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第24話 この音は、レベルアップの音?

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「す……すごい……」

 レベッカわたしは、ジップの戦闘を見て唖然としていた。

 見て……というか、そもそもジップの剣筋すら見えなかったけれど……

 ジップとは、ずっと一緒に訓練をしてきた。よく話すようになったのは、高等部で同じクラスになったからだけど、最初の戦闘訓練を見ただけで、ジップは別格だと分かった。

 だから出来るだけ、ジップと組んで戦闘訓練をしてきたけれど……

 今までの訓練で、わたしはどれほど手加減をされていたか、今はっきりと思い知っていた。

「おーいレベッカ? 大丈夫か?」

 スライムを倒したジップが定位置に戻ってきて、わたしに声を掛けてきた。

「えっ……あ、うん……とくに問題ないわ……」

「そうか。つぎに魔獣と遭遇したら、今度はレベッカの番だからな。心構えをしておけよ」

「わ、分かった。今度は大丈夫だから」

 そうだ……今は、ジップとの実力差に落ち込んでいる場合じゃない。

 ここはダンジョンなんだ。まさに、死と隣り合わせの世界なんだ。

 だから、しっかりしなくちゃ……

 わたしは気を取り直して、周囲を警戒しながら歩き出す。

 でも……前方に見えるゲオルクさんと、そしてジップの背中が視界に入ってくる度に、わたしは気落ちしそうになった。

 いったいこれから、どれほどの努力をすれば、ジップやゲオルクさんのようになれるのだろう──そんな考えがよぎるたびに気が滅入ってくる。

 背後を守ってくれているユーティさんだって、わたしたちとさほど違わない歳なのにレベル29だ。対してわたしはまだレベル3。しかも、スライム程度に身をすくませてしまった。

(こんなんじゃ……地上に出るだなんて夢のまた夢よ……しっかりしなくちゃ……)

 わたしは内心で自分を叱咤して歩く。

 するとほどなくして、ゲオルクさんが片手を上げて停止の合図を送ってきた。

「お、またスライムだ。こんな低層で、すぐエンカウントするとは珍しい」

 わたしたちの隊列は停止する。わたしの腕にしがみついているレニの体がビクッと強張った。

「今回は三匹だ。どうする?」

 ベオルクさんの問いかけに、ジップが私を見た。

「レベッカ、やれるか?」

 激しくなる旨の動悸を抑えて、わたしは頷く。

「ま、まかせて」

 するとジップはニヤリと笑った。

「よし。そうしたら氷矢で攻撃するのがいいだろう。10本は出せるな?」

「大丈夫よ」

「そしたら攻撃は任せた。防御はゲオルクさんとオレでやる」

 そうしてジップは、すでに攻撃を受け止めているゲオルクさんのサポートに回る。

 早く……早く魔法を発現させないと……!

 氷矢は、つららのような氷の塊で敵を刺殺する攻撃魔法だ。氷の強度は術者の魔力に依存する。

 水属性のスライムには火や雷は効果が弱まるから、ジップは氷矢を選んだのだろう。本来なら、魔法の選定だってわたしがやらねばならないことなのに。

(これ以上、足手まといにはなりたくない……!)

 だからわたしは、意識を呪文に集中させる。

 魔法とは、魔力によってイメージを具現化させる能力のことだ。だから本来なら、正確なイメージをすぐ作れるのなら呪文は必要ない。

 でも戦場において、平時のようにイメージを作ることなんてまず出来ないという。そもそも平時のときだって、呪文なしで正確無比のイメージを作ることは困難なのだ。だからイメージ細部の一つ一つを呪文に託し、順を追って魔法発現する必要がある。

 わたしは生まれて初めて戦場に立って、これまで教わってきたことをまさに実感していた。

 そもそも呪文の発音すら間違えてしまうのだから……!

(ま、まずい! 魔法発現にこれほど時間を使っては──)

 焦れば焦るほど、わたしの口は回らなくなる。あれだけ反復練習したというのに、次の言葉さえも忘れてしまう……!

「レベッカ……」

 焦燥のあまり思考が止まりかけていたら、レニの声が聞こえた来た。

 横を向くと、わたしの腕にしがみつきながらも、レニは、涙でいっぱいになった瞳をこちらに向けていた。

「がんばって……」

「レニ……!」

 こんなに臆病なレニだって、がんばってダンジョンまでやってきたというのに、わたしは何をやっているの……!

 しかもレニを誘ったのはわたしじゃないか!

 正気を取り戻して、わたしは、呪文をイチから組み立て直す。

 果たして数十秒後、攻撃魔法が完成した。

氷矢グラチェス・サジータ!」

 わたしの回りに生まれた10本の氷矢が、一斉に射出される。

 ジップ達の頭上を飛び越えて、スライム三匹に勢いよく突き刺さった……!

「どうなった!?」

 わたしは思わず声を上げる。すると前衛二人が振り向いて、ニカッと笑ってくれた。それからジップが言ってくる。

「さすが。三匹ともに命中だ」

 前衛二人が道を空けると、そこには、コアを貫かれたスライムがいるかと思ったら、魔力に変わって霧散し始めた。

「おいレベッカ。吸収晶の準備をしないと魔力回収できないぞ」

「あっ……そうね」

 わたしは腰のポシェットから吸収晶を取り出す。このこぶし大の水晶玉をかざすことで、倒した魔獣の魔力が吸収される仕組みだ。そして吸収した魔力がわたしたちの報酬になる。

 スライム三匹の魔力を完全に吸収し終わると、唐突に、ファンファーレが頭の中で鳴り響いた。

「えっ……」

 この音は、レベルアップの音? 確か、レベルアップした本人にしか聞こえないという話だったけれど……

 わたしは驚いて冒険証を取り出す。

 すると表記されているレベルが『4』に変わっていた。

「レ、レベルアップしてる……」

 ジップが隣にやってきて、わたしの冒険証を覗き込んだ。

「お、すごいじゃんか。もうレベルアップするだなんて」

「え、ええ……でもまさか、いきなりレベルアップするだなんて思ってなかったわ。次のレベルまで、けっこうな経験値が必要だったと思うけど……」

「実戦経験ってのは、それほどに経験値をもらえるってことなんだよ」

「そ……そうなんだ……」

「この調子でいけば、レベル20なんてあっという間だからさ。がんばっていこうぜ」

「ふふ……まるで、自分がすでにレベル20を超えているかのように言ってくるのね」

「え? い、いやまぁ……気のせいだろ?」

「そうしておくわ」

 きっとジップは、例の力でレベル20なんて遙かに超えた実力を持っているんだろう。

 だからわたしがジップに追いつくだなんて、どう考えても夢物語に過ぎないのでしょうけれども。

 だけど、ジップの足手まといにだけはなりたくないから──

 ──わたしが冒険証に視線を落としてそんなことを考えていたら、ジップが屈託なく言ってきた。

「まぁなんにしても初討伐だ。おめでとう」

「イメージとしては、もっとスマートに討伐するつもりだったんだけどな……でも、ありがとう。それとレニも、ありがとうね?」

 レニは元のように、わたしの腕に顔を埋めてプルプル震えていたけれど、小さく頷いてくれたのだった。
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