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第5章
第25話 この学校の制服を着るということですか!?
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くっ……アルデを連れてきたのは失敗でした……!
ティスリは、演説会場に向かいながら激しく後悔します。
よくよく考えれば、何しろここは女子校なのです。つまり女子生徒しかいないのです……!
そんな中に、アルデを投入したらどんなことになるのか──ちょっと考えればすぐ分かることだったのに!
一見すると、ぽけぇっとしてて何も考えてなさそうなアルデですが、例えば、どんなにお馬鹿な野犬であっても、たくさんの餌がある部屋に放り込めば興奮するように、アルデだってそうなるのです……!
アルデの知能はそんな野犬と同等なのですから、そこを考慮すべきでした!
まぁ……女子生徒がアルデに興味を示すことは盲点でしたが……そこの見落としはやむを得ないとしましょう。意外すぎましたからね。
しかしアルデを連れてこないとなると……ユイナスさんの不興を買ってしまいますし。
今日のユイナスさんは普段以上に上機嫌ですから、今さらアルデを帰すわけにもいかないしで……
とにかく、アルデがこれ以上、女子生徒と接触するのだけは避けなくては……!
なぜならば、女子生徒の身が危険ですからね!
そもそも本来なら、女子校に、護衛とはいえ男性が出入りすること自体が間違ってますし!
そうです! わたしはその間違いを正すため──つまりは風紀の乱れを懸念して、アルデの一挙一動を注視しなければなりません! あくまでも風紀のために!!
まぁ……事前に何かしらの対策をしておけば、こんな気苦労はしなくてもよかったのですが……
どうも最近、思考が鈍っている気がします……今日はほぼプライベートではありますが、だからといって思考を鈍らせていいはずもありませんし……気を引き締めないと。
「お姉様、どうかされましたか?」
「え……? どう、とは?」
つい物思いに耽っていると、リリィに呼ばれてわたしは顔を上げました。
ふと気づけば、いつの間にか舞台袖に到着していました。
「そろそろお時間になりますが、何か考え事をされていましたので……」
「いえ……別に大したことを考えていたわけではありません。演説内容も万全です」
「そうですか。さすがはお姉様です。では司会者が合図しますので、そうしたら登壇をお願いします」
「分かりました」
その後まもなく、わたしは登壇して、演説を始めました。
本来なら表舞台には立たない主義なのですが、四大貴族が独立した直後の不安定な情勢とあっては、そんなことも言っていられなくなりましたからね。条約調印式以降、わたしはこうして舞台に立つことが一気に増えました。
それにしても……
女子生徒達の、わたしを見る目が……
なんというか、もはや、リリィのような眼差しになっているというか……
全員が一様に、両目をキラッキラにさせて、常夏かと思うほどに熱い眼差しをわたしに向けてくるのです……!
だからわたしはちょっと──というよりかなり心配になりました。
もちろん、超絶天才美少女であるわたしに憧れるのは無理からぬことなのですが、盲目的に従われるのも困りものです。
それでは、わたしが死んだあとに国が成り立たなくなってしまいます。わたしが死んだ後も国は続いていくのですから。今のわたしはまったくもって健康で、当然早死にするつもりはありませんが、とはいえいつかは寿命を迎えるわけで。
そして、その依存体制に気づいたときには後の祭りとなるでしょう。だから早め早めに対策しなければなりません。
ということでわたしは、自立することを強調する演説内容に即興で変更してから締めくくりました。ちゃんと理解されているといいのですが……
「お姉様! 素晴らしい御前演説でしたわ! わたし、感動しましたわ!」
舞台袖に戻ると、演説内容を真っ先に実践してもらいたいリリィが、本当に感動しているのか目を潤ませながら言ってきます。
こうやって、素直に聞き入れてくれるところはいいんですけどね……リリィの場合、理解が乏しいというか実践が伴わないというか……
だからわたしは、内心でため息をつきながらも応接間へと戻り、今後の予定をリリィに尋ねました。
手帳を広げてからリリィが答えてきます。
「この後は、学園祭を視察していただく予定ですわ。模擬店や展示会をご覧になって頂いた後、午後は演劇鑑賞の予定です」
「そうですか。そこまで忙しなくはなさそうですね」
「それはもちろん、今日はお姉様の休暇も兼ねていますし」
そんなやりとりをしていると、その隣ではユイナスさんがアルデに聞いてました。
「お兄ちゃん! もう仕事は終わりだって! ならわたしと一緒に模擬店を見て回ろう!」
そ、それはまずい……!
女性だけの花園にアルデを解き放つわけにはいきません!
ユイナスさんが付いているとはいえ、どこで何が起こるか分かりませんし!
しかしユイナスさんの機嫌を損ねるわけにもいかず、わたしがどう説得しようか言葉を探していると、アルデがあっさりと言いました。
「いや、オレはティスリについて行くが?」
「えー! なんでよ!? この後はもう休暇だって言ってるじゃない!」
「休暇でもなんでも、護衛が離れるわけにはいかないの」
「なんでよー! ぶーぶー!!」
ユイナスさんはそれでも食い下がりますが、アルデは一向に折れないので、ユイナスさんは、渋々ながらも矛先を収めます。
それを聞いてわたしはホッとしました──って、なんでホッとしてるんですかわたし!?
あ、そうです! アルデという猛獣を、女性しかいない花園に解き放たなくてホッとしたということですねそうに決まってます!
なぜか自分にそう言い聞かせていると、ユイナスさんが不機嫌そうに言いました。
「じゃあ……学祭はこの四人で見て回るってわけ?」
それに答えたのはリリィでした。
「そうなりますわね。わたしがお姉様のお側を離れるわけにはいきませんし」
なぜリリィがわたしの側を離れられないのかまったくもって意味不明ですが、ここはリリィが通う学校ですし、今日のところは大目に見ましょう。
ですが、わたしが王女として学園祭視察をすることになると、どうしても堅苦しくなりますから……ユイナスさんが楽しめないかもしれません。
さりとて、わたしの目の届かない所にアルデを放つわけにもいきませんし……
これまでのように、お忍び視察ということにできればいいのですが……
「リリィ、お忍びとして見て回ることは出来ないのですか?」
わたしのその問いかけに、リリィは難しい顔つきになりました。
「お忍びですか? それは難しいかもしれませんわね……今し方、御前演説をされたばかりですし」
「確かにそうですね……」
わたしがお忍び視察を諦めかけたところで、アルデが言ってきました。
「なら変装すればバレないんじゃね? 演説と言っても、生徒達は遠巻きに見てただけだろ」
「変装というと?」
わたしがアルデに問いかけると、アルデは、相変わらずのアホ面で言ってきました。
「そりゃあ、木を隠すなら森の中ってことで、女子学生に扮装すればいいじゃん」
「えぇ……!?」
アルデのそんな提案に、わたしは思わず驚きの声を上げます。
「学生に扮装するって……わたしが、この学校の制服を着るということですか!?」
「そうだけど、なんかまずいの?」
「だ、だって! いい歳して学生服なんて着られませんよ!?」
「いい歳って……お前、ここの生徒達とは同世代だろ?」
「……!? そ、それは、そうですが……」
た、確かに、年齢的にはそうなのですが……
し、しかしですね?
学生服というのは、学生だからこそ着られる特権的な何かですので……
学生でもないのに学生服を着るだなんて、なぜかもの凄く抵抗感があるのですが!?
そもそもここの学生服、スカート丈が妙に短いですし……
などとわたしが戸惑っていると、リリィがパチンと手を叩いて、前のめりで言ってきます。
「アルデにしてはナイスアイディアですわ!」
「オレにしては……って余計じゃね?」
「細かいことはどうでもいいのです! お姉様! その手でいきましょう!」
「えぇ!? で、ですが……」
「お姉様ならなんの違和感もありませんわよ! あと髪型を変えて、眼鏡でもすればバッチリですわ!!」
「しかし……制服が……」
「もちろんすぐさまソッコーでご用意しますわ!」
「ちょ、ちょっとリリィ……!?」
「では更衣室に向かいましょう今すぐに!」
わたしの戸惑いなどお構いなしに、リリィに手を引かれて連れ出されてしまうのでした……!
ティスリは、演説会場に向かいながら激しく後悔します。
よくよく考えれば、何しろここは女子校なのです。つまり女子生徒しかいないのです……!
そんな中に、アルデを投入したらどんなことになるのか──ちょっと考えればすぐ分かることだったのに!
一見すると、ぽけぇっとしてて何も考えてなさそうなアルデですが、例えば、どんなにお馬鹿な野犬であっても、たくさんの餌がある部屋に放り込めば興奮するように、アルデだってそうなるのです……!
アルデの知能はそんな野犬と同等なのですから、そこを考慮すべきでした!
まぁ……女子生徒がアルデに興味を示すことは盲点でしたが……そこの見落としはやむを得ないとしましょう。意外すぎましたからね。
しかしアルデを連れてこないとなると……ユイナスさんの不興を買ってしまいますし。
今日のユイナスさんは普段以上に上機嫌ですから、今さらアルデを帰すわけにもいかないしで……
とにかく、アルデがこれ以上、女子生徒と接触するのだけは避けなくては……!
なぜならば、女子生徒の身が危険ですからね!
そもそも本来なら、女子校に、護衛とはいえ男性が出入りすること自体が間違ってますし!
そうです! わたしはその間違いを正すため──つまりは風紀の乱れを懸念して、アルデの一挙一動を注視しなければなりません! あくまでも風紀のために!!
まぁ……事前に何かしらの対策をしておけば、こんな気苦労はしなくてもよかったのですが……
どうも最近、思考が鈍っている気がします……今日はほぼプライベートではありますが、だからといって思考を鈍らせていいはずもありませんし……気を引き締めないと。
「お姉様、どうかされましたか?」
「え……? どう、とは?」
つい物思いに耽っていると、リリィに呼ばれてわたしは顔を上げました。
ふと気づけば、いつの間にか舞台袖に到着していました。
「そろそろお時間になりますが、何か考え事をされていましたので……」
「いえ……別に大したことを考えていたわけではありません。演説内容も万全です」
「そうですか。さすがはお姉様です。では司会者が合図しますので、そうしたら登壇をお願いします」
「分かりました」
その後まもなく、わたしは登壇して、演説を始めました。
本来なら表舞台には立たない主義なのですが、四大貴族が独立した直後の不安定な情勢とあっては、そんなことも言っていられなくなりましたからね。条約調印式以降、わたしはこうして舞台に立つことが一気に増えました。
それにしても……
女子生徒達の、わたしを見る目が……
なんというか、もはや、リリィのような眼差しになっているというか……
全員が一様に、両目をキラッキラにさせて、常夏かと思うほどに熱い眼差しをわたしに向けてくるのです……!
だからわたしはちょっと──というよりかなり心配になりました。
もちろん、超絶天才美少女であるわたしに憧れるのは無理からぬことなのですが、盲目的に従われるのも困りものです。
それでは、わたしが死んだあとに国が成り立たなくなってしまいます。わたしが死んだ後も国は続いていくのですから。今のわたしはまったくもって健康で、当然早死にするつもりはありませんが、とはいえいつかは寿命を迎えるわけで。
そして、その依存体制に気づいたときには後の祭りとなるでしょう。だから早め早めに対策しなければなりません。
ということでわたしは、自立することを強調する演説内容に即興で変更してから締めくくりました。ちゃんと理解されているといいのですが……
「お姉様! 素晴らしい御前演説でしたわ! わたし、感動しましたわ!」
舞台袖に戻ると、演説内容を真っ先に実践してもらいたいリリィが、本当に感動しているのか目を潤ませながら言ってきます。
こうやって、素直に聞き入れてくれるところはいいんですけどね……リリィの場合、理解が乏しいというか実践が伴わないというか……
だからわたしは、内心でため息をつきながらも応接間へと戻り、今後の予定をリリィに尋ねました。
手帳を広げてからリリィが答えてきます。
「この後は、学園祭を視察していただく予定ですわ。模擬店や展示会をご覧になって頂いた後、午後は演劇鑑賞の予定です」
「そうですか。そこまで忙しなくはなさそうですね」
「それはもちろん、今日はお姉様の休暇も兼ねていますし」
そんなやりとりをしていると、その隣ではユイナスさんがアルデに聞いてました。
「お兄ちゃん! もう仕事は終わりだって! ならわたしと一緒に模擬店を見て回ろう!」
そ、それはまずい……!
女性だけの花園にアルデを解き放つわけにはいきません!
ユイナスさんが付いているとはいえ、どこで何が起こるか分かりませんし!
しかしユイナスさんの機嫌を損ねるわけにもいかず、わたしがどう説得しようか言葉を探していると、アルデがあっさりと言いました。
「いや、オレはティスリについて行くが?」
「えー! なんでよ!? この後はもう休暇だって言ってるじゃない!」
「休暇でもなんでも、護衛が離れるわけにはいかないの」
「なんでよー! ぶーぶー!!」
ユイナスさんはそれでも食い下がりますが、アルデは一向に折れないので、ユイナスさんは、渋々ながらも矛先を収めます。
それを聞いてわたしはホッとしました──って、なんでホッとしてるんですかわたし!?
あ、そうです! アルデという猛獣を、女性しかいない花園に解き放たなくてホッとしたということですねそうに決まってます!
なぜか自分にそう言い聞かせていると、ユイナスさんが不機嫌そうに言いました。
「じゃあ……学祭はこの四人で見て回るってわけ?」
それに答えたのはリリィでした。
「そうなりますわね。わたしがお姉様のお側を離れるわけにはいきませんし」
なぜリリィがわたしの側を離れられないのかまったくもって意味不明ですが、ここはリリィが通う学校ですし、今日のところは大目に見ましょう。
ですが、わたしが王女として学園祭視察をすることになると、どうしても堅苦しくなりますから……ユイナスさんが楽しめないかもしれません。
さりとて、わたしの目の届かない所にアルデを放つわけにもいきませんし……
これまでのように、お忍び視察ということにできればいいのですが……
「リリィ、お忍びとして見て回ることは出来ないのですか?」
わたしのその問いかけに、リリィは難しい顔つきになりました。
「お忍びですか? それは難しいかもしれませんわね……今し方、御前演説をされたばかりですし」
「確かにそうですね……」
わたしがお忍び視察を諦めかけたところで、アルデが言ってきました。
「なら変装すればバレないんじゃね? 演説と言っても、生徒達は遠巻きに見てただけだろ」
「変装というと?」
わたしがアルデに問いかけると、アルデは、相変わらずのアホ面で言ってきました。
「そりゃあ、木を隠すなら森の中ってことで、女子学生に扮装すればいいじゃん」
「えぇ……!?」
アルデのそんな提案に、わたしは思わず驚きの声を上げます。
「学生に扮装するって……わたしが、この学校の制服を着るということですか!?」
「そうだけど、なんかまずいの?」
「だ、だって! いい歳して学生服なんて着られませんよ!?」
「いい歳って……お前、ここの生徒達とは同世代だろ?」
「……!? そ、それは、そうですが……」
た、確かに、年齢的にはそうなのですが……
し、しかしですね?
学生服というのは、学生だからこそ着られる特権的な何かですので……
学生でもないのに学生服を着るだなんて、なぜかもの凄く抵抗感があるのですが!?
そもそもここの学生服、スカート丈が妙に短いですし……
などとわたしが戸惑っていると、リリィがパチンと手を叩いて、前のめりで言ってきます。
「アルデにしてはナイスアイディアですわ!」
「オレにしては……って余計じゃね?」
「細かいことはどうでもいいのです! お姉様! その手でいきましょう!」
「えぇ!? で、ですが……」
「お姉様ならなんの違和感もありませんわよ! あと髪型を変えて、眼鏡でもすればバッチリですわ!!」
「しかし……制服が……」
「もちろんすぐさまソッコーでご用意しますわ!」
「ちょ、ちょっとリリィ……!?」
「では更衣室に向かいましょう今すぐに!」
わたしの戸惑いなどお構いなしに、リリィに手を引かれて連れ出されてしまうのでした……!
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