平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
27 / 69

第27話 あなたは急いで、今よりもっと成長しなくちゃダメ

しおりを挟む
「………………は?」

 ジップオレは、ユーティに何を言われているのか分からず眉をひそめる。

 するとユーティが話を続けた。

「ゲオルクが言っていたでしょう? わたしたちは三人の小規模パーティを組んでいたんだけど、その一人が欠員になってしまったって」

「ああ……そういえばそうだったな」

 パーティメンバーは、何も三人限定というわけではない。三人以上、、であれば何人でもいいのだ。とはいえ、人数が増えれば増えるほど、戦いにおける連携も複雑になるし、補給の問題もあるわけだから、三人から六人程度の編成になるのが一般的だ。

「それでオレを勧誘しにきたってのか?」

「うん、そう」

「いやいや待てって。オレは、新人冒険者としてパーティを組んだばかりなんだぞ?」

「優秀な人材を、強力なパーティが勧誘することはよくあることだし、ギルドは推奨すらしている」

「そうかもしれないけど……」

「あの子達だって、話せば分かってくれる」

 そんなことを言われて、レニとレベッカの顔をオレは思い浮かべた。

 まずレベッカは……まぁ確かに、理路整然と説明すれば理解はしてくれるだろう……でもきっと、その晩に人知れず泣くはずだ。

 レニについては、何か交換条件を出せばあっさり承諾するだろうが……例えばパーティを移る代わりに結婚するとかの。

 しかしだからといって、冒険者を始めてから一週間でパーティ離脱するなんて不義理なことはしたくもない。

 だからオレは決然と言った。

「ありがたい申し出なのかも知れないが、お断りさせてもらうよ」

 オレが断るとは思っていなかったのか、ユーティは怪訝な顔をする。

「……なぜ?」

「今は、あいつらの面倒を見ていたいんだ。そういう気分なんだよ」

「何を悠長なことを言っているの?」

「悠長って……どうしてだよ。学校を卒業してから一人前の冒険者になるのに、誰だって数年はかかる。それを悠長だなんて──」

「違う。そうじゃない」

 ユーティは、一歩詰め寄って、真剣そのものの顔をオレに近づけてくる。その端正な顔立ちにオレは思わずドキリとするが、しかしユーティはまるで気にしていない様子だった。

「今は、戦争中なんだよ? 人間と魔族との。魔獣とは常に戦っているし、そもそも、いつ魔人に攻め込まれたっておかしくない。なのにどうして、ジップは悠長なことを言っているの?」

「そ、それは……」

 ユーティに現実を突きつけられて、オレは言葉に詰まった。

 確かに言われてみればその通りで……しかし、少なくともオレが転生したあとの18年間は平和だったのだ。ダンジョンにさえ出なければ。

 もちろん、ダンジョンで命を落とす冒険者も多くいたが、それはまるでテレビの中での話のようで……残機を通しての経験だったから、レベル上げとしての経験は貯まっても実感は薄かったのかも知れない。

 そういった感覚になっていたのも、フリストル市の行政が非常に上手くいっているからなのだろうけれども……だが確かに、ユーティの言うとおり、もし魔人に攻め込まれたら撃退できるかどうかは分からない。

 少なくとも、この都市が無傷で、死者の一人も出さずに撃退できるなんてことはないだろう。

 眼下に広がる街並みが、火の海に包まれる光景をイメージしてしまい、オレは思わずゾッとする。

 フリストル市が作られたこの空洞は相当に広いが……しかし密閉空間なのに変わりはない。そんな場所が火の海になったら……住人は全滅だ。

 オレが答えられずにいると、ユーティはオレの手を取った。

「だから……あなたは急いで、今よりもっと成長しなくちゃダメ」

「………………」

「そのためには、一刻も早くダンジョン上層へ進出すべき。少しでも早く地上を目指すべきなんだよ」

「…………だから、ユーティ達のパーティに入れってか?」

「そうだよ。なんだったら、レベッカは一緒に編入しても構わない。確かにあの子には伸び代を感じるから」

「いやだから、それは結果的にレニを追放するってことじゃんか」

 レニの顔を思い浮かべると、最悪のイメージに呑み込まれそうになっていたオレは現実に戻ることが出来た。

 今はまだ、この都市のどこにも火の手は上がっていないし、魔人にだって見つかっていない。

 だからもしかしたら、少なくともオレたちが生きている間は見つからないかもしれないじゃないか。フリストル市は、この300年間、まだ一度も見つかっていないのだから。

 それにそもそも、だ。

 オレのレベルは、すでにカンスト気味なのだ。

 今以上にダンジョン上層へ──つまり地上に向かって進出しようとするならば、どうやっても補給の問題にぶち当たる。

 長期戦になれば、残機達にも補給させねばならないわけで、そうなると、戦争のように補給路の確保やら中継基地やらも必要だろう。だからそれらの物資を生産しなければならないわけだが──

 ──フリストル市には、まだそこまでの余力はない。

「ユーティは、少し勘違いをしている」

「……勘違いって、何を?」

「オレを買いかぶりすぎている、ということだ。オレは、お前が思っているほど伸び代がないんだよ」

「そんなことは──」

「いや、これは事実なんだ。説明は出来ないけど、もう数年間はそれを実感している」

「………………」

「だから焦ったところで、意味がないんだよ。今以上になるためには、いろいろなことが足りなさすぎる。もしかすると、オレが生きているうちに足りることはないかもしれない」

 ダンジョン都市という閉鎖された世界では、どうやったって成長は鈍化する。人の数は増えないし、他都市と協力することも出来ないし、技術開発も遅々として進まない。

 そんな状況で、オレの裏ワザを支えられるだけの環境が揃えられるとは思えない。

「だからオレは、少しでも仲間を助けたいんだよ。その方が生存率は上がると思ってるからな。そんなわけで、レニのことも任せて欲しい」

「…………そう、分かった」

 ユーティから、ふっと表情が消える。

 さきほど見せたときのような、ちょっと乙女的な表情は、もはや見る影もなかった。

 どうやら失望させてしまったらしい。

 だが今オレが言ったことは、抗えない事実でもあるわけで……失望されるなら早めの方がいいだろう。

 そんなユーティは、力のこもらない瞳でオレを見上げた。

「でもきっと、回りはあなたを放っておかないよ」

「……そうかな?」

「そうだよ。あなたが戦えば戦うほど、わたしが言ったことを実感出来るようになる。だから忘れないで。最初に声を掛けたのは、このわたしだって」

「……分かった。よくよく記憶にとどめておくよ」

 そうしてユーティは振り返ると、丘の上公園を後にする。

 オレはユーティの小さい背中を見守っていたが、彼女が振り返ることはなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

そして俺は召喚士に

ふぃる
ファンタジー
新生活で待ち受けていたものは、ファンタジーだった。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...