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第51話 疑念の原因を突き止めなかったことを大いに後悔することになる
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ジップが大穴を調べた結論としては──大穴にも異変はなかった、ということだった。
もっとも、大穴が空いたこと自体が異変中の異変ではあるのだが。
それに調査といっても、大穴は三階層先でもう塞がっていたのだ。その辺の階層なら、ベテラン冒険者でも到達しているし、だから大した発見も得られなかった。
つまり分かったことと言えば、異常なまでの修復速度ということくらいか。ミュラの半眼が大きく見開かれるほどには異常事態だしな。階層を貫通するほどの損傷だなんて、修復まで数年は掛かってもおかしくはないだろうに。
まったくもって不可思議な修復速度ではあるが、でもそのおかげで、多頭雷龍以外の上層魔獣が落っこちてこなかったわけだ。それは不幸中の幸いと言えるだろう。
何しろ、多頭雷龍のようなバケモノが何匹も何十匹も落ちてきたら、オレでもさすがに討伐なんて無理だったからなぁ。まったくもって考えたくもないよ……
「ジップ、天井まででいいので、わたしを大穴付近に近づけてください」
大穴を調べたオレの見解を聞いた後、ミュラがそんなことを言ってくる。
「構わないが……ミュラって飛行魔法が使えないのか?」
「使えますが、大穴付近で調査魔法を使いたいのです」
「ああ、そういうことか」
ミュラほどの魔導師であっても、魔法を同時に発現することは出来ない。というより魔法の同時発現は人間では出来ず、オレの裏ワザをもってしても不可能だ。まぁオレの場合、残機があるから同時発現しているようなものではあるが。
ということでオレがミュラを抱っこすべく近づこうとしたら、その間にユーティが割って入った。
「飛行魔法はわたしが使う」
「え……どうして?」
「どうしても」
「……?」
なぜかご機嫌斜めっぽいユーティに、オレは首を傾げる。
「でもオレが護衛した方がいいから、ユーティまで行く必要は──」
「わたしが行く」
「いやあの……」
「それとも何? ジップはそんなにミュラと密着したいの?」
「い、いや別に、そんな意図は微塵もないが……」
「ならいいでしょ」
「まぁ……別にいいけど……」
なんだか釈然としない気分でいると、今度はカリンが言ってきた。
「はいはーい! じゃあジップ君はわたしを抱っこして!」
「……はぁ?」
「わたしも、大穴付近で調査したいからね!」
さっきまで、ダンジョンにいること自体怖がっていたのに、どういう風の吹き回しなのか──オレがさらに首を傾げていると、今度は明らかにムッとした感じでユーティがカリンに言った。
「なら、あなたはわたしが背負う」
「いやいや、そんなの大変でしょう?」
「大変じゃない」
「いやいやいや、そうなったらいざというとき戦えないでしょ?」
「いざというときはあなたを落とすから問題ない」
「イヤだよそんなの!?」
などというやりとりをボンヤリ見ていたら、ぽんっと肩に手が置かれた。
「お前さんも、なかなかに大変だな」
「えーと……どういう意味だ?」
ゲオルクの意味深な発言に、オレは首を九十度傾げたい気分になる。
するとゲオルクが呆れ顔になった。
「お前さん……よく鈍感だと言われるだろう?」
「言われた記憶はないが?」
「ああ……だからこそか……」
なぜゲオルクが納得しているのかまったく分からないが、カリンとミュラの言い合いがちょっとヒートアップしてきたので、オレは止めに入った。
「ああもう、やめやめ! そうしたらカリンは、ゲオルクが連れて行けばいいだろう?」
「なんでそうなるの!?」
オレの完璧な解決策に、カリンがなぜか悲鳴を上げる。
「なんでって、むしろなんでユーティ一人に任せるのか分からん。それに、いざというときを考えるなら、オレの手が空いていたほうがいいだろ。自分でいうのもなんだけど」
「それは……そうだけど……」
どうしてかカリンは納得していないのだが、オレの隙のない意見に、反論できる余地などないのだ。
あとゲオルクが、なぜか傷心の雰囲気を醸し出して背中を丸めているんだが……どうしてだ?
「カリン、いい加減にしなさい」
口先を尖らせているカリンに、ミュラが叱責する。
「遊びで来ているのではないのですよ?」
するとカリンも負けじと言い返した。
「そもそも、ミュラがジップを指名しなければよかったじゃん」
「………………この中で、一番腕が立つのはジップなのですから、指名するのは当然です」
「そーかなー? そのジップ自身が言うとおり、彼の手を空ける手が最善だったんじゃないかなー?」
「何を言いたいのですか、何をっ」
またぞろ言い合いが始まりそうだったので、今度はミュラとカリンを止めに入る。
「はいはい、そこまでだそこまで! ほんと、ここで言い合いをしていても仕方がないんだから、さっさと行くぞ」
そんなわけで、ミュラはユーティが抱え、カリンはゲオルクがおんぶする。そしてオレは単身で周囲を警戒しながら浮かび上がる。
大空洞天井まで来ると、ミュラは大穴の壁面に向けて魔法を放った。あの魔法は──魔力を計測する魔法だな。
オレは不思議に思ってミュラに聞いた。
「ミュラ、壁面に向かってそんな魔法を使って、何をしているんだ?」
ダンジョンに向かって魔力測定したところで、この壁面にどのくらいの魔力が含有しているかくらいしか分からないと思うが。
オレのその疑問に、ミュラが無表情のまま答えてきた。
「もしも、この大穴が魔法によって穿たれたものだとしたら、その残滓が残っているかもしれません」
「ああ……なるほど。そういうことか」
日本に例えるなら、ミュラは、犯行現場で指紋採取みたいなことをしていることになる。とはいえ、この場合の犯人はすでに分かっているはずだが……
だからオレは、さらなる疑問をミュラにぶつけた。
「でもさ、この大穴を穿ったのは多頭雷龍だろ? それを今さら調べたところでどうなるんだ?」
調査魔法を終えたらしいミュラは、真剣な表情をオレに向けてくる──が、ユーティにお姫様抱っこされている状態なので、なんとなく締まらない……
しかしミュラは、そんな状態にも関わらずシビアな口調で言った。
「ええ……そうですね。ですが念のための調査です」
なんとなく端切れの悪いその言いように、オレはやはり疑念を持つも……具体的にそれがなんなのかまでは分からない。
だからとりあえず、魔力測定の結果を聞いた。
「で、魔力残滓は残っていたのか?」
「いえ……やはり時間が経ちすぎたのでしょう。ダンジョンの魔力しか検知できませんでした」
「そうか……」
そうしてこの場では、オレの疑念は払拭されないまま調査終了となる。
だが後日、この疑念の原因を突き止めなかったことを大いに後悔することになるのだが……この時のオレは知るよしもなかった。
もっとも、大穴が空いたこと自体が異変中の異変ではあるのだが。
それに調査といっても、大穴は三階層先でもう塞がっていたのだ。その辺の階層なら、ベテラン冒険者でも到達しているし、だから大した発見も得られなかった。
つまり分かったことと言えば、異常なまでの修復速度ということくらいか。ミュラの半眼が大きく見開かれるほどには異常事態だしな。階層を貫通するほどの損傷だなんて、修復まで数年は掛かってもおかしくはないだろうに。
まったくもって不可思議な修復速度ではあるが、でもそのおかげで、多頭雷龍以外の上層魔獣が落っこちてこなかったわけだ。それは不幸中の幸いと言えるだろう。
何しろ、多頭雷龍のようなバケモノが何匹も何十匹も落ちてきたら、オレでもさすがに討伐なんて無理だったからなぁ。まったくもって考えたくもないよ……
「ジップ、天井まででいいので、わたしを大穴付近に近づけてください」
大穴を調べたオレの見解を聞いた後、ミュラがそんなことを言ってくる。
「構わないが……ミュラって飛行魔法が使えないのか?」
「使えますが、大穴付近で調査魔法を使いたいのです」
「ああ、そういうことか」
ミュラほどの魔導師であっても、魔法を同時に発現することは出来ない。というより魔法の同時発現は人間では出来ず、オレの裏ワザをもってしても不可能だ。まぁオレの場合、残機があるから同時発現しているようなものではあるが。
ということでオレがミュラを抱っこすべく近づこうとしたら、その間にユーティが割って入った。
「飛行魔法はわたしが使う」
「え……どうして?」
「どうしても」
「……?」
なぜかご機嫌斜めっぽいユーティに、オレは首を傾げる。
「でもオレが護衛した方がいいから、ユーティまで行く必要は──」
「わたしが行く」
「いやあの……」
「それとも何? ジップはそんなにミュラと密着したいの?」
「い、いや別に、そんな意図は微塵もないが……」
「ならいいでしょ」
「まぁ……別にいいけど……」
なんだか釈然としない気分でいると、今度はカリンが言ってきた。
「はいはーい! じゃあジップ君はわたしを抱っこして!」
「……はぁ?」
「わたしも、大穴付近で調査したいからね!」
さっきまで、ダンジョンにいること自体怖がっていたのに、どういう風の吹き回しなのか──オレがさらに首を傾げていると、今度は明らかにムッとした感じでユーティがカリンに言った。
「なら、あなたはわたしが背負う」
「いやいや、そんなの大変でしょう?」
「大変じゃない」
「いやいやいや、そうなったらいざというとき戦えないでしょ?」
「いざというときはあなたを落とすから問題ない」
「イヤだよそんなの!?」
などというやりとりをボンヤリ見ていたら、ぽんっと肩に手が置かれた。
「お前さんも、なかなかに大変だな」
「えーと……どういう意味だ?」
ゲオルクの意味深な発言に、オレは首を九十度傾げたい気分になる。
するとゲオルクが呆れ顔になった。
「お前さん……よく鈍感だと言われるだろう?」
「言われた記憶はないが?」
「ああ……だからこそか……」
なぜゲオルクが納得しているのかまったく分からないが、カリンとミュラの言い合いがちょっとヒートアップしてきたので、オレは止めに入った。
「ああもう、やめやめ! そうしたらカリンは、ゲオルクが連れて行けばいいだろう?」
「なんでそうなるの!?」
オレの完璧な解決策に、カリンがなぜか悲鳴を上げる。
「なんでって、むしろなんでユーティ一人に任せるのか分からん。それに、いざというときを考えるなら、オレの手が空いていたほうがいいだろ。自分でいうのもなんだけど」
「それは……そうだけど……」
どうしてかカリンは納得していないのだが、オレの隙のない意見に、反論できる余地などないのだ。
あとゲオルクが、なぜか傷心の雰囲気を醸し出して背中を丸めているんだが……どうしてだ?
「カリン、いい加減にしなさい」
口先を尖らせているカリンに、ミュラが叱責する。
「遊びで来ているのではないのですよ?」
するとカリンも負けじと言い返した。
「そもそも、ミュラがジップを指名しなければよかったじゃん」
「………………この中で、一番腕が立つのはジップなのですから、指名するのは当然です」
「そーかなー? そのジップ自身が言うとおり、彼の手を空ける手が最善だったんじゃないかなー?」
「何を言いたいのですか、何をっ」
またぞろ言い合いが始まりそうだったので、今度はミュラとカリンを止めに入る。
「はいはい、そこまでだそこまで! ほんと、ここで言い合いをしていても仕方がないんだから、さっさと行くぞ」
そんなわけで、ミュラはユーティが抱え、カリンはゲオルクがおんぶする。そしてオレは単身で周囲を警戒しながら浮かび上がる。
大空洞天井まで来ると、ミュラは大穴の壁面に向けて魔法を放った。あの魔法は──魔力を計測する魔法だな。
オレは不思議に思ってミュラに聞いた。
「ミュラ、壁面に向かってそんな魔法を使って、何をしているんだ?」
ダンジョンに向かって魔力測定したところで、この壁面にどのくらいの魔力が含有しているかくらいしか分からないと思うが。
オレのその疑問に、ミュラが無表情のまま答えてきた。
「もしも、この大穴が魔法によって穿たれたものだとしたら、その残滓が残っているかもしれません」
「ああ……なるほど。そういうことか」
日本に例えるなら、ミュラは、犯行現場で指紋採取みたいなことをしていることになる。とはいえ、この場合の犯人はすでに分かっているはずだが……
だからオレは、さらなる疑問をミュラにぶつけた。
「でもさ、この大穴を穿ったのは多頭雷龍だろ? それを今さら調べたところでどうなるんだ?」
調査魔法を終えたらしいミュラは、真剣な表情をオレに向けてくる──が、ユーティにお姫様抱っこされている状態なので、なんとなく締まらない……
しかしミュラは、そんな状態にも関わらずシビアな口調で言った。
「ええ……そうですね。ですが念のための調査です」
なんとなく端切れの悪いその言いように、オレはやはり疑念を持つも……具体的にそれがなんなのかまでは分からない。
だからとりあえず、魔力測定の結果を聞いた。
「で、魔力残滓は残っていたのか?」
「いえ……やはり時間が経ちすぎたのでしょう。ダンジョンの魔力しか検知できませんでした」
「そうか……」
そうしてこの場では、オレの疑念は払拭されないまま調査終了となる。
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