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第5章
第33話 きっと、まだチャンスはある
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「すみません、わざわざ来て頂いて……」
ミアがそうお礼をすると、リリィ様付きの侍女さんは笑顔で答えてくる。
「お気になさらず。リリィ様から事情は聞いておりますので、今日は、目一杯ドレスアップしましょうね!」
「は、はい……」
ドレスアップすることに若干の気恥ずかしさを覚えながらも、わたしは頷く。
今日は、リリィ様の紹介で、ドレスコードのある高級レストランで食事をすることになっているので、そうなると、わたし一人ではドレスを着ることが出来ない。
だからリリィ様は、ドレスアップ担当の侍女さんを、わたしの住む女子寮に派遣してくれた。人様に服を着せてもらうなんてこそばゆいけど……お貴族様のドレスって、本当に着方が分からないのだから仕方がないよね。
ということでわたしは、化粧室でドレスアップをしてもらっていた。
「まぁすごい! ミア様ってスタイル抜群ですね!」
「そ、そうですか……?」
「ええ! コルセットが必要ない女性なんて初めて見ましたよ! さらにはこの豊満な胸! そして肉付きがいいのに引き締まった脚! すばらしいですわ!」
「あ、ありがとうございます……」
「しかもこの肌のハリとツヤはなんですか!? 普段から、どんなケアをされているのか教えてください!」
「と、とくに何もしていないんですが……」
なんだか侍女さんがすごく興奮気味なので、わたしはさらに気恥ずかしくなる。メイクやヘアセットのときも、とにかく褒めてくれるので、もはやわたしは赤面するしかなかった。
そうして最後に、侍女さんが姿鏡の前にわたしを連れてきて、全身を見せてくれる。
「さぁ出来ました! もはやお姫様かと思うほどに美しいですよ!」
「………………」
た、確かに……
まるで別人みたい……自分で言うのもなんだけど……
アルデと会うときは、普段から身なりに気をつけてはいたけれど、これはもう別次元だった。本当に、このまま王宮の晩餐会に出席しても違和感ないかもしれない。
「あ、ありがとうございます。こんなに綺麗にして頂いて、嬉しいです……!」
「元がいいですからね! わたしもやり甲斐がありました。ですが、時間がちょっと押してしまいましたので、急いだ方がいいですね」
「はい、分かりました」
「玄関先に停まっている馬車がテレジア家のものですから、そちらに乗ってください」
「何から何まで、本当にありがとうございます……!」
「お礼は我が主に言ってくださいませ。そして健闘をお祈りしておりますわ」
わたしは、丁寧に頭を下げてから化粧室を出た。そうして急いで馬車に乗り込む。
御者さんもリリィ様付きなので、すでに目的地は分かっているとのことだった。ということで馬車がスムーズに走り出す。
(ふぅ。なんとか間に合いそう……)
馬車に座ると、わたしはひと息ついた。御者さんによると、時間通りに到着できるという話だった。
(そ、それにしても……)
手持ち無沙汰になったわたしは、馬車の内装に視線を送る。
もちろんこの馬車も、お貴族様用の高級馬車だから、内装は煌びやかだし、椅子もふかふか。本当なら、わたしなんかが絶対に乗れないような馬車だ。そもそもわたし、ロバが引く荷車にしか乗ったことないし。
(リリィ様には、もう本当に、感謝しかないな……)
わたしを雇ってくれただけでも感謝なのに、リリィ様は、いつも陰ながら助力してくれる。今回だって、アルデとは、いつものように会って食事する程度で考えてたんだけど、リリィ様が──
「せっかくのイヴなのに、そんなプランではいけませんわ!」
──と言ってくれて、レストラン以外にも様々な手はずをしてくれた。
本当は、夜景の綺麗な旅館で一泊させたがっていたのだけれど、夜はユイナスちゃんとの予定があるということで、そこは断念していたけど。
ま、まぁ……一泊ともなると……その……夜に……アルデとどう接していいか分からないし……
だからわたしは内心で胸を撫で下ろしたりもした。
いずれにしてもリリィ様からは「アルデをしっかりと魅了してくるように!」とのお達しを受けているので、そこは期待に応えたいと思ってる。
今のアルデは、わたしのことなんて全然気にしていないだろうけれども……でも、だからこそ頑張らなくちゃ。
きっとアルデは、ティスリ様のことが好きなんだろう。
子供の頃から人の機微に疎いアルデのことだから、もしかしたら、自分自身の気持ちにすら、まだ気づいていないのかもしれないけれど。
でもティスリ様は、王女なんだ。
そしてアルデは、ただの平民。
だから二人は、結ばれることはない──決して。
なら、いくらアルデがティスリさんを好いていたとしても、その想いは報われないわけで……
そして報われないと分かったその日。
近くにいるのが、わたしだったなら──
「──きっと、まだチャンスはある」
気づけば馬車はレストラン前に停まり、御者さんが扉を開けてくれる。
わたしはお礼を言いながら馬車を降りて、レストランの入場口に向かって急ぎ足で歩き始め──
「ミ、ミア!?」
──驚きの声で名前を呼ばれて、咄嗟に振り返ってしまう。
「……!?」
そしてわたしは目を見開く。
なぜならわたしの視界には、リリィ様と揉み合っているユイナスちゃんがいたのだから。
ミアがそうお礼をすると、リリィ様付きの侍女さんは笑顔で答えてくる。
「お気になさらず。リリィ様から事情は聞いておりますので、今日は、目一杯ドレスアップしましょうね!」
「は、はい……」
ドレスアップすることに若干の気恥ずかしさを覚えながらも、わたしは頷く。
今日は、リリィ様の紹介で、ドレスコードのある高級レストランで食事をすることになっているので、そうなると、わたし一人ではドレスを着ることが出来ない。
だからリリィ様は、ドレスアップ担当の侍女さんを、わたしの住む女子寮に派遣してくれた。人様に服を着せてもらうなんてこそばゆいけど……お貴族様のドレスって、本当に着方が分からないのだから仕方がないよね。
ということでわたしは、化粧室でドレスアップをしてもらっていた。
「まぁすごい! ミア様ってスタイル抜群ですね!」
「そ、そうですか……?」
「ええ! コルセットが必要ない女性なんて初めて見ましたよ! さらにはこの豊満な胸! そして肉付きがいいのに引き締まった脚! すばらしいですわ!」
「あ、ありがとうございます……」
「しかもこの肌のハリとツヤはなんですか!? 普段から、どんなケアをされているのか教えてください!」
「と、とくに何もしていないんですが……」
なんだか侍女さんがすごく興奮気味なので、わたしはさらに気恥ずかしくなる。メイクやヘアセットのときも、とにかく褒めてくれるので、もはやわたしは赤面するしかなかった。
そうして最後に、侍女さんが姿鏡の前にわたしを連れてきて、全身を見せてくれる。
「さぁ出来ました! もはやお姫様かと思うほどに美しいですよ!」
「………………」
た、確かに……
まるで別人みたい……自分で言うのもなんだけど……
アルデと会うときは、普段から身なりに気をつけてはいたけれど、これはもう別次元だった。本当に、このまま王宮の晩餐会に出席しても違和感ないかもしれない。
「あ、ありがとうございます。こんなに綺麗にして頂いて、嬉しいです……!」
「元がいいですからね! わたしもやり甲斐がありました。ですが、時間がちょっと押してしまいましたので、急いだ方がいいですね」
「はい、分かりました」
「玄関先に停まっている馬車がテレジア家のものですから、そちらに乗ってください」
「何から何まで、本当にありがとうございます……!」
「お礼は我が主に言ってくださいませ。そして健闘をお祈りしておりますわ」
わたしは、丁寧に頭を下げてから化粧室を出た。そうして急いで馬車に乗り込む。
御者さんもリリィ様付きなので、すでに目的地は分かっているとのことだった。ということで馬車がスムーズに走り出す。
(ふぅ。なんとか間に合いそう……)
馬車に座ると、わたしはひと息ついた。御者さんによると、時間通りに到着できるという話だった。
(そ、それにしても……)
手持ち無沙汰になったわたしは、馬車の内装に視線を送る。
もちろんこの馬車も、お貴族様用の高級馬車だから、内装は煌びやかだし、椅子もふかふか。本当なら、わたしなんかが絶対に乗れないような馬車だ。そもそもわたし、ロバが引く荷車にしか乗ったことないし。
(リリィ様には、もう本当に、感謝しかないな……)
わたしを雇ってくれただけでも感謝なのに、リリィ様は、いつも陰ながら助力してくれる。今回だって、アルデとは、いつものように会って食事する程度で考えてたんだけど、リリィ様が──
「せっかくのイヴなのに、そんなプランではいけませんわ!」
──と言ってくれて、レストラン以外にも様々な手はずをしてくれた。
本当は、夜景の綺麗な旅館で一泊させたがっていたのだけれど、夜はユイナスちゃんとの予定があるということで、そこは断念していたけど。
ま、まぁ……一泊ともなると……その……夜に……アルデとどう接していいか分からないし……
だからわたしは内心で胸を撫で下ろしたりもした。
いずれにしてもリリィ様からは「アルデをしっかりと魅了してくるように!」とのお達しを受けているので、そこは期待に応えたいと思ってる。
今のアルデは、わたしのことなんて全然気にしていないだろうけれども……でも、だからこそ頑張らなくちゃ。
きっとアルデは、ティスリ様のことが好きなんだろう。
子供の頃から人の機微に疎いアルデのことだから、もしかしたら、自分自身の気持ちにすら、まだ気づいていないのかもしれないけれど。
でもティスリ様は、王女なんだ。
そしてアルデは、ただの平民。
だから二人は、結ばれることはない──決して。
なら、いくらアルデがティスリさんを好いていたとしても、その想いは報われないわけで……
そして報われないと分かったその日。
近くにいるのが、わたしだったなら──
「──きっと、まだチャンスはある」
気づけば馬車はレストラン前に停まり、御者さんが扉を開けてくれる。
わたしはお礼を言いながら馬車を降りて、レストランの入場口に向かって急ぎ足で歩き始め──
「ミ、ミア!?」
──驚きの声で名前を呼ばれて、咄嗟に振り返ってしまう。
「……!?」
そしてわたしは目を見開く。
なぜならわたしの視界には、リリィ様と揉み合っているユイナスちゃんがいたのだから。
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