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第33話 ジップと×××しちゃダメって

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「あうう……久しぶりのダンジョン……やっぱり不気味……」

「ほらレニ。あなたの魔力はもう十分なんだから、しゃんとしなさい」

「で、でもでも……やっぱりしがみついてていい? レベッカママ……」

「だからママはやめて。手は繋いであげるから」

 う、う~~~ん……レベッカわたしって、なんだか本当にレニのママになりつつあるような……

 もちろん、レニの世話をすること自体はイヤでもなんでもないし、むしろ「この子、かわいいな~。こんな娘がいてもいいかな~」なんて思ったりしているのだけれど……あっ!

 そんなことを思っているから、ますますわたしがママ役に適合しているんじゃないかしら!?

 だからわたしは正門空洞を歩きながら、レニの耳元で囁いた。前を進むジップには聞こえないように。

(ねぇレニ。あなた、本当にそれでいいの?)

(いいって、何が?)

(わたしとジップの養女になるって話)

(もちろんいいに決まってるよ)

 なんの躊躇ためらいもなくレニが言ってくるものだから、わたしは拍子抜けをしてしまう。

 レニって、ジップの事が好きだったんじゃ……その、恋愛的な意味で。

 学生だったころ、ジップには聞いてみたことがある。

 しかしジップは「アイツは、オレの将来性が目当てであって恋愛感情はないと思うが……」とのことだったけれど……

 そのときは、ジップが鈍いから、レニの感情に気づいていないと思ったけど、ひょっとしてジップの言うとおりなのかしら?

 だとしたら……もしかするともしかして……わたしにもチャンスある?

(ねぇレニ、本当によく考えてみて? それって、わたしとジップが結婚するってことになるのよ?)

(そうだよ? 二人が結婚しないと、わたしの養子縁組は出来ないし)

(そ、そうよね……つまり、わたしとジップが……でも例えば、その……こ、子供とか出来ちゃってもいいの……!?)

(え?)

 わたしは、勢い余って妙な例えをしてしまう……!

 するとレニの目が丸くなった。

 さ、さすがに今の話は言い過ぎたかしら……あくまでも例えとはいえ……

 頬が熱くなるのを感じていると、しかしレニは楽しそうに言ってきた。

「いいね! ジップとレベッカの子供!」

「ちょ、ちょっと!?」

 大声でそんなことを言うものだから、ジップとゲオルクさんが振り向いてくる。たぶん後続のユーティにも聞こえてしまっただろう。

 ジップが呆れ顔で──でも顔はにわかに赤くなっていたけれど──言ってくる。

「おまいら……これからダンジョン攻略だってのになんの話してんだよ……」

「ち、違うわよ!? なんにも話してないから!」

「いやでも今──」

「気のせい! 気のせいだから!!」

 わたしはとにかく気のせいで押し切ると、ジップは「まぁいいけど……正門空洞を抜けたら気を引き締めろよ」と言いながら前を向いた。

 わたしは再びレニの耳元で、しかし口調は強めに非難する。

(レニ! 大声で恥ずかしいことを言わないで!)

(え……? 子供が出来るって恥ずかしいことなの?)

(あ、いや……そういうわけじゃないけど……)

(レベッカとジップの子供なら、すごく可愛くて、将来も有望だと思うけど)

(ま、まぁ……そうだといいなって思わなくもないというか……)

(あ、もしかしてそうすると、わたしはお姉ちゃんってことに!?)

(書類上はそうだけれども……子供にとっては、もはや母親が二人にしか見えないでしょうね……)

(それでもいいよ。うふふ……楽しみだなぁ二人の子供。わたし、出来れば女の子がいいな♪)

(い、いや……ちょっと待ってよ……)

 も、もしかしてこのコ………………

 ………………子供が出来る過程を知らないのかしら?

 でも考えてみれば、レニが話す相手って、これまではジップくらいしかいなかったわけで、奥手なジップが、そーゆー過程をレニに説明しているとも思えない。

 もし説明していたら……とりあえずジップを締め上げるけど。

 だとしたら、養女になるとか無邪気に言っているのも分かる気がする。

 ジップは「将来性が目当てだから恋愛感情はない」と言ってたけれど、レニは、恋愛感情がないのではなくて知らない──もしくは自覚がまだないってことなんじゃないかしら?

(ねぇレニ……よ~~~く考えてみて? 例えば、わたしとジップが仲良く街を歩いていたら、どんな気分になる?)

(え? それはもちろん、わたしも連れて行ってほしい。娘なんだし)

(そ、そう……でも連れて行くのはダメって言ったら?)

(………………レベッカは、わたしのこと嫌いなの?)

 すぐさま涙目になるレニに、わたしは慌てて首を横に振った。

(ち、違うのよ……! そうじゃなくて……あ、そうそう。家族だとしても、親と子では、一緒に行動できないことがあるのよ。レニのご両親だって、レニとずっと一緒にいるわけじゃないでしょう?)

(そう言われてみれば……そうだね。例えば寝室は、パパとママは一緒なのに、わたしだけ別だし……)

(そ、そうそう。だからねレニ。わたしたちの娘になったからといって、ずっとジップと一緒にいられるわけじゃないのよ?)

(…………そう、なんだ)

(ええ、そうなの。だから養女になることはよくよく考えたほうが──)

 と、そこまで言いかけたところで、わたしはふと気づく。

 『レベッカはママ』というレニの認識はやっぱり改めさせたくて、わたしは説明してきたけれど……

 でもそのためには、レニの恋愛感情を自覚させる必要があるわけで……

 そうなったら……えっと……どうなるの?

 もしかしてわたし……自分で自分の首を絞める真似をしてなくない?

 だったらこのまま、レニは無垢なままでいてくれたほうがいいんじゃ──

 ──ううん、違う。

 やっぱりそんなの、フェアじゃない。

 それでわたしがジップを独占してしまったら、わたしはきっと後悔する。レニの顔をまともに見られなくなる。

 だからわたしは、決着を付けなくちゃならない。

 でも……こんな、ダンジョンに向かう途中で言う話でもないわよね。

 だからわたしは、日を改めて、レニと二人っきりになって話そうと決めたタイミングで、レニが聞いてきた。不思議そうな顔つきで。

(レベッカ、どうしたの?)

(あ……ごめん。なんでもないわ。そろそろ分岐ポイントだし、この話は後日でいい?)

(いいけど……結局レベッカは、つまりダメっていいたいの?)

(ダメって、何が?)

(養女であるわたしは、ジップとえっちしちゃダメって)

「あなた分かってるじゃない!? 何もかも!!」

 わたしの悲鳴は、正門空洞に大きく反響してしまうのだった……
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