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第44話 オレが核兵器並みに強くなればいいということになる
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「先に断っておきますが、わたしはあなたを都市追放にしようなどとは考えていません」
ジップが嫌な予感を覚えた途端、オレの思考を読んだかのようにミュラさんが断言した。それに続いてカリンさんも言ってくる。
「そうだよ? この街を救った大恩人を追放するだなんて、そんな不義理なことは絶対にしないと誓うよ」
それを聞いて、オレは思わず吐息をついていた。都市追放されたら、裏ワザがあるオレとてどうなるか分からないから、内心ではかなりビビっていたようだ。
「そう言ってもらえると助かりますが……ならオレを尋ねてきた理由は?」
オレの問いに、ミュラさんが深刻な顔つきになる。
「もちろん、今後の対策を練るためです」
「冒険者たちの説得ですか?」
「それはさして難しくはありません。表向きはドラゴン種の同士討ちということにしましたから一応の決着も付いています」
「みんな信じますかね?」
「すでに信じられない事態が起きたのですから、信じざるを得ないでしょう。ですが我々は、さらにその調査を進める必要があります」
「その調査とは?」
「一言でいえば魔族の動向です」
ミュラさんが懸念している点は二つある。
第一に、どうして多頭雷龍が下層にまで降りてきたのか? もし今後、こんなことが頻発すれば大問題だ。そのたびにオレが出向いて討伐するという手もあるが、エンカウントするのはオレに限らないのだから。
第二に、魔人への影響だ。今回の戦闘に魔人は気づいていたのか? 気づいていたとしたら、あれだけ派手に固有魔法を使ったのだから、フリストル市に攻め入る可能性も少なくない。
オレですら、多頭雷龍程度にあれほど苦戦したのだから、いま魔人に攻め込まれたらひとたまりもないだろう。
そんな暗澹たる未来が目前まで迫ってきている気がしてきて、オレは盛大にため息をついた。
「確かに……大きな禍根を残してしまいましたね……」
ミュラさんも頷く。
「正直、魔人の動向はまったく分かりません。下手に調査しようとしたら藪蛇になる可能性もありますから、気づかれなかったことを祈るほかないでしょう」
「ですね……」
「しかし多頭雷龍がなぜ下層に来たのかは、早急に調査する必要があります」
例えばもし、ダンジョンのどこかに上層と下層を繋ぐ近道が形成されでもしていたら、ドラゴン族に限らず、今後も超強力な魔獣が押し寄せてきかねない。
そうなったら、今のダンジョン攻略の方針──少数ユニットによる広範囲索敵と討伐という方針は改める必要がある。
そして何よりも、上層魔獣と出くわすたびに、オレが派手に固有魔法を発現させていたら、遠からず、魔人に目を付けられるだろう。
オレがため息交じりに言った。
「もし近道が形成されていたとしたら……固有魔法抜きで、上層魔獣を討伐しなくちゃいけないわけですか……」
オレのつぶやきに、カリンさんがにわかに青ざめて聞いてくる。
「そんな方法……あるのかい……?」
「そうですね……少なくとも多頭雷龍は、その攻撃力と魔力量は凄まじいものがありましたが、しかし頭は大してよくありませんでした。まぁあれだけ強力なら、策を弄する必要もなかったのでしょうけれども、オレたち人間はそこを突く必要があります」
もし、固有魔法を使わずに多頭雷龍を討伐するなら、その攻略法はこうなるだろう。
まずフリストル市すべての冒険者を結集させる。つぎに盾使いを中心に完全魔防結界と防御結界を展開。多頭雷龍はやたらと雷撃に頼る癖があるから、その魔力が尽きるまでじっと辛抱する。爪や足で攻撃されても根性入れて耐える。そしてヤツの魔力が枯渇し始めたところで、攻撃師が徹底的に攻撃魔法を叩き込む。
もちろん、多頭雷龍によって戦い方の癖が違ってくる可能性もあるから、この攻略法が決定的だとは言えないし、やはりやっかいなのは、多頭雷龍は魔法を発現させながらも物理攻撃が可能だということだ。
完全魔防結界を発現している間、冒険者たちは動けないから、ヤツの巨大な爪やら脚やらを、防御結界のみで防ぎきる必要がある。
オレのその説明に、ミュラさんが聞いてきた。
「その攻略法で、あなたの残機は何体死んだのですか?」
ミュラさんとカリンさんには、残機無限魔法の詳細まで説明しているから、今の攻略法を、オレが実際に使ったことがすぐ分かったのだろう。
だからオレは、前置きなしに答えた。
「ざっとですが……10万体ほど」
「じゅう……まん……?」
「ええ、そうです」
ミュラさんの表情が沈痛そのものになる。
「このフリストル市の全冒険者が何人いるのか知っていますか?」
「3000人ほど……」
「その攻略法とやらは、一時間と保たずに瓦解するでしょうね」
「ですよね……」
冒険者各人は、残機より遙かに知能が高いとはいえ……少なくともオレがおこなった多頭雷龍の攻略法は、力に力をぶつけるようなものだ。
多頭雷龍の魔力総量より、オレの魔力総量が勝ったに過ぎない。
多頭雷龍は頭が悪いと思い込んでいたが、もしかしたらそうではなく、ドラゴン種の自分より魔力総量の多い存在が、魔人以外にいるだなんて思いもよらなかっただけかもしれない。まぁそれであっても、ヤツが引き際を誤っていたことは確かだが。
打開策が見つからず重い雰囲気の最中、オレは口を開いた。
「現状では、固有魔法に頼るしかないってことにはなりますが……けどつぎにドラゴン種──とりわけ多頭雷龍に出くわしたなら、もっと短時間で討伐することは可能ですよ?」
多頭雷龍の習性特性は把握したわけだし、レベルも一気にアップしたわけだし。今回ほどに苦労したり、痛い思いしたりすることはない……と思いたい。
まぁどのみち、本体のオレが現場に立ち会う必要はあるが。身体生成しないといけないし。
そうなると……あれだよなぁ。今回のように、本体が中途半端に被弾して、魔法発現不可能な自体に陥った場合に備えて、ラクに死ねる方法を考えておかないとな。残機にヤってもらうことは出来ないし、それは準本体とて同様だ。
毒の服用となると……それはそれでキツそうだなぁ……もっとラクな死に方がいいな……
などと、ふと気づけばとてつもなく後ろ向きなことを考えているが、オレにとってはこれが前向きなのだから仕方がない。何しろ、死ねずに戦闘不能になるほうがマズイのだから。
オレが死に方を考えていたら、黙考していたミュラさんが言った。
「ドラゴン種を短時間で討伐すること、それ自体が魔人の目にとまる可能性もありますが……でもそれを言い出したら、もはやキリがありませんしね」
ミュラさんの意見に、オレも頷く。
「もし下層にいながら上層魔獣を討伐しまくれるのなら、停滞していたオレのレベルも上がるわけですし、そうすれば、いずれ通常魔法でも討伐できるかもしれません」
オレがそういうと、カリンさんがぽんっと手を打った。
「あっ! そうだよ! それだよ!!」
オレとミュラさんが、首を傾げてカリンさんを見た。
ジップが嫌な予感を覚えた途端、オレの思考を読んだかのようにミュラさんが断言した。それに続いてカリンさんも言ってくる。
「そうだよ? この街を救った大恩人を追放するだなんて、そんな不義理なことは絶対にしないと誓うよ」
それを聞いて、オレは思わず吐息をついていた。都市追放されたら、裏ワザがあるオレとてどうなるか分からないから、内心ではかなりビビっていたようだ。
「そう言ってもらえると助かりますが……ならオレを尋ねてきた理由は?」
オレの問いに、ミュラさんが深刻な顔つきになる。
「もちろん、今後の対策を練るためです」
「冒険者たちの説得ですか?」
「それはさして難しくはありません。表向きはドラゴン種の同士討ちということにしましたから一応の決着も付いています」
「みんな信じますかね?」
「すでに信じられない事態が起きたのですから、信じざるを得ないでしょう。ですが我々は、さらにその調査を進める必要があります」
「その調査とは?」
「一言でいえば魔族の動向です」
ミュラさんが懸念している点は二つある。
第一に、どうして多頭雷龍が下層にまで降りてきたのか? もし今後、こんなことが頻発すれば大問題だ。そのたびにオレが出向いて討伐するという手もあるが、エンカウントするのはオレに限らないのだから。
第二に、魔人への影響だ。今回の戦闘に魔人は気づいていたのか? 気づいていたとしたら、あれだけ派手に固有魔法を使ったのだから、フリストル市に攻め入る可能性も少なくない。
オレですら、多頭雷龍程度にあれほど苦戦したのだから、いま魔人に攻め込まれたらひとたまりもないだろう。
そんな暗澹たる未来が目前まで迫ってきている気がしてきて、オレは盛大にため息をついた。
「確かに……大きな禍根を残してしまいましたね……」
ミュラさんも頷く。
「正直、魔人の動向はまったく分かりません。下手に調査しようとしたら藪蛇になる可能性もありますから、気づかれなかったことを祈るほかないでしょう」
「ですね……」
「しかし多頭雷龍がなぜ下層に来たのかは、早急に調査する必要があります」
例えばもし、ダンジョンのどこかに上層と下層を繋ぐ近道が形成されでもしていたら、ドラゴン族に限らず、今後も超強力な魔獣が押し寄せてきかねない。
そうなったら、今のダンジョン攻略の方針──少数ユニットによる広範囲索敵と討伐という方針は改める必要がある。
そして何よりも、上層魔獣と出くわすたびに、オレが派手に固有魔法を発現させていたら、遠からず、魔人に目を付けられるだろう。
オレがため息交じりに言った。
「もし近道が形成されていたとしたら……固有魔法抜きで、上層魔獣を討伐しなくちゃいけないわけですか……」
オレのつぶやきに、カリンさんがにわかに青ざめて聞いてくる。
「そんな方法……あるのかい……?」
「そうですね……少なくとも多頭雷龍は、その攻撃力と魔力量は凄まじいものがありましたが、しかし頭は大してよくありませんでした。まぁあれだけ強力なら、策を弄する必要もなかったのでしょうけれども、オレたち人間はそこを突く必要があります」
もし、固有魔法を使わずに多頭雷龍を討伐するなら、その攻略法はこうなるだろう。
まずフリストル市すべての冒険者を結集させる。つぎに盾使いを中心に完全魔防結界と防御結界を展開。多頭雷龍はやたらと雷撃に頼る癖があるから、その魔力が尽きるまでじっと辛抱する。爪や足で攻撃されても根性入れて耐える。そしてヤツの魔力が枯渇し始めたところで、攻撃師が徹底的に攻撃魔法を叩き込む。
もちろん、多頭雷龍によって戦い方の癖が違ってくる可能性もあるから、この攻略法が決定的だとは言えないし、やはりやっかいなのは、多頭雷龍は魔法を発現させながらも物理攻撃が可能だということだ。
完全魔防結界を発現している間、冒険者たちは動けないから、ヤツの巨大な爪やら脚やらを、防御結界のみで防ぎきる必要がある。
オレのその説明に、ミュラさんが聞いてきた。
「その攻略法で、あなたの残機は何体死んだのですか?」
ミュラさんとカリンさんには、残機無限魔法の詳細まで説明しているから、今の攻略法を、オレが実際に使ったことがすぐ分かったのだろう。
だからオレは、前置きなしに答えた。
「ざっとですが……10万体ほど」
「じゅう……まん……?」
「ええ、そうです」
ミュラさんの表情が沈痛そのものになる。
「このフリストル市の全冒険者が何人いるのか知っていますか?」
「3000人ほど……」
「その攻略法とやらは、一時間と保たずに瓦解するでしょうね」
「ですよね……」
冒険者各人は、残機より遙かに知能が高いとはいえ……少なくともオレがおこなった多頭雷龍の攻略法は、力に力をぶつけるようなものだ。
多頭雷龍の魔力総量より、オレの魔力総量が勝ったに過ぎない。
多頭雷龍は頭が悪いと思い込んでいたが、もしかしたらそうではなく、ドラゴン種の自分より魔力総量の多い存在が、魔人以外にいるだなんて思いもよらなかっただけかもしれない。まぁそれであっても、ヤツが引き際を誤っていたことは確かだが。
打開策が見つからず重い雰囲気の最中、オレは口を開いた。
「現状では、固有魔法に頼るしかないってことにはなりますが……けどつぎにドラゴン種──とりわけ多頭雷龍に出くわしたなら、もっと短時間で討伐することは可能ですよ?」
多頭雷龍の習性特性は把握したわけだし、レベルも一気にアップしたわけだし。今回ほどに苦労したり、痛い思いしたりすることはない……と思いたい。
まぁどのみち、本体のオレが現場に立ち会う必要はあるが。身体生成しないといけないし。
そうなると……あれだよなぁ。今回のように、本体が中途半端に被弾して、魔法発現不可能な自体に陥った場合に備えて、ラクに死ねる方法を考えておかないとな。残機にヤってもらうことは出来ないし、それは準本体とて同様だ。
毒の服用となると……それはそれでキツそうだなぁ……もっとラクな死に方がいいな……
などと、ふと気づけばとてつもなく後ろ向きなことを考えているが、オレにとってはこれが前向きなのだから仕方がない。何しろ、死ねずに戦闘不能になるほうがマズイのだから。
オレが死に方を考えていたら、黙考していたミュラさんが言った。
「ドラゴン種を短時間で討伐すること、それ自体が魔人の目にとまる可能性もありますが……でもそれを言い出したら、もはやキリがありませんしね」
ミュラさんの意見に、オレも頷く。
「もし下層にいながら上層魔獣を討伐しまくれるのなら、停滞していたオレのレベルも上がるわけですし、そうすれば、いずれ通常魔法でも討伐できるかもしれません」
オレがそういうと、カリンさんがぽんっと手を打った。
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