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第35話 本体初参戦の死闘が始まった──!
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ジップは能力読取の魔法を発現し、目を見開く。
(なんだと!?)
文献でしか見たことのない魔獣名の表示に、オレはすぐさま反応した。
「ゲオルク! 退却だ! 相手は多頭雷龍だ!!」
「はぁ!? そんな馬鹿な!?」
「馬鹿でもなんでもいい! 全員逃げるぞ!!」
「わ、分かった!」
オレの切羽詰まった声で、弾かれたかのように全員が退却を始める。
首がたくさんあるのが多頭龍で、首が多いほどに強力となる。雷龍とは自由自在に雷を操る龍のことだ。その二つの要素を合わせ持つ多頭雷龍ともなると、もはや超強力なんてもんじゃない!
ご先祖様たちが決死の思いで残した文献によると、ダンジョン上層に生息する魔獣で、その討伐には魔人でも手こずるほどだという。
当然、ダンジョン上層に行けたことのないオレは戦ったことはない。
そもそもドラゴン自体が魔獣の最強種だというのに、その中でも超高位に君臨するのが多頭雷龍だ。オレが裏ワザを駆使したところで、今のレベルでは勝てるかどうかも分からない!
なぜこんな下層で、最強種のドラゴンとエンカウントしなくちゃならないのかはまったく分からないが、とにかく今は逃げるしかない!
走り出したオレたちに、結界を維持しながらもゲオルクが指示を飛ばす。
「ユーティは前衛を頼む!」
「分かった!」
「新人三人はユーティの後に続け! しんがりはオレが──」
「ゲオルク!」
その指示を遮ってオレは言葉を放つ。
「後衛はオレがやる!」
「しかし──」
「オレには固有魔法がある!」
「なんだと!?」
「だから凌げる!」
固有魔法の吹聴は厳禁されているが、非常時はその限りではない。最強種の中でも超上位の多頭雷龍に遭遇している、今の状況以上の非常事態なんてあるもんかよ!
「だからみんなを頼む! 特にレニを!」
すでに脚をもつれさせそうになっているレニを指差すと、ゲオルクは状況をすぐ飲み込んで「分かった……!」と頷き、レニを小脇に抱えた。
レニの「ひぃ!?」という悲鳴が聞こえてきたが、それ以外は何もせず、大人しく抱えられている。人一倍の怖がりだからこそ、今の状況を誰よりも理解しているはずだ。
その直後、目をくらませるほどの閃光と共に、強烈な雄叫びが爆発する。
雄叫びだけで体に衝撃が届くほどだ! レベル33のベテラン盾使いが結界を張り巡らせているというのに!
「──!!」
レニかレベッカか、誰かの悲鳴が聞こえてきた気がしたが、もはや意味を把握することも出来ない。
閃光が収まると、ゲオルクの結界には無数の亀裂が入っていた。
「今のは何!?」
レベッカの問いにオレが答える。
「雷撃系の広域攻撃だ!」
「嘘でしょ!? 結界を飲み込んだわよ!?」
結界どころの騒ぎじゃない。この巨大な空洞すべてが雷撃の嵐だったはずだ!
その防御結界を展開していたゲオルクが吠える。
「くそったれが!!」
強烈な攻撃を受ければ受けるほど、結界を張る術者の魔力は消費される。それでもゲオルクは、レニを抱えながら全速力で走り、かつ結界を修復し始めるが、次の攻撃が来たら保たないかもしれない……!
だからオレは、自身の魔力を分け与える魔法を発現させる。
「魔力供給!」
「わ、悪い!」
「ゲオルク達はこのまま突っ走って逃げろ!」
「お、おい! それはどういう意味だ!?」
「オレはここで、ヤツを足止めする!」
「待てよ!? いくら何でもそりゃ──」
「いいから行け! このままじゃ全滅するぞ!」
言うや否や、オレは結界の外に飛び出る。
「ジップ──!」
レニかレベッカか、あるいは二人の悲鳴が同時に聞こえてきたが、オレが立ち止まることで悲鳴はすぐに離れていく。
オレの指示通り、この場から全員退却していった。
「さて……と」
そうしてオレは、苦笑交じりに頭上を見上げる。
「……ったく。こんなことにならないよう……残機を使って安心安全のダンジョン攻略をしてきたってのになぁ……」
オレの正面には、八つの顎門が舌舐めずりをしている。その姿は、完全にヒュドラか八岐大蛇かという形状で、デカさで言えば、高層ビルが八本も乱立しているといったところか。
日本でも、新宿の高層ビル街で空を見上げれば、この感覚を味わえるかもしれない。もっとも、その首一本一本が複雑怪奇な動きをしているのだが。
「まったくもって理不尽な状況だ……怠けていたバチでも当たったってか?」
しかしいくら愚痴ったところで、多頭雷龍は待ってくれない。
八つの口に、みるみるうちに魔力が収束されていく。
「そっちがその気なら──徹底的にやってやんよ! 身体生成! 完全魔防結界!!」
巨大空洞が埋め尽くされるほどに残機を生み出し、本体初参戦の死闘が始まった──!
(なんだと!?)
文献でしか見たことのない魔獣名の表示に、オレはすぐさま反応した。
「ゲオルク! 退却だ! 相手は多頭雷龍だ!!」
「はぁ!? そんな馬鹿な!?」
「馬鹿でもなんでもいい! 全員逃げるぞ!!」
「わ、分かった!」
オレの切羽詰まった声で、弾かれたかのように全員が退却を始める。
首がたくさんあるのが多頭龍で、首が多いほどに強力となる。雷龍とは自由自在に雷を操る龍のことだ。その二つの要素を合わせ持つ多頭雷龍ともなると、もはや超強力なんてもんじゃない!
ご先祖様たちが決死の思いで残した文献によると、ダンジョン上層に生息する魔獣で、その討伐には魔人でも手こずるほどだという。
当然、ダンジョン上層に行けたことのないオレは戦ったことはない。
そもそもドラゴン自体が魔獣の最強種だというのに、その中でも超高位に君臨するのが多頭雷龍だ。オレが裏ワザを駆使したところで、今のレベルでは勝てるかどうかも分からない!
なぜこんな下層で、最強種のドラゴンとエンカウントしなくちゃならないのかはまったく分からないが、とにかく今は逃げるしかない!
走り出したオレたちに、結界を維持しながらもゲオルクが指示を飛ばす。
「ユーティは前衛を頼む!」
「分かった!」
「新人三人はユーティの後に続け! しんがりはオレが──」
「ゲオルク!」
その指示を遮ってオレは言葉を放つ。
「後衛はオレがやる!」
「しかし──」
「オレには固有魔法がある!」
「なんだと!?」
「だから凌げる!」
固有魔法の吹聴は厳禁されているが、非常時はその限りではない。最強種の中でも超上位の多頭雷龍に遭遇している、今の状況以上の非常事態なんてあるもんかよ!
「だからみんなを頼む! 特にレニを!」
すでに脚をもつれさせそうになっているレニを指差すと、ゲオルクは状況をすぐ飲み込んで「分かった……!」と頷き、レニを小脇に抱えた。
レニの「ひぃ!?」という悲鳴が聞こえてきたが、それ以外は何もせず、大人しく抱えられている。人一倍の怖がりだからこそ、今の状況を誰よりも理解しているはずだ。
その直後、目をくらませるほどの閃光と共に、強烈な雄叫びが爆発する。
雄叫びだけで体に衝撃が届くほどだ! レベル33のベテラン盾使いが結界を張り巡らせているというのに!
「──!!」
レニかレベッカか、誰かの悲鳴が聞こえてきた気がしたが、もはや意味を把握することも出来ない。
閃光が収まると、ゲオルクの結界には無数の亀裂が入っていた。
「今のは何!?」
レベッカの問いにオレが答える。
「雷撃系の広域攻撃だ!」
「嘘でしょ!? 結界を飲み込んだわよ!?」
結界どころの騒ぎじゃない。この巨大な空洞すべてが雷撃の嵐だったはずだ!
その防御結界を展開していたゲオルクが吠える。
「くそったれが!!」
強烈な攻撃を受ければ受けるほど、結界を張る術者の魔力は消費される。それでもゲオルクは、レニを抱えながら全速力で走り、かつ結界を修復し始めるが、次の攻撃が来たら保たないかもしれない……!
だからオレは、自身の魔力を分け与える魔法を発現させる。
「魔力供給!」
「わ、悪い!」
「ゲオルク達はこのまま突っ走って逃げろ!」
「お、おい! それはどういう意味だ!?」
「オレはここで、ヤツを足止めする!」
「待てよ!? いくら何でもそりゃ──」
「いいから行け! このままじゃ全滅するぞ!」
言うや否や、オレは結界の外に飛び出る。
「ジップ──!」
レニかレベッカか、あるいは二人の悲鳴が同時に聞こえてきたが、オレが立ち止まることで悲鳴はすぐに離れていく。
オレの指示通り、この場から全員退却していった。
「さて……と」
そうしてオレは、苦笑交じりに頭上を見上げる。
「……ったく。こんなことにならないよう……残機を使って安心安全のダンジョン攻略をしてきたってのになぁ……」
オレの正面には、八つの顎門が舌舐めずりをしている。その姿は、完全にヒュドラか八岐大蛇かという形状で、デカさで言えば、高層ビルが八本も乱立しているといったところか。
日本でも、新宿の高層ビル街で空を見上げれば、この感覚を味わえるかもしれない。もっとも、その首一本一本が複雑怪奇な動きをしているのだが。
「まったくもって理不尽な状況だ……怠けていたバチでも当たったってか?」
しかしいくら愚痴ったところで、多頭雷龍は待ってくれない。
八つの口に、みるみるうちに魔力が収束されていく。
「そっちがその気なら──徹底的にやってやんよ! 身体生成! 完全魔防結界!!」
巨大空洞が埋め尽くされるほどに残機を生み出し、本体初参戦の死闘が始まった──!
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