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第19話 別に、悪い話というわけではないから安心なさい

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 ギルドマスターに呼び出しを受けたオレは、とくに時間も指定されていなかったので、レニとレベッカが冒険証を受け取るのを待ってから、受付ホールを出た。

 レベッカはオレの隣を歩いていて、レニは、フラフラしながらオレの後に続いている。そしてレベッカがぼやいていた。

「はぁ……分かってはいたけれど、あなたのレベルには到底及ばなかったわね……」

「とはいえレベル3はすごいだろ? オレを除けば最高レベルなんだから」

「そうだけど……でもせめて、レベル4には到達していたかったわ」

「実戦を積んでいけば、レベル20まではすぐ上がるんだから焦ることないさ」

「そうかもしれないけれど……」

 学生期間、ずっと真面目に、かつ真剣に勉強訓練を積み上げてきたレベッカにとっては不満なのだろう。レベル3というのは、学生にとっては最高レベルなのだが、身近にオレみたいなのがいると特に。

 ちなみにレニは、当然だがレベル1だ。本来なら、レベル0としてもいいのだが、そんなレベルは存在しなかったので、普通に頑張ってた学生と同列のレベル1だった。だが各種ステイタスは過去最低だそうだ。

 もっとも、レニ本人は気にもしていない様子だが。

 これからいったい、どうやってレニを鍛えていくかなぁ……などと考えていたら、隣のレベッカに声を掛けられる。

「ところでジップ、あなたいったい何をしたの?」

「何を……って?」

「だって、いきなりギルドマスターの呼び出しを受けるだなんて……」

「そうだよなぁ……」

 ギルドマスターといえば、荒くれ者が集う冒険者のトップだから、自身も高位の冒険者だ。そのレベルは確か35で、フリストル市では第二位のレベルになる。

 ちなみに第一位はレベル36で、女性の槍使いだ。オレはまだ会ったことはないが、冒険者をやっていれば、そう遠くないうちに知り合うことになるのだろう。

 いずれにしてもギルドマスターはそんな実力者だから、レベッカは、自分が呼び出しをくらったわけでもないのに浮かない顔をしていた。

「よほどのことでもしない限り、ギルドマスターに呼び出しなんて受けないわよ?」

「さもオレが悪いことした、みたいに言わないでくれない?」

「ならいいことをしたの?」

「思い当たる節はないが……」

「じゃあやっぱり悪いことじゃない」

「いやだから、そんなにあっさり決めつけられても……」

 などと答えておいたが、呼び出しの理由については、実はだいたいの予想はついていた。

 だからオレは、とくに躊躇ためらうことなくマスター室の扉をノックする。すると中から「入りなさい」という声が聞こえてきたので、オレは「失礼します」と言いながら中に入った。

「ってあれ? さっきの受付の……」

 すると、ギルドマスターが座るデスクの横に、オレに冒険証を手渡してくれたカリンさんが立っていた。カリンさんは可愛らしくこちらに手を振ってくる。

「さっきはど~も~。すごい新人君がいるって聞いたから、どうしても直接おしゃべりしたくってね。だからキミのときだけ受付係をしてたんだ」

「は、はぁ……?」

「改めて自己紹介させてもらうと、このわたし──カリン・フィッシャーこそが、ギルド事務局長なのだよ。よろしくね♪」

「そうだったんですか」

 言われてみれば事務局長はそんな名前だったな。事務局長は学校で見かけることがなかったから顔を知らず、さっきは気づけなかったが。

 ちなみにギルドマスターと事務局長の関係性は、日本で例えるなら、ギルドマスターが統合幕僚長で、ギルド事務局長が防衛事務次官と言ったところだろうか。

 そんなことを考えていたら、レベッカが小声で言ってきた。

(わたし、さっき失礼な態度を取っちゃったかしら……)

 ただの受付係だと思っていたのに、実はギルドマスターに匹敵するほどの実力者だと知って、レベッカがにわかに慌てているようだった。

 だがオレが答える前に、カリンさんが言ってきた。どうやら小声が聞こえていたらしい。

「だいじょーぶだよ。さっきはあくまでも受付係としてのわたしだし、後が詰まっていたのも確かだったし。あ、でも、事務局長のわたしには、ああいう態度だと頂けないかもね?」

「す、すみません……」

「ふふっ。気にすることはないよ? さっきはあくまでも受付係だったんだから。けど事務局長としてわたしがジップ君とお話しているときは──」

「カリン、黙りなさい。本題に入れないでしょう?」

 カリンさんは、控えめな胸を大きく反らし、長広舌を振るい始めたが、ギルドマスターに怒られていた。

「あうぅ……ミュラ。こういうときにわたしの威厳を示さないと……」

「そんなことはどうでもよろしい。そもそも、あなたの立ち会いを許してはいませんよ?」

「えー、いいじゃない。長い付き合いで同等のポジションなんだし、隠し事はナシってことで」

「はぁ……まぁいいですが……」

 ギルドマスターはため息をついてから、こちらに視線を向けてくる。

「ギルドマスターのミュラ・ドールです。以後お見知りおきを」

 ミュラさんに関しては、オレたちは顔と名前も知っていた。ギルドマスターとして、年1~2回は学校に訪れて講演をしていたからだ。

 見た目はまだ二十代前半に見えるのだが、ギルドマスター職についてから10年は経っているはずだから、たぶん30歳は超えているのだろう。

 髪の毛先がくるりと丸まっているのが特徴的で、長さは肩に掛かるかどうかという程度。瞳は常に半眼のように見えるが、いつだったかの講演で本人曰く、あれでぱっちり開いているのだという。そんな両目もあってか、常にけだるそうな雰囲気を醸し出していた。

 小柄な背丈なのもあって、下手したら中等部生くらいに見えるから驚きだ。カリンさんのほうは高等部生に見えるが、いずれにしても、二人並んでいると学生にしか見えず、フリストル市のおさ二人というよりは、アイドルユニットといった感じだった。

 そんなことを考えながら、オレは簡単な自己紹介をした。もっとも、あちらさんはオレのことをよく知っているとは思うが、いちおう儀礼上ということで。それとレベッカとレニの紹介も。

 そうしてお互いの紹介が終わると、ミュラさんが、レベッカとレニに言った。

「来てもらったのに申し訳ないけれど、あなたたちは席を外してもらえるかしら?」

「え……?」

「彼とだけ話をしたいの」

「で、でも……」

「別に、悪い話というわけではないから安心なさい」

「そうですか……分かりました。それじゃあジップ、わたしたちは受付ホールで待っているから」

 そう言うと、レベッカはレニを連れて部屋を出て行った。

 そしてオレは、ミュラさんとカリンさんに改めて視線を送る。

「えっと……話というのは、もしかしてレベルのことですか?」

 するとミュラさんは「ええ、そうです」と言って頷いた。
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