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第55話 本体が飢えてきたら
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都市追放シミュレーション──などという非常に気が滅入る思考を始めるにあたり、大きな勘違いをしていたことを、ジップはまず書き出してみた。
それは補給の問題だ。
これまでオレは、本体がフリストル市にいる状態で、残機だけをダンジョンに派遣するという前提ですべてを考えていたのだ。
無意識だったから最近まで気づかなかったのだが、ダンジョン探索に本体が出向くことを前提にしてみれば、補給については大きな問題ではなかった。
なぜなら、本体が飢えてきたら死ねばいいのだから。
そうすれば、新しい体と交換できる。
残機は万全の状態で保管されているから、新しい体に交換すれば飢餓状態はなくなる。ちなみに水については、ダンジョンにもそこそこ流れているから確保しやすい。となると人間の体は、水だけでも一週間前後は生きていられるらしいから、だったら週イチで死ねばいい。
そうすればオレは、補給無しでも単身で、ダンジョンを突き進める。
さらにオレは、つい先日、自爆魔法を開発し終えたばかりだ。っていうか自爆魔法を作ったからこの事実に気づいたわけだが……
いや分かってる。
これはあまりに命を軽んじているし、倫理的にも最悪の手であることは分かっている。いくら自分の命だとしても。
っていうかオレだって、こんな手は使いたくない。
ちょっと想像しただけでも、地獄を見ることは分かりきっているのだから。
薄暗くて閉塞感しかないダンジョン内で、たった独りで黙々と突き進み、魔獣を倒してはひたすら進み、そうして腹が減って動けなくなったら自爆するのだ。
まったくもって救いがない……まさに地獄だ。
さらにダンジョンは迷宮だから、もしかしたら一生涯出られないかもしれない。
人間、「もはやお先真っ暗」と本気で実感してしまったら精神的に死ぬという。実際には真っ暗でなくとも、そう思えてしまっただけで潰れるそうだ。
だというのに都市追放されたら、残機無限のおかげで肉体的には生きてはいられるものの……
一生独りで、ダンジョンを亡霊のように彷徨うわけだ。
もしかしたら地上に出られるかもしれないが、その可能性のほうが低いと感じた時点でオレは潰れるだろう。そもそも地上に出たら魔人が待ち構えているに違いないから、地上がゴールというわけでもなく、孤独のまま彷徨うのに変わりはない。
しかもオレは、自殺したくても出来ないのだ。
っていうか週イチで自殺するのに死ねないのだ。
「……こんなの絶対、頭が狂うだろ……」
いかに肉体を無限に生成できたとしても、オレの精神は一つしかない。本体であるオレが狂ってしまえば、残機無限も何もかもが無駄になる。
日本にいた頃、似たような状況の映画や漫画を見たっけ。無人島で何年も孤独に過ごしたり、人類が滅んだ世界で独りだけ生き残ったり……
そんな孤独で悲惨な状態を、自らの人生で体験しなくてはならないのだ。もしかしたら……老衰死するまで。
「いやいや……絶対に無理だって……オレは、チートを授かっただけの凡人なんだぞ……?」
だから、やはり都市追放だけは絶対にダメだ。
この世界で都市追放とは死刑宣告と同義なのだから。それは、チーターのオレであっても変わらない。
であれば、やはり前向きに都市残留シミュレーションをしなくてはならない。最悪の状況であったとしても、だ。
オレにとって最悪の状況は、オレが固有魔法持ちであることがバレることだ。
だがそれでも都市に残れる可能性があるとしたら、その要因は何か?
「そりゃまぁ……どう考えたってネックなのは魔人だよな」
かつての魔人が、固有魔法持ちの人間を都市ごと滅ぼしたから、吹聴や詮索が厳禁になったのだ。そして固有魔法持ちだと知れ渡った場合、本人が都市追放の憂き目にも遭う。例え強力な人間であったとしてもだ。
だから魔人をどうにかさえすれば、オレは都市に残れることになる。
例え魔人に打ち勝たなかったとしても、攻め滅ぼすには高く付くと思わせればいい。
だったら今のレベルではぜんぜんダメだ。下級魔人であったとしても、人間基準のレベルだと余裕でカンストしていて、多頭雷龍を相手取っても多少手こずる程度だというのだから、今のオレでは太刀打ちできない。
少なくとも、レベルは99でカンストさせる必要がある。
カンストさせるとなると、本体がフリストル市を起点に行動していたらダメだ。なぜならこの周辺の魔獣ではもはやレベルは上がらないのだから。
多頭雷龍とまでは言わないが、それなりに強力な魔獣を大量に倒して経験値を稼ぐ必要がある。
それを補給無しに行うとしたら──
──オレ単独で、飢えたら自爆を繰り返しながら、ダンジョン上層を目指すしかない。
「やっぱ、孤独にダンジョン探索かよ……!」
それをやりたくないからレベルを上げたいのに、レベルを上げるにはそれをやらざるを得ないというジレンマ……
もはや、食っちゃ寝しながらラクにレベルアップ出来る時代は終わったのだ。
やはり、女神様にもらったチート魔道書のキャッチコピーは誇大表現だったということか……
「どう考えてもこれは……ゲームオーバーじゃね?」
オレは、薄暗い自室の中で頭を抱えるしかないのだった。
それは補給の問題だ。
これまでオレは、本体がフリストル市にいる状態で、残機だけをダンジョンに派遣するという前提ですべてを考えていたのだ。
無意識だったから最近まで気づかなかったのだが、ダンジョン探索に本体が出向くことを前提にしてみれば、補給については大きな問題ではなかった。
なぜなら、本体が飢えてきたら死ねばいいのだから。
そうすれば、新しい体と交換できる。
残機は万全の状態で保管されているから、新しい体に交換すれば飢餓状態はなくなる。ちなみに水については、ダンジョンにもそこそこ流れているから確保しやすい。となると人間の体は、水だけでも一週間前後は生きていられるらしいから、だったら週イチで死ねばいい。
そうすればオレは、補給無しでも単身で、ダンジョンを突き進める。
さらにオレは、つい先日、自爆魔法を開発し終えたばかりだ。っていうか自爆魔法を作ったからこの事実に気づいたわけだが……
いや分かってる。
これはあまりに命を軽んじているし、倫理的にも最悪の手であることは分かっている。いくら自分の命だとしても。
っていうかオレだって、こんな手は使いたくない。
ちょっと想像しただけでも、地獄を見ることは分かりきっているのだから。
薄暗くて閉塞感しかないダンジョン内で、たった独りで黙々と突き進み、魔獣を倒してはひたすら進み、そうして腹が減って動けなくなったら自爆するのだ。
まったくもって救いがない……まさに地獄だ。
さらにダンジョンは迷宮だから、もしかしたら一生涯出られないかもしれない。
人間、「もはやお先真っ暗」と本気で実感してしまったら精神的に死ぬという。実際には真っ暗でなくとも、そう思えてしまっただけで潰れるそうだ。
だというのに都市追放されたら、残機無限のおかげで肉体的には生きてはいられるものの……
一生独りで、ダンジョンを亡霊のように彷徨うわけだ。
もしかしたら地上に出られるかもしれないが、その可能性のほうが低いと感じた時点でオレは潰れるだろう。そもそも地上に出たら魔人が待ち構えているに違いないから、地上がゴールというわけでもなく、孤独のまま彷徨うのに変わりはない。
しかもオレは、自殺したくても出来ないのだ。
っていうか週イチで自殺するのに死ねないのだ。
「……こんなの絶対、頭が狂うだろ……」
いかに肉体を無限に生成できたとしても、オレの精神は一つしかない。本体であるオレが狂ってしまえば、残機無限も何もかもが無駄になる。
日本にいた頃、似たような状況の映画や漫画を見たっけ。無人島で何年も孤独に過ごしたり、人類が滅んだ世界で独りだけ生き残ったり……
そんな孤独で悲惨な状態を、自らの人生で体験しなくてはならないのだ。もしかしたら……老衰死するまで。
「いやいや……絶対に無理だって……オレは、チートを授かっただけの凡人なんだぞ……?」
だから、やはり都市追放だけは絶対にダメだ。
この世界で都市追放とは死刑宣告と同義なのだから。それは、チーターのオレであっても変わらない。
であれば、やはり前向きに都市残留シミュレーションをしなくてはならない。最悪の状況であったとしても、だ。
オレにとって最悪の状況は、オレが固有魔法持ちであることがバレることだ。
だがそれでも都市に残れる可能性があるとしたら、その要因は何か?
「そりゃまぁ……どう考えたってネックなのは魔人だよな」
かつての魔人が、固有魔法持ちの人間を都市ごと滅ぼしたから、吹聴や詮索が厳禁になったのだ。そして固有魔法持ちだと知れ渡った場合、本人が都市追放の憂き目にも遭う。例え強力な人間であったとしてもだ。
だから魔人をどうにかさえすれば、オレは都市に残れることになる。
例え魔人に打ち勝たなかったとしても、攻め滅ぼすには高く付くと思わせればいい。
だったら今のレベルではぜんぜんダメだ。下級魔人であったとしても、人間基準のレベルだと余裕でカンストしていて、多頭雷龍を相手取っても多少手こずる程度だというのだから、今のオレでは太刀打ちできない。
少なくとも、レベルは99でカンストさせる必要がある。
カンストさせるとなると、本体がフリストル市を起点に行動していたらダメだ。なぜならこの周辺の魔獣ではもはやレベルは上がらないのだから。
多頭雷龍とまでは言わないが、それなりに強力な魔獣を大量に倒して経験値を稼ぐ必要がある。
それを補給無しに行うとしたら──
──オレ単独で、飢えたら自爆を繰り返しながら、ダンジョン上層を目指すしかない。
「やっぱ、孤独にダンジョン探索かよ……!」
それをやりたくないからレベルを上げたいのに、レベルを上げるにはそれをやらざるを得ないというジレンマ……
もはや、食っちゃ寝しながらラクにレベルアップ出来る時代は終わったのだ。
やはり、女神様にもらったチート魔道書のキャッチコピーは誇大表現だったということか……
「どう考えてもこれは……ゲームオーバーじゃね?」
オレは、薄暗い自室の中で頭を抱えるしかないのだった。
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