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第43話 あなたのレベルは……
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手足の自由がきかないオレは、目が覚めても何もできなかった。
まぢでベッドに横たわるだけなのであまりにも退屈だ。レニとレベッカが話し相手になってくれているからまだ全然いいほうではあるのだが、この異世界は娯楽が乏しいからなぁ。
ゲームもアニメもないし、書籍は貴重品だから娯楽小説なんかもない。小説がないのだから当然漫画はまだ発明されていない──いや、300年前のかつては小説や漫画らしきもの、さらには演劇とかいろいろあったらしいのだが、ダンジョンに押し込められて以降は、そういう文化が途絶えてしまったという。
生前は独り身で、だから普通に働いているだけでもそこそこカネが貯まり、なので一人遊びに興じていたオレとしては、文化の断絶は実に悲しい。
つまりは屋内で引きこもっていたらやっぱり暇すぎるわけで、いったいレニは、なぜそれでも引きこもりたがるのか意味が分からない。
今のオレは、二人が話し相手になってくれるからいいけど、娯楽のないこの異世界で自宅に一人きりだなんて絶対にさせられないだろ、やっぱり。
などと考えていたら、オレの病室に珍しい訪問者がやってきた。
ギルドマスターのミュラさんと、事務局長のカリンさんだった。
そしてミュラさんは挨拶もそこそこに、その場にいたレニとレベッカに言った。
「申し訳ないのですけれども、ジップと少々込み入った話をしたいので、席を外して頂けますか?」
レベッカは察しが付いているようで戸惑うこともなく頷き、レニのほうは人見知りだから、言われなくても退室したいようだった。
ということで二人が個室を出て行くと、カリンさんが言ってきた。
「ジップ君、本当に大変だったねぇ。調子はどうだい?」
「まぁご覧の有様ですが、一週間で動けるようになるそうですし、生きて帰ってこられただけで儲けものって感じですからね」
「本当だねぇ……キミの生還を心から祝福するよ」
「ありがとうございます」
挨拶がてらそんな話をしていると、ミュラさんがバッグから水晶玉を取り出す。あれは……レベルチェックのアイテムだな。
そして何の前置きもなく、ミュラさんが言ってきた。
「まず、あなたのレベルを測定します」
「いいですけど、オレ、両手が簀巻き状態ですよ?」
レベル測定には、水晶玉に両手をかざさねばならないのだが、その両手はギプスと包帯でグルグル巻きだから動かせない。
するとミュラさんは、水晶玉をオレの額に近づけた。
「額に当てるだけでも測定可能です。動かないように」
「分かりました」
そうして数十秒たつと、水晶玉が光って、ヴォーン……という音が鳴った。計測完了の合図だ。
ミュラさんとカリンさんは、光が消えた水晶玉を覗き込み──そして絶句する。
「えっと……オレのレベルはいくつでした?」
本来ならレベルは冒険証で確認出来るわけだが、オレの冒険証には細工がされているしな。戦闘終了後に、レベルアップの通知音であるファンファーレがなったのかもしれないが、オレはすぐ気絶してしまったのでその記憶はない。そもそも今の今まで、レベルのことなんて忘れていたし。
アレだけ死闘を繰り広げたんだし、出来れば2~3つは上がっていて欲しいが……
オレが二人を見守っていると、やがてミュラさんが言ってきた。
「あなたのレベルは……60を超えています」
「え?」
「正確には、レベル64。人類が未だ到達したことのない領域です」
「そうですか……」
あわよくばレベル50くらいになってたら嬉しいな、などと考えていたが、思ったよりレベルアップしていてびっくりだ。
しかし目前のミュラさんとカリンさんは、オレ以上に驚いている様子だった。
だから我に返ったらしいカリンさんがワタワタと言ってくる。
「『そうですか……』って、そうじゃないでしょ!?」
「え?」
「レベル64だよ! 前人未踏の領域なんだよ!? つまり超すごいんだよ! なのになんでそんな淡泊な反応なの!?」
「いや、十分に驚いてますが……」
「驚き方が足りないよキミは!!」
なぜか怒られそうになったので、オレは無理やり声を出す。
「わ、わ~い……レベル64だ、嬉しいな~」
「なんなのそのヤラセ感満載の驚きは!?」
「ヤラセ感というか……実際にヤラセですし」
「わたし一人が驚いてて馬鹿みたいじゃない!?」
「いや、そんなに感情を露わに出来るなんて、むしろ可愛らしいと思いますが……」
「え、なに!? もしかして、レベル64の超絶冒険者にわたし口説かれてる!?」
「いえ違います」
「なんで!?」
いや……なんでと言われても……そもそも話が明後日の方向にすっ飛んでしまったが……
「カリン、落ち着きなさい」
するとカリンさんは、ミュラさんにアイアンクローをかまされる……なぜアイアンクロー?
「あいだだだだだだ!? レベル35の手でアイアンクローされたら頭蓋骨が割れる!」
「安心なさい。レベル64の回復師があっという間に治してくれます」
「その前に割らないで!?」
いや……如何にレベルが上がろうとも、頭蓋骨が割れてしまったら助けるすべはないのだが……
もしかしてこの二人って、いつもこんな調子なのか?
だがとりあえずカリンさんは落ち着きを取り戻したようだ。涙目にはなっていたが。
それから仕切り直しと言わんばかりに、ミュラさんが咳払いをした。
「ここまでのレベルアップ……やはり、多頭雷龍を倒したのはあなたなのですね、ジップ」
「ええまぁ……そうなりますね」
「ではギルドを代表して感謝を。あなたが多頭雷龍を倒してくれなければ、フリストル市は全滅でした。本当に、ありがとうございます」
そういってミュラさんは深々と頭を下げてくる。
さらにはカリンさんも、にこやかに言ってきた。
「本当だよ! キミがいなかったら、わたしたちは生きていなかったからね! まさに命の恩人、本当にありがとうだよ!」
「いや……やめてください。冒険者として、当然のことをしたまでですから」
オレはむずがゆくなっていると、頭を上げたミュラさんが言った。
「いえ、さすがに当然のことではないのですよ。あなたの偉業は、いろいろな意味で」
「ああ……固有魔法のことですか?」
オレは、ミュラさんが多忙な最中に病室を訪れた理由に思いを馳せて、少し気が滅入った。
まぢでベッドに横たわるだけなのであまりにも退屈だ。レニとレベッカが話し相手になってくれているからまだ全然いいほうではあるのだが、この異世界は娯楽が乏しいからなぁ。
ゲームもアニメもないし、書籍は貴重品だから娯楽小説なんかもない。小説がないのだから当然漫画はまだ発明されていない──いや、300年前のかつては小説や漫画らしきもの、さらには演劇とかいろいろあったらしいのだが、ダンジョンに押し込められて以降は、そういう文化が途絶えてしまったという。
生前は独り身で、だから普通に働いているだけでもそこそこカネが貯まり、なので一人遊びに興じていたオレとしては、文化の断絶は実に悲しい。
つまりは屋内で引きこもっていたらやっぱり暇すぎるわけで、いったいレニは、なぜそれでも引きこもりたがるのか意味が分からない。
今のオレは、二人が話し相手になってくれるからいいけど、娯楽のないこの異世界で自宅に一人きりだなんて絶対にさせられないだろ、やっぱり。
などと考えていたら、オレの病室に珍しい訪問者がやってきた。
ギルドマスターのミュラさんと、事務局長のカリンさんだった。
そしてミュラさんは挨拶もそこそこに、その場にいたレニとレベッカに言った。
「申し訳ないのですけれども、ジップと少々込み入った話をしたいので、席を外して頂けますか?」
レベッカは察しが付いているようで戸惑うこともなく頷き、レニのほうは人見知りだから、言われなくても退室したいようだった。
ということで二人が個室を出て行くと、カリンさんが言ってきた。
「ジップ君、本当に大変だったねぇ。調子はどうだい?」
「まぁご覧の有様ですが、一週間で動けるようになるそうですし、生きて帰ってこられただけで儲けものって感じですからね」
「本当だねぇ……キミの生還を心から祝福するよ」
「ありがとうございます」
挨拶がてらそんな話をしていると、ミュラさんがバッグから水晶玉を取り出す。あれは……レベルチェックのアイテムだな。
そして何の前置きもなく、ミュラさんが言ってきた。
「まず、あなたのレベルを測定します」
「いいですけど、オレ、両手が簀巻き状態ですよ?」
レベル測定には、水晶玉に両手をかざさねばならないのだが、その両手はギプスと包帯でグルグル巻きだから動かせない。
するとミュラさんは、水晶玉をオレの額に近づけた。
「額に当てるだけでも測定可能です。動かないように」
「分かりました」
そうして数十秒たつと、水晶玉が光って、ヴォーン……という音が鳴った。計測完了の合図だ。
ミュラさんとカリンさんは、光が消えた水晶玉を覗き込み──そして絶句する。
「えっと……オレのレベルはいくつでした?」
本来ならレベルは冒険証で確認出来るわけだが、オレの冒険証には細工がされているしな。戦闘終了後に、レベルアップの通知音であるファンファーレがなったのかもしれないが、オレはすぐ気絶してしまったのでその記憶はない。そもそも今の今まで、レベルのことなんて忘れていたし。
アレだけ死闘を繰り広げたんだし、出来れば2~3つは上がっていて欲しいが……
オレが二人を見守っていると、やがてミュラさんが言ってきた。
「あなたのレベルは……60を超えています」
「え?」
「正確には、レベル64。人類が未だ到達したことのない領域です」
「そうですか……」
あわよくばレベル50くらいになってたら嬉しいな、などと考えていたが、思ったよりレベルアップしていてびっくりだ。
しかし目前のミュラさんとカリンさんは、オレ以上に驚いている様子だった。
だから我に返ったらしいカリンさんがワタワタと言ってくる。
「『そうですか……』って、そうじゃないでしょ!?」
「え?」
「レベル64だよ! 前人未踏の領域なんだよ!? つまり超すごいんだよ! なのになんでそんな淡泊な反応なの!?」
「いや、十分に驚いてますが……」
「驚き方が足りないよキミは!!」
なぜか怒られそうになったので、オレは無理やり声を出す。
「わ、わ~い……レベル64だ、嬉しいな~」
「なんなのそのヤラセ感満載の驚きは!?」
「ヤラセ感というか……実際にヤラセですし」
「わたし一人が驚いてて馬鹿みたいじゃない!?」
「いや、そんなに感情を露わに出来るなんて、むしろ可愛らしいと思いますが……」
「え、なに!? もしかして、レベル64の超絶冒険者にわたし口説かれてる!?」
「いえ違います」
「なんで!?」
いや……なんでと言われても……そもそも話が明後日の方向にすっ飛んでしまったが……
「カリン、落ち着きなさい」
するとカリンさんは、ミュラさんにアイアンクローをかまされる……なぜアイアンクロー?
「あいだだだだだだ!? レベル35の手でアイアンクローされたら頭蓋骨が割れる!」
「安心なさい。レベル64の回復師があっという間に治してくれます」
「その前に割らないで!?」
いや……如何にレベルが上がろうとも、頭蓋骨が割れてしまったら助けるすべはないのだが……
もしかしてこの二人って、いつもこんな調子なのか?
だがとりあえずカリンさんは落ち着きを取り戻したようだ。涙目にはなっていたが。
それから仕切り直しと言わんばかりに、ミュラさんが咳払いをした。
「ここまでのレベルアップ……やはり、多頭雷龍を倒したのはあなたなのですね、ジップ」
「ええまぁ……そうなりますね」
「ではギルドを代表して感謝を。あなたが多頭雷龍を倒してくれなければ、フリストル市は全滅でした。本当に、ありがとうございます」
そういってミュラさんは深々と頭を下げてくる。
さらにはカリンさんも、にこやかに言ってきた。
「本当だよ! キミがいなかったら、わたしたちは生きていなかったからね! まさに命の恩人、本当にありがとうだよ!」
「いや……やめてください。冒険者として、当然のことをしたまでですから」
オレはむずがゆくなっていると、頭を上げたミュラさんが言った。
「いえ、さすがに当然のことではないのですよ。あなたの偉業は、いろいろな意味で」
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オレは、ミュラさんが多忙な最中に病室を訪れた理由に思いを馳せて、少し気が滅入った。
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