58 / 69
第58話 禁忌の言葉
しおりを挟む
その人影は、朝靄のせいでハッキリとは見えないが、声は間違いなくユーティのものだった。
そしてあちらはジップだと分かっているようだから、オレは観念して近づいていく。
「ど、どうしたんだユーティ? 朝っぱらからこんな場所で……」
オレの思惑を悟られないよう、当たり障りのない挨拶をしてみたが、どうやら無駄だったらしい。
「あなたを待っていたんだよ、ジップ」
「えっと……オレを待っていたとは?」
「上層を目指して、これからダンジョン攻略を始めるんでしょ?」
「………………」
レベッカといいユーティといい、この娘っ子たちはなんだって、こうもたやすくオレの思惑を言い当てるのか……
もしかして、オレって分かりやすいのか?
だからオレは、半ば観念しながらも言った。
「だとしても、だ。ユーティがここにいる理由にはなっていないぞ?」
「理由にはなってるよ」
「どういう理由だ?」
「わたしも一緒に行くのだから」
「………………」
う、う~ん……だとは思ったけどな……
しかし当然、ユーティを連れていくわけにはいかない。
もちろん仲間の一人でもいれば、どれほど気持ちが楽になるかは分かっている。
しかしこれから向かうのはダンジョン上層だ。多頭雷龍のような魔獣と普通にエンカウントするような世界なのだ。
はっきり言って、レベル29のユーティでは手も足も出ないだろう。レベッカやレニよりは戦えるとしても。
だからオレは、遠回しに言ってみる。
「オレが、なんだってこんな夜逃げみたいな真似をしているのか、その意図のほうを汲んでほしかったんだがな」
「低レベルの仲間を切り捨てるためでしょう?」
「切り捨てるんじゃない。危険に晒さないためだ。あと悪いけど、オレからしたらお前だって低レベルだからな」
冒険証が示すレベルでは、こちらの方が遙かに低いレベルではある。しかし多頭雷龍が出現した現場にいたユーティなら、オレがあれを討伐したことくらい分かっているだろう。
だからこの嫌みでユーティが怒って、それによってオレを見放してくれたらいいと考えたものの、ユーティは不敵に笑うだけだった。
「ふふ……レベルだけで実力を判断してたら、足元を掬われるよ?」
妙に自信ありげなユーティに、オレは眉をひそめる。
確かに、戦闘はレベルがすべてではない。駆け引きや読み合いは元より、魔法の使用順序や工夫なんかで戦況は大きく変わる。
とはいえ、やはりレベル64と29では、その基本能力が違いすぎて戦闘にすらならない。大人と子供が、正面切って喧嘩するようなものだ。
「別にオレは、レベルだけで判断しているわけじゃない。だがそれでも、お前とオレでは実力差がありすぎるんだよ」
「ふぅん? それは、ジップがわたしに敵わないって意味かな?」
そう言われて、オレは首を傾げるしかなかった。
ユーティは、オレを挑発して冷静さを失わせ、そのどさくさに紛れて付いてくるつもりなのだろうか? だとしたら計画がずさん過ぎる。
だからオレは、ため息交じりに言った。
「逆に決まってるだろ。今のユーティじゃ、どう足掻いてもオレには──!?」
──見えなかった。
いくら臨戦態勢ではなかったとはいえ、レベル64のオレが、ユーティの太刀筋を見失っていた、完全に。
気づけばオレの喉元に、ユーティのレイピアが当てられていたのだ。
「くっ──!?」
オレは、大慌てで後方に飛び退く。
ユーティを見れば、レイピアを利き手に下げたまま涼しい顔をしていた。
「ならこうしましょう、ジップ。ここでわたしを倒したなら、わたしを連れて行かなくてもいいよ。でもわたしに負けたら、観念してわたしを連れて行きなさい」
な……なんだ……?
なんだこのプレッシャーは……!?
オレは大きく目を見開く。
全身は総毛立ち、汗が一気に噴き出した。沸騰したかのように血流も脈打っている。身の毛がよだつとはまさにこのことだろう。
多頭雷龍と対峙したときだって、こんなに臆することはなかったぞ……!?
「お前……まさか……」
オレは身構えながら、禁忌の言葉を口にする。
「固有魔法持ちか……?」
そうとしか考えられなかった。
オレがそうであったように、そしてギルドのカリンが隠していたように、この都市にまだ固有魔法持ちがいたのであれば、ユーティの自信も頷ける。
しかしユーティは、肩を少しあげて戯けてみせるだけだ。
「さぁ、どうかな? わたしを連れて行くなら教えてあげるよ」
「……如何にお前が強くても、そのつもりはない」
そもそも誰かを連れて行けば補給の問題が再燃するのだ。ユーティの固有魔法がどれほどのものだろうと、食料無しにダンジョンを踏破できるとは思えない。
そんなオレに、しかしユーティは余裕の笑みを浮かべる。
「なら交渉決裂だね。そうそう、分かってると思うけど派手な魔法は禁止だよ? みんなに気づかれたら面倒だし」
そうしてユーティはレイピアを構え──
──その直後、一気に突貫してくる!
「!!」
その突きは躱すので精一杯だった!
そしてあちらはジップだと分かっているようだから、オレは観念して近づいていく。
「ど、どうしたんだユーティ? 朝っぱらからこんな場所で……」
オレの思惑を悟られないよう、当たり障りのない挨拶をしてみたが、どうやら無駄だったらしい。
「あなたを待っていたんだよ、ジップ」
「えっと……オレを待っていたとは?」
「上層を目指して、これからダンジョン攻略を始めるんでしょ?」
「………………」
レベッカといいユーティといい、この娘っ子たちはなんだって、こうもたやすくオレの思惑を言い当てるのか……
もしかして、オレって分かりやすいのか?
だからオレは、半ば観念しながらも言った。
「だとしても、だ。ユーティがここにいる理由にはなっていないぞ?」
「理由にはなってるよ」
「どういう理由だ?」
「わたしも一緒に行くのだから」
「………………」
う、う~ん……だとは思ったけどな……
しかし当然、ユーティを連れていくわけにはいかない。
もちろん仲間の一人でもいれば、どれほど気持ちが楽になるかは分かっている。
しかしこれから向かうのはダンジョン上層だ。多頭雷龍のような魔獣と普通にエンカウントするような世界なのだ。
はっきり言って、レベル29のユーティでは手も足も出ないだろう。レベッカやレニよりは戦えるとしても。
だからオレは、遠回しに言ってみる。
「オレが、なんだってこんな夜逃げみたいな真似をしているのか、その意図のほうを汲んでほしかったんだがな」
「低レベルの仲間を切り捨てるためでしょう?」
「切り捨てるんじゃない。危険に晒さないためだ。あと悪いけど、オレからしたらお前だって低レベルだからな」
冒険証が示すレベルでは、こちらの方が遙かに低いレベルではある。しかし多頭雷龍が出現した現場にいたユーティなら、オレがあれを討伐したことくらい分かっているだろう。
だからこの嫌みでユーティが怒って、それによってオレを見放してくれたらいいと考えたものの、ユーティは不敵に笑うだけだった。
「ふふ……レベルだけで実力を判断してたら、足元を掬われるよ?」
妙に自信ありげなユーティに、オレは眉をひそめる。
確かに、戦闘はレベルがすべてではない。駆け引きや読み合いは元より、魔法の使用順序や工夫なんかで戦況は大きく変わる。
とはいえ、やはりレベル64と29では、その基本能力が違いすぎて戦闘にすらならない。大人と子供が、正面切って喧嘩するようなものだ。
「別にオレは、レベルだけで判断しているわけじゃない。だがそれでも、お前とオレでは実力差がありすぎるんだよ」
「ふぅん? それは、ジップがわたしに敵わないって意味かな?」
そう言われて、オレは首を傾げるしかなかった。
ユーティは、オレを挑発して冷静さを失わせ、そのどさくさに紛れて付いてくるつもりなのだろうか? だとしたら計画がずさん過ぎる。
だからオレは、ため息交じりに言った。
「逆に決まってるだろ。今のユーティじゃ、どう足掻いてもオレには──!?」
──見えなかった。
いくら臨戦態勢ではなかったとはいえ、レベル64のオレが、ユーティの太刀筋を見失っていた、完全に。
気づけばオレの喉元に、ユーティのレイピアが当てられていたのだ。
「くっ──!?」
オレは、大慌てで後方に飛び退く。
ユーティを見れば、レイピアを利き手に下げたまま涼しい顔をしていた。
「ならこうしましょう、ジップ。ここでわたしを倒したなら、わたしを連れて行かなくてもいいよ。でもわたしに負けたら、観念してわたしを連れて行きなさい」
な……なんだ……?
なんだこのプレッシャーは……!?
オレは大きく目を見開く。
全身は総毛立ち、汗が一気に噴き出した。沸騰したかのように血流も脈打っている。身の毛がよだつとはまさにこのことだろう。
多頭雷龍と対峙したときだって、こんなに臆することはなかったぞ……!?
「お前……まさか……」
オレは身構えながら、禁忌の言葉を口にする。
「固有魔法持ちか……?」
そうとしか考えられなかった。
オレがそうであったように、そしてギルドのカリンが隠していたように、この都市にまだ固有魔法持ちがいたのであれば、ユーティの自信も頷ける。
しかしユーティは、肩を少しあげて戯けてみせるだけだ。
「さぁ、どうかな? わたしを連れて行くなら教えてあげるよ」
「……如何にお前が強くても、そのつもりはない」
そもそも誰かを連れて行けば補給の問題が再燃するのだ。ユーティの固有魔法がどれほどのものだろうと、食料無しにダンジョンを踏破できるとは思えない。
そんなオレに、しかしユーティは余裕の笑みを浮かべる。
「なら交渉決裂だね。そうそう、分かってると思うけど派手な魔法は禁止だよ? みんなに気づかれたら面倒だし」
そうしてユーティはレイピアを構え──
──その直後、一気に突貫してくる!
「!!」
その突きは躱すので精一杯だった!
6
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説

テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる
伊藤すくす
ファンタジー
テクノブレイクで死んでしまった35才独身のおっさん、カンダ・ハジメ。自分が異世界に飛ばされたと思ったが、実はそこは死後の世界だった!その死後の世界では、死んだ時の幸福度によって天国か地獄に行くかが決められる。最高に気持ちいい死に方で死んだハジメは過去最高の幸福度を叩き出してしまい、天国側と敵対する地獄側を倒すために一緒に戦ってくれと頼まれ―― そんなこんなで天国と地獄の戦に巻き込まれたハジメのセカンドライフが始まる。
小説家になろうでも同じ内容で投稿してます!
https://ncode.syosetu.com/n8610es/
異世界コンビニ
榎木ユウ
ファンタジー
書籍化していただきました「異世界コンビニ」のオマケです。
なろうさん連載当時、拍手に掲載していたものなので1話1話は短いです。
書籍と連載で異なる部分は割愛・改稿しております。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

「異端者だ」と追放された三十路男、実は転生最強【魔術師】!〜魔術の廃れた千年後を、美少女教え子とともにやり直す〜
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
アデル・オルラド、30歳。
彼は、22歳の頃に、前世の記憶を取り戻した。
約1000年前、アデルは『魔術学』の権威ある教授だったのだ。
現代において『魔術』は完全に廃れていた。
『魔術』とは、魔術式や魔術サークルなどを駆使して発動する魔法の一種だ。
血筋が大きく影響する『属性魔法』とは違い、その構造式や紋様を正確に理解していれば、所持魔力がなくとも使うことができる。
そのため1000年前においては、日常生活から戦闘、ものづくりまで広く使われていたのだが……
どういうわけか現代では、学問として指導されることもなくなり、『劣化魔法』『雑用魔法』扱い。
『属性魔法』のみが隆盛を迎えていた。
そんななか、記憶を取り戻したアデルは1000年前の『喪失魔術』を活かして、一度は王立第一魔法学校の教授にまで上り詰める。
しかし、『魔術学』の隆盛を恐れた他の教授の陰謀により、地位を追われ、王都をも追放されてしまったのだ。
「今後、魔術を使えば、お前の知人にも危害が及ぶ」
と脅されて、魔術の使用も禁じられたアデル。
所持魔力は0。
属性魔法をいっさい使えない彼に、なかなか働き口は見つからず、田舎の学校でブラック労働に従事していたが……
低級ダンジョンに突如として現れた高ランクの魔物・ヒュドラを倒すため、久方ぶりに魔術を使ったところ、人生の歯車が再び動き出した。
かつて研究室生として指導をしていた生徒、リーナ・リナルディが、彼のもとを訪れたのだ。
「ずっと探しておりました、先生」
追放から五年。
成長した彼女は、王立魔法学校の理事にまでなっていた。
そして、彼女は言う。
「先生を連れ戻しに来ました。あなたには再度、王立第一魔法学校の講師になっていただきたいのです」
、と。
こうしてアデルは今度こそ『魔術学』を再興するために、再び魔法学校へと舞い戻る。
次々と成果を上げて成りあがるアデル。
前回彼を追放した『属性魔法』の教授陣は、再びアデルを貶めんと画策するが……
むしろ『魔術学』の有用性と、アデルの実力を世に知らしめることとなるのであった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる