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第5章
第15話 上手く立ち回ることも出来ますが……
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お姉様の慰労会も終わり、リリィ達は屋敷へと帰ってきました。
この屋敷を提供するのも王都観光までと思っておりましたが、ユイナスがこのまま王都に留まることになると……今後も何かと騒がしくなりそうですわね。
「リリィ様、今日は、どのような楽しいことがありましたか?」
入浴が終わり、わたし付きの侍女が髪の毛を整えながら、そんなことを聞いてきます。なのでわたしは、お姉様のことを思い出しながらいいました。
「今日は、久しぶりにお姉様とお会いできましたからね! しかもわたしと共に食卓を囲んでくれたのです! これが楽しくないはずありませんわ!」
「それは何よりです。最近はずっと、リリィ様はとても楽しそうで、侍女一同、喜ばしく思っております」
「最近はずっと……ですの?」
そんなことを言われて、わたしは思わず首を傾げました。
「むしろ最近は、お姉様とお会い出来ずにもどかしい思いをしていましたが」
「そうだったのですか。これは失礼致しました。普段から、ユイナス様のことを楽しげに話されていたので、勘違いをしてしまいました」
「別に、勘違いというわけでもないのですけれど……」
確かに、お姉様のことを思うともどかしくはありましたが、それ以上にユイナスが騒がしかったですからね。鬱々としがちなわたしの気分が紛れていたのは事実です。
となるとやはり、今後も騒がしいのは覚悟しないといけませんわね……
などと考えていたら、侍女が再び言ってきます。
「それにしてもリリィ様、今日は殿下とお会い出来て本当によかったですね」
「えっ?」
「今も、殿下のことを思い出して笑顔になっていたのでしょう?」
「えっと……」
い、いや今は、ユイナスのことを考えていたのですが……
わたしは思わず自分の口元を押さえました。
「わたし、いま笑っていましたか?」
「ええ、とても楽しそうに微笑んでおられました」
「………………」
べべべ、別に楽しい気分ではなかったのですけれども!
ユイナスといると、毎日が騒がしいと考えていただけで!?
姿鏡に映る自分の顔がなぜか赤くなっているので、わたしはますます頬の熱を感じていると──私室の扉がノックされました。
扉越しに、別の侍女が声を掛けてきます。
「リリィ様──ミア様が訪ねてこられましたが、いかが致しましょう?」
「ミアさんが?」
ミアさんもわたしの屋敷に滞在しているので、夜に尋ねてくることは可能ですし、時計を見ればまだ21時を少し回ったところなので、夜更けすぎるというわけでもありません。
そもそも王都観光の期間中、ユイナスもちょくちょくわたしの私室に来ては、「ちょっと小腹が空いたのよ」と言いながらお茶菓子をつまみ、他愛のない雑談をしてましたし。
とはいえ、ミアさんが尋ねてくるのは初めてです。いったいなんの用でしょうか?
わたしは不思議に思いながらも答えました。
「身支度が終わったら声を掛けますから、そうしたら通しなさい」
「かしこまりました」
そうして数分後には、ミアさんがわたしの私室に案内されました。
「や、夜分に申し訳ありません、リリィ様」
「構いませんわ。あなたも楽にしてください」
「あ、はい……ありがとうございます」
ミアさんは、相変わらず緊張しているようですわね。もっとも、テレジア家の嫡女と相対すれば、普通はこういう反応なのですけれども。ユイナスのあの不遜な態度のほうがどうかしているだけで。
そうして侍女がお茶を入れ終えたところで、ミアさんのほうから話を切り出してきました。
「じ、実は……お願いがあって参りました」
「まぁそうでしょうね。それでお願いとは?」
「わたしを……テレジア家で雇ってもらえないでしょうか……!?」
「当家で?」
思ってもみないことを言われて、わたしは首を傾げます。
「えっと……あなたは確か、村長の娘なのですよね? ユイナスの村の。であれば仕事には困っていないのでは?」
「あ、はい……仕事はあるのですが、その……」
少しの間、ミアさんは指を絡ませてモジモジしていましたが、やがて意を決したかのように言ってきました。
「そ、その……! わたしも王都に残りたくて! アルデともう離ればなれになるのはイヤで……!」
「………………」
あ、あぁ……なるほど?
そ、そういうことですか……
確かに、以前の肝試しなるイベントで、わたしもミアさんの心境は理解しましたが……
ですが……
そうなると……
ユイナスが……
ミアさんは、わたしの沈黙をまずいと判断したのか、身を乗り出して言ってきます。
「あ、あの! わたし、何でもします! お掃除やお料理などの家事全般は出来ますし、あっ、でもこんな広いお屋敷じゃ家事というレベルではないかもですけど、でもがんばります! それに語学や算術も得意な方で──」
「ま、待って! 待ってくださいな!」
饒舌になるミアさんを、わたしはいったん制止します。
「別に、あなたの能力を疑っているわけではありません。もちろん、働き手が一人か二人増えようとも当家は問題ないのですが、ただ急な話なので、ちょっと整理させてくださいな」
「す、すみません……」
わたしがそう言うと、ミアさんは肩を落としてしまいました。
別に怒ったわけではないのですが、あまり平民と接したことがないわたしだと、どうにも扱いが分かりませんわね。身近にいる平民と言えば、何を言おうとも動じないユイナスですし……
わたしは、ひとまずハーブティーを一口すすってから思考を巡らせます。
まずこのコなら、当家に仕えること自体は問題ないでしょう。貴族に対する心得も熟知しているようですし、これまでの行動を振り返るに頭もよさそうです。もしかすると、わたしの側に置いておくのもいいかもしれません。
そもそも、先の慰労会でこの話を切り出さなかったことも評価できます。自分の立場をよく分かっている証拠ですからね。
例えば、今のお姉様は公人同然ですから、そこで働きたいと言えば各種試験を受けねばなりませんが──そう考えると、アルデが未だにお姉様の側に仕えているのが謎極まりないのですが、お姉様が信頼しているのであればやむを得ません。
ですが当家の侍女として仕える分には、わたしの一存で決められます。
さらにあの場でこの発言をすれば、絶対に、ユイナスが反対してくるでしょうからね。猛烈に。
とはいえ……です。
当家で働くことになれば、そのユイナスと、否が応でも顔を合わせるわけで。
どう考えても、ユイナスの頭にツノが生えること請け合いですわ……
であればさすがに、ミアさんを雇い入れるわけには──
──と、そこまで考えたところで、タイミングよく、ミアさんが言ってきます。
「ちなみにですが……この屋敷で働かなくてもいいんです。お店や商会などでも働けると自負しています。あと住まいも自分で探します。それで王都にいることさえできれば……」
「……ふむ」
まさにわたしが懸念したことを、このコは先回りして解決してきましたわね。やはり、頭はいいようです。
王都は広いですから、この屋敷に出入りさえしなければ、確かに、ユイナスと顔を合わせることはないでしょう。
ですが……そういう問題ではないというか……
ではどういう問題かというと……えっと……
どういう問題なのかしら?
わたしは、自分の思考をまとめられないままミアさんに問いました。
「あなた……アルデのこと、本気なのですか?」
「えっ!?」
わたしがずっと黙っていたせいか、諦めムードを醸し出していたミアさんの顔がぱっと明るくなります。
「は、はい! 本気です! わたし、ずっと後悔してたんです! アルデが衛士になるために村を出てしまったときから、ずっと! 今度は、そんな後悔したくありません!」
「ふむ……そうですか……」
これで、アルデとミアさんが結ばれてくれたなら、お姉様に寄りつく悪い虫もいなくなるので、わたしとしては万々歳のはず。
ユイナスがめちゃくちゃ怒るでしょうけれども……でも以前も考えたことですが、そもそもあの二人は実の兄妹ですし、どう考えても、結ばれるはずないわけで……
となればやはり、これはユイナスのためにも心を鬼にして、アルデとミアさんの仲を取り持ったほうが……
そう──そのほうがユイナスのためなのです。
それはもう烈火のごとく怒るでしょうけれども……
でもだからユイナスのためで……
けど怒られるし……
それに……
そこまでわたしが手を回したら……
ユイナスに、嫌われてしまうかも。
「はっ!?」
わたしはまるで、夢から覚めたかのようにハッとします。
「……!?」
目の前のミアさんが驚いていましたが、それどころではありません!
わたし、いま何を考えていましたか!?
確か、ユイナスに嫌われたくないとか考えてませんでした!?
そそそ、そんなことあるはずないじゃないですか!
ユイナスはただの平民──お姉様との仲を取り持ってもらうための協力者に過ぎないのですよ!?
そんな人に嫌われようが何を思われようが、ぜんぜん関係ないんですからね!?
「わ、わたしは貴族ですから!」
「は、はい!?」
急に話し出したわたしにミアさんは目を白黒させていますが、わたしは構わず続けました!
「貴族とは、約束を違えてはならない存在なのですよ!」
「え、あ、はい……」
「それが例え口約束だったとしても契約は契約なのです!」
「そ、そうですね……?」
「だ、だからであって、わたしは決して、ユイナスに嫌われたくないだなんて思っていませんわ!」
「え、ええ……」
しかし焦燥感は消えず、わたしは立ち上がると室内を往復します。
そう……そうです。
わたしは貴族であるからして。
いちど交わした約束を破るわけにはいきません。
ユイナスとの約束は、アルデとの仲を取り持つこと。その見返りとして、わたしはお姉様ともっと親密になれるよう協力を要請したわけで……
ただあの約束は、ユイナスとアルデの仲を積極的に取り持つとまでは明言していませんでしたが……もしもわたしが、ミアさんの心境に寄り添うことになれば、それは明確な裏切りであることは同然……!
それに最近のわたしは、お姉様との距離がぐっと近づいています。これは紛れもない事実。つまりユイナスは約束を果たしていると言えます。身体的なご寵愛が減ったのはちょっと寂しくなくもないですが、とはいえ重要なのは心境──そう心境なのです!
だというのに、いくらユイナスのためだからといって、わたしが約束を違えるわけには──
──頭を抱えながら私室をウロウロしつつも、なんとか考えがまとまったので、わたしはミアさんを見ます。
ですが、わたしが話す前にミアさんが言ってきました。
「あの……リリィ様……」
「な、なんですか?」
「わたしなら、ユイナスちゃんと鉢合わせないよう、上手く立ち回ることも出来ますが……」
………………。
わたしの足は、ぱたりと止まりました。
この屋敷を提供するのも王都観光までと思っておりましたが、ユイナスがこのまま王都に留まることになると……今後も何かと騒がしくなりそうですわね。
「リリィ様、今日は、どのような楽しいことがありましたか?」
入浴が終わり、わたし付きの侍女が髪の毛を整えながら、そんなことを聞いてきます。なのでわたしは、お姉様のことを思い出しながらいいました。
「今日は、久しぶりにお姉様とお会いできましたからね! しかもわたしと共に食卓を囲んでくれたのです! これが楽しくないはずありませんわ!」
「それは何よりです。最近はずっと、リリィ様はとても楽しそうで、侍女一同、喜ばしく思っております」
「最近はずっと……ですの?」
そんなことを言われて、わたしは思わず首を傾げました。
「むしろ最近は、お姉様とお会い出来ずにもどかしい思いをしていましたが」
「そうだったのですか。これは失礼致しました。普段から、ユイナス様のことを楽しげに話されていたので、勘違いをしてしまいました」
「別に、勘違いというわけでもないのですけれど……」
確かに、お姉様のことを思うともどかしくはありましたが、それ以上にユイナスが騒がしかったですからね。鬱々としがちなわたしの気分が紛れていたのは事実です。
となるとやはり、今後も騒がしいのは覚悟しないといけませんわね……
などと考えていたら、侍女が再び言ってきます。
「それにしてもリリィ様、今日は殿下とお会い出来て本当によかったですね」
「えっ?」
「今も、殿下のことを思い出して笑顔になっていたのでしょう?」
「えっと……」
い、いや今は、ユイナスのことを考えていたのですが……
わたしは思わず自分の口元を押さえました。
「わたし、いま笑っていましたか?」
「ええ、とても楽しそうに微笑んでおられました」
「………………」
べべべ、別に楽しい気分ではなかったのですけれども!
ユイナスといると、毎日が騒がしいと考えていただけで!?
姿鏡に映る自分の顔がなぜか赤くなっているので、わたしはますます頬の熱を感じていると──私室の扉がノックされました。
扉越しに、別の侍女が声を掛けてきます。
「リリィ様──ミア様が訪ねてこられましたが、いかが致しましょう?」
「ミアさんが?」
ミアさんもわたしの屋敷に滞在しているので、夜に尋ねてくることは可能ですし、時計を見ればまだ21時を少し回ったところなので、夜更けすぎるというわけでもありません。
そもそも王都観光の期間中、ユイナスもちょくちょくわたしの私室に来ては、「ちょっと小腹が空いたのよ」と言いながらお茶菓子をつまみ、他愛のない雑談をしてましたし。
とはいえ、ミアさんが尋ねてくるのは初めてです。いったいなんの用でしょうか?
わたしは不思議に思いながらも答えました。
「身支度が終わったら声を掛けますから、そうしたら通しなさい」
「かしこまりました」
そうして数分後には、ミアさんがわたしの私室に案内されました。
「や、夜分に申し訳ありません、リリィ様」
「構いませんわ。あなたも楽にしてください」
「あ、はい……ありがとうございます」
ミアさんは、相変わらず緊張しているようですわね。もっとも、テレジア家の嫡女と相対すれば、普通はこういう反応なのですけれども。ユイナスのあの不遜な態度のほうがどうかしているだけで。
そうして侍女がお茶を入れ終えたところで、ミアさんのほうから話を切り出してきました。
「じ、実は……お願いがあって参りました」
「まぁそうでしょうね。それでお願いとは?」
「わたしを……テレジア家で雇ってもらえないでしょうか……!?」
「当家で?」
思ってもみないことを言われて、わたしは首を傾げます。
「えっと……あなたは確か、村長の娘なのですよね? ユイナスの村の。であれば仕事には困っていないのでは?」
「あ、はい……仕事はあるのですが、その……」
少しの間、ミアさんは指を絡ませてモジモジしていましたが、やがて意を決したかのように言ってきました。
「そ、その……! わたしも王都に残りたくて! アルデともう離ればなれになるのはイヤで……!」
「………………」
あ、あぁ……なるほど?
そ、そういうことですか……
確かに、以前の肝試しなるイベントで、わたしもミアさんの心境は理解しましたが……
ですが……
そうなると……
ユイナスが……
ミアさんは、わたしの沈黙をまずいと判断したのか、身を乗り出して言ってきます。
「あ、あの! わたし、何でもします! お掃除やお料理などの家事全般は出来ますし、あっ、でもこんな広いお屋敷じゃ家事というレベルではないかもですけど、でもがんばります! それに語学や算術も得意な方で──」
「ま、待って! 待ってくださいな!」
饒舌になるミアさんを、わたしはいったん制止します。
「別に、あなたの能力を疑っているわけではありません。もちろん、働き手が一人か二人増えようとも当家は問題ないのですが、ただ急な話なので、ちょっと整理させてくださいな」
「す、すみません……」
わたしがそう言うと、ミアさんは肩を落としてしまいました。
別に怒ったわけではないのですが、あまり平民と接したことがないわたしだと、どうにも扱いが分かりませんわね。身近にいる平民と言えば、何を言おうとも動じないユイナスですし……
わたしは、ひとまずハーブティーを一口すすってから思考を巡らせます。
まずこのコなら、当家に仕えること自体は問題ないでしょう。貴族に対する心得も熟知しているようですし、これまでの行動を振り返るに頭もよさそうです。もしかすると、わたしの側に置いておくのもいいかもしれません。
そもそも、先の慰労会でこの話を切り出さなかったことも評価できます。自分の立場をよく分かっている証拠ですからね。
例えば、今のお姉様は公人同然ですから、そこで働きたいと言えば各種試験を受けねばなりませんが──そう考えると、アルデが未だにお姉様の側に仕えているのが謎極まりないのですが、お姉様が信頼しているのであればやむを得ません。
ですが当家の侍女として仕える分には、わたしの一存で決められます。
さらにあの場でこの発言をすれば、絶対に、ユイナスが反対してくるでしょうからね。猛烈に。
とはいえ……です。
当家で働くことになれば、そのユイナスと、否が応でも顔を合わせるわけで。
どう考えても、ユイナスの頭にツノが生えること請け合いですわ……
であればさすがに、ミアさんを雇い入れるわけには──
──と、そこまで考えたところで、タイミングよく、ミアさんが言ってきます。
「ちなみにですが……この屋敷で働かなくてもいいんです。お店や商会などでも働けると自負しています。あと住まいも自分で探します。それで王都にいることさえできれば……」
「……ふむ」
まさにわたしが懸念したことを、このコは先回りして解決してきましたわね。やはり、頭はいいようです。
王都は広いですから、この屋敷に出入りさえしなければ、確かに、ユイナスと顔を合わせることはないでしょう。
ですが……そういう問題ではないというか……
ではどういう問題かというと……えっと……
どういう問題なのかしら?
わたしは、自分の思考をまとめられないままミアさんに問いました。
「あなた……アルデのこと、本気なのですか?」
「えっ!?」
わたしがずっと黙っていたせいか、諦めムードを醸し出していたミアさんの顔がぱっと明るくなります。
「は、はい! 本気です! わたし、ずっと後悔してたんです! アルデが衛士になるために村を出てしまったときから、ずっと! 今度は、そんな後悔したくありません!」
「ふむ……そうですか……」
これで、アルデとミアさんが結ばれてくれたなら、お姉様に寄りつく悪い虫もいなくなるので、わたしとしては万々歳のはず。
ユイナスがめちゃくちゃ怒るでしょうけれども……でも以前も考えたことですが、そもそもあの二人は実の兄妹ですし、どう考えても、結ばれるはずないわけで……
となればやはり、これはユイナスのためにも心を鬼にして、アルデとミアさんの仲を取り持ったほうが……
そう──そのほうがユイナスのためなのです。
それはもう烈火のごとく怒るでしょうけれども……
でもだからユイナスのためで……
けど怒られるし……
それに……
そこまでわたしが手を回したら……
ユイナスに、嫌われてしまうかも。
「はっ!?」
わたしはまるで、夢から覚めたかのようにハッとします。
「……!?」
目の前のミアさんが驚いていましたが、それどころではありません!
わたし、いま何を考えていましたか!?
確か、ユイナスに嫌われたくないとか考えてませんでした!?
そそそ、そんなことあるはずないじゃないですか!
ユイナスはただの平民──お姉様との仲を取り持ってもらうための協力者に過ぎないのですよ!?
そんな人に嫌われようが何を思われようが、ぜんぜん関係ないんですからね!?
「わ、わたしは貴族ですから!」
「は、はい!?」
急に話し出したわたしにミアさんは目を白黒させていますが、わたしは構わず続けました!
「貴族とは、約束を違えてはならない存在なのですよ!」
「え、あ、はい……」
「それが例え口約束だったとしても契約は契約なのです!」
「そ、そうですね……?」
「だ、だからであって、わたしは決して、ユイナスに嫌われたくないだなんて思っていませんわ!」
「え、ええ……」
しかし焦燥感は消えず、わたしは立ち上がると室内を往復します。
そう……そうです。
わたしは貴族であるからして。
いちど交わした約束を破るわけにはいきません。
ユイナスとの約束は、アルデとの仲を取り持つこと。その見返りとして、わたしはお姉様ともっと親密になれるよう協力を要請したわけで……
ただあの約束は、ユイナスとアルデの仲を積極的に取り持つとまでは明言していませんでしたが……もしもわたしが、ミアさんの心境に寄り添うことになれば、それは明確な裏切りであることは同然……!
それに最近のわたしは、お姉様との距離がぐっと近づいています。これは紛れもない事実。つまりユイナスは約束を果たしていると言えます。身体的なご寵愛が減ったのはちょっと寂しくなくもないですが、とはいえ重要なのは心境──そう心境なのです!
だというのに、いくらユイナスのためだからといって、わたしが約束を違えるわけには──
──頭を抱えながら私室をウロウロしつつも、なんとか考えがまとまったので、わたしはミアさんを見ます。
ですが、わたしが話す前にミアさんが言ってきました。
「あの……リリィ様……」
「な、なんですか?」
「わたしなら、ユイナスちゃんと鉢合わせないよう、上手く立ち回ることも出来ますが……」
………………。
わたしの足は、ぱたりと止まりました。
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