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第22話 レベッカママ!
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先輩達と面通しをして、お互いの戦力を把握したその翌日。
オレたちは、いよいよダンジョンへと出向くことになった……のだが。
「お、おい……お嬢ちゃんはレニだったよな? 大丈夫か?」
ダンジョンへ繋がる正門の開門待ちでごった返す中、顔を真っ青にして、全身ガクブルのレニを見て、ゲオルクさんが戸惑いまくっていた。
レニのほうは、「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げたかと思うと、オレの背にしがみついて固まってしまう。
「い、いやあの……」
ゲオルクさんは、戸惑いを通り越してちょっと傷心の顔つきになってしまった。なのでオレが頭を下げる。
「すみません。コイツ、人見知りが激しくて……」
「それは昨日聞いたけれども……」
昨日の顔合わせや戦力把握でも、レニはガッチガチに固まっていたので、ゲオルクさんとユーティには説明はしてあったのだが……
昨日に輪を掛けて様子のおかしいレニに、ゲオルクさんは人見知りとは違う心配をしているようだった。
「もしかして、体調が悪いんじゃないのか?」
「あーいや……念のため、オレの魔法で健康診断を今朝しましたが……体調はまったくもって問題ありませんでした」
「そんな真っ青なのに?」
「ええ、はい……」
「ならまぁ……いいけども……」
ゲオルクさんは頬を掻いていると、今度はユーティが言ってくる。
「けど、そんな状態では戦えないんじゃない?」
「その通りなんだけど、でも、いつかは乗り越えなくちゃいけないことだから」
そのためにも、この冒険初日という区切りのいい日は、是が非にでも逃したくないのだ。もしここで、レニの不参加を認めてしまったら、レニは二度とダンジョンに出向かなくなる気がするし……
しかしユーティは、少し不服そうだった。
「戦えないのはそのコだけじゃなくて、ジップ、あなた自身もだよ。そんなにしがみつかれていては中衛が務まらないでしょう?」
「う……それはそうなんだけど……」
ユーティの言うとおり、レニはさっきからずっとオレにしがみついて離れようとしない。これからダンジョンに出向くからというのは元より、周囲に、これほど人間が多いと、レニはそれだけで人酔いしてしまうのだ。
だというのに「わたし帰る!」と言い出さないのは、以前と比べたら大きな進歩だとオレは思うのだが、ゲオルクさんやユーティはその辺の事情を知らないわけで……
オレが困っていると、レベッカが助け船を出してくれた。
「そうしたら、わたしがレニの面倒を見るわよ」
「そうか? でもお前は、ダンジョンでレベル上げしたいんじゃ……」
「魔法による遠距離攻撃だったら、レニに掴まられてても出来ると思うわ」
「そうか……悪いな。そしたらレニ、レベッカにしがみついてていいから」
オレが振り向いてレニにそう言うが、レニは首をフリフリと横に振って、またぞろオレに抱きついてくる。
おまいは磁石か何かか……?
いっときはレベッカに懐きかけていたのだが、あまりに心細すぎる今の状況ではダメなのだろうか?
オレが困っていると、レベッカがレニの耳元で囁いた。
「ねぇレニ? やっぱりわたしのこと、ママって思ってくれてもいいから──」
「レベッカママ!」
言われるや否や、レニはレベッカに抱きついた。
……ほんとなんなの? コイツの人見知り基準って……
ぎゅ~っと抱き締められるレベッカは、ちょっと困り顔で言葉を付け足す。
「で、でもね? ママって呼ぶのはやめてね? 思ってくれててもいいから、せめてママを付けるのはやめてほしいの……」
するとレニは、無言で何度も頷いた。
とにもかくにも、これでオレは中衛としての役目を果たせるな。ため息をついてから、オレはユーティを見た。
「とまぁ、こんな感じだ」
「……こんな感じって……中衛の代わりに後衛が機能しなくなるだけじゃない」
「それはそうだけど、その分、オレが働くから大丈夫だよ」
「ダンジョンは、そんなに甘い場所じゃないんだよ?」
それでも食い下がってくるユーティに、オレはいささかムッとする。
しかしオレが何かを言い返す前に、ゲオルクさんが割って入ってきた。
「まぁいいじゃないか。ユーティの言うことはもっともだが、ジップの思惑もよく分かる。それにオレたちの役目は、パーティ編成に口を出すことじゃない。こいつらがダンジョンに慣れるまで守ってやることだ。そうだろ?」
ゲオルクさんにも諭されて、ユーティは渋々といった感じで「……分かった」と言った。
いずれにしても、オレたちのことを思って言ってくれていることに変わりはないのだから、ユーティに腹を立てるのにもお門違いだったとオレも思い直す。
「すまないな、ユーティ。時間はかかるかも知れないが、レニのことは長い目で見て欲しいんだ」
「……分かってる。もういい」
そしてユーティは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
オレは苦笑しながら、その横顔に「ありがとう」と礼を言う。
そして、そんなやりとりをしていたら開門の鐘が鳴らされる。
ダンジョンへ通じる正門がゆっくりと開かれて、オレたちは、人集りの流れにそってダンジョンへと入っていった。
オレたちは、いよいよダンジョンへと出向くことになった……のだが。
「お、おい……お嬢ちゃんはレニだったよな? 大丈夫か?」
ダンジョンへ繋がる正門の開門待ちでごった返す中、顔を真っ青にして、全身ガクブルのレニを見て、ゲオルクさんが戸惑いまくっていた。
レニのほうは、「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げたかと思うと、オレの背にしがみついて固まってしまう。
「い、いやあの……」
ゲオルクさんは、戸惑いを通り越してちょっと傷心の顔つきになってしまった。なのでオレが頭を下げる。
「すみません。コイツ、人見知りが激しくて……」
「それは昨日聞いたけれども……」
昨日の顔合わせや戦力把握でも、レニはガッチガチに固まっていたので、ゲオルクさんとユーティには説明はしてあったのだが……
昨日に輪を掛けて様子のおかしいレニに、ゲオルクさんは人見知りとは違う心配をしているようだった。
「もしかして、体調が悪いんじゃないのか?」
「あーいや……念のため、オレの魔法で健康診断を今朝しましたが……体調はまったくもって問題ありませんでした」
「そんな真っ青なのに?」
「ええ、はい……」
「ならまぁ……いいけども……」
ゲオルクさんは頬を掻いていると、今度はユーティが言ってくる。
「けど、そんな状態では戦えないんじゃない?」
「その通りなんだけど、でも、いつかは乗り越えなくちゃいけないことだから」
そのためにも、この冒険初日という区切りのいい日は、是が非にでも逃したくないのだ。もしここで、レニの不参加を認めてしまったら、レニは二度とダンジョンに出向かなくなる気がするし……
しかしユーティは、少し不服そうだった。
「戦えないのはそのコだけじゃなくて、ジップ、あなた自身もだよ。そんなにしがみつかれていては中衛が務まらないでしょう?」
「う……それはそうなんだけど……」
ユーティの言うとおり、レニはさっきからずっとオレにしがみついて離れようとしない。これからダンジョンに出向くからというのは元より、周囲に、これほど人間が多いと、レニはそれだけで人酔いしてしまうのだ。
だというのに「わたし帰る!」と言い出さないのは、以前と比べたら大きな進歩だとオレは思うのだが、ゲオルクさんやユーティはその辺の事情を知らないわけで……
オレが困っていると、レベッカが助け船を出してくれた。
「そうしたら、わたしがレニの面倒を見るわよ」
「そうか? でもお前は、ダンジョンでレベル上げしたいんじゃ……」
「魔法による遠距離攻撃だったら、レニに掴まられてても出来ると思うわ」
「そうか……悪いな。そしたらレニ、レベッカにしがみついてていいから」
オレが振り向いてレニにそう言うが、レニは首をフリフリと横に振って、またぞろオレに抱きついてくる。
おまいは磁石か何かか……?
いっときはレベッカに懐きかけていたのだが、あまりに心細すぎる今の状況ではダメなのだろうか?
オレが困っていると、レベッカがレニの耳元で囁いた。
「ねぇレニ? やっぱりわたしのこと、ママって思ってくれてもいいから──」
「レベッカママ!」
言われるや否や、レニはレベッカに抱きついた。
……ほんとなんなの? コイツの人見知り基準って……
ぎゅ~っと抱き締められるレベッカは、ちょっと困り顔で言葉を付け足す。
「で、でもね? ママって呼ぶのはやめてね? 思ってくれててもいいから、せめてママを付けるのはやめてほしいの……」
するとレニは、無言で何度も頷いた。
とにもかくにも、これでオレは中衛としての役目を果たせるな。ため息をついてから、オレはユーティを見た。
「とまぁ、こんな感じだ」
「……こんな感じって……中衛の代わりに後衛が機能しなくなるだけじゃない」
「それはそうだけど、その分、オレが働くから大丈夫だよ」
「ダンジョンは、そんなに甘い場所じゃないんだよ?」
それでも食い下がってくるユーティに、オレはいささかムッとする。
しかしオレが何かを言い返す前に、ゲオルクさんが割って入ってきた。
「まぁいいじゃないか。ユーティの言うことはもっともだが、ジップの思惑もよく分かる。それにオレたちの役目は、パーティ編成に口を出すことじゃない。こいつらがダンジョンに慣れるまで守ってやることだ。そうだろ?」
ゲオルクさんにも諭されて、ユーティは渋々といった感じで「……分かった」と言った。
いずれにしても、オレたちのことを思って言ってくれていることに変わりはないのだから、ユーティに腹を立てるのにもお門違いだったとオレも思い直す。
「すまないな、ユーティ。時間はかかるかも知れないが、レニのことは長い目で見て欲しいんだ」
「……分かってる。もういい」
そしてユーティは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
オレは苦笑しながら、その横顔に「ありがとう」と礼を言う。
そして、そんなやりとりをしていたら開門の鐘が鳴らされる。
ダンジョンへ通じる正門がゆっくりと開かれて、オレたちは、人集りの流れにそってダンジョンへと入っていった。
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