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第30話 魔法ステイタスは、魔法を使うことで伸びるんだったよな?

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 ジップオレがつまみをほおばると、ケーニィが聞いてくる。

「レニのレベルが1なのは知ってるけど、細かいステイタスはどうなってんだ?」

「…………すべて最低値だ」

 ステイタスとは、体力や魔力、はたまた装備品を含めたときの攻撃力や防御力のことを指す。全部で12コの数値指標があり、それらが一定の基準を満たすとレベルアップという仕組みだった。

 また職種によって、必要ステイタスが違ってくるので、魔導師の場合は、体力が少なめでも魔力が多ければレベルは上がる。その逆だと上がらないが、自身の適性を無視して職種を選ばない限り、そのようなミスマッチは起こらない。

 しかしミスマッチは起こらなくても、すべてが最低値でレベルが上がらないという人間は存在する。それがレニだった。

「レニの場合、体力系ステイタスが生活に支障を来すほどだったから、今までは体力を付けさせてたんだが……」

「おいおい……そこまで低いステイタスで、ダンジョンなんて歩かせてよかったのか?」

「ああ……だから、ダンジョンの魔力をもろに食らって熱を出したのかもしれない」

「そのくらい、気遣ってやれよ。レニのことは、お前がいちばんよく知ってるんだから」

「すまない……」

「いや、オレに謝られても」

 ダンジョン内は、空気中の魔力濃度も高くなる。ダンジョン自体が放つ魔力は自然魔力と呼ばれているが、大人であれば問題ないはずなのだ。だが、例えば赤ん坊をダンジョンに放り出すと、いるだけで体力が削られていき、下手をすると命に関わる。

 もっとも赤ん坊の場合は、ダンジョンにいるだけで不快感を覚えるらしく、すぐに大泣きするのだが。そもそも、赤ん坊をダンジョンに入れるなどというシーンはないわけだし。

 しかしレニの場合、この五日間、レベッカにしがみついているばかりで声もあげないから、自然魔力に浸食されていたことに気づけなかったのだ。

 ある意味、赤ん坊より反応が鈍いとも言えるのだが……

 しかしそこで、オレはふと思いつく。

「自然魔力に負けないためには、レニの場合、魔法ステイタスを強化したほうがいいかもしれない……」

 体力ステイタスは、持久・筋力・敏捷・柔軟の四項目あり、魔法系も、総量・知覚・強度・速度の4つが存在する。これに加えて装備品を含めた値も4つある。

 このうち体力系は、日本の体力テストと同じようなものだ。戦闘とは運動のことだから、それぞれの体力ステイタスが高いほどにいい。とくに見落とされがちなのが柔軟で、体が柔らかくないと様々な動作に対応できなくなる。

 対する魔法系は、まず『総量』とは魔力の多さのことで、総量が多いほどたくさんの魔法を使える。ゲームで言えばマジックポイントMPだ。

 つぎの『知覚』は分かりにくいが、敵を認識できる能力のことだ。この数字が高まるほどに範囲攻撃が広がる。

 そして『強度』は、同じ魔法を使ったとしても、強度が強いほどに魔法の威力が高まる。

 最後の『速度』は、呪文詠唱の早さだ。『速度』を究極まで高めると、様々な魔法を無詠唱で発現可能となる。

 このうち、ダンジョンの自然魔力の影響を打破するために必要なのは、体力系なら『持久』、魔法系なら『総量』だ。体力がなくても、魔力量がアップすれば、心身が魔力になじむわけだから自然魔力の影響はなくなる。

 ということでオレは、レニの底辺な魔力量をなんとかアップ出来ないものかと考えていたら、ケーニィは難しい顔つきになっていた。

「魔法ステイタスの強化といっても、結局は、場数を踏んで魔法をたくさん使うしかないだろ。そのためにはダンジョンに入るのが効果的だが、入ったら自然魔力にやられるわけで……」

「だよな。ダンジョンに入らなくても、魔法強化できる方法があればいいんだが……」

「そんな方法があれば、とっくの昔に学校が採用してるんじゃね?」

「まぁそうだけど……」

 だが学校の訓練は、全生徒が健全かつ頑強な心身であることを前提としている。

 人間がダンジョンに住むようになってから300年も経ち、ダンジョン内で生まれてくる子供は男女ともに屈強な子供となった。病気にも強く、スクスクと成長してやたら元気だ。日本の子供とスポーツでもやらせたら、日本の子供が完敗するのは間違いない。

 大学部の研究によると、これは自然魔力の影響らしい。ダンジョンほどではないにしろ、ダンジョン都市にも自然魔力は発生しているからな。だから自然魔力自体が悪いというわけでもないのだが……

 いずれにしても学校の教育プログラムは、レニのような怠惰な子供を想定していない。そこが盲点になっているのではないかと考えてみる。

 オレは、自身の思考を整理するためケーニィに問いかけた。

「なぁ……魔法ステイタスは、魔法を使うことで伸びるんだったよな?」

「どしたの? 今さらそんな基本的なことを」

「いやちょっと整理したくて」

「まぁいいけど、そうだよ。とくに『総量』に関しては、使っては枯渇、使っては枯渇させるほどに、じわじわと伸びていく。それ以外の魔法ステイタスは、いろいろ工夫しなくちゃかもだが」

「だよな……ということは、少なくとも『総量』を増やすためには、魔力を使い続ければいいわけだ」

「まぁ……そうなるな」

「であるならば、別に魔法を使わなくたって、魔力を意図的に減らせばよくないか?」

「………………は?」

 オレの問いに、ケーニィは目を丸くした。
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