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第32話 レニを縄で縛ることを決めた

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 レニの魔力量を増強するための訓練は、初日こそ不評だったものの、翌日から吸収量を調整した結果、大好評に変わる。

 やっぱり魔力吸収自体は気持ちいいらしいから、吸収量さえ間違わなければ問題なかった。魔力残量を10ポイントくらいに残しておけば、レニはなんとか立ち上がることが出来て、トイレに行ったり寝返りを打ったりも自力で可能だった。もちろん会話もオッケーだ。

 だからあとは、オレたちが帰ってくるまで寝ていればいい。なんとも言えない心地よいまどろみに身を委ねているだけで、気づけば夕食の時間になっている……とのことで。

 しかも、魔力回復で体も疲れているから、夜もぐっすり寝られるそうだ。基礎代謝を使うからか、筋力なんて衰えるどころか微増すらしていた。

 そして挙げ句の果てには……なんと、レベルが1つアップした……

 フリストル市300年の歴史の中で、魔獣を一匹も討伐することなくレベルアップした冒険者は、レニが初めてではなかろうか?

 とはいえ……だ。

 18歳のうら若き乙女が、日がな一日寝ているだけというのはどうなのだろう? 病気でもないのに。

 オレが考案した訓練のせいではあるが……はっきりいって、その行く末には恐怖すら覚えた。寝ているだけで何もせず、気づくと中年になっていたなんて目も当てられない。

 とくにレニは、見た目はめちゃくちゃ可愛いわけだから……もっと外に出て活動的にならないともったいない気がする。愛想を振りまけとは言わないまでも、酒場とかにいるだけで、みんなが(特に男性陣が)チヤホヤしてくれるはずなのに、どうしてこんな性格になってしまったのだろうなぁ……

 ま、まぁ……レニがチヤホヤされるというのは、それはそれで釈然としないが……

 うむむ……こんなことを考え始めると、「オレたちの幸せってなんだっけ?」などと思考の泥沼に填まりかねないのでやめておこう。仕事詰めなのと食っちゃ寝しっぱなしなのと、どっちがいいかと問われても困るし。

 いずれにしてもオレは、レニに何度も「この訓練は、最初のうちだけだからな?」と念を押した。レニは不服そうだったが。

「なぁレニ……お前ってオレと……その……一緒にいたいって言ってただろ?」

 ちょっと照れくさい台詞を掘り起こしてみるも、しかしレニは──

「訓練で寝ていれば、気づけばジップは帰ってきてるし。であれば一緒にいるも同然」

 ──とのことだった。

 いや……そういうのを一緒だなんて、オレは絶対に認めないからな?

 ほんと……オレが不慮の事故で死んだりでもしたら、コイツはどうなってしまうんだろう……まぁ残機無限だから事故では死ねないんだけど。

 そんなわけでレニはレベル2になったあとも、ああだこうだと言い分けをしてまたも引きこもりに戻ってしまった。

 とりあえず一ヶ月間は黙っておくけど、それ以上経ったなら、縄で縛ってでもダンジョンに連れて行くつもりだ。そもそも、冒険者なのに冒険をしないどころか、魔獣の一匹も狩らないなんて仕事になってないし。

 とまぁレニは、レベルは上がっても振り出しに戻った感があるが、レベッカのほうはとても順調に成長していた。

 最初こそ魔獣に怯んでいたが、一ヵ月も経つ頃には、そんな怯えはまったくなくなる。

 元々が頭がよくて勉強熱心であり、さらには「地上に出る」というダンジョン攻略の目的も明確だから、実戦での成長はことさら早いのだろう。攻撃師として、多彩な攻撃魔法を臨機応変に駆使して魔獣を殲滅して、わずか一ヵ月でレベルは8。オレを除けば、新人の中で最高レベルだし、その成長速度はオレ以上だった。

 かくいうオレは、一ヵ月経ってもレベル10。一つしかレベルアップしていない。

 ってかレベルがそもそも偽物なので、むしろ「ちゃんとレベルアップするんだな」という感想をもった。たぶん冒険証に細工がされていて、オレだけすごい重み付けをされているんだろう。別にいいけど。

 それとゲオルクさんやユーティとの連携も上手く取れるようになったし、ゲオルクさんも「お前達、オレらとパーティを合体させない?」などと言うようになってきた。

 同行する先輩冒険者とパーティを合体させる例はけっこうあるから、オレとレベッカだけなら構わなかったんだけど……しかしそうなると、ますますレニが問題になるわけで。

 レニは、この一ヶ月間で、魔力総量だけはレベル5相当にアップしているのだから、いい加減、レニを現場復帰させてダンジョンに慣らさなくては。

 だからオレは、レニを縄で縛る、、、、ことを決めた、その翌日に──

 ──事件は起こった。
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