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第2話 わたしを好きにしていいよ……?
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むにっ……
寝ぼけて何かを掴んだが、それが不自然に柔らかかったので「?」と思ってオレは目を開く。
ベッドの中に、柔らかいものなんて持ち込んでいないはずだが……枕もそば殻でけっこう堅めだし。
そう思い、目をこすりながら起き上がると……
「のわっ!?」
オレは思わず叫び声をあげて、ベッドに立ち上がる。そして視線を明後日の方向に向けてから、オレのベッドに潜り込んでいた人間に言った。
「レレレ、レニ!? お前、いったい何やってんだ!?」
するとベッドの上で、「うん……?」という可愛らしい声が漏れ聞こえてきて、何度かモゾモゾと動く気配がしてから──
「ひやぁ!?」
──レニの叫び声が聞こえてきた。
レニが起きたのを見計らってから、オレはあくまでも視線を逸らして言った。
「お前! なんでオレのベッドに、しかもマッパで寝てんだよ!?」
「だ、だって……」
レニは、さらにモゾモゾと動いて何かをしているようだ。足元のシーツが動いているところを見ると、シーツで体を隠しているらしい。
ってか今さっき、オレは一瞬だったがレニの裸を見たわけで……
もしかすると……オレが寝ぼけて掴んでいたのは、レニの腕か、太ももか、それとも……
18歳の若き肉体では、そんなささやかな妄想だけで反応してしまうものだから、オレは思わず前屈みになっていた。
「ジップ……もうこっち見ていいよ……」
レニのしおらしい声が聞こえてきたので、オレは恐る恐る顔をそちらに向ける。
「……くっ!?」
体をシーツでしっかり隠したのかと思ったが、レニは、顔を真っ赤にしながらも、シーツを胸元に当てるだけの艶めかしい姿のままだった。
オレは再び視線を逸らしてからレニに言った。
「だからお前! なんて格好してんだよ!?」
「だって……こうでもしないと……ジップはわたしのこと襲ってくれないから……」
「襲われたいってのか!?」
「……うん」
「だからなんで!?」
しかしレニは答えてこない。
レニ・バインホルンは、オレの幼なじみだ。オレの家──ヴェイト家とは隣同士なので、まさにザ・幼なじみという存在だった。
ちなみにジップというのはオレの名前だ。異世界転生を果たした今世では、ジップ・ヴェイトという名前になった。
そしてレニは、子供の頃からオレの後ろを付いて歩く感じの少女で、性格は引っ込み思案、どころか最近は引きこもりと化している。
姿形は悪くなく、というより美少女だ。とくにスタイルが抜群で、スレンダーなのに胸だけは『コートの上からでも男の視線を釘付けにする』ほどにデカい。ファミリーネームがバインホルンということで、日本語の語感だとなぜか納得できるデカさだった。それでいて痩せているのだからタチが悪い。
顔の造作だって可愛らしく、気弱な感じが男の庇護欲を駆り立てる。いつも涙目な瞳で見つめられた日には、どんな男だって放っておけないに違いない。その弱々しい瞳はロングヘアーの前髪で隠れがちだが、学校の男子共には、一・二を争うほどの美少女と評されている。
だというのに、だ。
それほどの美少女だというのに、とにかく子供の頃から人見知りな性格で、男女問わず、オレ以外の人間と仲良くなろうとしない。それでも、レニの親やオレがなだめすかしてなんとか学校には通わせていたのだが、去年、適性診断を受けて自分の進路が決まってからは、完全に引きこもりと化していた。
とはいえオレは、登校拒否をしているレニとは毎日会ってはいたのだが……
マッパで布団に潜り込むなんて暴挙、これまで一度だってなかった。
いったいコイツ、突然何を考えたのやら……
「おーいレニ。黙ってたら分からんだろ。今の状況を説明してくれ」
「……早朝に布団に潜り込んだら……二度寝した。ジップに襲われようと思ったのに……」
「いやだから! なんでオレに襲われようとしたんだよ!?」
思わずオレが声を荒げると、レニは辿々しく言ってきた。
「だって……」
「だって?」
「わたしの取り柄といったら……この体くらいしかないから……」
「………………は?」
「だから……唯一の取り柄であるこの体を、ジップに捧げようと思って……」
「いやいや待て待て!?」
理由を聞いても意味不明なものだから、オレは思わずレニを見た。
「くっ!?」
涙目でオレを見上げるレニの、首筋に肩に鎖骨、さらにはチラ見できる胸の谷間に、オレは思わず呻きをあげた。
「ジップ……わたしを好きにしていいよ……?」
「いいわけあるか!」
オレはベッドから降りて、クローゼットからコートを取り出すとレニに放り投げた。
「とにかくそれを着てくれ! 目のやり場に困る!!」
「いいって言ってるのに……」
「さっき悲鳴を上げてたろ!?」
「あ、あれは……思わず上げちゃっただけで……今はもう覚悟完了してる」
「するなよ!?」
なんとかレニにコートを着せるも、ベッドの上に女の子座りしているから、太ももは露わになっているし、そもそも、コートの下に何も着ていないと知っていると、どうしてもムラムラしてしまう。
くっ……これが若さか……!
前世ではとうに失っていた興奮に、オレは軽く目眩を感じたので、あと下半身がどうにも収まらないのでそれを隠すため、机の椅子を引っ張りだすとそこに座る。
そしてレニと対峙した。
「なぁ……どうしてこんな暴挙に出たんだ? ちゃんと説明してくれ」
「だから……わたしがジップに出来るのはこのくらいだから……」
「このくらいって、他にもいろいろあるだろ?」
「だってわたし……料理出来ないし……」
この世界にはレシピがあまり広まっていないから、料理ってけっこう大変なんだよな。けど、そうであったとしても両親から教わったりで、家庭料理くらいは誰でも出来るようになるはずなのだが、不器用なレニは上達が未だ見込めなかった。
さらにレニが言い募る。
「掃除も駄目だし……」
もちろんこの世界には、円盤形のお掃除ロボットはおろか、普通の掃除機もない。だから箒や雑巾などの原始的な掃除用具で掃除するわけだが、これがけっこうな体力を消費する。体力のないレニには向かない家事だ。
「あと洗濯も無理だし……」
さらに洗濯はもっとやっかいで、なんと未だに洗濯板とタライなのだ。これがまた、腕力と握力が削り取られていくほどに重労働で、しかも冬になると水の冷たさで肌がしもやけになるほど。肌の弱いレニには厳しいだろう。
「だから……この身を捧げることで養ってもらおうと……」
「理論が飛躍しただろ今!?」
「どうして?」
本気で理解していない感じのレニに、オレは苛立ちを押さえるためにこめかみを押さえた。
「どうしても何も、養われたいってことは、つまりなんだ……その……」
オレが言い淀んでいると、レニがアッサリ言ってくる。
「結婚して欲しいって意味だけど?」
「だからそれが飛躍なんだよ!」
「なんで? わたしとジップの付き合いはもう18年になる。生まれたときから一緒なんだから。なら、結婚したっておかしくない期間でしょう?」
「その18年間、オレはお前のことを妹だと思っていたんだがな!?」
「同い年なのに?」
「オレの方が生まれが早い!」
「一ヵ月程度じゃない……」
目を丸くするレニの表情からは、悲観的なものは感じられない。妹と思われていたことを、単純に驚いているようだった。
だからオレは念押しで言った。
「とにかくお前は妹みたいなものなんだ! だからいきなり結婚と言われても承諾できるわけないだろ!?」
「そう……」
レニは少しの間うつむいていたが、しかしすぐに、名案を思いついたと言わんばかりの顔でオレを見た。
「なら、妹でもいいよ?」
「………………はい?」
「妹でもいいから、わたしを養って? あ、でもそうすると兄妹でえっちなことは──」
「養うわけあるか!?」
断固拒否の姿勢を見せるオレに、レニは徐々に肩を震わせる。
「ど、どうして……? ジップはわたしのこと嫌いなの……?」
「お前のことは嫌いじゃないが、お前のその魂胆はダイキライだ」
「ど、どゆこと……?」
「とどのつまりアレだろ! お前は、冒険者になりたくないのはもちろん、そもそも仕事をしたくないんだろ! だから……自分で言うのもなんだが、将来有望そうなオレに目を付けたってわけか!」
「うん、そう」
あっさりと頷くレニに、オレが二の句を失っていると、レニが言ってくる。
「ちゃんと対価も用意したよ。それがわたしの体で──」
「だーーーー! コートを脱ごうとするな!?」
オレは再びレニから視線を逸らす。
心臓の鼓動は、かつてないほどの爆音を上げているのだ。これ以上、レニの素肌を見たら本当に襲ってしまうかもしれない。
本音を言えばオレだって、レニと、アレやコレやをしてみたい。しかも「好きにしていい」とまで言われているのだ……! ここで手を出さないようなヤツ、日本だったら『据え膳食わぬは男の恥』となじられることだろう。
しかし……しかしだ!
この世界には……避妊具がない……!
ということは、血気盛んな18歳の身空となったオレのアレは、大変に元気極まりないわけで、下手したら一晩で子供を授かってしまうかもしれないのだ……!
いや、子供を授かること自体は悪いことではないが、18歳で親となるのはいかがなものだろう!? それにこれから、いよいよ冒険者として街から出て行こうという重要な時期だというのに!
それにヤってしまって、いわんや子供でも出来たらレニの思うツボだ! それもなんだか釈然としない!!
というわけでオレは、ぐっと拳を握り、これ以上レニを見ないよう、床の染みを凝視して言った。
「結局アレだろ、お前は怠けたいだけなんだろ!」
オレの非難に、しかしレニは臆することなく言ってきた。
「そうだよ? わたしが怠け者なのは、ジップがよく知っているでしょう?」
「あ、あのなぁ!」
「でもそれは、ジップだって同じじゃない」
「ぐっ……そ、それは……」
痛いところを突かれて、オレは思わず言葉を詰まらせる。
「一緒にダラダラしていても、ジップは戦闘訓練で一番。一緒にコタツで丸まってても、ジップは魔法学でも一番。わたしが必死でダイエットしているのに、ジップは食っちゃ寝しててもなぜか痩せてる」
「い、いや……だからな……?」
「それってつまり、努力したって、才能ある人間には敵わないということ。だったらわたしは、才能あるジップに縋って、怠けていたい……」
そう……なのだ。
兄妹のようにオレと暮らしてきたレニが怠け者になったのは、オレにも責任の一端があるのだ。
だからオレは、土壇場でレニに強く出ることが出来ず、ため息をつくしかなかった……
寝ぼけて何かを掴んだが、それが不自然に柔らかかったので「?」と思ってオレは目を開く。
ベッドの中に、柔らかいものなんて持ち込んでいないはずだが……枕もそば殻でけっこう堅めだし。
そう思い、目をこすりながら起き上がると……
「のわっ!?」
オレは思わず叫び声をあげて、ベッドに立ち上がる。そして視線を明後日の方向に向けてから、オレのベッドに潜り込んでいた人間に言った。
「レレレ、レニ!? お前、いったい何やってんだ!?」
するとベッドの上で、「うん……?」という可愛らしい声が漏れ聞こえてきて、何度かモゾモゾと動く気配がしてから──
「ひやぁ!?」
──レニの叫び声が聞こえてきた。
レニが起きたのを見計らってから、オレはあくまでも視線を逸らして言った。
「お前! なんでオレのベッドに、しかもマッパで寝てんだよ!?」
「だ、だって……」
レニは、さらにモゾモゾと動いて何かをしているようだ。足元のシーツが動いているところを見ると、シーツで体を隠しているらしい。
ってか今さっき、オレは一瞬だったがレニの裸を見たわけで……
もしかすると……オレが寝ぼけて掴んでいたのは、レニの腕か、太ももか、それとも……
18歳の若き肉体では、そんなささやかな妄想だけで反応してしまうものだから、オレは思わず前屈みになっていた。
「ジップ……もうこっち見ていいよ……」
レニのしおらしい声が聞こえてきたので、オレは恐る恐る顔をそちらに向ける。
「……くっ!?」
体をシーツでしっかり隠したのかと思ったが、レニは、顔を真っ赤にしながらも、シーツを胸元に当てるだけの艶めかしい姿のままだった。
オレは再び視線を逸らしてからレニに言った。
「だからお前! なんて格好してんだよ!?」
「だって……こうでもしないと……ジップはわたしのこと襲ってくれないから……」
「襲われたいってのか!?」
「……うん」
「だからなんで!?」
しかしレニは答えてこない。
レニ・バインホルンは、オレの幼なじみだ。オレの家──ヴェイト家とは隣同士なので、まさにザ・幼なじみという存在だった。
ちなみにジップというのはオレの名前だ。異世界転生を果たした今世では、ジップ・ヴェイトという名前になった。
そしてレニは、子供の頃からオレの後ろを付いて歩く感じの少女で、性格は引っ込み思案、どころか最近は引きこもりと化している。
姿形は悪くなく、というより美少女だ。とくにスタイルが抜群で、スレンダーなのに胸だけは『コートの上からでも男の視線を釘付けにする』ほどにデカい。ファミリーネームがバインホルンということで、日本語の語感だとなぜか納得できるデカさだった。それでいて痩せているのだからタチが悪い。
顔の造作だって可愛らしく、気弱な感じが男の庇護欲を駆り立てる。いつも涙目な瞳で見つめられた日には、どんな男だって放っておけないに違いない。その弱々しい瞳はロングヘアーの前髪で隠れがちだが、学校の男子共には、一・二を争うほどの美少女と評されている。
だというのに、だ。
それほどの美少女だというのに、とにかく子供の頃から人見知りな性格で、男女問わず、オレ以外の人間と仲良くなろうとしない。それでも、レニの親やオレがなだめすかしてなんとか学校には通わせていたのだが、去年、適性診断を受けて自分の進路が決まってからは、完全に引きこもりと化していた。
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マッパで布団に潜り込むなんて暴挙、これまで一度だってなかった。
いったいコイツ、突然何を考えたのやら……
「おーいレニ。黙ってたら分からんだろ。今の状況を説明してくれ」
「……早朝に布団に潜り込んだら……二度寝した。ジップに襲われようと思ったのに……」
「いやだから! なんでオレに襲われようとしたんだよ!?」
思わずオレが声を荒げると、レニは辿々しく言ってきた。
「だって……」
「だって?」
「わたしの取り柄といったら……この体くらいしかないから……」
「………………は?」
「だから……唯一の取り柄であるこの体を、ジップに捧げようと思って……」
「いやいや待て待て!?」
理由を聞いても意味不明なものだから、オレは思わずレニを見た。
「くっ!?」
涙目でオレを見上げるレニの、首筋に肩に鎖骨、さらにはチラ見できる胸の谷間に、オレは思わず呻きをあげた。
「ジップ……わたしを好きにしていいよ……?」
「いいわけあるか!」
オレはベッドから降りて、クローゼットからコートを取り出すとレニに放り投げた。
「とにかくそれを着てくれ! 目のやり場に困る!!」
「いいって言ってるのに……」
「さっき悲鳴を上げてたろ!?」
「あ、あれは……思わず上げちゃっただけで……今はもう覚悟完了してる」
「するなよ!?」
なんとかレニにコートを着せるも、ベッドの上に女の子座りしているから、太ももは露わになっているし、そもそも、コートの下に何も着ていないと知っていると、どうしてもムラムラしてしまう。
くっ……これが若さか……!
前世ではとうに失っていた興奮に、オレは軽く目眩を感じたので、あと下半身がどうにも収まらないのでそれを隠すため、机の椅子を引っ張りだすとそこに座る。
そしてレニと対峙した。
「なぁ……どうしてこんな暴挙に出たんだ? ちゃんと説明してくれ」
「だから……わたしがジップに出来るのはこのくらいだから……」
「このくらいって、他にもいろいろあるだろ?」
「だってわたし……料理出来ないし……」
この世界にはレシピがあまり広まっていないから、料理ってけっこう大変なんだよな。けど、そうであったとしても両親から教わったりで、家庭料理くらいは誰でも出来るようになるはずなのだが、不器用なレニは上達が未だ見込めなかった。
さらにレニが言い募る。
「掃除も駄目だし……」
もちろんこの世界には、円盤形のお掃除ロボットはおろか、普通の掃除機もない。だから箒や雑巾などの原始的な掃除用具で掃除するわけだが、これがけっこうな体力を消費する。体力のないレニには向かない家事だ。
「あと洗濯も無理だし……」
さらに洗濯はもっとやっかいで、なんと未だに洗濯板とタライなのだ。これがまた、腕力と握力が削り取られていくほどに重労働で、しかも冬になると水の冷たさで肌がしもやけになるほど。肌の弱いレニには厳しいだろう。
「だから……この身を捧げることで養ってもらおうと……」
「理論が飛躍しただろ今!?」
「どうして?」
本気で理解していない感じのレニに、オレは苛立ちを押さえるためにこめかみを押さえた。
「どうしても何も、養われたいってことは、つまりなんだ……その……」
オレが言い淀んでいると、レニがアッサリ言ってくる。
「結婚して欲しいって意味だけど?」
「だからそれが飛躍なんだよ!」
「なんで? わたしとジップの付き合いはもう18年になる。生まれたときから一緒なんだから。なら、結婚したっておかしくない期間でしょう?」
「その18年間、オレはお前のことを妹だと思っていたんだがな!?」
「同い年なのに?」
「オレの方が生まれが早い!」
「一ヵ月程度じゃない……」
目を丸くするレニの表情からは、悲観的なものは感じられない。妹と思われていたことを、単純に驚いているようだった。
だからオレは念押しで言った。
「とにかくお前は妹みたいなものなんだ! だからいきなり結婚と言われても承諾できるわけないだろ!?」
「そう……」
レニは少しの間うつむいていたが、しかしすぐに、名案を思いついたと言わんばかりの顔でオレを見た。
「なら、妹でもいいよ?」
「………………はい?」
「妹でもいいから、わたしを養って? あ、でもそうすると兄妹でえっちなことは──」
「養うわけあるか!?」
断固拒否の姿勢を見せるオレに、レニは徐々に肩を震わせる。
「ど、どうして……? ジップはわたしのこと嫌いなの……?」
「お前のことは嫌いじゃないが、お前のその魂胆はダイキライだ」
「ど、どゆこと……?」
「とどのつまりアレだろ! お前は、冒険者になりたくないのはもちろん、そもそも仕事をしたくないんだろ! だから……自分で言うのもなんだが、将来有望そうなオレに目を付けたってわけか!」
「うん、そう」
あっさりと頷くレニに、オレが二の句を失っていると、レニが言ってくる。
「ちゃんと対価も用意したよ。それがわたしの体で──」
「だーーーー! コートを脱ごうとするな!?」
オレは再びレニから視線を逸らす。
心臓の鼓動は、かつてないほどの爆音を上げているのだ。これ以上、レニの素肌を見たら本当に襲ってしまうかもしれない。
本音を言えばオレだって、レニと、アレやコレやをしてみたい。しかも「好きにしていい」とまで言われているのだ……! ここで手を出さないようなヤツ、日本だったら『据え膳食わぬは男の恥』となじられることだろう。
しかし……しかしだ!
この世界には……避妊具がない……!
ということは、血気盛んな18歳の身空となったオレのアレは、大変に元気極まりないわけで、下手したら一晩で子供を授かってしまうかもしれないのだ……!
いや、子供を授かること自体は悪いことではないが、18歳で親となるのはいかがなものだろう!? それにこれから、いよいよ冒険者として街から出て行こうという重要な時期だというのに!
それにヤってしまって、いわんや子供でも出来たらレニの思うツボだ! それもなんだか釈然としない!!
というわけでオレは、ぐっと拳を握り、これ以上レニを見ないよう、床の染みを凝視して言った。
「結局アレだろ、お前は怠けたいだけなんだろ!」
オレの非難に、しかしレニは臆することなく言ってきた。
「そうだよ? わたしが怠け者なのは、ジップがよく知っているでしょう?」
「あ、あのなぁ!」
「でもそれは、ジップだって同じじゃない」
「ぐっ……そ、それは……」
痛いところを突かれて、オレは思わず言葉を詰まらせる。
「一緒にダラダラしていても、ジップは戦闘訓練で一番。一緒にコタツで丸まってても、ジップは魔法学でも一番。わたしが必死でダイエットしているのに、ジップは食っちゃ寝しててもなぜか痩せてる」
「い、いや……だからな……?」
「それってつまり、努力したって、才能ある人間には敵わないということ。だったらわたしは、才能あるジップに縋って、怠けていたい……」
そう……なのだ。
兄妹のようにオレと暮らしてきたレニが怠け者になったのは、オレにも責任の一端があるのだ。
だからオレは、土壇場でレニに強く出ることが出来ず、ため息をつくしかなかった……
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