4 / 69
第4話 オレが責任を取って、レニを一生養うのもやぶさかではないのだが……
しおりを挟む
オレたちが住むダンジョン都市は、敗戦という歴史的経緯もあって、子供の頃から戦闘訓練を叩き込まれる。フリストル市にも、初等部・中等部・高等部という区分けで学校があるが、主な授業は戦闘訓練なのだ。
何しろ、都市を一歩でも出ればダンジョンで、人を襲う魔獣がウジャウジャいるのだ。日本だと、山中から熊がたまに出てくる程度だから状況がまるで違う。そしてもちろん、魔獣はちょくちょく都市にも入り込んでくる。そうなると、街中でも装備を充実させて、男女の区別なく戦闘訓練を受けるのは必須なのだ。
そして市民の大半は「いつかは地上奪還」を夢見ているから、戦闘訓練を熱心に行う。追い詰められたほうが人は奮起するらしいが、まさにそれを地で行くのがここの市民たちだ。
だというのにレニは、まったくもって戦闘訓練に精を出さず、勉学にも励まず、隙を見ては引きこもり、部屋でぼーっと過ごしていることの多い美少女だった。
幼少の頃は、大きくなったら活動的になるだろうと思っていたのだが……
前世の記憶を引き継いで転生してきたオレは、当然だが、子供の頃から大人の思考が出来た。
だから赤ん坊のレニもよく覚えている。オレを抱っこして、生まれたてのレニを両親が見舞いに行ったことがあるのだが、それがレニと出会った最初の記憶であるほどにしっかりと覚えていた。その後のオレは、レニを姪っ子のように可愛がったものだ。お互い子供でも、オレの頭の中は大人だったわけだし。
日本でのオレは一人っ子で、親戚も遠方に住んでいたから子供と接したことがなかったのだが、レニの面倒を見るにつれ、こんなに可愛い存在だったのかとしみじみ思ったものだ。
しかしレニが成長するにつれ、オレはだんだん不安になってくる。
何しろレニは、努力というものをまるでしない怠け者だったのだ。
初等部に上がるころには「学校に行きたくない」と駄々をこねて、登校初日から不登校になった。
仕方がないので、オレと同じクラスになることで、レニはなんとか登校するも、授業中は寝ているし、訓練は仮病で休みまくるし。まったくもって他の子とは違う性格をしていた。
そんなだから友達もほとんど出来ず、いや、良さそうな子が寄ってきても、すぐさまオレの後ろに隠れてしまう有様だった。
そんな状態が、初等部から高等部までずっと続く……
フリストル市の学校に落第制度はないので(留年させてまで訓練や勉強をさせる余裕はないのだ)、結果、レニは自堕落なまま高等部二年になってしまう。
そうして二年時に、学生は適性検査を受けることになるのだが……
なんの適性を調べるのかと言えば、魔法の適性だ。
実は、この異世界の住人は全員が魔法を使える。魔法使い系の職種だけではなく、剣士でも盾使いでも魔法が使えるのだ。魔法の専門職もあるが、それは、他職種より魔法のバリエーションを多く使えるという違いでしかない。
その適性検査は、攻撃系・防御系・回復系の三系統ある。適性検査と言ってもざっくりとしたもので、あとは自助努力でさらなる適性を見つけようって感じだ。日本の高校で例えるなら、文系と理系、あと芸術系とかに分けるための目安って感じだろう。
その適性検査で、レニは防御魔法が得意と出たのだ──いや、出てしまったというべきか。
防御魔法を扱う職種は、もっぱら盾使いだ。戦闘時、盾を片手に敵前面に出てパーティメンバーを守る、そんな前衛職である。
………………引きこもりのレニが。
回復系の魔法であれば後衛か、または後方支援でもOKだったのだが……あるいは攻撃系であれば、攻撃専門の攻撃魔導師、略して攻撃師になって後衛でいられたのだが。
はたまた、レニがちゃんと勉強していれば、魔法研究を行う大学部に進学だって出来ただろうし、人間関係をきちんと経験していれば、公職であるギルドスタッフに抜擢されて、戦場に出るような目には遭わなかっただろうに。
だというのに、戦場の最前線で前衛をやるはめになるとは。
ということで、レニはいよいよ、登校拒否児の引きこもりになってしまいました……
もはや、オレと一緒に登校しようと言っても頑として家から出ようとしないのだ。
レニの両親も、なだめすかしたり叱咤激励したりするが効果なし。
やむを得ず、この一年間は、オレはレニの家庭教師として、最低限の一般教養を教える状況となっていた。
そしてこれは、オレにも責任の一端があるわけで……
子供の頃からレニを、なんだかんだと甘やかしてしまったというのもあるが、何よりも、オレ自身、努力する姿をレニに見せなかったからなぁ……
事実、オレは裏ワザを使っていたから、努力らしい努力をしていないわけで……
さきほど、レニに言われるまでまったく気づかなかったのだが、レニが怠け者になったのは、生来の気質が大きいとは思うが、それを開花させてしまったのはオレなのかもしれない。
というよりレニは、オレと自分の才能の違いにずっと苦しめられていたのかも……
だとしたら……確かにオレが責任を取って、レニを一生養うのもやぶさかではないのだが……
何しろ、幼いころは姪っ子のように可愛がっていたし、年齢が上がってからは妹のように思っていたし。
それに裏ワザがあるオレなら、この先、金銭的に困ることはないだろうし。
とはいえ……だ。
仕事もせず、日がな一日自宅で食っちゃ寝させていたら、どう考えても健康上よくないと思う。心身ともに。
まだ遊んでいられるなら気晴らしにもなるだろうが、この異世界には、ゲームとかの娯楽はほとんどないし。
しかもオレは、春を迎えたら、学校を卒業して冒険者になる。そうなるといろいろ忙しくなるだろうから、レニを構ってやれる時間は減ってしまう。その状況になるのがあと三カ月後なのだ。
そんなわけで……もはやレニの将来が明るくなる見通しがオレには出来なかった……
何しろ、都市を一歩でも出ればダンジョンで、人を襲う魔獣がウジャウジャいるのだ。日本だと、山中から熊がたまに出てくる程度だから状況がまるで違う。そしてもちろん、魔獣はちょくちょく都市にも入り込んでくる。そうなると、街中でも装備を充実させて、男女の区別なく戦闘訓練を受けるのは必須なのだ。
そして市民の大半は「いつかは地上奪還」を夢見ているから、戦闘訓練を熱心に行う。追い詰められたほうが人は奮起するらしいが、まさにそれを地で行くのがここの市民たちだ。
だというのにレニは、まったくもって戦闘訓練に精を出さず、勉学にも励まず、隙を見ては引きこもり、部屋でぼーっと過ごしていることの多い美少女だった。
幼少の頃は、大きくなったら活動的になるだろうと思っていたのだが……
前世の記憶を引き継いで転生してきたオレは、当然だが、子供の頃から大人の思考が出来た。
だから赤ん坊のレニもよく覚えている。オレを抱っこして、生まれたてのレニを両親が見舞いに行ったことがあるのだが、それがレニと出会った最初の記憶であるほどにしっかりと覚えていた。その後のオレは、レニを姪っ子のように可愛がったものだ。お互い子供でも、オレの頭の中は大人だったわけだし。
日本でのオレは一人っ子で、親戚も遠方に住んでいたから子供と接したことがなかったのだが、レニの面倒を見るにつれ、こんなに可愛い存在だったのかとしみじみ思ったものだ。
しかしレニが成長するにつれ、オレはだんだん不安になってくる。
何しろレニは、努力というものをまるでしない怠け者だったのだ。
初等部に上がるころには「学校に行きたくない」と駄々をこねて、登校初日から不登校になった。
仕方がないので、オレと同じクラスになることで、レニはなんとか登校するも、授業中は寝ているし、訓練は仮病で休みまくるし。まったくもって他の子とは違う性格をしていた。
そんなだから友達もほとんど出来ず、いや、良さそうな子が寄ってきても、すぐさまオレの後ろに隠れてしまう有様だった。
そんな状態が、初等部から高等部までずっと続く……
フリストル市の学校に落第制度はないので(留年させてまで訓練や勉強をさせる余裕はないのだ)、結果、レニは自堕落なまま高等部二年になってしまう。
そうして二年時に、学生は適性検査を受けることになるのだが……
なんの適性を調べるのかと言えば、魔法の適性だ。
実は、この異世界の住人は全員が魔法を使える。魔法使い系の職種だけではなく、剣士でも盾使いでも魔法が使えるのだ。魔法の専門職もあるが、それは、他職種より魔法のバリエーションを多く使えるという違いでしかない。
その適性検査は、攻撃系・防御系・回復系の三系統ある。適性検査と言ってもざっくりとしたもので、あとは自助努力でさらなる適性を見つけようって感じだ。日本の高校で例えるなら、文系と理系、あと芸術系とかに分けるための目安って感じだろう。
その適性検査で、レニは防御魔法が得意と出たのだ──いや、出てしまったというべきか。
防御魔法を扱う職種は、もっぱら盾使いだ。戦闘時、盾を片手に敵前面に出てパーティメンバーを守る、そんな前衛職である。
………………引きこもりのレニが。
回復系の魔法であれば後衛か、または後方支援でもOKだったのだが……あるいは攻撃系であれば、攻撃専門の攻撃魔導師、略して攻撃師になって後衛でいられたのだが。
はたまた、レニがちゃんと勉強していれば、魔法研究を行う大学部に進学だって出来ただろうし、人間関係をきちんと経験していれば、公職であるギルドスタッフに抜擢されて、戦場に出るような目には遭わなかっただろうに。
だというのに、戦場の最前線で前衛をやるはめになるとは。
ということで、レニはいよいよ、登校拒否児の引きこもりになってしまいました……
もはや、オレと一緒に登校しようと言っても頑として家から出ようとしないのだ。
レニの両親も、なだめすかしたり叱咤激励したりするが効果なし。
やむを得ず、この一年間は、オレはレニの家庭教師として、最低限の一般教養を教える状況となっていた。
そしてこれは、オレにも責任の一端があるわけで……
子供の頃からレニを、なんだかんだと甘やかしてしまったというのもあるが、何よりも、オレ自身、努力する姿をレニに見せなかったからなぁ……
事実、オレは裏ワザを使っていたから、努力らしい努力をしていないわけで……
さきほど、レニに言われるまでまったく気づかなかったのだが、レニが怠け者になったのは、生来の気質が大きいとは思うが、それを開花させてしまったのはオレなのかもしれない。
というよりレニは、オレと自分の才能の違いにずっと苦しめられていたのかも……
だとしたら……確かにオレが責任を取って、レニを一生養うのもやぶさかではないのだが……
何しろ、幼いころは姪っ子のように可愛がっていたし、年齢が上がってからは妹のように思っていたし。
それに裏ワザがあるオレなら、この先、金銭的に困ることはないだろうし。
とはいえ……だ。
仕事もせず、日がな一日自宅で食っちゃ寝させていたら、どう考えても健康上よくないと思う。心身ともに。
まだ遊んでいられるなら気晴らしにもなるだろうが、この異世界には、ゲームとかの娯楽はほとんどないし。
しかもオレは、春を迎えたら、学校を卒業して冒険者になる。そうなるといろいろ忙しくなるだろうから、レニを構ってやれる時間は減ってしまう。その状況になるのがあと三カ月後なのだ。
そんなわけで……もはやレニの将来が明るくなる見通しがオレには出来なかった……
2
お気に入りに追加
382
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる