平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
20 / 69

第20話 答えなさい、ジップ・ヴェイト

しおりを挟む
 ジップオレの問いかけに、ミュラさんは頷いてから話を続ける。

「単刀直入に言います。ジップ、あなたのレベルは40に達していました」

 それを聞いて、オレは驚くこともなく、むしろ納得感を覚えた。

「なるほど……レベルが高すぎたので隠した、ということですか」

「そうです。学校を卒業しただけでレベル40というのはあり得ません。まだ学生に過ぎないというのに、何十年と実戦を積んだ冒険者達よりも高レベルになるだなんて、才能でどうにか出来る話ではないのです」

「まぁ……そうでしょうね」

「つまり、あなたはすでに多くの実戦経験があるということになります」

「………………」

「答えなさい、ジップ・ヴェイト。あなたは固有魔法を有していますね?」

 ダンジョン都市では、固有魔法に関する吹聴・詮索は御法度だ。

 ただし、その権限が与えられている人間が二人だけいる。

 それが、いま目の前にいるギルドマスターと事務局長だった。

 元々、固有魔法の吹聴・詮索が禁止となったのは、魔人に目を付けられ、都市ごと滅ぼされないようにするためだ。ということは、その都市を預かる役職であるならば規則の埒外となるのは当然だろう。

 それに、レベルが高すぎて固有魔法持ちだと疑われる恐れは、オレも考慮はしていた。

 もっと言えば、固有魔法についてはレベッカも気づいているから、だから先ほどは退室を躊躇ためらったのだろう。オレが、都市追放に処されるかもしれないと危惧して。

 とはいえ固有魔法は、その使用を禁止まではされていない。派手に使わなければいいだけの話だ。だから攻撃なんかの目立つ魔法じゃないオレの固有魔法は、そういう意味では非常に使い勝手がいいと言えた。

 まぁその結果、ちょいとレベルを上げすぎて、目の前の二人にバレたわけだが。とはいえ使用がバレただけで、都市追放になったりはしないだろう。

 だからオレは、正直に答えることにした。

「ええ、そうです。オレは固有魔法を持っています」

「やはり、そうでしたか……」

 ミュラさんは、深いため息をついてから目を伏せる。

 大幅な戦力アップは歓迎したいところだが、それによって魔人に目を付けられては都市滅亡の危険性だってあるわけで──そんな板挟みで気が重いのだろう。

 すると今度は、カリンさんが聞いてきた。

「いったいどんな固有魔法なのか、教えてくれないかな?」

「ええ、構いませんよ。まずオレの固有魔法は三つあります」

「……え?」「……は?」

 ミュラさんとカリンさん、二人の声が重なった。

 その反応を見て、オレは二人に問いかける。

「もしかして、固有魔法ってのは一人一つが基本なんですか?」

 いつも半眼のはずのミュラさんは、その目を大きく見開いていた。

「え、ええ……わたしたちが知る限りでは、固有魔法は一人一つです。三つも持つ人間だなんて、過去にも例がないはず……」

 今度はカリンさんが、興奮気味に言ってきた。

「す、すごい! すごいよジップ君! キミは本当に英雄になれるかもしれないよ!?」

「英雄って……大袈裟ですよ。裏を返せば、固有魔法を三つも宿しているのにもかかわらず、オレのレベルは未だ40。レベル99を優に超えるという魔人には、まったく太刀打ち出来ないんですから」

 魔人の戦闘力というものは、それほどに圧倒的らしい。そもそものレベルが人間基準で作られた指標で、さらにダンジョン攻略の参考にするためのものだから、それを魔人に当てはめると、どんな下っ端魔人であってもカンストするそうだ。

 オレのそんな説明に、興奮していたカリンさんが肩を落とした。

「まぁ……それは確かに。でもキミは新人だし、まだまだ伸び代があるわけで」

「いえ、実はもう限界に近いんです」

「どういうこと?」

「なぜ限界なのかを説明する前に……まずはオレの固有魔法の効果について説明しますよ」

 そしてオレは、残機無限・身体生成・経験共有の各魔法について説明していく。

 説明が進むにつれて、二人の表情は驚き以外の感情がなくなっていった。

「──とまぁ、オレの固有魔法はそういう効果があるわけです」

 一通りの説明を終えると、カリンさんが声を絞り出すかのように言ってくる。

「む……無茶苦茶だよ……今の話が本当なら……キミ一人で、レベル40の冒険者を1万人も作れるってこと?」

「ええまぁ」

「そ、それって……ジップ君一人で、フリストル市の冒険者たち全員より強いってことじゃない!?」

「いやでも、残機1万人ともなると単純戦闘になりますから。トリッキーな戦い方をする魔獣なんかだと荷が重くなります」

「とはいったって、レベル40軍団の火力で押せば、なんとでもなるんじゃあ……」

「まぁそうかもですが……」

 オレが言い淀んでいると、ミュラさんが補足してきた。

「1万人もの魔導師を生み出したところで、ダンジョン内は狭い通路が多いのですから、同士討ちフレンドリーファイヤになるだけです。実質的には、100人の編成が限界でしょう」

 さすがは現場経験者だけあってミュラさんは的確だった。まさにその通りで、オレもそれを悟ってからは、物量によるダンジョン攻略は諦めている。

 ミュラさんはさらに言葉を続けた。

「さらに補給の問題もあります。あなたの残機とやらは、飲まず食わず休まずで戦うことは出来るのですか?」

「いえ、無理です。人間と同等の食事、そして休息も必要です。まぁ休息に関しては残機を取り替えればいいのですが、そのためには、オレがその場に出向かなくちゃ出来ません」

 身体生成を使えるのは、オリジナルであるオレだけだ。だから、残機から残機を生成するみたいな真似はさすがに出来ない。ということで、疲れた残機は亜空間に引っ込めて、新鮮な残機と交換するには、オレ自身が戦場に立つ必要がある。

 となると100人毎に部隊を分けたりしたら、オレが同行しない部隊は困ったことになるわけだ。

 そんな説明をすると、カリンさんがおずおずと聞いてきた。

「えっと……ということは、だよ……? キミは今まで、残機たちをダンジョンに潜らせていたから、レベル40にまでなったわけだよね?」

「はい。そうです」

「なら、オリジナルであるキミ自身も、ダンジョンに出向いていたのカナ?」

「いいえ。こういう能力があるのに、そんな危ない真似すると思いますか? どんなに高レベルだって、死ぬときは死ぬ。それがダンジョンなんですから」

「だ、だよね……ということは……ダンジョンに送っていた残機達は……」

 青ざめていくカリンさんに、オレは満面の笑みを返した。

「その話の続き、聞きたいですか?」

「いや!? いいよ! 聞きたくない!!」

 カリンさんは、顔を横にブンブン振ってから耳を塞いだ。

 すると今度は、ミュラさんがため息交じりに言ってくる。

「まぁ……あなたの倫理観はこの際問いません」

「酷い言われようですが、あくまでも自分自身のことですからね?」

「ええ、分かっています。それで三つの固有魔法を駆使して到達したレベルが40で、それ以上のレベルになるためには、より強い魔獣を相手取らなければならないのでしょう?」

「そうです。ですが、さすがに補給ナシで、いま以上にダンジョンの奥……つまり上層階に進出することは出来ないんです。だから強い魔獣を倒すことが出来ず、レベルアップが鈍化しています。例え、攻略済み階層の魔獣を狩り尽くしてもレベル99なんて行かないでしょうね」

「なるほど……限界とは、そういうことですか」

 あまりに格下の魔獣を相手にしても、経験値は1つも入ってこないのだ。時間を浪費するだけで成長できない。これがオレの成長限界となっていて、ここ一年くらいの悩みでもあった。

 そして今のところ解決策は思いつかない。そもそも、そこまでして強くならなくてもいいのではないかという思いもあるから、なおさらに。

 このフリストル市だって、空がないだけで、今でも十分住み心地がいいのだ。気心の知れた仲間達と、自堕落だけど可愛い幼馴染みもいる。

 彼らとこの都市を守るだけならば、今のオレでも十分な力を持っているはずだ。あとは魔人に目を付けられないよう、息を潜めていればいいわけだし。

 だからオレは話を一区切り付けることにした。

「いずれにしても……オレの固有魔法についてはこんなところです」

 それからミュラさんに視線を向ける。

「それで、オレを呼び出した理由とはなんですか?」

 ミュラさんは眠たげな瞳に戻っていて、それをこちらに向けた。

「決まっています。固有魔法を使っているのならいさめるつもりでした」

「都市追放は?」

「自分の固有魔法を誰かに吹聴……つまり自慢でもしたのですか?」

「まさか。いくらオレだって都市追放はごめんですから」

「ならば、都市追放などという重刑に処すはずもありません」

 ミュラさんは、淡々と言葉を続ける。

「あなたの話を聞く限りでは秘匿性の高い固有魔法のようですし──それに使い続けたところで、もう限界が来ている」

「ええ、そうですね」

「そしてあなたは、強さに執着するタイプでもないようですし」

「よく分かりますね? まさにその通りです」

 この異世界に生まれてから18年にもなるが、それでも、平和ボケした日本での生活のほうがまだ長いのだ。出来ることなら戦いたくないというのが本音なのに代わりはなかった。

「ならば、わたしたちの利害は一致しています」

 そしてミュラさんは、はっきりと言った。

「今後、固有魔法を発現することは極力控えてください。秘匿性が高いとはいえ、誰かに暴かれる心配がないとは言い切れませんし、魔人が、どのような方法で固有魔法を特定しているのかも分からないのですから」

 オレにまだ伸び代があったなら──というより、まだ攻略出来そうなダンジョンがあるのなら、オレはミュラさんの忠告を受け取れなかったかもしれないが、限界が見えている状況では別だった。

 だからオレは素直に頷く。

「分かりました。今後、固有魔法の使用は控えるようにします」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす
ファンタジー
テクノブレイクで死んでしまった35才独身のおっさん、カンダ・ハジメ。自分が異世界に飛ばされたと思ったが、実はそこは死後の世界だった!その死後の世界では、死んだ時の幸福度によって天国か地獄に行くかが決められる。最高に気持ちいい死に方で死んだハジメは過去最高の幸福度を叩き出してしまい、天国側と敵対する地獄側を倒すために一緒に戦ってくれと頼まれ―― そんなこんなで天国と地獄の戦に巻き込まれたハジメのセカンドライフが始まる。 小説家になろうでも同じ内容で投稿してます! https://ncode.syosetu.com/n8610es/

異世界コンビニ

榎木ユウ
ファンタジー
書籍化していただきました「異世界コンビニ」のオマケです。 なろうさん連載当時、拍手に掲載していたものなので1話1話は短いです。 書籍と連載で異なる部分は割愛・改稿しております。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...