孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
191 / 245
第5章

第24話 当選した幸運な方々

しおりを挟む
 アルデオレとティスリは、学校に到着すると応接間に通された。

 その応接間には、なぜかユイナスがいた。オレ達を招待した張本人だからか?

 そんなユイナスが、珍しく自分からティスリに声を掛ける。

「で、どう? この学校のスローガンは」

「校舎の垂れ幕になっていたアレですか……?」

「そうよ」

「なんというか……あれ、絶対にリリィ発案ですよね……?」

「まぁね」

 ユイナスが頷くと、ティスリが深いため息をついた。

「はぁ……すっかり失念していました……この学校には、リリィも通っていることを。学校行事をなんだと思っているのか……」

 そんな感じで愚痴をこぼすティスリに、オレは苦笑を向ける。

「まぁいいじゃないか。この情勢なら、一致団結したほうがいいに決まってるし」

「とはいえ、学生まで気にする必要はありませんよ。本分は学業なのですから。そもそも、ああいう団結の仕方は好ましくありませんし」

 脱力しているティスリに、ユイナスが楽しげに言った。

「いずれにしても、あんた、今日は女神様扱いよ? この学校って、あんたのことをもはや崇拝しているからね」

「うっ……」

「ぜひ、女神サマとして振る舞ってよね~」

「できれば、その思い込みを解消したいところですが……」

 なるほど……ユイナスのヤツ、これでティスリに一泡吹かせられると思って、それで呼んだってわけか。まったく……しょーもないこと考えるな。

 とはいえこれだと、ティスリが羽を伸ばせそうにないなぁ。なんとかしてやりたい所だが……

 オレが腕組みをしていると扉がノックされる。

 入ってきたのは、リリィとほか数名だった。

「お姉様! 我が校へようこそおいでくださいました!」

 そういって飛びついてくるリリィをひらりとかわすと、ティスリはリリィに言った。

「リリィ、あのスローガンはなんなのですか……!」

「もちろん、この国にご降臨された、誉れ高き女神様おねぇさまを称えまくるスローガンですわ!」

「わたしは女神ではなく人間です!」

「またまたご謙遜を」

「謙遜ではありませんが!?」

 普段から、謙遜のケの字も知らないティスリだから、女神様扱いなのは本当に嫌なんだろうなぁ。超絶天才美少女と大差ない気がしないでもないが。

 しかしティスリは、人の目があるのを気にしてなのか、リリィを叱責するのは最小限に留めると、一緒に入ってきた女子生徒達に視線を向ける。

 それだけで、女子生徒達はひれ伏すのではないかと思えるほどガチガチに緊張していた。

「それでリリィ、彼女達は?」

「学園祭実行委員の中でも、当選した幸運な方々ですわ」

「当選……?」

「ええ。お姉様にお目通りしたい生徒は、実行委員全員どころか全生徒ですから、彼女達を全員、連れてくるわけにもいきませんし。だから厳正な抽選の結果、選ばれたのが彼女達なのです」

「そうなのですか」

「本来、お姉様の案内はわたし一人で十分なのですが、どうしてもと言われてしまいましてね。御前講演前なら、多少の謁見もいいかと思ったのですが、どうでしょうか?」

「もちろん構いませんよ」

「さすがはお姉様ですわ! ではお姉様のお許しも出たところで……皆さん、お姉様に一通りご挨拶を」

「は、はひっ!」

 ガッチガチに緊張しまくった女子生徒達が、それぞれティスリに向かって挨拶をする。今日は、お忍びではないものの非公式訪問ということなので、ティスリが最敬礼されるのを嫌がり、その結果、全員が頭を90度にさげんばかりの勢いで挨拶した。

 う~ん……彼女達、ティスリのことを本当に女神様だと思っているのかもしんない……

 全員が挨拶し終わると、ティスリがにこやかに言った。

「それでは皆さん、本日はよろしくお願いしますね」

『は、はい!!』

 今のティスリは、どこに出しても恥ずかしくない王女様モード──なんと見事な猫かぶりなんだ。普段から、オレに対してもあのくらい上品に接してほしいものだ、などとは口が裂けても言えない。

 そんなことを考えていたら、ティスリがこちらに視線を向けてきた。

「それと、彼はアルデ・ラーマと言いまして、わたしの護衛で(いちおー)側近です」

 護衛と側近の間に、妙な間があった気がしなくもないが……まぁいい。

 王都に来てからというもの、ティスリはオレのことを側近と紹介することが増えたが、どうやらそうすることで、オレの立場を強めるのが目的らしい。

 平民のオレが、兵士の教官にすんなり就任できたのも、『ティスリの側近』という後ろ盾があったからということだしな。貴族社会は何かと大変だ。

 ということでオレが女子生徒達に向かって挨拶をし終えると、そのうちの一人が聞いてきた。

「ラーマさん……ということは……」

「ああ、ユイナスの兄だ」

「まぁ! ユイナスさんの!」

「お噂はかねがね!」

「もの凄くお強いんですよね!」

「お会い出来て光栄ですわ!」

 お、おお……

 最近、剣術だけ、、の男と評されることが多かった身としては、こんなストレートに称賛されるのは、なんだかちょっとこそばゆいな。

 だからオレは、頬を掻きながら言った。

「ま、まぁ……そうでもないさ。剣術しか能がない男だし」

 すると彼女達は、ちょっと身を乗り出して言ってくる。

「そんなことありませんわ!」

「剣術に長けていることは、騎士として何よりも重要ですよ!」

「しかも今は、王城警備の教官までされているとか!」

「すごいですわ!」

 うう……なんて素直でいいコ達なんだ……

 王侯貴族なんて、ティスリとリリィしか知らないから(あとラーフルもか)、常にあんな、高飛車で人の話を聞かず、いつでも実力行使に出てくるようなワガママ娘ばかりだと思っていたが。

 よくよく考えてみれば、貴族の令嬢ともなれば育ちがいいわけだし、こんな感じのおっとりしたコが普通は多いのかもしれない。例えるなら、平和な牧場で過ごす羊のような……

 だとしたらそんな牧場に、狼のようなユイナスを解き放ったこと自体がむしろマズイかも。ユイナスから悪影響を受けなければいいが……

 などと考えて、ふと、右隣に座るユイナスに視線を送る、と……

 ユイナスは、なんとなく誇らしげな、それでいて不機嫌そうな、そんな複雑な顔をしていた。

「ちょっとあんた達、お兄ちゃんに憧れるのはいいけど、惚れたりしたら絶対に駄目だからね」

 ユイナスがドストレートに苦言をいったら、彼女達はいきなり真っ赤になった。

「も、もちろんですわ……!」

「い、いくらなんでも、初対面の男性にそんなこと……」

「剣技が凄いからといって……」

「そんな分不相応な感情は……」

 などと言いながら、こちらをチラチラ見てくる彼女達。

 な、なんてウブい反応をするんだ……!?

 思わずオレも照れてしまう──と。

「いてっ……!?」

 なぜか、手の甲を思いっきりつねられた!

「な、なんだよティスリ、突然……」

 するとオレの左隣に座っていたティスリが、横目でジロリと睨んでくる。

「言っておきますが、この国では、未成年に手を出したら犯罪ですからね?」

「だ、出さねぇよ!?」

「鼻の下を伸ばしておいて信用できますか!」

「伸びてないが!?」

 しかしオレは、咄嗟に鼻の下を手で隠した!

 そんなやりとりをしていたら、女子生徒達が急に真っ青になったかと思うと、身を乗り出して、ティスリに向かって唐突に謝罪する。

「も、申し訳ございません殿下!」「ま、まさか殿下とアルデ様が……!」「そのようなご関係だったとは露知らず!」「決して邪な感情を抱いていたわけでは──」

 彼女達の声が被ってしまい、その内容はよく分からなかったが、ティスリは聞き取れていたらしい。

「ちちち、違いますよ!?」

 彼女達の謝罪を遮って、ティスリが大慌てに言った。

「アルデは、あくまでも側近に過ぎませんから! それ以上でもそれ以下でもありませんから!!」

 うん、そりゃそうだろう。王女の側近以上となれば王様くらいしかいないし。まぁ以下に関してはたくさんいるけれど、今のオレの立場は、状況的にかなり上らしい。どのくらいなのかはよく分からんし、望んでもないけど。

 ティスリはなんだって、そんな当たり前のことを、顔を真っ赤にして説明しているのか……オレは首を傾げざるを得ない。

 しかしそれでも女子生徒には伝わったようで、彼女達はなぜか納得したような顔つきで、大きく頷いた。

「なるほど……分かりました殿下」

 するとティスリのほうは、ほっとした顔つきになる。

「わ、分かって頂けましたか?」

 女子生徒達のほうは、何かを得心したかのような顔つきだった。

「ええ、それはもうはっきりと」

「側近以上でも以下でもない。まさしく」

「わたくしたちは、肝に銘じて起きますわ」

「決して出過ぎた真似は致しません」

 それを聞いたティスリは、なんとなく渋面になる。

「なぜか……ひっじょーに勘違いされている気がしてならないのですが……」

 しかし女子生徒達は、身を乗り出したままに言ってきた。

「そんなことはありません!」

「まさしくお言葉通りに理解致しました!」

「決して、殿下の内心を勘ぐってなどおりませんわ!」

「その通りです! ここはそっとしておいたほうがいい──などとも思っておりませんわ!」

 彼女達の言葉を聞き、ティスリはますます難しい言葉になる。ちなみにユイナスは不機嫌そうにしているが口を挟んでこない。逆にリリィのほうはぽかんとしていた。

 そのリリィが女子生徒達に言った。

「あなた方は何をおっしゃってますの? いずれにしても、お姉様を困らせるようなことは──」

「も、申し訳ありませんリリィ様!」

「わ、わたしたち、決してそのような意図があったわけではないのです!」

「むしろ、アルデ様のおかげで殿下に親近感を覚えたというか!」

「その親近感が非礼だったことは、お詫びしてもしきれないのですが……」

 リリィに対しても猛烈に謝罪してくる女子生徒達に、リリィは首を傾げるばかりだったが、いずれにしてもそんな彼女達に、ティスリは苦笑を向けた。

「非礼だなんて、そんなことはまったくありませんから。親近感を覚えてくれたのなら、むしろ嬉しいですよ」

「本当ですか!?」

「ありがとうございます殿下!」

「殿下はなんとご寛大なんでしょう!」

「わたくし達一同、殿下に一生ついて行きます!」

「い、いえ……一生かどうかは、その時々で判断してください……」

 どうやら丸く収まったらしいな。言葉の裏に何が隠れていたのかは、結局よく分からなかったが、まぁこの子達のことだ、悪意が隠されているだなんてあるわけもないし。

 だからオレはティスリに言った。

「いいコ達じゃないか。お前もそんなにいぢめてやるなよ?」

「いぢめてませんよ! っていうか妙な雰囲気になったのはアルデのせいですからね!?」

 そしてどうしてか、オレが怒られるのだった……
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...