26 / 69
第26話 女の子がオシャレしてるのに、褒め言葉のひとつも言えないのかな? キミは
しおりを挟む
どうにかレベッカの誤解を解き、オレとレベッカで、レニの相手をなんやかんやとしてから、さらにはレニを寝かしつけ──
──なんだかレニの思惑通り、レベッカとオレがレニの世話をし始めている気がしなくもないが、それはともかく。
夕方になった時分に、オレはフリストル市を一望できる丘の上公園にやってきた。
今日の夕方に、ユーティと会う約束をしていたのだ。話したいことがあるとのことで。
最初は、飯でも食いながら話を聞こうかと思ったのだが……ユーティの用件はなんとなく分かっていた。少なくともデートとかじゃないのは確かだし。
だからオレは、早めに切り上げたくて、かつ、ユーティと二人で会っていることを知人に知られたくなくて、市街地から離れた公園を指定した。
そんなわけでオレがフリストル市を眺めながらユーティを待っていると、背後に人の気配がした。
「……お待たせ」
素っ気ない言葉を聞いて、オレは振り返る。
するとそこには、私服姿のユーティがいた。
待ち合わせをしたのだからユーティがいることは分かっていたのだが、それでもオレは思わず気後れする。
「お、おう……オレも今きたところだから……」
何しろオレは、飾り気のない冒険者姿のユーティしか知らないわけで、オシャレしてきた彼女に気後れを感じても致し方ない……と思う。
それにしても……青いワンピースに、黒のストッキング姿なのは、ちょっと反則ではなかろうか? 太もものラインがめっちゃ際立っているし、体の凹凸だって妙に強調されているし。さらには、ブカブカに見えるデザインのブーツによって、脚の細さが強調されている。
そんな私服にストールを一枚掛けて、小さめのショルダーバッグを肩から提げていた。
………………きっと、このあとデートにでも行くのだろう、うん。
「どうかした?」
ユーティが小首を傾げてオレを覗き込んでくるものだから、オレは思わず立ちくらみを感じた……こいつ、狙ってやっているのではあるまいな? サラサラの髪の毛が、まるで計算され尽くしたかのように風に流れてるし。
オレは正味50数年ほど男をやっているわけだが、しかし今は18歳の若造なわけで、だから年上のお姉さんの魅力に参りそうになっていた……私服だけで。
しかも、どうしてか懐かしさを感じるし……オレの前世では、こんな美人と会話したこともないのだが。
懐かしさというか、マンガやアニメで見た憧れということか?
「おーい?」
「あ、ああ……ごめん。ユーティの私服姿を初めて見たもんだから……」
「…………ふぅん」
思わず本音を言ってしまうも、ユーティはさほど気にした様子もなく、オレの隣に並ぶと、夕焼けに染まった街を眺める。
フリストル市の最高標高に位置するこの公園は、ビルで言えば10階分くらいの高さになるだろう。だから、色とりどりの建物が並ぶ都市の端まで見渡せることが出来た。
この都市で、唯一開放感がある場所でオレは気に入っているが、今はあまりひとけはない。
「それで?」
不意にユーティに何かを問われて、オレは「え……?」と眉をひそめる。
するとユーティは、頬を少し膨らませた。
「女の子がオシャレしてるのに、褒め言葉のひとつも言えないのかな? キミは」
「え、あ、いや……ユーティがそういうことを求めてるとは思わなくて……」
「わたしがどうかじゃなくて、褒めるのが礼儀」
「そ、そういうもんか……じゃ、じゃあその……よく似合ってると思うぞ?」
「はぁ……ジップって、こういう方面はぜんぜんダメなんだね」
「経験が少ないもんで……」
いくら残機を増やそうとも、本体のオレが女子に声も掛けられないようでは、経験がまるで共有できないからなぁ……
まぁフリストル市の場合、多くの人間に面が割れているから、見知らぬ女性にナンパなんて出来るはずもないが。
などと心の中で言い訳をしていたらユーティが言ってきた。
「まぁいいよ。今日はそういう話をしに来たんじゃないから」
ユーティは、真面目な顔になるとオレを見上げる。
だがユーティが話し出す前に、オレの方から切り出した。
「最初に言っておくが、パーティからレニを追放しろとか、そういう話なら聞かないぞ」
「………………」
オレに先制攻撃をされたのが不服なのか、ユーティは少し不機嫌そうな顔になる。
「そういう話をするつもりはなかったけれど……」
「……そうなのか?」
「……でも、あの子は明らかに、ジップの足手まといじゃない」
「そんなことは言われなくても分かってる。だがこちらにも色々と事情があってな。レニを放っておくわけにはいかないんだよ」
「事情って何?」
「それは……色々あるんだよ。家族みたいなものなんだから」
レニを一人前の冒険者にしなければならない直接的な事情は、もちろんない。というかレニを一人前にする必要性もあまりない。
だから事情というのは、レニを引きこもりにさせては心身の健康によろしくない、ということになる。
などとユーティに言ったら「なら街の仕事でもさせればいいでしょう?」と言われそうなので黙っておいたが。オレがついていないと、なんの仕事も出来ないことは自明だし。
それにレニをパーティから外したところで、今のオレにはやることがないのだ。裏ワザによって、攻略可能なダンジョン階層はすべて攻略済みなのだから。
だがもちろん、裏ワザのことを言えるはずもないので、オレは、これ以上突っ込まれないように話題を変えた。
「レニのことじゃないとしたら、なんの用件なんだ?」
「………………」
ユーティは、オレの目をじっと見つめてから言ってきた。
「ジップ──わたしたちのパーティに入って」
──なんだかレニの思惑通り、レベッカとオレがレニの世話をし始めている気がしなくもないが、それはともかく。
夕方になった時分に、オレはフリストル市を一望できる丘の上公園にやってきた。
今日の夕方に、ユーティと会う約束をしていたのだ。話したいことがあるとのことで。
最初は、飯でも食いながら話を聞こうかと思ったのだが……ユーティの用件はなんとなく分かっていた。少なくともデートとかじゃないのは確かだし。
だからオレは、早めに切り上げたくて、かつ、ユーティと二人で会っていることを知人に知られたくなくて、市街地から離れた公園を指定した。
そんなわけでオレがフリストル市を眺めながらユーティを待っていると、背後に人の気配がした。
「……お待たせ」
素っ気ない言葉を聞いて、オレは振り返る。
するとそこには、私服姿のユーティがいた。
待ち合わせをしたのだからユーティがいることは分かっていたのだが、それでもオレは思わず気後れする。
「お、おう……オレも今きたところだから……」
何しろオレは、飾り気のない冒険者姿のユーティしか知らないわけで、オシャレしてきた彼女に気後れを感じても致し方ない……と思う。
それにしても……青いワンピースに、黒のストッキング姿なのは、ちょっと反則ではなかろうか? 太もものラインがめっちゃ際立っているし、体の凹凸だって妙に強調されているし。さらには、ブカブカに見えるデザインのブーツによって、脚の細さが強調されている。
そんな私服にストールを一枚掛けて、小さめのショルダーバッグを肩から提げていた。
………………きっと、このあとデートにでも行くのだろう、うん。
「どうかした?」
ユーティが小首を傾げてオレを覗き込んでくるものだから、オレは思わず立ちくらみを感じた……こいつ、狙ってやっているのではあるまいな? サラサラの髪の毛が、まるで計算され尽くしたかのように風に流れてるし。
オレは正味50数年ほど男をやっているわけだが、しかし今は18歳の若造なわけで、だから年上のお姉さんの魅力に参りそうになっていた……私服だけで。
しかも、どうしてか懐かしさを感じるし……オレの前世では、こんな美人と会話したこともないのだが。
懐かしさというか、マンガやアニメで見た憧れということか?
「おーい?」
「あ、ああ……ごめん。ユーティの私服姿を初めて見たもんだから……」
「…………ふぅん」
思わず本音を言ってしまうも、ユーティはさほど気にした様子もなく、オレの隣に並ぶと、夕焼けに染まった街を眺める。
フリストル市の最高標高に位置するこの公園は、ビルで言えば10階分くらいの高さになるだろう。だから、色とりどりの建物が並ぶ都市の端まで見渡せることが出来た。
この都市で、唯一開放感がある場所でオレは気に入っているが、今はあまりひとけはない。
「それで?」
不意にユーティに何かを問われて、オレは「え……?」と眉をひそめる。
するとユーティは、頬を少し膨らませた。
「女の子がオシャレしてるのに、褒め言葉のひとつも言えないのかな? キミは」
「え、あ、いや……ユーティがそういうことを求めてるとは思わなくて……」
「わたしがどうかじゃなくて、褒めるのが礼儀」
「そ、そういうもんか……じゃ、じゃあその……よく似合ってると思うぞ?」
「はぁ……ジップって、こういう方面はぜんぜんダメなんだね」
「経験が少ないもんで……」
いくら残機を増やそうとも、本体のオレが女子に声も掛けられないようでは、経験がまるで共有できないからなぁ……
まぁフリストル市の場合、多くの人間に面が割れているから、見知らぬ女性にナンパなんて出来るはずもないが。
などと心の中で言い訳をしていたらユーティが言ってきた。
「まぁいいよ。今日はそういう話をしに来たんじゃないから」
ユーティは、真面目な顔になるとオレを見上げる。
だがユーティが話し出す前に、オレの方から切り出した。
「最初に言っておくが、パーティからレニを追放しろとか、そういう話なら聞かないぞ」
「………………」
オレに先制攻撃をされたのが不服なのか、ユーティは少し不機嫌そうな顔になる。
「そういう話をするつもりはなかったけれど……」
「……そうなのか?」
「……でも、あの子は明らかに、ジップの足手まといじゃない」
「そんなことは言われなくても分かってる。だがこちらにも色々と事情があってな。レニを放っておくわけにはいかないんだよ」
「事情って何?」
「それは……色々あるんだよ。家族みたいなものなんだから」
レニを一人前の冒険者にしなければならない直接的な事情は、もちろんない。というかレニを一人前にする必要性もあまりない。
だから事情というのは、レニを引きこもりにさせては心身の健康によろしくない、ということになる。
などとユーティに言ったら「なら街の仕事でもさせればいいでしょう?」と言われそうなので黙っておいたが。オレがついていないと、なんの仕事も出来ないことは自明だし。
それにレニをパーティから外したところで、今のオレにはやることがないのだ。裏ワザによって、攻略可能なダンジョン階層はすべて攻略済みなのだから。
だがもちろん、裏ワザのことを言えるはずもないので、オレは、これ以上突っ込まれないように話題を変えた。
「レニのことじゃないとしたら、なんの用件なんだ?」
「………………」
ユーティは、オレの目をじっと見つめてから言ってきた。
「ジップ──わたしたちのパーティに入って」
4
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる