平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也

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第57話 レニとレベッカは任せたぞ

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「まさか、言い当てられるとは思わなかったな……」

 レベッカとレニに、ジップオレの思惑を言い当てられたその翌朝。

 まだ薄暗い部屋の中で荷造りをしながら、オレは苦笑するしかなかった。

 まぁレニのほうは、レベッカから聞いて初めて気づいたのかもしれないが、それでもああやって止めに来てくれたことは正直嬉しかった。

 だが昨夜の時点で、すでにプランは固まっていたのだ。しかし決心が付かなかった。

 だから逆に、二人が来てくれたことでオレの決心は固まった。

 レニとレベッカを、魔人の餌食になんてさせられない。

 いや二人だけじゃない。最近ずっとパーティを組んでくれていたゲオルクもユーティも、そしてギルドスタッフも同級生も、さらにはこの街の人達全員が、魔人の手に掛かるなんてあってはならないのだ。

 多頭雷龍と鉢合わせるまでは、オレは暢気に構えていた。

 この都市さえあれば、オレは一生、ここでこのまま暮らしていけるのではないかと。

 しかし多頭雷龍と戦ったことでその考えも変わる。

 この都市の市民は、つねに崖っぷちに立たされているのだと痛感したから。

 だとしたら、ここで余生を過ごすかのような生活なんて出来るわけがない。そんな生活、いつかは破綻する。しかもその破綻は、オレが思っている以上に早いかもしれない。もしかしたら明日かもしれないのだ。

 そう考えるとゾッとする。

 そもそもダンジョン都市は、日本に比べたら閉塞感があるのは否めない。何しろ人口は一万人程度だし、四方は壁に囲まれているし空もない。

 他の都市に行きたくたっておいそれと行くことも出来ない。だから旅行なんて夢のまた夢だ。

 しかしよくよく考えてみれば、だ。

 日本で生活していた頃と、このダンジョン都市での生活は、実はあまり変わらなかったんだよな。

 日本でも会社と自宅の往復をするだけの生活で、旅行なんて久しくしたこともない。壁がなく空はあっても、下手したらダンジョン都市以上に閉塞した暮らしだった。

 その点この都市は、物理的に閉塞していてもみんながよくしてくれる。顔見知りも多いし、顔を知らなくたって『同じ釜の飯を食う仲』という共通意識があるから、いつだって気のいい連中だった。

 それはもしかしたら、魔族という強大な敵が身近にいるから、そういう仲間意識が強固になったのかもしれない。市民全員が『明日をも知れぬ身』だからこそ、他人を出し抜くことより協力することを選んだのかもしれない。

 つまりオレにとっては、日本で暮らすよりよほど充実していたのだ、このダンジョン都市での生活は。

 そんな都市の連中を、レニやレベッカを、オレのせいで危険に晒すわけにはいかない。少しでも、その可能性があるだけでもダメなのだ。

 だからオレは、単身でもダンジョン内で生きていけるプランを考えて、そうして昨夜、その実行を決意する。

 そうなったら善は急げだ。その決意が揺らぐ前に行動しなければならない。

「それじゃあ……行ってくる。なるべく早く帰るつもりだが、レニとレベッカは任せたぞ」

「ああ、こっちは任せとけ」

 自室内に生成した準本体にオレが挨拶すると、準本体は特に気負った様子もなく答えてきた。

 そうしてオレは、自室に準本体を残して家を出る。

 オレのプランはこうだった。

 ダンジョンで上層を目指すにあたり、オレが最も注意しなければならないのは、自分自身のメンタル面だ。

 戦闘と孤独の果てに精神崩壊して廃人になってしまっては元も子もない。

 しかし人間という生き物は、どんな過酷な状況であっても、少しでも希望があれば生きていけるという──まぁ生前に見たノンフィクション映画の受け売りではあるのだが。

 その映画では、理不尽にも世界大戦で捕虜となった人達の話だった。それでも、「ここを出たらオレは旨い料理を振る舞うんだ」とか「かみさんと子供と再会するんだ」とか、そういう希望を最後まで持っていた捕虜だけが生き残ったという。

 そしてそうでない捕虜は、全員が死んでしまった。

 だとしたら、監獄同然のダンジョン内で、オレもそのノンフィクションに倣う必要があると思ったのだ。

 つまりオレの希望とは、この都市のみんなであり、レニでありレベッカだ。

 魔人に対抗できる力を身につけたなら、この都市に帰って来られる──それがオレの唯一の希望なのだ。

 だから絶対に、都市追放の憂き目に遭うのは避けたかった。都市追放されては、その希望さえ潰えてしまうのだから。

 しかし自主的に出て行けば、「いつかは都市に戻ってこられる」という希望を持ち続けることが出来るだろう。

 まぁ……チートを授かっただけの凡人であるオレが、戦時中の捕虜のように屈強な精神があるのかはだいぶ疑わしいのだが。

 だからオレは準本体を都市に残すことにした。

 本当は、固有魔法で生み出された準本体を都市に残すことは、最後まで迷っていたのだが──魔人が固有魔法の発生源なんて特定できる能力があったならまずいことになるし。

 だが昨夜のレニとレベッカの一件もあり、準本体を残すことにした。

 なぜならデメリットをメリットが上回ると思ったからだ。

 そのメリットとは二つあって、まず一つ目はオレの精神面が支えられること。 準本体と経験共有することで、孤独感が薄まることだった。

 ダンジョンで寂しくなったら準本体の感覚を共有すれば、レニやレベッカを身近に感じられる。それは想像の感覚ではなくて、ありありとしたリアリティを伴う感覚なのだ。

 それがあれば、意志薄弱なオレでもきっと頑張れるはずだ。

 メリット二つ目は──こちらのほうが主目的になるが、準本体が普段通りに二人と接することで、オレの不在を二人に気づかれずに済むことだ。

 思いっきり嘘をついてしまうのは心苦しいのだが……こればかりは仕方がない。オレを追いかけてこようものなら、二人は間違いなく死んでしまうのだから。

 いずれにしてもオレが無事に帰ってきたらいいだけの話だ。もちろんそのときは、嘘をついたことを謝るけれども。

 とはいえ、だ。

 この先しばらくは、武者修行でもするかのように生活しなければならないと思うと気が重い。

 だからオレは、ダンジョンに向かう足がどうしても重くなるのだった。

 その道中の森を歩きながら、オレは気晴らしもかねて愚痴る。

「はぁ……怠け者でもラクして最強になれるって聞いたから転生したのに……いつしか天寿を全うして、あの女神様に再会したときには文句の一つでも言ってやりたいな……」

 といっても、あれから十八年も経っていると、もはやその女神様の顔すら覚えていないのだが。

 そんな独り言をいいながら、ダンジョンへと続く森の中を歩いていたら──向こうに人影が見えた。

 冒険者か? まだダンジョンへ通じる門は開いていないというのに……

 しかしまずい。今オレを見られたら、あとあと面倒になるかもしれない。

 オレは慌てて引き返そうとしたところで、しかしその人影に声を掛けられる。

「ジップ、いよいよ行くんだね」

 その声には聞き覚えがあった。

 だからオレは思わず目を見張っていた。

「え……ユーティか?」

 果たして、オレの行く先にはユーティが立っていた。
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