で……」
オレの思惑を悟られないよう、当たり障りのない挨拶をしてみたが、どうやら無駄だったらしい。
「あなたを待っていたんだよ、ジップ」
「えっと……オレを待っていたとは?」
「上層を目指して、これからダンジョン攻略を始めるんでしょ?」
「………………」
レベッカといいユーティといい、この娘っ子たちはなんだって、こうもたやすくオレの思惑を言い当てるのか……
もしかして、オレって分かりやすいのか?
だからオレは、半ば観念しながらも言った。
「だとしても、だ。ユーティがここにいる理由にはなっていないぞ?」
「理由にはなってるよ」
「どういう理由だ?」
「わたしも一緒に行くのだから」
「………………」
う、う~ん……だとは思ったけどな……
しかし当然、ユーティを連れていくわけにはいかない。
もちろん仲間の一人でもいれば、どれほど気持ちが楽になるかは分かっている。
しかしこれから向かうのはダンジョン上層だ。多頭雷龍のような魔獣と普通にエンカウントするような世界なのだ。
はっきり言って、レベル29のユーティでは手も足も出ないだろう。レベッカやレニよりは戦えるとしても。
だからオレは、遠回しに言ってみる。
「オレが、なんだってこんな夜逃げみたいな真似をしているのか、その意図のほうを汲んでほしかったんだがな」
「低レベルの仲間を切り捨てるためでしょう?」
「切り捨てるんじゃない。危険に晒さないためだ。あと悪いけど、オレからしたらお前だって低レベルだからな」
冒険証が示すレベルでは、こちらの方が遙かに低いレベルではある。しかし多頭雷龍が出現した現場にいたユーティなら、オレがあれを討伐したことくらい分かっているだろう。
だからこの嫌みでユーティが怒って、それによってオレを見放してくれたらいいと考えたものの、ユーティは不敵に笑うだけだった。
「ふふ……レベルだけで実力を判断してたら、足元を掬われるよ?」
妙に自信ありげなユーティに、オレは眉をひそめる。
確かに、戦闘はレベルがすべてではない。駆け引きや読み合いは元より、魔法の使用順序や工夫なんかで戦況は大きく変わる。
とはいえ、やはりレベル64と29では、その基本能力が違いすぎて戦闘にすらならない。大人と子供が、正面切って喧嘩するようなものだ。
「別にオレは、レベルだけで判断しているわけじゃない。だがそれでも、お前とオレでは実力差がありすぎるんだよ」
「ふぅん? それは、ジップがわたしに敵わないって意味かな?」
そう言われて、オレは首を傾げるしかなかった。
ユーティは、オレを挑発して冷静さを失わせ、そのどさくさに紛れて付いてくるつもりなのだろうか? だとしたら計画がずさん過ぎる。
だからオレは、ため息交じりに言った。
「逆に決まってるだろ。今のユーティじゃ、どう足掻いてもオレには──!?」
──見えなかった。
いくら臨戦態勢ではなかったとはいえ、レベル64のオレが、ユーティの太刀筋を見失っていた、完全に。
気づけばオレの喉元に、ユーティのレイピアが当てられていたのだ。
「くっ──!?」
オレは、大慌てで後方に飛び退く。
ユーティを見れば、レイピアを利き手に下げたまま涼しい顔をしていた。
「ならこうしましょう、ジップ。ここでわたしを倒したなら、わたしを連れて行かなくてもいいよ。でもわたしに負けたら、観念してわたしを連れて行きなさい」
な……なんだ……?
なんだこのプレッシャーは……!?
オレは大きく目を見開く。
全身は総毛立ち、汗が一気に噴き出した。沸騰したかのように血流も脈打っている。身の毛がよだつとはまさにこのことだろう。
多頭雷龍と対峙したときだって、こんなに臆することはなかったぞ……!?
「お前……まさか……」
オレは身構えながら、禁忌の言葉を口にする。
「固有魔法持ちか……?」
そうとしか考えられなかった。
オレがそうであったように、そしてギルドのカリンが隠していたように、この都市にまだ固有魔法持ちがいたのであれば、ユーティの自信も頷ける。
しかしユーティは、肩を少しあげて戯けてみせるだけだ。
「さぁ、どうかな? わたしを連れて行くなら教えてあげるよ」
「……如何にお前が強くても、そのつもりはない」
そもそも誰かを連れて行けば補給の問題が再燃するのだ。ユーティの固有魔法がどれほどのものだろうと、食料無しにダンジョンを踏破できるとは思えない。
そんなオレに、しかしユーティは余裕の笑みを浮かべる。
「なら交渉決裂だね。そうそう、分かってると思うけど派手な魔法は禁止だよ? みんなに気づかれたら面倒だし」
そうしてユーティはレイピアを構え──
──その直後、一気に突貫してくる!
「!!」
その突きは躱すので精一杯だった!
そしてあちらはジップだと分かっているようだから、オレは観念して近づいていく。
「ど、どうしたんだユーティ? 朝っぱらからこんな場所で……」
オレの思惑を悟られないよう、当たり障りのない挨拶をしてみたが、どうやら無駄だったらしい。
「あなたを待っていたんだよ、ジップ」
「えっと……オレを待っていたとは?」
「上層を目指して、これからダンジョン攻略を始めるんでしょ?」
「………………」
レベッカといいユーティといい、この娘っ子たちはなんだって、こうもたやすくオレの思惑を言い当てるのか……
もしかして、オレって分かりやすいのか?
だからオレは、半ば観念しながらも言った。
「だとしても、だ。ユーティがここにいる理由にはなっていないぞ?」
「理由にはなってるよ」
「どういう理由だ?」
「わたしも一緒に行くのだから」
「………………」
う、う~ん……だとは思ったけどな……
しかし当然、ユーティを連れていくわけにはいかない。
もちろん仲間の一人でもいれば、どれほど気持ちが楽になるかは分かっている。
しかしこれから向かうのはダンジョン上層だ。多頭雷龍のような魔獣と普通にエンカウントするような世界なのだ。
はっきり言って、レベル29のユーティでは手も足も出ないだろう。レベッカやレニよりは戦えるとしても。
だからオレは、遠回しに言ってみる。
「オレが、なんだってこんな夜逃げみたいな真似をしているのか、その意図のほうを汲んでほしかったんだがな」
「低レベルの仲間を切り捨てるためでしょう?」
「切り捨てるんじゃない。危険に晒さないためだ。あと悪いけど、オレからしたらお前だって低レベルだからな」
冒険証が示すレベルでは、こちらの方が遙かに低いレベルではある。しかし多頭雷龍が出現した現場にいたユーティなら、オレがあれを討伐したことくらい分かっているだろう。
だからこの嫌みでユーティが怒って、それによってオレを見放してくれたらいいと考えたものの、ユーティは不敵に笑うだけだった。
「ふふ……レベルだけで実力を判断してたら、足元を掬われるよ?」
妙に自信ありげなユーティに、オレは眉をひそめる。
確かに、戦闘はレベルがすべてではない。駆け引きや読み合いは元より、魔法の使用順序や工夫なんかで戦況は大きく変わる。
とはいえ、やはりレベル64と29では、その基本能力が違いすぎて戦闘にすらならない。大人と子供が、正面切って喧嘩するようなものだ。
「別にオレは、レベルだけで判断しているわけじゃない。だがそれでも、お前とオレでは実力差がありすぎるんだよ」
「ふぅん? それは、ジップがわたしに敵わないって意味かな?」
そう言われて、オレは首を傾げるしかなかった。
ユーティは、オレを挑発して冷静さを失わせ、そのどさくさに紛れて付いてくるつもりなのだろうか? だとしたら計画がずさん過ぎる。
だからオレは、ため息交じりに言った。
「逆に決まってるだろ。今のユーティじゃ、どう足掻いてもオレには──!?」
──見えなかった。
いくら臨戦態勢ではなかったとはいえ、レベル64のオレが、ユーティの太刀筋を見失っていた、完全に。
気づけばオレの喉元に、ユーティのレイピアが当てられていたのだ。
「くっ──!?」
オレは、大慌てで後方に飛び退く。
ユーティを見れば、レイピアを利き手に下げたまま涼しい顔をしていた。
「ならこうしましょう、ジップ。ここでわたしを倒したなら、わたしを連れて行かなくてもいいよ。でもわたしに負けたら、観念してわたしを連れて行きなさい」
な……なんだ……?
なんだこのプレッシャーは……!?
オレは大きく目を見開く。
全身は総毛立ち、汗が一気に噴き出した。沸騰したかのように血流も脈打っている。身の毛がよだつとはまさにこのことだろう。
多頭雷龍と対峙したときだって、こんなに臆することはなかったぞ……!?
「お前……まさか……」
オレは身構えながら、禁忌の言葉を口にする。
「固有魔法持ちか……?」
そうとしか考えられなかった。
オレがそうであったように、そしてギルドのカリンが隠していたように、この都市にまだ固有魔法持ちがいたのであれば、ユーティの自信も頷ける。
しかしユーティは、肩を少しあげて戯けてみせるだけだ。
「さぁ、どうかな? わたしを連れて行くなら教えてあげるよ」
「……如何にお前が強くても、そのつもりはない」
そもそも誰かを連れて行けば補給の問題が再燃するのだ。ユーティの固有魔法がどれほどのものだろうと、食料無しにダンジョンを踏破できるとは思えない。
そんなオレに、しかしユーティは余裕の笑みを浮かべる。
「なら交渉決裂だね。そうそう、分かってると思うけど派手な魔法は禁止だよ? みんなに気づかれたら面倒だし」
そうしてユーティはレイピアを構え──
──その直後、一気に突貫してくる!
「!!」
その突きは躱すので精一杯だった!
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