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第29話 あるいはオレの…………嫁とか?

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 レニを寝かしつけたあと、ジップオレはケーニィを酒に誘おうと思ってヤツの家に出向くと、ケーニィはすでに酒場に向かったと母親に知らされた。

 ちなみにこの異世界では、親子はずっと同居する。結婚したらどちらかの家に住むことになる。なぜなら都市は狭いため、親元を離れねばならない理由もなければ、自分の家を建てるような場所もないからだ。

 そんなわけで、ケーニィが行ったという酒場にオレも向かう。

 今日は休日で、しかも就職してから初めての週末だからな。呑みたくなるのも頷ける。

 いや待て……オレが前世で新入社員だったころ、そんなに酒が恋しくなったかな? 一人でも飲みに行きたいと感じたことはなかったような……まぁ歳を取って、仕事でストレスが溜まりまくってからは毎週呑んでたけれども。

 ケーニィの10年後がちょっと心配になりつつも、オレは酒場に入った。

「おう、ジップ。遅かったじゃないか」

 カウンターで一人呑みをしていたケーニィが、オレの姿を見つけて片手を上げた。別に待ち合わせていたわけじゃないが、結果的にそうなったわけだしまぁいいか。

「レニが熱を出してな。その看病をしてたんだ」

「なるほど。お前さんも何かと大変だねぇ」

「そうかもな」

 オレはケーニィの隣に座ると、とりあえずの麦芽酒とつまみを頼む。それからケーニィに聞いた。

「ギルドのほうはどうだ?」

「いや聞いてくれよ。めちゃくちゃ大変なんだよ。たった一週間で仕事を全部覚えろとかいうんだぜ、あのミュラギルマス。可愛い顔しておっかねぇわ」

 それからしばらくは、ケーニィの愚痴が続く。

 ケーニィは新人スタッフのはずなのに、そこの長であるミュラさんの指示を直接受けているってことは……コイツ、けっこう見込まれているのかもな。

 日本で言えば、社長に直接指示を受ける新入社員だなんてあまりいないだろう。幹部候補生でもなければ。まぁそれは会社の規模にもよるか。

「で、ジップのほうはどうだ? ダンジョンってどんなとこなの?」

 ケーニィは、学校卒業後すぐギルド職員になったから、当然、ダンジョンに入ったことはない。だから興味があるのだろう。自分自身が入りたいとは思わなくても、怖いもの見たさ的な感覚で。

 だからオレは答えようとしたが……すでに慣れきってしまっているので特に感想はなかった。

「ダンジョンは……まぁどうってことはないな」

「まぢで? けど新人冒険者は、どんなヤツでも、初めて魔獣と出くわしたらビビるって話じゃん。お前は大丈夫そうだが」

「そうだけど、毎日潜ってたら数日で慣れるさ」

「あ、レベッカはどうなん? ビビってた?」

「最初はちょっと怯んでたけど──」

「あの強気なレベッカでもビビるんかよ。魔獣ってどんだけ怖いの?」

「まぁたぶん、魔力的なプレッシャーを受けるんだろう。弱い魔獣でも、自然放出される魔力は人間より多いから。でも二回目のエンカウントではちゃんと討伐できたぞ」

「そうか、さすがはレベッカだな。最初にビビると、新人はなかなか討伐出来ないっていう話なのに」

「一週間でレベルを2つもあげたしな」

「すげぇな。お前を除けば、間違いなくエース候補だ」

「そうだろうな」

 エースという明確な区分や役割はないが、討伐数が多い上位数名はエースと呼ばれる。もっとも、防御系・回復系の職種だと討伐数は稼げないから、攻撃系の職種の中でのあだ名みたいなものだ。

「あとレニはどうなの? 熱出したって話たけど」

 ケーニィにそう問われて、今し方まで握っていたレニの手の暖かさを思い出す。

「ああ……アイツなりにがんばってるよ。そもそも、毎日ちゃんとダンジョンに出向くとは思っていなかったしな」

「学校には来なかったのに、ダンジョンには行くなんてなぁ……」

「まったくだよ」

「それほどに、お前の事が好きってことなんだろ」

「そ、それは……」

 レニが冒険者になった経緯は、ケーニィには詳しく説明していないのだが、人間関係には何かと聡いケーニィには見透かされているようだ。

「まぁ……そうなのかもしれないが……」

 オレが口ごもっていると、ケーニィは、酒を一口含んでから言ってくる。

「今は慣らしってことでいいけど、この先はどうするつもりだ? 一年もしたら、新人とは見なされなくなるし」

「そうだな……」

 レニがダンジョンで鍛えられたことにより、人並みに体力が付いて、怠け癖も抜けたのなら、街の後方支援の仕事に転職してもいいのかもしれない。仕事は根気よく探すことになるだろうが。

 あるいはオレの…………嫁とか?

 まぁいずれにしても一年後のことだってまだ未知数だ。レニがどのくらい成長出来るのかによるのだから。

 だからオレは、レニの寝顔を思い出しながら言った。

「先のことはまだ分からないけど、少なくとも、オレはレニを見放すつもりはないよ」

「ふむ……だとしたら、少しずつでも、レニを戦力化しないとだな」

「そうなんだよな……」

 オレはため息をつくと、運ばれてきた麦芽酒を煽った。
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