平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
54 / 69

第54話 耳に届いた不穏な噂

しおりを挟む
 ジップオレの耳に届いた不穏な噂とは『多頭雷龍は魔人が召喚したのではないか?』というものだった。

 最初はオレも、そんなバカなと思っていた。

 なぜなら、このフリストル市を魔人が狙うなら、多頭雷龍を召喚するまでもなく、自らが攻めてくればいいのだから。

 フリストル市全冒険者の総力を結集しても太刀打ち出来ない魔人が、わざわざ多頭雷龍の力を借りる必要はない。そもそも、魔人が召喚魔法なんて使うのかも分からない。

 それにダンジョンの天井に大穴が開いていたことからも、多頭雷龍が自らの力で縦穴を穿うがち、そこから下層に降りてきたと考えるほうが自然だと考えていたのだが……

 しかし、魔人側で何かしらの事情があって、自身ではダンジョン都市を攻められない、という可能性もある。とても低いとは思うが。

 いま思えば、戦場跡になった大空洞調査の際、ミュラが縦穴の魔力痕跡を調べていたのは、誰が縦穴を穿ったのか確認したかったのだろう。多頭雷龍が穿ったのであれば、雷撃系の魔力を感知するだろうから。

 そのときから、ミュラは魔人の可能性を考慮に入れていたってわけか。オレは思いも至らなかったので恐れ入る。

 だが結局、時間が経ちすぎて魔力の痕跡は失われていた。

 いずれにしても、いったんは沈静化したと思われた多頭雷龍の話が、またぶり返してしまうのは頂けない。なぜなら「あれは本当に同士討ちだったのか?」という疑念もまた持ち上がってしまうからだ。

 だいたい、多頭雷龍の死骸は一匹しかなかったのだ。その点からも同士討ちだというギルドの見解は疑問符が付く。

 もっともギルドの見解には続きがあって『同士討ちの末に勝利したほうは、天井の縦穴を使って上層に帰った』ということにはなっているが、その証拠はどこにもない。

 カリンの固有魔法のおかげで、フリストル市近辺に、多頭雷龍と同格の魔獣がいないことだけは確認できているのだが、なぜそんな確認ができているのかの根拠も発表できない。根拠を示せば、必然的に固有魔法を知らしめることになるのだから。

 つまりギルドの公式見解にしても、不可解な点が多すぎるわけだ。というより多頭雷龍が下層に出現したこと自体が不可解なのだから、結局は憶測が憶測を呼び、いちど流れ始めた魔人召喚説はくすぶり続けることになる。

 そうなれば、唯一現場にいたオレにも、否が応でも注目が集まってくる。

 オレは、大怪我のあげく気絶していたわけだから『詳しい状況は何も知らない』で今のところ通せてはいる。

 しかし……いつまでもこの噂が消えないのだとしたら、いつしか、本当はオレが倒したという噂も流れるかもしれない。そうなれば固有魔法が言及されるのは必至だ。

 いや、違うな。

 オレが倒したという説は、実は誰もが一度は思い描いたはずだ。

 しかしそうなったら、まず間違いなく、オレが固有魔法持ちだということになるから、誰も口にしないだけなのだろう。

 だけど噂なんて、どうなるかは分からない。

 いちど口火が切られたなら、固有魔法の件は一気に流布するかもしれない。そうなったら、いくら口にするのも禁忌な話題とはいえ、ミュラにも止められないだろう。

 言わば、今は弾薬が目一杯詰め込まれた拳銃のようなものだ。あとは引き金を引けば噂は爆発的に広まる。その引き金は、なんのキッカケで引かれるのかが分からないだけだ。

 だとしたら……そうなる前に……

「オレが、自主的に都市追放するとか、かな?」

 オレは自室のベッドで横になり、自虐的に苦笑する。

 明日もダンジョン探索だから早く寝付かないといけないのに、最近はこんなことばかり考えていて、睡眠の質が低下しているようだった。

 だからといって思考のループをすんなりやめられれば苦労はない。

「はぁ……ちょっと考えてみるか……」

 オレはため息をつきながら起き上がると、寝間着のまま机に向かった。

 自主的にしろ強制的にしろ、都市追放されたらどうなるのかをきちんとシミュレーションしてみようと思ったのだ。

 ちなみにフリストル市の紙は高級品なので、メモ書き程度なら布片を使う。ということでオレは、布片を広げてそこにペンを走らせた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...