上 下
22 / 69

第22話 レベッカママ!

しおりを挟む
 先輩達と面通しをして、お互いの戦力を把握したその翌日。

 オレたちは、いよいよダンジョンへと出向くことになった……のだが。

「お、おい……お嬢ちゃんはレニだったよな? 大丈夫か?」

 ダンジョンへ繋がる正門の開門待ちでごった返す中、顔を真っ青にして、全身ガクブルのレニを見て、ゲオルクさんが戸惑いまくっていた。

 レニのほうは、「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げたかと思うと、オレの背にしがみついて固まってしまう。

「い、いやあの……」

 ゲオルクさんは、戸惑いを通り越してちょっと傷心の顔つきになってしまった。なのでオレが頭を下げる。

「すみません。コイツ、人見知りが激しくて……」

「それは昨日聞いたけれども……」

 昨日の顔合わせや戦力把握でも、レニはガッチガチに固まっていたので、ゲオルクさんとユーティには説明はしてあったのだが……

 昨日に輪を掛けて様子のおかしいレニに、ゲオルクさんは人見知りとは違う心配をしているようだった。

「もしかして、体調が悪いんじゃないのか?」

「あーいや……念のため、オレの魔法で健康診断を今朝しましたが……体調はまったくもって問題ありませんでした」

「そんな真っ青なのに?」

「ええ、はい……」

「ならまぁ……いいけども……」

 ゲオルクさんは頬を掻いていると、今度はユーティが言ってくる。

「けど、そんな状態では戦えないんじゃない?」

「その通りなんだけど、でも、いつかは乗り越えなくちゃいけないことだから」

 そのためにも、この冒険初日という区切りのいい日は、是が非にでも逃したくないのだ。もしここで、レニの不参加を認めてしまったら、レニは二度とダンジョンに出向かなくなる気がするし……

 しかしユーティは、少し不服そうだった。

「戦えないのはそのコだけじゃなくて、ジップ、あなた自身もだよ。そんなにしがみつかれていては中衛が務まらないでしょう?」

「う……それはそうなんだけど……」

 ユーティの言うとおり、レニはさっきからずっとオレにしがみついて離れようとしない。これからダンジョンに出向くからというのは元より、周囲に、これほど人間が多いと、レニはそれだけで人酔いしてしまうのだ。

 だというのに「わたし帰る!」と言い出さないのは、以前と比べたら大きな進歩だとオレは思うのだが、ゲオルクさんやユーティはその辺の事情を知らないわけで……

 オレが困っていると、レベッカが助け船を出してくれた。

「そうしたら、わたしがレニの面倒を見るわよ」

「そうか? でもお前は、ダンジョンでレベル上げしたいんじゃ……」

「魔法による遠距離攻撃だったら、レニに掴まられてても出来ると思うわ」

「そうか……悪いな。そしたらレニ、レベッカにしがみついてていいから」

 オレが振り向いてレニにそう言うが、レニは首をフリフリと横に振って、またぞろオレに抱きついてくる。

 おまいは磁石か何かか……?

 いっときはレベッカに懐きかけていたのだが、あまりに心細すぎる今の状況ではダメなのだろうか?

 オレが困っていると、レベッカがレニの耳元で囁いた。

「ねぇレニ? やっぱりわたしのこと、ママって思ってくれてもいいから──」

「レベッカママ!」

 言われるや否や、レニはレベッカに抱きついた。

 ……ほんとなんなの? コイツの人見知り基準って……

 ぎゅ~っと抱き締められるレベッカは、ちょっと困り顔で言葉を付け足す。

「で、でもね? ママって呼ぶのはやめてね? 思ってくれててもいいから、せめてママを付けるのはやめてほしいの……」

 するとレニは、無言で何度も頷いた。

 とにもかくにも、これでオレは中衛としての役目を果たせるな。ため息をついてから、オレはユーティを見た。

「とまぁ、こんな感じだ」

「……こんな感じって……中衛の代わりに後衛が機能しなくなるだけじゃない」

「それはそうだけど、その分、オレが働くから大丈夫だよ」

「ダンジョンは、そんなに甘い場所じゃないんだよ?」

 それでも食い下がってくるユーティに、オレはいささかムッとする。

 しかしオレが何かを言い返す前に、ゲオルクさんが割って入ってきた。

「まぁいいじゃないか。ユーティの言うことはもっともだが、ジップの思惑もよく分かる。それにオレたちの役目は、パーティ編成に口を出すことじゃない。こいつらがダンジョンに慣れるまで守ってやることだ。そうだろ?」

 ゲオルクさんにも諭されて、ユーティは渋々といった感じで「……分かった」と言った。

 いずれにしても、オレたちのことを思って言ってくれていることに変わりはないのだから、ユーティに腹を立てるのにもお門違いだったとオレも思い直す。

「すまないな、ユーティ。時間はかかるかも知れないが、レニのことは長い目で見て欲しいんだ」

「……分かってる。もういい」

 そしてユーティは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 オレは苦笑しながら、その横顔に「ありがとう」と礼を言う。

 そして、そんなやりとりをしていたら開門の鐘が鳴らされる。

 ダンジョンへ通じる正門がゆっくりと開かれて、オレたちは、人集りの流れにそってダンジョンへと入っていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...