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第40話 いくらなんでもこれは……人智を超えてるだろ

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 そしてレベッカわたしたちは、数時間の時を経て、再び大空洞にやってきたのだけれど……

「な……なにが……起こったというの……?」

 戦闘音が聞こえず、だからわたしたちは慎重に大空洞へと近づいていったが、いよいよ最後まで戦闘音はしなかった。

 それもそのはずで、すでに戦闘は終わっていたのだから。

 まず、大空洞はもの凄い熱気で蒸し返していた。数秒で汗が出てくるほどの熱気で、さらにはとてつもない異臭と煙が充満しているから、わたしは息を詰まらせる。

 立ちこめる煙のせいで見通しがすごく悪いけれど、前方で、煌々と揺らめく陰が見えた。あれは……炎の揺らめき?

そして多頭雷龍の姿は──どこにもない。

「ジップは……ジップはどこ!?」

 隊列を飛びだそうとするレニの手をわたしは掴んだ。

「待ちなさい! この状況で勝手に動いてはダメよ!」

「でも!」

「指示があるまで待ちなさい! ここは戦場なのよ!?」

 わたしの叱責に、レニはうつむいて動きを止める。

「大丈夫よ、ジップは必ず生きているから。多頭雷龍がいないことがその証拠だもの」

「……うん」

 レニを励ましてから、わたしはゲオルクさんに視線を向けた。

 わたしたちの上官は、これまでパーティを組んでいた流れからゲオルクさんだった。ユーティさんは、別パーティの上官として今は離ればなれになっている。

「ゲオルクさん……これは……いったい……」

 大盾を正面に構えて慎重に先頭を歩くゲオルクさんに声を掛けると、固い声で答えてくれる。しかしそれは独り言のようだった。

「まさか、とは思うが……多頭雷龍をと討伐したのか……たった一人で……?」

「なら、ジップはどこに……」

「まだ分からんが……慎重に進もう……」

 大空洞は相当な広さがある上に、今は煙が朦々と立ちこめていて見晴らしも悪い。だからわたしたちは慎重に進むしかなかったが、ミュラさんの指示で、まずは、明かりがある前方まで進軍することになった。

 するとさらに熱気が強くなり、生身ではそれ以上進めなくなったので、ゲオルクさんを始めとする前衛職の冒険者たちが防御結界を張り巡らせる。

 そうしてわたしたちは慎重に、慎重に前進を続けていき──

「た、多頭雷龍だ! 多頭雷龍が討伐されている!!」

 ──先発部隊が戻ってきたかと思うと、本隊の全員に向かって叫んだ。

 一気にどよめきが起こり、全員が駆け出す。

 しかしわたしは逆に固まってしまう。ゲオルクさんもレニも同様だった。

「ゲオルクさん……まさか……」

「うそだろ……ジップのヤツが……倒したと……?」

「と、とにかく行ってみましょう……!」

「そうだな!」

 そうしてわたし、ゲオルクさん、レニも走り出す。

 前方では、すでに歓声が上がっていた。

 わたしたちはその歓声の中に飛び込む。

「──!!」

 未だ熱気を放つ戦場跡に辿り着けば、ドロドロに溶けた地面は大きく抉られていて、広範なクレーターを形成していた。

 その中心部には、巨大な多頭雷龍の胴体が横たわっている。

 その象徴であるはずの頭すべてが、溶解され尽くし欠損している。

 つまり……物言わぬ死骸となっていた。

 その胴体の鱗も至る所が溶解しており、その死骸を見るだけでも、如何に戦闘が激しかったかが窺えた。

 だがそのあまりの巨体ゆえに、まだほとんどが魔力化していないのだろう。体から膨大な魔力が霧散しているというのに、ほぼ原型がとどめられていた。

 とにかくこれは、いったいどういう状況なの……?

 何百人もの攻撃師が、火属性の高位魔法を乱発したってこうはならない。一体どれほどの魔法が、この場で使われたというのか……わたしは想像すら出来なくなった。

「アイツ……本当にこれをやったってのかよ……一人で……」

 わたしの隣で、多頭雷龍の死骸を見下ろしていたゲオルクさんがぽつりとつぶやく。

「いくらなんでもこれは……人智を超えてるだろ」

 そう──ジップに固有魔法があったとしても、これは固有魔法の域すら超えている。

 そもそも、ここまでの火力をどうやって生み出せるというのか。人間一人の魔力では到底できっこないことなのに。例えレベル99になったとしても。

 そういえばジップは、以前わたしに「オレは死ねない」と言っていた。死なない、、、、のではなく死ねない、、、と。

 人の生死を超越するほどの固有魔法で、しかもそれが自分の制御外にあるのだとしたら……もはやそんなの魔法でもなんでもない。

 神にも等しい力だろう……

 多頭雷龍の死骸を見下ろしたまま呆然としていたら、隣のレニに腕を引っ張られた。

「ねぇ! ジップはどこ!? どうしてここにいないの!? あれを倒したのなら、ここにいるはずでしょ!?」

「え……あ……そ、そうよね……ジップは……」

 わたしはクレーターの底をよくよく観察するも、そこに人影はない。そもそもクレーター内は、熱しすぎていて、人が立ち入れる状態ではないし……

 だとしたら、遠距離から攻撃魔法を叩き込んだということ?

 だからわたしが振り返ると、その直後、煙の向こうから調査隊の一人が駆け寄ってきた。

「生存者発見! 大怪我をしています! 回復師は一緒に来てください!」

 するとレニが弾かれたように走り出す。

「あ、レニ!」

 もはや制止の声も聞かずに、レニは調査隊員に詰め寄った。

「どこ!? ジップはどこにいるの!?」

「え、あ、回復師ですか!?」

「早く場所を教えて!」

 レニの勢いに押されて、調査隊員は後方を指差した。

「この方向へ、500メートルほど直進したところに男性が──」

 するとレニは勢いよく走り出す。

「レニ! 待って!」

 多頭雷龍が討伐されたとはいえ、状況はまだクリアになっていない。煙に隠れて魔獣が潜んでいるかもしれないのだ。だからわたしとゲオルクさんは、慌ててレニを追いかける。

 そうしてレニとの距離を詰めたとき、レニが悲鳴を上げた。

「ジップ!?」

 果たしてそこには、大量の血を流して倒れるジップの姿があった。意識はない。

「ジップ! しっかりして!?」

「待ちなさいレニ! 触ってはダメ!」

 わたしは慌ててレニを押さえつける。

「どんな容体なのか分からないのよ!? 動かしただけで致命傷になるかもしれない! 回復師に任せなさい!」

 しかしレニは、回復師が到着したあとも泣き叫び、ジップの名前を呼び続けていた。
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