14 / 69
第14話 おばあちゃんになってもジップのスネにかじりつくんだからーーー!
しおりを挟む
「ふえぇ~~~? せかいがまわるぅ~~~?」
「お、おいレニ? 大丈夫か?」
「らいりょーぶ、らいりょーぶれす~~~?」
飲み慣れていない酒をレニはやたらとあおるから、ジップは心配していたのだが……案の定、パーティも後半戦にさしかかるとレニは目を回し、壁際に並べられた椅子に座って、座っているにもかかわらず上体をフラフラさせていた。
そんなレニを見て、レベッカは苦笑している。
「初めてのお酒でしょう? ペースが分からなかったのかもね」
「まぁなぁ。でもけっこう呑んでいた割には、よくパーティ後半まで持ち堪えたもんだ。コイツ、意外と酒が強いのかもな」
「そういうジップもへっちゃらじゃない。ちなみにわたしは、最初の一杯しか呑んでないわよ?」
「オレの場合は呑み慣れてるからな」
「やっぱり。まだ学生のうちから呑んでたんでしょう?」
「あ、いや……そういうわけじゃないんだが……でもまぁそんなもんか」
説明がしづらくなって、オレは適当に言葉を濁す。
この異世界では、高等部卒業と同時に飲酒が解禁される。しかし高等部生になると、大人に憧れてちらほらと飲酒する学生もいるのだ。
もっともオレは前世に酒を呑んでいたわけで、だからペースや分量が分かっているということなのだが。
前世の大学で、散々みっともないことをやってきたからなぁ。享年33+現在18歳イコール51年も人間やっているというのに、酔い潰れたらなお恥ずかしい。しかも今は若返っているから内臓もよく働くわけだし。
しかしそんなことをレベッカに説明するわけにもいかない。魔法だのダンジョンだのがある異世界でも、前世とか死後の世界とかは未知なのだ。
だからオレは話を逸らすためにも言った。
「レニに回復魔法を掛けてやるか……いや、解毒魔法のほうがいいのか?」
アルコールを消す魔法なんて存在していないので、オレは首を傾げる。レベッカも小首を傾げながら言ってきた。
「解毒のほうがいいんじゃないかしら……アルコールが毒に該当するのかは微妙なところだけど」
「じゃ、とりあえず解毒してみるわ」
そしてオレは無詠唱で解毒魔法をレニに掛ける。すると、意識をもうろうとさせていたレニは、まるで温泉にでも入ったかのように幸せそうな顔つきになった。
「ああ……きもちいい……」
ふむ……泥酔状態で解毒すると気持ちいいのか。覚えておこう。
オレが妙な気づきを得ていると、酒場の前面にちょっとした台座があって、そこに、拡声器を持ったケーニィが上がっていた。
「レディース・エーンド・ジェントルメーーーン! さぁいよいよやって参りました! 卒業パーティのメインイベント! 告白大会を開催したいと思います!!」
告白大会って、メインイベントだったのか? 酔っ払った勢いで壇上に上がり、大騒ぎを始めたケーニィほか数名の司会者たちに、オレは半ば呆れた視線を向ける。
しかしもちろん、オレの視線なんかでお調子者のケーニィは止まらない。
「さぁ! 我こそはと思う野郎ども! あるいはお嬢さん方! 明日をも知れぬ我々には、これが最後のチャンスかもしれないぞ! いざ尋常にぶちまけろ!!」
明日をも知れぬ我々……か。ケーニィのその台詞に、オレはどうしても寂しさを感じずにはいられない。日本の卒業パーティでは、絶対に聞かれないであろう台詞だ。もちろんケーニィは冗談で言っているし、周囲もそうと受け取ってはいるのだろうけれども。この異世界では自虐ネタなのだ。
オレがいたクラスでも、半数以上の人間が来月から冒険者となってダンジョンに繰り出す。最初は先輩冒険者が同行するし、都市周辺の魔獣は狩り尽くされた感があるから、危険な目に遭うことは早々ないと思うが……
それでも、一年、二年……と冒険者をやっていくうちに、このクラスからだって犠牲者は出るだろう。
そんなことに思いを馳せると、オレはどうしても居たたまれなくなる。
「ジップは、口は悪いけど優しいわよね」
いつの間にか、レニを膝枕してオレの横に座っていたレベッカが、そんなことを言ってきた。まるで今の思考を読まれたかのようだった。
「別に優しさとかじゃない。オレは……自分が辛い思いをしたくないだけの、臆病者だよ」
見知った顔と、もう二度と会えなくなると思うと辛いし、寂しい。日本ではそんなこと考えもしなかったけれど、異世界には死がすぐそこに、ダンジョンへの門を隔ててすぐ隣にある。
オレにとっては、そんな状況は違和感でしかないが、レベッカたちにとっては日常なのだ。だからレベッカにはオレが優しく見えるのだろう。
そんなレベッカは、レニの頭を撫でながら言ってくる。
「だとしても、よ。いい意味でも悪い意味でも、わたしたちは死を受け入れているけれど、ジップはそうじゃない。常に生きようとしている」
「なぜか、オレの中ではそれが当たり前だったからな」
「そういう当たり前が、これからすごく大切になると思うわ」
「窮地に陥ったとき、それでも諦めないように、か?」
「そうね。最後の最後まで、足掻くためにも……」
だが……その前提自体が死を受け入れている。日本で暮らしていれば、最後の最後なんて病気くらいしかないのだから。
しかしオレは、前提が間違っているだなんて伝えたりしない。伝えたところで意味のないことなのだから。
それにオレには裏ワザがある。だからなおさら、死を意識しなくてもいいいわけで。裏ワザだけで言えば、オレ一人でも魔獣から都市を守れるから、だからなおさら歯がゆいんだ。
しかし派手に裏ワザを使えば、今度は魔人に目を付けられて都市ごと滅ぼされかねない。
魔人の戦闘力は圧倒的だという。都市内の文献を読み漁って得た情報だけでも、今のオレですら太刀打ち出来ないほどに。
魔獣退治にチマチマと裏ワザを使っているくらいなら大丈夫だったが、それ以上目立つことをすればヤバイかもしれない。
いったいその線引きをどこですればいいのか……六年間、残機でダンジョンに潜り続けているオレでも分からずにいた。
「おおっとーーー! 来ました来ました! トップバッターはグスタフ君だぁーーー!」
オレの陰鬱な気分を晴らしてくれるかのように、ケーニィが声を上げる。
「グスタフ! 壇上中央へ! 告りたい相手は誰ですか!?」
「レベッカさんです!!」
会場内がどっとどよめく。急に名指しをされて、レベッカは「えっ? わたし……!?」と目を丸くしていた。
「さぁレベッカさん、お立ちください!」
ケーニィにそう言われて、レベッカはレニをオレに預けると立ち上がる。せっかく寝付いていたレニだったが「むにゃむにゃ……うるさいですね……なんですか……」と起きてしまったようだ。
レベッカのほうは、頬を赤らめてうつむいている。
「さぁグスタフ! 思いの丈を述べたまえ!」
ケーニィはグスタフを促して──
「ごめんなさい!!」
──グスタフが何かを言う前に、レベッカが深々と頭を下げてお断りした。
会場内が、狂乱かと思うほどに湧き上がる。
「おおっとーーー! 告白の前からフラれてしまった! これは酷い!!」
いや……酷いのはケーニィの方ではなかろうか?
グスタフとレベッカなんて、クラス内でも挨拶程度しかしない仲だったのに急に告白してもなぁ……元32歳のおっさんからすると青すぎて痛々しい。
「グスタフ! 今の心境は!?」
「後悔はありません! レベッカさん、ありがとうございました!!」
そして壇上では、二人で男泣きしている。まぁ……グスタフも振られることは分かっていたのだろうから記念告白といったところか。
むしろ困っているのはレベッカのようで、頬を赤らめ複雑な顔つきをしながら腰を下ろしていた。
そんな感じで告白大会が進む。壇上に上がるのは男子のみで、女性は告白待ちと言ったところなのだろう。中には成功する男子もいて、なぜか男からブーイングが飛んでいた。
そんな感じで宴もたけなわになったころ──
──レニがむっつりと立ち上がる。
「レニ? どうした?」
「うるさい……」
「は?」
「うるさくて眠れないの!」
そう言うと、クラスメイトを掻き分けて壇上へとズンズン進む。
アイツ、もしかして寝ぼけているのか? いや、酔っ払ってるのかその両方か……
そして壇上近くでレニは拳を上げた。
「こらーーー! ケーニィ! うるさくて眠れな──」
「おおっとーーー! 今度は女子が初挑戦だ!!」
告白大会の参加者と間違われたレニは、おぼつかない足取りで壇上にあげられた。
「レニ! キミの事だから相手はヤツだろう!?」
「なんのこと……?」
「告白だよ告白!」
「こくはく~?」
「さぁレニ! ジップに思いの丈をぶつけるんだ!!」
「うぃ~……ひっく?」
うむ……これは大変にまずい。
オレは慌てて腰を上げるが……しかし両肩を男友達にがっつりホールドされてしまった!
「お、お前ら!?」
「イイトコなんだから、座っとけって!」
「そうそう! いい加減、白黒はっきりさせろって!!」
身動きが取れずにいると、拡声器を向けられたレニがオレを見てきた。
「わ、わたしは……」
普段なら、こんな人前でしゃべるなんて絶対に出来ないレニだというのに、酔っ払っているせいか臆せず言葉を紡ぎ出す。
「わたしは……ジップが好き……」
小さなその一言に、会場内ははち切れんばかりに湧き上がる。オレは、回りから囃し立てられ小突かれて、揉みくちゃにされてしまう。
「でも!」
しかし唐突に叫んだレニの一言で、拡声器がキーン……とハウリングして、会場内は一気に静まった。
「わたしじゃあ……レベッカには敵わない!」
いきなり名前を出されてしまい、衆目が一気にレベッカへと集中する。思わずオレも振り返り、壁際に座る彼女を見ると──レベッカは、目を見開いて頬を真っ赤にしていた。
壇上では、興奮しきったケーニィが声を張り上げる。
「ま、まさか! まさかの三角関係なのか!?」
「違う!」
ケーニィの憶測をレニは即座に否定する。
「違うの……わたしは……」
レニの次の言葉を、オレとレベッカは元より、クラスメイト全員が固唾を飲んで見守っていた。
「だから……わたしは………………わたしを……」
そしてレニは、意を決して宣言する。
「わたしを、養女にしてください!!」
…………。
……………………。
………………………………。
「はいぃ?」
オレの間抜けた声が、妙に響いた。
「わたしを、ジップとレベッカの養女にしてください! そうすれば、すべてがまるっと解決する! わたしはおうちでジップとレベッカを待っているだけで幸せ、レベッカはジップと結ばれて幸せ、これで八方丸く収まるのデス!」
「オレの幸せが入っていないが!?」
オレの抗議に、レニはポカンとして首を傾げる。
「え? 両手に花なのに?」
すると周囲の男子から、怒号のような抗議が殺到する!
「そうだぞキサマ!」
「学校で一、二を争ってきた美少女の両方を独占するなんて!?」
「他に何が望みなんだお前は!?」
「変わって欲しいくらいだ!!」
「レニちゃん、今からでも遅くはない! オレの養女になって──」
そうして会場内は騒然となる。
オレは、妬み嫉みの罵倒をなんとか振り切って壇上へとあがる。すると悪ノリしたままのケーニィが拡声器を向けてきた。
「さぁ世紀の大一番! 養女でいいというレニの申し出に、ジップはなんと答えるのでしょうか!?」
オレは拡声器をふんだくると、騒然としている会場内に負けないくらいの声で言い切った。
「お断りだ!」
本日最大のブーイングになるが、オレは構わず拡声器をレニに向ける。
「いい加減、自立しやがれ!!」
「イヤだーーー! わたしはずっと、おばあちゃんになってもジップのスネにかじりつくんだからーーー!」
「怖い事いうな!?」
そんなわけで……
結局、レニの養女宣言はうやむやになるのだが……
なんだか二人の遠い遠い将来を垣間見た気がして、オレはゾッとするのだった……
「お、おいレニ? 大丈夫か?」
「らいりょーぶ、らいりょーぶれす~~~?」
飲み慣れていない酒をレニはやたらとあおるから、ジップは心配していたのだが……案の定、パーティも後半戦にさしかかるとレニは目を回し、壁際に並べられた椅子に座って、座っているにもかかわらず上体をフラフラさせていた。
そんなレニを見て、レベッカは苦笑している。
「初めてのお酒でしょう? ペースが分からなかったのかもね」
「まぁなぁ。でもけっこう呑んでいた割には、よくパーティ後半まで持ち堪えたもんだ。コイツ、意外と酒が強いのかもな」
「そういうジップもへっちゃらじゃない。ちなみにわたしは、最初の一杯しか呑んでないわよ?」
「オレの場合は呑み慣れてるからな」
「やっぱり。まだ学生のうちから呑んでたんでしょう?」
「あ、いや……そういうわけじゃないんだが……でもまぁそんなもんか」
説明がしづらくなって、オレは適当に言葉を濁す。
この異世界では、高等部卒業と同時に飲酒が解禁される。しかし高等部生になると、大人に憧れてちらほらと飲酒する学生もいるのだ。
もっともオレは前世に酒を呑んでいたわけで、だからペースや分量が分かっているということなのだが。
前世の大学で、散々みっともないことをやってきたからなぁ。享年33+現在18歳イコール51年も人間やっているというのに、酔い潰れたらなお恥ずかしい。しかも今は若返っているから内臓もよく働くわけだし。
しかしそんなことをレベッカに説明するわけにもいかない。魔法だのダンジョンだのがある異世界でも、前世とか死後の世界とかは未知なのだ。
だからオレは話を逸らすためにも言った。
「レニに回復魔法を掛けてやるか……いや、解毒魔法のほうがいいのか?」
アルコールを消す魔法なんて存在していないので、オレは首を傾げる。レベッカも小首を傾げながら言ってきた。
「解毒のほうがいいんじゃないかしら……アルコールが毒に該当するのかは微妙なところだけど」
「じゃ、とりあえず解毒してみるわ」
そしてオレは無詠唱で解毒魔法をレニに掛ける。すると、意識をもうろうとさせていたレニは、まるで温泉にでも入ったかのように幸せそうな顔つきになった。
「ああ……きもちいい……」
ふむ……泥酔状態で解毒すると気持ちいいのか。覚えておこう。
オレが妙な気づきを得ていると、酒場の前面にちょっとした台座があって、そこに、拡声器を持ったケーニィが上がっていた。
「レディース・エーンド・ジェントルメーーーン! さぁいよいよやって参りました! 卒業パーティのメインイベント! 告白大会を開催したいと思います!!」
告白大会って、メインイベントだったのか? 酔っ払った勢いで壇上に上がり、大騒ぎを始めたケーニィほか数名の司会者たちに、オレは半ば呆れた視線を向ける。
しかしもちろん、オレの視線なんかでお調子者のケーニィは止まらない。
「さぁ! 我こそはと思う野郎ども! あるいはお嬢さん方! 明日をも知れぬ我々には、これが最後のチャンスかもしれないぞ! いざ尋常にぶちまけろ!!」
明日をも知れぬ我々……か。ケーニィのその台詞に、オレはどうしても寂しさを感じずにはいられない。日本の卒業パーティでは、絶対に聞かれないであろう台詞だ。もちろんケーニィは冗談で言っているし、周囲もそうと受け取ってはいるのだろうけれども。この異世界では自虐ネタなのだ。
オレがいたクラスでも、半数以上の人間が来月から冒険者となってダンジョンに繰り出す。最初は先輩冒険者が同行するし、都市周辺の魔獣は狩り尽くされた感があるから、危険な目に遭うことは早々ないと思うが……
それでも、一年、二年……と冒険者をやっていくうちに、このクラスからだって犠牲者は出るだろう。
そんなことに思いを馳せると、オレはどうしても居たたまれなくなる。
「ジップは、口は悪いけど優しいわよね」
いつの間にか、レニを膝枕してオレの横に座っていたレベッカが、そんなことを言ってきた。まるで今の思考を読まれたかのようだった。
「別に優しさとかじゃない。オレは……自分が辛い思いをしたくないだけの、臆病者だよ」
見知った顔と、もう二度と会えなくなると思うと辛いし、寂しい。日本ではそんなこと考えもしなかったけれど、異世界には死がすぐそこに、ダンジョンへの門を隔ててすぐ隣にある。
オレにとっては、そんな状況は違和感でしかないが、レベッカたちにとっては日常なのだ。だからレベッカにはオレが優しく見えるのだろう。
そんなレベッカは、レニの頭を撫でながら言ってくる。
「だとしても、よ。いい意味でも悪い意味でも、わたしたちは死を受け入れているけれど、ジップはそうじゃない。常に生きようとしている」
「なぜか、オレの中ではそれが当たり前だったからな」
「そういう当たり前が、これからすごく大切になると思うわ」
「窮地に陥ったとき、それでも諦めないように、か?」
「そうね。最後の最後まで、足掻くためにも……」
だが……その前提自体が死を受け入れている。日本で暮らしていれば、最後の最後なんて病気くらいしかないのだから。
しかしオレは、前提が間違っているだなんて伝えたりしない。伝えたところで意味のないことなのだから。
それにオレには裏ワザがある。だからなおさら、死を意識しなくてもいいいわけで。裏ワザだけで言えば、オレ一人でも魔獣から都市を守れるから、だからなおさら歯がゆいんだ。
しかし派手に裏ワザを使えば、今度は魔人に目を付けられて都市ごと滅ぼされかねない。
魔人の戦闘力は圧倒的だという。都市内の文献を読み漁って得た情報だけでも、今のオレですら太刀打ち出来ないほどに。
魔獣退治にチマチマと裏ワザを使っているくらいなら大丈夫だったが、それ以上目立つことをすればヤバイかもしれない。
いったいその線引きをどこですればいいのか……六年間、残機でダンジョンに潜り続けているオレでも分からずにいた。
「おおっとーーー! 来ました来ました! トップバッターはグスタフ君だぁーーー!」
オレの陰鬱な気分を晴らしてくれるかのように、ケーニィが声を上げる。
「グスタフ! 壇上中央へ! 告りたい相手は誰ですか!?」
「レベッカさんです!!」
会場内がどっとどよめく。急に名指しをされて、レベッカは「えっ? わたし……!?」と目を丸くしていた。
「さぁレベッカさん、お立ちください!」
ケーニィにそう言われて、レベッカはレニをオレに預けると立ち上がる。せっかく寝付いていたレニだったが「むにゃむにゃ……うるさいですね……なんですか……」と起きてしまったようだ。
レベッカのほうは、頬を赤らめてうつむいている。
「さぁグスタフ! 思いの丈を述べたまえ!」
ケーニィはグスタフを促して──
「ごめんなさい!!」
──グスタフが何かを言う前に、レベッカが深々と頭を下げてお断りした。
会場内が、狂乱かと思うほどに湧き上がる。
「おおっとーーー! 告白の前からフラれてしまった! これは酷い!!」
いや……酷いのはケーニィの方ではなかろうか?
グスタフとレベッカなんて、クラス内でも挨拶程度しかしない仲だったのに急に告白してもなぁ……元32歳のおっさんからすると青すぎて痛々しい。
「グスタフ! 今の心境は!?」
「後悔はありません! レベッカさん、ありがとうございました!!」
そして壇上では、二人で男泣きしている。まぁ……グスタフも振られることは分かっていたのだろうから記念告白といったところか。
むしろ困っているのはレベッカのようで、頬を赤らめ複雑な顔つきをしながら腰を下ろしていた。
そんな感じで告白大会が進む。壇上に上がるのは男子のみで、女性は告白待ちと言ったところなのだろう。中には成功する男子もいて、なぜか男からブーイングが飛んでいた。
そんな感じで宴もたけなわになったころ──
──レニがむっつりと立ち上がる。
「レニ? どうした?」
「うるさい……」
「は?」
「うるさくて眠れないの!」
そう言うと、クラスメイトを掻き分けて壇上へとズンズン進む。
アイツ、もしかして寝ぼけているのか? いや、酔っ払ってるのかその両方か……
そして壇上近くでレニは拳を上げた。
「こらーーー! ケーニィ! うるさくて眠れな──」
「おおっとーーー! 今度は女子が初挑戦だ!!」
告白大会の参加者と間違われたレニは、おぼつかない足取りで壇上にあげられた。
「レニ! キミの事だから相手はヤツだろう!?」
「なんのこと……?」
「告白だよ告白!」
「こくはく~?」
「さぁレニ! ジップに思いの丈をぶつけるんだ!!」
「うぃ~……ひっく?」
うむ……これは大変にまずい。
オレは慌てて腰を上げるが……しかし両肩を男友達にがっつりホールドされてしまった!
「お、お前ら!?」
「イイトコなんだから、座っとけって!」
「そうそう! いい加減、白黒はっきりさせろって!!」
身動きが取れずにいると、拡声器を向けられたレニがオレを見てきた。
「わ、わたしは……」
普段なら、こんな人前でしゃべるなんて絶対に出来ないレニだというのに、酔っ払っているせいか臆せず言葉を紡ぎ出す。
「わたしは……ジップが好き……」
小さなその一言に、会場内ははち切れんばかりに湧き上がる。オレは、回りから囃し立てられ小突かれて、揉みくちゃにされてしまう。
「でも!」
しかし唐突に叫んだレニの一言で、拡声器がキーン……とハウリングして、会場内は一気に静まった。
「わたしじゃあ……レベッカには敵わない!」
いきなり名前を出されてしまい、衆目が一気にレベッカへと集中する。思わずオレも振り返り、壁際に座る彼女を見ると──レベッカは、目を見開いて頬を真っ赤にしていた。
壇上では、興奮しきったケーニィが声を張り上げる。
「ま、まさか! まさかの三角関係なのか!?」
「違う!」
ケーニィの憶測をレニは即座に否定する。
「違うの……わたしは……」
レニの次の言葉を、オレとレベッカは元より、クラスメイト全員が固唾を飲んで見守っていた。
「だから……わたしは………………わたしを……」
そしてレニは、意を決して宣言する。
「わたしを、養女にしてください!!」
…………。
……………………。
………………………………。
「はいぃ?」
オレの間抜けた声が、妙に響いた。
「わたしを、ジップとレベッカの養女にしてください! そうすれば、すべてがまるっと解決する! わたしはおうちでジップとレベッカを待っているだけで幸せ、レベッカはジップと結ばれて幸せ、これで八方丸く収まるのデス!」
「オレの幸せが入っていないが!?」
オレの抗議に、レニはポカンとして首を傾げる。
「え? 両手に花なのに?」
すると周囲の男子から、怒号のような抗議が殺到する!
「そうだぞキサマ!」
「学校で一、二を争ってきた美少女の両方を独占するなんて!?」
「他に何が望みなんだお前は!?」
「変わって欲しいくらいだ!!」
「レニちゃん、今からでも遅くはない! オレの養女になって──」
そうして会場内は騒然となる。
オレは、妬み嫉みの罵倒をなんとか振り切って壇上へとあがる。すると悪ノリしたままのケーニィが拡声器を向けてきた。
「さぁ世紀の大一番! 養女でいいというレニの申し出に、ジップはなんと答えるのでしょうか!?」
オレは拡声器をふんだくると、騒然としている会場内に負けないくらいの声で言い切った。
「お断りだ!」
本日最大のブーイングになるが、オレは構わず拡声器をレニに向ける。
「いい加減、自立しやがれ!!」
「イヤだーーー! わたしはずっと、おばあちゃんになってもジップのスネにかじりつくんだからーーー!」
「怖い事いうな!?」
そんなわけで……
結局、レニの養女宣言はうやむやになるのだが……
なんだか二人の遠い遠い将来を垣間見た気がして、オレはゾッとするのだった……
5
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる