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第28話 あ、ごめん。いま脱ぐから待ってて……
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ユーティと別れてから、オレは再びレニの家を訪れていた。
その頃にはすっかり日も暮れて、レニの両親も仕事から帰っていて、せっかく来てくれたのだからと夕食に誘われる。
レニはまだ寝ているようだったから、オレはご相伴にあずかることにした。
食事中、レニの両親に「レニは大丈夫かしら?」とか「ジップの足を引っ張ってるだろう?」とか質問攻めにされてしまったので、オレは、レニが頑張っていることを伝える。すると二人は胸を撫で下ろしていた。
レニの両親は、オレに迷惑を掛けているに違いないと思っているのだろうが、であったとしても、怠け者で引きこもりの子供がなんとか働いていることは嬉しいのだろう。だからオレは感謝されまくっていた。まぁもっとも、オレは迷惑だなんて思っていないが。
そんな夕食を終えてから、オレはレニの部屋をノックしてみた。
すると中から「はい……」という声が聞こえてきたので、オレは扉越しに確認する。
「オレだ。入ってもいいか?」
「いいよ……」
「服、着てるだろうな?」
「あ、ごめん。いま脱ぐから待ってて……」
「脱がんでいい!」
オレは、レニが服を脱ぎ出す前に扉を開ける。
すると、暗がりの中で横たわるレニがいた。服を脱ぐとか言っていたが、すぐに起き上がれるほどに体力は回復していないらしい。
オレはゆっくりと扉を閉めると、部屋の中は暗くなる。明かりを付けてレニの目を覚ますのも悪いと思ったので、オレはそのまま、ベッドサイドの椅子に腰を下ろした。
「調子はどうだ?」
「ん……まだ熱っぽい……」
「ちょっとおでこを触るぞ?」
そう断ってから、レニの額に手を当てる。まだけっこう熱が感じられた。
「……まだ引かないな、熱」
レニは、か細い声で言ってくる。
「ごめん……」
「いや、レニが謝ることじゃないさ。無理をさせたオレが悪かったんだから」
「そんなことない……」
「急いで治す必要はないからさ。ちゃんと回復するまでゆっくりしてていいからな」
「うん……」
「それじゃあオレはいくから──」
「もうちょっと……一緒にいて?」
立ち上がろうとしたら、レニに袖を掴まれた。発熱してる時に一人でいるのは心細いのだろう。だからオレは、レニが寝るまで付き添うことにした。
しゃべっていたら、なかなか眠れないかも知れないけれど……
「初めてのダンジョンは、どうだった?」
「怖かった……」
「そうか。でも去年までのレニに比べたら、ダンジョンに入るだなんて大きな進歩だからな。焦らずじっくりやっていこう」
「うん……」
「焦らなくても、そのうち慣れてくるさ。それに、都市周辺は弱い魔獣ばかりだし」
「うん……」
「強めの魔獣が出てきたとしても、ベテラン冒険者が二人もついているし、もちろんオレもいる。レニの事は、必ず守るから安心してくれ」
「ありがとう……」
そんな会話をしていたら、やがてオレの目も慣れてきて、レニの顔が見えてくる。
熱で上気しているその顔をしばらく見守っていたら、ふと、ユーティとの会話が思い出された。
「なぁ……レニ……」
「ん?」
「もしも、ダンジョンがどうしても怖いというのなら……冒険者、辞めてもいいんだぞ?」
「……え?」
「こんなに熱を出すほどツラい目に遭わせていただなんて、正直、思いもよらなかったんだ。ごめんな」
「………………」
「人には、それぞれ適性があるし。フリストル市では……まぁ長年戦時下にあるから、適性の活路がどうしても戦いに偏ってしまうけど、でも、レニに向いている仕事だってあるはずなんだ」
「………………」
「だからそれを探したいっていうのなら、オレも手伝うよ。苦手な戦闘に、無理して参加する必要はないのかもしれない」
オレのそんな台詞に、レニは黙ったままだ。
だからしばらくは沈黙が続いて──
──やがて、レニがぽつりと言った。
「わたし……ジップと一緒にいたい」
「……え?」
「だから……見捨てないで……」
「ま、待ってくれ。別にお前を見捨てようだなんて考えちゃいない。オレだって、お前と一緒にいたいと思ってる」
「本当……?」
「ああ、本当だ」
「よかった……ならわたし……がんばるから……」
「そうか。お前が冒険者をがんばるっていうのなら、もうこんなことは言わないよ」
「うん……」
オレがレニの手を握ると、レニはゆっくりと目を閉じる。
その寝顔は、どこか安堵の色が窺えた。
その頃にはすっかり日も暮れて、レニの両親も仕事から帰っていて、せっかく来てくれたのだからと夕食に誘われる。
レニはまだ寝ているようだったから、オレはご相伴にあずかることにした。
食事中、レニの両親に「レニは大丈夫かしら?」とか「ジップの足を引っ張ってるだろう?」とか質問攻めにされてしまったので、オレは、レニが頑張っていることを伝える。すると二人は胸を撫で下ろしていた。
レニの両親は、オレに迷惑を掛けているに違いないと思っているのだろうが、であったとしても、怠け者で引きこもりの子供がなんとか働いていることは嬉しいのだろう。だからオレは感謝されまくっていた。まぁもっとも、オレは迷惑だなんて思っていないが。
そんな夕食を終えてから、オレはレニの部屋をノックしてみた。
すると中から「はい……」という声が聞こえてきたので、オレは扉越しに確認する。
「オレだ。入ってもいいか?」
「いいよ……」
「服、着てるだろうな?」
「あ、ごめん。いま脱ぐから待ってて……」
「脱がんでいい!」
オレは、レニが服を脱ぎ出す前に扉を開ける。
すると、暗がりの中で横たわるレニがいた。服を脱ぐとか言っていたが、すぐに起き上がれるほどに体力は回復していないらしい。
オレはゆっくりと扉を閉めると、部屋の中は暗くなる。明かりを付けてレニの目を覚ますのも悪いと思ったので、オレはそのまま、ベッドサイドの椅子に腰を下ろした。
「調子はどうだ?」
「ん……まだ熱っぽい……」
「ちょっとおでこを触るぞ?」
そう断ってから、レニの額に手を当てる。まだけっこう熱が感じられた。
「……まだ引かないな、熱」
レニは、か細い声で言ってくる。
「ごめん……」
「いや、レニが謝ることじゃないさ。無理をさせたオレが悪かったんだから」
「そんなことない……」
「急いで治す必要はないからさ。ちゃんと回復するまでゆっくりしてていいからな」
「うん……」
「それじゃあオレはいくから──」
「もうちょっと……一緒にいて?」
立ち上がろうとしたら、レニに袖を掴まれた。発熱してる時に一人でいるのは心細いのだろう。だからオレは、レニが寝るまで付き添うことにした。
しゃべっていたら、なかなか眠れないかも知れないけれど……
「初めてのダンジョンは、どうだった?」
「怖かった……」
「そうか。でも去年までのレニに比べたら、ダンジョンに入るだなんて大きな進歩だからな。焦らずじっくりやっていこう」
「うん……」
「焦らなくても、そのうち慣れてくるさ。それに、都市周辺は弱い魔獣ばかりだし」
「うん……」
「強めの魔獣が出てきたとしても、ベテラン冒険者が二人もついているし、もちろんオレもいる。レニの事は、必ず守るから安心してくれ」
「ありがとう……」
そんな会話をしていたら、やがてオレの目も慣れてきて、レニの顔が見えてくる。
熱で上気しているその顔をしばらく見守っていたら、ふと、ユーティとの会話が思い出された。
「なぁ……レニ……」
「ん?」
「もしも、ダンジョンがどうしても怖いというのなら……冒険者、辞めてもいいんだぞ?」
「……え?」
「こんなに熱を出すほどツラい目に遭わせていただなんて、正直、思いもよらなかったんだ。ごめんな」
「………………」
「人には、それぞれ適性があるし。フリストル市では……まぁ長年戦時下にあるから、適性の活路がどうしても戦いに偏ってしまうけど、でも、レニに向いている仕事だってあるはずなんだ」
「………………」
「だからそれを探したいっていうのなら、オレも手伝うよ。苦手な戦闘に、無理して参加する必要はないのかもしれない」
オレのそんな台詞に、レニは黙ったままだ。
だからしばらくは沈黙が続いて──
──やがて、レニがぽつりと言った。
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「……え?」
「だから……見捨てないで……」
「ま、待ってくれ。別にお前を見捨てようだなんて考えちゃいない。オレだって、お前と一緒にいたいと思ってる」
「本当……?」
「ああ、本当だ」
「よかった……ならわたし……がんばるから……」
「そうか。お前が冒険者をがんばるっていうのなら、もうこんなことは言わないよ」
「うん……」
オレがレニの手を握ると、レニはゆっくりと目を閉じる。
その寝顔は、どこか安堵の色が窺えた。
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