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第5章
第13話 お、お前の妹は……何者だ……?
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「はぁ? いやお前……王都に残るって……学校はどうするつもりだ」
アルデがユイナスにそう聞くと、ユイナスは事もなげに答えてきた。
「そんなの転校すればいいじゃない」
簡単に言ってのけるユイナスに、オレは呆れるしかない。
「転校って……簡単に言ってくれるけどな。めちゃくちゃ大変だろうが」
「なんでよ? 平民でも行商人の子供なんかは、ちょくちょく転校するっていうじゃない」
「そりゃ行商なんだから仕方がないだろ。でもオレ達は──」
「わたしたちの家に農地はないから、場所には縛られないわよ」
「む……それは、そうだが……」
「両親だって内職している程度。まぁだから貧乏なんだけど。だとしたら別に、村に留まる理由なんてなくない? お兄ちゃんだって、だから衛士になったんでしょ。追放されたけど」
「ぬぐ……」
一瞬、ユイナスに説得され掛けるオレだが、なんとか反論を捻り出す。
「いや……家業的にはそうかもだけど、いまお前が言ったとおり、うちは貧乏なんだから王都の学校になんて──」
オレが金銭面を理由にユイナスを説得しようとしているのに、ユイナスびいきのティスリが、やや前のめりで口を挟んできた。
「アルデ、それなら大丈夫です! この国の公立高校は学費無償ですから!」
「え、あ……そうだったっけ? けどオレ達は別の国になったわけで──」
「ではさっそく移動申請を使いましょう! 留学の名目で! ユイナスさんが申請第一号ですね!」
「け、けど……学費無償でも王都は何かと生活費が高いし……」
「ご心配なく! 我が家で暮らせば衣食住の不自由はさせません!」
「だ、だけど……そこまで世話になるわけには……」
「今さら気にしないでください! 気になるならアルデの給金をアップしますから、そこから支払えばいいでしょう!」
「い、いいって! 今でも十分にもらってるんだから!」
そもそもオレの給金があれば、ユイナス一人を抱えたって生活費には困らないわけだし……ユイナスを思い留まらせるための方便にしただけで。
にしてもティスリは……なんだって、ユイナスのことになるとあんなに甘いんだ?
「何よお兄ちゃん……わたしと王都で一緒に暮らすのが、そんなにイヤなの?」
「べ、別にイヤというわけじゃないが……」
「ならいいじゃない! わたしがこっちにいたって、なんの問題も障害もないでしょ!」
「ま、まぁ……そうかもだけど……」
だけどなぁ……
ユイナスが近くにいると、何かとトラブルが絶えないと思うんだよなぁ……
おもにティスリ関係で。
しかしオレは、生活費以外の反論が思いつかず、それでもなんとか反論を捻り出そうとしていると。
ユイナスが、ティスリに向かって言っていた。
「あ、でも。ティスリの世話になるのはごめんだから」
「な、なぜですか!?」
涙目になるティスリをスルーして、ユイナスはリリィを見た。
「と、いうことで。よろしくね、リリィ」
「えっ!? わたしですの!?」
名指しされて、今まで傍観していたリリィが驚く。
さらには、ティスリの恨みがましい視線まで向けられて、リリィは大いに慌てた。
「こ、ここは素直に、お姉様のご好意に甘えておきなさいな!?」
「イヤよ。ティスリに借りを作るなんて御免被るわ」
「わたしならいいというんですの!?」
「うん。あんたなら、いつかきっと帳消しにできそう。なんでかは知らないけど」
「どういうことですの!?」
リリィは、突き刺さるティスリの視線に滝汗になっているが、ユイナスはそんなことお構いなしだ。
「いいわよねぇ、リリィ? 今こうして、ティスリと同じテーブルを囲めているのは、誰のおかげだったっけ?」
「ですが今こうして、お姉様の視線が痛すぎるほど刺さっておりましてよ!?」
「それを喜ぶのがあんたでしょ」
「だからどういうことですの!?」
ティスリとユイナス、二人から無言の圧力を向けられたリリィは……最終的に、ユイナスに負けた。
「わ……分かりましたわ……なら当家で、ユイナスの面倒を見ますわよ……」
「やった! じゃあ転校の話は決まりね!」
「お、お姉様!? これはあくまでもユイナスのワガママであって、わたしの意向ではありませんからね!?」
「………………」
「ああ、お姉様!? そっぽを向いて頬をちょっと膨らませるなんて、そんなレア顔もステキ!?」
………………えーっと……
いずれにしても……
オレが止める間もなく、ユイナスの王都滞在と転校が決まってしまう。
さすがに生活費までリリィに出させるわけにはいかないので、兄妹のオレが出すことにした。滞在先はリリィの屋敷だから、家賃を考えたら払いきれるはずもないが、家賃は不要だという。むしろ小銭を受け取るほうが面倒とのこと。さすがは大貴族だ……
さらにユイナスの転校先は、リリィと同じ学校にした。この国では、貴族も平民も同じ学校に通う。これもティスリが行った学校改革の一環だ。もっとも、貴族が住むのは王都みたいな大都市圏だけだから、だいたいの学校は平民の子供だけだが。
ユイナスは成績がいいからその辺は問題ないだろうが……貴族相手に大立ち回りしないか心配だ。まぁ、大貴族のリリィが一緒ならなんとかなるか。最悪、ティスリがバックについてるし(なんだかマフィアみたいだが……)。
そんな細かい段取りをつけていると、そのやりとりを見ていたラーフルが、半ば呆然としながら、めずらしくオレに声を掛けてきた。
「お、お前の妹は……何者だ……?」
「えーと……何者だと聞かれても……」
「殿下とリリィ様を、ああも手玉にとるかのような……立場を分かっているのか?」
「分かった上でああなんだよ……」
「信じられん……」
堅物のラーフルが驚くのも無理ないけど、この辺の気さくさは、オレは好ましいとは思っているけどな。
本来なら、この国の実質的なトップと、それに次ぐ地位の娘に、あんな口を利いたら物理的に首が飛ぶかもしれないけど、そうならない雰囲気を作っているのは、他でもないティスリ自身なのかもなぁとオレは思うのだった。
アルデがユイナスにそう聞くと、ユイナスは事もなげに答えてきた。
「そんなの転校すればいいじゃない」
簡単に言ってのけるユイナスに、オレは呆れるしかない。
「転校って……簡単に言ってくれるけどな。めちゃくちゃ大変だろうが」
「なんでよ? 平民でも行商人の子供なんかは、ちょくちょく転校するっていうじゃない」
「そりゃ行商なんだから仕方がないだろ。でもオレ達は──」
「わたしたちの家に農地はないから、場所には縛られないわよ」
「む……それは、そうだが……」
「両親だって内職している程度。まぁだから貧乏なんだけど。だとしたら別に、村に留まる理由なんてなくない? お兄ちゃんだって、だから衛士になったんでしょ。追放されたけど」
「ぬぐ……」
一瞬、ユイナスに説得され掛けるオレだが、なんとか反論を捻り出す。
「いや……家業的にはそうかもだけど、いまお前が言ったとおり、うちは貧乏なんだから王都の学校になんて──」
オレが金銭面を理由にユイナスを説得しようとしているのに、ユイナスびいきのティスリが、やや前のめりで口を挟んできた。
「アルデ、それなら大丈夫です! この国の公立高校は学費無償ですから!」
「え、あ……そうだったっけ? けどオレ達は別の国になったわけで──」
「ではさっそく移動申請を使いましょう! 留学の名目で! ユイナスさんが申請第一号ですね!」
「け、けど……学費無償でも王都は何かと生活費が高いし……」
「ご心配なく! 我が家で暮らせば衣食住の不自由はさせません!」
「だ、だけど……そこまで世話になるわけには……」
「今さら気にしないでください! 気になるならアルデの給金をアップしますから、そこから支払えばいいでしょう!」
「い、いいって! 今でも十分にもらってるんだから!」
そもそもオレの給金があれば、ユイナス一人を抱えたって生活費には困らないわけだし……ユイナスを思い留まらせるための方便にしただけで。
にしてもティスリは……なんだって、ユイナスのことになるとあんなに甘いんだ?
「何よお兄ちゃん……わたしと王都で一緒に暮らすのが、そんなにイヤなの?」
「べ、別にイヤというわけじゃないが……」
「ならいいじゃない! わたしがこっちにいたって、なんの問題も障害もないでしょ!」
「ま、まぁ……そうかもだけど……」
だけどなぁ……
ユイナスが近くにいると、何かとトラブルが絶えないと思うんだよなぁ……
おもにティスリ関係で。
しかしオレは、生活費以外の反論が思いつかず、それでもなんとか反論を捻り出そうとしていると。
ユイナスが、ティスリに向かって言っていた。
「あ、でも。ティスリの世話になるのはごめんだから」
「な、なぜですか!?」
涙目になるティスリをスルーして、ユイナスはリリィを見た。
「と、いうことで。よろしくね、リリィ」
「えっ!? わたしですの!?」
名指しされて、今まで傍観していたリリィが驚く。
さらには、ティスリの恨みがましい視線まで向けられて、リリィは大いに慌てた。
「こ、ここは素直に、お姉様のご好意に甘えておきなさいな!?」
「イヤよ。ティスリに借りを作るなんて御免被るわ」
「わたしならいいというんですの!?」
「うん。あんたなら、いつかきっと帳消しにできそう。なんでかは知らないけど」
「どういうことですの!?」
リリィは、突き刺さるティスリの視線に滝汗になっているが、ユイナスはそんなことお構いなしだ。
「いいわよねぇ、リリィ? 今こうして、ティスリと同じテーブルを囲めているのは、誰のおかげだったっけ?」
「ですが今こうして、お姉様の視線が痛すぎるほど刺さっておりましてよ!?」
「それを喜ぶのがあんたでしょ」
「だからどういうことですの!?」
ティスリとユイナス、二人から無言の圧力を向けられたリリィは……最終的に、ユイナスに負けた。
「わ……分かりましたわ……なら当家で、ユイナスの面倒を見ますわよ……」
「やった! じゃあ転校の話は決まりね!」
「お、お姉様!? これはあくまでもユイナスのワガママであって、わたしの意向ではありませんからね!?」
「………………」
「ああ、お姉様!? そっぽを向いて頬をちょっと膨らませるなんて、そんなレア顔もステキ!?」
………………えーっと……
いずれにしても……
オレが止める間もなく、ユイナスの王都滞在と転校が決まってしまう。
さすがに生活費までリリィに出させるわけにはいかないので、兄妹のオレが出すことにした。滞在先はリリィの屋敷だから、家賃を考えたら払いきれるはずもないが、家賃は不要だという。むしろ小銭を受け取るほうが面倒とのこと。さすがは大貴族だ……
さらにユイナスの転校先は、リリィと同じ学校にした。この国では、貴族も平民も同じ学校に通う。これもティスリが行った学校改革の一環だ。もっとも、貴族が住むのは王都みたいな大都市圏だけだから、だいたいの学校は平民の子供だけだが。
ユイナスは成績がいいからその辺は問題ないだろうが……貴族相手に大立ち回りしないか心配だ。まぁ、大貴族のリリィが一緒ならなんとかなるか。最悪、ティスリがバックについてるし(なんだかマフィアみたいだが……)。
そんな細かい段取りをつけていると、そのやりとりを見ていたラーフルが、半ば呆然としながら、めずらしくオレに声を掛けてきた。
「お、お前の妹は……何者だ……?」
「えーと……何者だと聞かれても……」
「殿下とリリィ様を、ああも手玉にとるかのような……立場を分かっているのか?」
「分かった上でああなんだよ……」
「信じられん……」
堅物のラーフルが驚くのも無理ないけど、この辺の気さくさは、オレは好ましいとは思っているけどな。
本来なら、この国の実質的なトップと、それに次ぐ地位の娘に、あんな口を利いたら物理的に首が飛ぶかもしれないけど、そうならない雰囲気を作っているのは、他でもないティスリ自身なのかもなぁとオレは思うのだった。
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